『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』島津冬樹

段ボールは平面的に見るものではなく、立体的なストーリー。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、段ボールアーティストの島津冬樹さんです。

Man with black glasses and a dark cap smiling while seated beside a motorcycle handlebar in a workshop setting
島津冬樹
1987年生まれ。神奈川県生まれ。多摩美術大学卒業後、広告代理店を経てアーティストへ。2009年の大学在学中に、家にあった段ボールで間に合わせの財布を作ったのがきっかけで段ボール財布を作り始める。 2018年自身を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が公開。著書として『段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル』『段ボール財布の作り方』がある。2023年度より横浜美術大学非常勤講師を務める。

マジックとものづくりは似ている

People in a recording studio around microphones, wearing headphones and masks, with a digital clock on the wall behind them.

水野:ものづくりは小さい頃からお好きだったのですか?

島津:ものづくりも好きでしたが、もの集めが本当に好きでした。僕は神奈川県の藤沢市出身で、近くに鵠沼海岸があったんですけど、そこへ母と一緒に貝などを拾いに行っていました。それを並べて標本にして集めるのが好きだった、という原体験があると思います。

水野:何が快感だったのでしょうか。

島津:ただ集めるだけではなく、それを探すときめきや、見つける瞬間も含めてですね。鵠沼海岸に行くと、いろんな貝があるんですよ。台風のあとだと、いつもと違う貝があったり、桜貝がたくさん落ちている日があったり。僕がものを集める最初の動機が、貝拾いである気がします。

水野:それがどこから、ものづくりの方向に変わっていくのですか?

島津:まず、標本がものづくりのひとつでした。貝を集めてきたら、それが何貝か調べて、貝の名前を小さいシールに書いて、標本にしていくわけです。だから、集めることと作ることは常にセットだったように思います。その標本を先生や母に見てもらうのが好きでしたね。

Podcast host wearing over-ear headphones, speaking into a microphone in a recording studio.

水野:思春期には、マジックにもハマっていたそうですね。

島津:もともとは、家で黙々とものを作るのが好きな内気な子どもでした。でも、小学6年生のとき、同級生が持ってきたマジックの仕掛けにびっくりして、「自分もやってみたい」という気持ちが生まれたんです。それで、近所の東急ハンズでマジック道具を買っては、学校で披露するのが好きになり。マジックをきっかけに、ひとと接することが楽しくなっていきました。マジックにもどんどん没頭して、「マジシャンになりたい」と思って。

水野:そこまで行ったんですね。

島津:鎌倉にあったマジシャンクラブにも入りました。当時、Mr.マリックを教えている師匠がクラブのリーダーで。週に1回、土曜日にいろんなひとと集まって、マジックを見せ合って、改善点を考えたりしていましたね。完全にマジックにハマっていたと思います。

Man wearing a cap and glasses speaking into a microphone in a recording studio, with headphones on the desk nearby

水野:そこからどのようにものづくりの道へ進んでいかれたのでしょうか。

島津:並行してものづくりも好きだったんです。高校3年生で、「自分は何の職業に就きたいか」と考えたとき、やっぱり現実的に考えるとマジシャンは難しいことに若いなりに気づいて。昔から好きだった、絵を描いたりデザインをしたりする仕事がしたくて、美術大学を目指すようになりました。ただ、マジックによって培われたコミュニケーション力は今でも役立っていますし、いい経験だったなとは思いますね。

水野:ひとを驚かせることが好きだったのですか?

島津:そうなんです。段ボール財布にも近いところがあります。段ボール財布を見せると、みんながビックリしてくれるんですよ。そのレスポンスが返ってくる感じが、マジックにハマったときの感動と似ていて。だから、マジックとものづくりって、遠いようで意外と繋がっている気がしますね。

水野:段ボールという素材にはどのような経緯で出会ったのですか?

Man wearing a dark cap and glasses, resting his chin on his hand in a thoughtful pose.

島津:大学2年生のとき、非常に金欠な学生で、欲しかった財布が買えなかったんですよ。それで、たまたま家にオシャレな段ボールがあったので、お金が貯まるまで間に合わせで使おうと思って、いったん作ってみたのが段ボール財布でした。それが1~2か月持てばいいかなと思ったら、気づいたら1年くらい使えていて。

水野:丈夫だったんですね。

島津:その丈夫さに自分でも驚いて、「これはおもしろいから、活動としてやってみよう」と思ったのが、スタートでした。財布を作るために段ボールを集めなければいけないんですけど、近所のOKストアにたくさんお酒の段ボールが落ちていて。それを集めていくうちに、「段ボールってこんなにいろんな種類があるんだ」というまた違う驚きがあって。段ボールそのものにも興味を持つようになっていきましたね。

水野:段ボールが、作品としてものになる確信を持ったのは、いつ頃ですか?

島津:多摩美術大学の芸術祭があるんですけど、そこのフリーマーケットで段ボール財布を売ろうと思って。当時、段ボール財布を500円で出したら、すごく好評だったんですよ。それで、「もしかしたら販売してもおもしろいかもしれないな」と、本格的にいろんなところへ広げるようになっていきました。

本当に大切な段ボールは財布にできない

Side profile of a person wearing black AKG over-ear headphones, facing right.

水野:段ボール探しのスポットは、どのように見つけるのですか?

島津:自分なりに知恵を絞って導き出したんですけど、大体は置いてある商品に関連した段ボールが捨てられるんですよ。たとえば、タイ料理屋さんだったら、タイの段ボールがある。新大久保のほうへ行くと、韓国料理の食材の段ボールがある。逆算していくと、段ボールを見つけられる場所があります。

水野:段ボールのどういうところを見ているのでしょうか。

島津:今、世界47カ国を巡っていて。見たことのある段ボールもたくさんあれば、初めて見る段ボールもあるんですけど、「いかに日本で手に入らない段ボールを海外で見つけられるか」というポイントを重視して、常に目を鍛えていますね。ご当地性のある段ボールを、海外で拾う感じです。

水野:違う文化圏に行っても、段ボールというフォーマットはあるものなのですね。

Man wearing a dark cap and glasses writes on a notepad at a recording studio with a microphone in front of him.

島津:僕も最初は驚きました。段ボール財布を作り始めた大学2年生のとき、初めての海外旅行でニューヨークに行ったんです。当時は観光したい気持ちもあって、エンパイアステートビルとか自由の女神とかを見ようと思っていたんですけど、ニューヨークの街にたくさんの段ボールが落ちていたんですよ。「海外にも段ボールってあるんだ」と気づいた瞬間から、もう観光どころではありませんでした。

水野:スイッチが入ってしまった。

島津:「日本以外にも段ボールがある。それは拾わないといけない。他の段ボールも見てみたい。他の国の段ボールも見てみたい」と、強い衝動がどんどん生まれて。「これは僕の人生をかけて、世界中の段ボールを拾わないといけない」というほどの大きなきっかけになったのが、そのニューヨーク旅行でした。それからいろんな国を見ましたが、今でもニューヨークは僕にとって天国ですね。段ボールのデパートのような場所だと思っています。

水野:その国のカルチャーは、段ボールにも表れるものですか?

島津:そうですね。世界中から段ボールを集めようと思えば、ネットワークを駆使して、日本でも集められるかもしれません。それでも僕があえて現地に行く理由は、その段ボールが落ちている空気感や、生活のなかでの使われ方を見たいからなんです。たとえば、タイに行くといろんな種類のナンプラーの段ボールが落ちていて、「それだけ普段から使うんだ」と気づかされますし。僕たちが触れる段ボールは、8割近くが食品関係なんですよ。

水野:はい、はい。

島津:つまり、段ボールがその国ならではの食文化と紐づいているわけです。トルコでは、トルコアイスのコーンの段ボールがたくさん落ちていました。あと、盛んな食品ほどライバルが多い分、デザインで差別化を図っていたりするので、そこらへんもおもしろいですね。

Close-up of a hand turning a magazine page featuring a street scene with people and orange crates (blurred photo).

水野:段ボールは、ひとつの素材というより、前と後ろに伸びている時間さえも包んでいるような気がしますね。

島津:おっしゃるとおりです。平面的に見るものではなく、立体的なストーリーなんですよね。段ボールは、自分と出会う前にいろんな旅をしてきているし。自分と出会って、日本に運ばれて、また違う形で使ってもらったりもするし。そういう物語の結晶が、ひとつの段ボールだなと思います。

水野:段ボールを違う形にしていくとき、ものづくりしやすい段ボールと、しにくい段ボール、差は何ですか?

島津:もちろん、デザイン的に色使いが鮮やかで、「これを財布にしたらカッコいいな」とかはひとつあります。でも、僕の気持ちとしては、世界中で拾ってきた大切な段ボールを財布にすることができないんですよ。

水野:なるほど! おもしろい。

島津:矛盾なんですけど、本当に大切な段ボールはハサミを入れずに、国ごとに分けて取っておきたくて。そういう意味でのセレクトの仕方もありますね。

手に入れられない段ボール

Close-up of a bearded man in a dark cap and black round glasses, resting his chin on his hand.

水野:財布にすることで、段ボールに対する特別感が島津さんのなかで変わることもあるのでしょうか。

島津:作っている過程では、意外と自分のなかに変化はなくて。どちらかというと、ワークショップで段ボール財布を見たひとに感じてもらえることのほうに、重きを置いています。「段ボールってこんな使い道もあるんだ」と視点が変わったり。段ボール選びが始まったとき、お客さんたちが目を輝かせながら段ボールを見るようになっていたり。そのパーセプションチェンジの瞬間を体験してもらいたい気持ちが強いかもしれません。

水野:なぜ、その変換の瞬間に惹かれるのでしょうか。

島津:やっぱりマジックのときの感覚と近いのだと思います。段ボールが財布になったとき、みんなが驚くことに対して喜びがある。「自分もこれが使えるんだ」って、目を輝かせている姿を見ることが、僕にとっての財産になっていますね。

Two people wearing over-ear headphones sit at a desk with a microphone, the foreground person reading a magazine.

水野:段ボールそのものを作る方向にはいかないのですか?

島津:そうなんです。これがまた難しくて。僕はデザインを学んできたので、デザインの一定の方程式は頭にあるわけです。でも、世界中の段ボールを見ていくと、まったくそのセオリーに当てはまらなかったりする。「なんでトマトなのにこの色なんだろう」とか、「なんでカンガルーしか載っていないんだろう」とか。すると、そういう“なんでもあり”なものに対して憧れると同時に、「自分はそこに近づけないな」と思ってしまうんですよね。

水野:島津さんは、外に出て発見するという、出会いに惹かれていらっしゃるんですね。

島津:あと、「すごいものってもっと身近にあるよね」という気持ちもあります。段ボールだって、誰かがいろんな思いでデザインしているのに、誰も見ずに捨てられてしまうことが多い。それは、誰かがその魅力を発見して、伝えていかなければいけないと思うんです。そうやって、誰も見ていないところに自分が価値を見出すことに、ちょっとした喜びがあるのかもしれません。

水野:でも、自分だけの喜びにとどまらず、伝えるという作業が加わっているのがすごいです。

島津:そういう気持ちに、みんなにも共感してもらいたいんです。ひとりで籠っていたら、ただのマニアでしかないので。

Person wearing black AKG over-ear headphones, looking down in a studio setting.

水野:今、いちばんアツい段ボールは何ですか? 

島津:手に入れられない段ボールってたくさんあって。なかでも、僕はメディアに出るたびに「欲しい」と言っているのが、警察の段ボールなんですよね。家宅捜索で「警視庁」って書かれた段ボール、よくニュースで出てくるじゃないですか。あの段ボールをいつか手に入れたいのですが、16年以上活動していても、それだけは手に入らないんです。

水野:たしかに。みんながテレビで見ているし、知っているけれど、みんなが絶対に手に入らないものですね。

Close-up of a smiling man wearing black glasses and a dark cap with 'Palm Angels' logo.

島津:これまたコレクション性が出て、東京都は「警視庁」ですけど、愛知県に行けば「愛知県警」などがあるわけで。あわよくば全都道府県のものを集めたい。これを集めるまでは、死ねないなと思っています。段ボールとはいえ、意外と入手が難しいものもあるんですよね。

水野:その視点はお話を聞かないとわかりませんでした。それがテレビドラマのセットの段ボールではダメなわけですよね。

島津:リアルじゃないとダメですね。むしろ、使われたあとのものをいただけるなら、最高です。でも、お金では買えない入手困難な段ボールがあるからこそ、「まだ集めよう」という気持ちになりますから。段ボール図鑑があるわけでもないので、自分で足を運んで見つけていく。そこに何よりの楽しみがあります。

Man wearing a dark baseball cap and glasses sits at a radio studio desk with a microphone, listening thoughtfully as the other person reads a magazine nearby.

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

島津:僕は自分を“段ボールピッカー”と呼んでいます。世の中の「アートはこうあるべき」とか、「デザインはこうでなければいけない」とか、そういうことに囚われずに、「自分はこういうクリエイターだ」と発信していく。その勇気を大切にしてもらいたいなと思います。

Two men sit on a light couch in a modern office lounge, one holding an open magazine and showing it to the other.

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:軍司拓実
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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