いろんな丸が重なる小さい部分が必ずある。そこを見つけたい。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、アーティストの紫 今さんです。

紫 今(むらさき いま)
作詞・作曲・編曲・アートワーク、MVプロデュースまでを一貫して手がける、新世代クリエイター。幼少期からゴスペルやアフリカ音楽に親しみ、5オクターブの声域を持つハスキーボイスで、シャウト、フェイク、ホイッスルボイスを自在に操る。2024年「魔性の女A」・2025年「ウワサのあの子」と2年連続でMV1,000万回再生に到達し、2曲のSNS再生は計10億回を突破。独特な世界観の映像と楽曲の融合が高く評価され、国内外でバイラルヒット中。
紫 今というアーティストを大事にしたい

水野:小さい頃から音楽はやられていたのですか?
紫 今:はい、地元のお祭りで歌ったりもしていて、目立つことが好きでしたね。
水野:それが作る側になっていった経緯というと?
紫 今:小さい頃から、紙に自分の詩を書くようなことはしていました。高校生でギターを始めて、弾き語りで曲を作るようになって。でも、自分のなかで本格的に作曲をスタートさせたという自覚が生まれたのは、コロナ禍にDTMを始めたときからです。その頃には、私にとって“納得できる曲”を完成させられた感覚がありました。
水野:弾き語りを始めた頃、ご自身のなかで、「本当はもっとこうしたいのに」みたいなイメージがあったのでしょうか。
紫 今:ボカロ楽曲とか、K-POPとか、弾き語りで作れない曲ばかりで。電子音などをアウトプットできないもどかしさをずっと感じていました。それがDTMを始めて、「ああ、私の頭のなかに流れていたものはこれだ!」と感じるようになったんです。そこからは自分のイメージを90%くらい形にできるようになりましたね。

水野:紫さんの楽曲は多ジャンルに及びますが、とくに影響を受けた音楽というと?
紫 今:幼少期、母はゴスペルをやっていて、父はジャンベというアフリカの太鼓のストリートミュージシャンをやっていたんです。夫婦そろって、アフリカンミュージックや、ファンク、ソウル、レゲエなどが好きで。家族や友だち、みんなでバンドをやったり、アフリカの国歌を歌ったりしていました。そこに私も、子ども用のジャンベやマラカスで参加していたのが、いちばん最初のルーツだと思います。
水野:日本で流行っているものも聴かれていましたか?
紫 今:いろいろ聴いていました。『天才てれびくん』とかも観ていましたし、『プリキュア』のオープニングやエンディングの曲も好きでした。あと、両親の世代的に、小室哲哉さんやTHE BLUE HEARTSさん、忌野清志郎さん、LINDBERGさんのCDはよく家や車で流れていましたね。
水野:歌詞の世界観はどのように培われていったのでしょうか。
紫 今:DTMを始めたことで、ビートという概念が存在し始めますよね。そこで、韻を踏んだり、言葉でグルーヴを作り出したりする気持ちよさに目覚めました。そこから歌詞を音で楽しむ方向へ進化していった感じです。もともとラップなどはあまり聴いていなくて。高校生まで「韻を踏むって何?」って友だちに訊いたりしていたんですよ。でも、最初に作った「ゴールデンタイム」で気づいたら韻を踏んでいて。「これか!楽しい!」と。
水野:その「ゴールデンタイム」は、TikTokをきっかけに大きな話題となりました。様々な反応が返ってきたかと思いますが、渦中にいたご自身は何を思っていましたか?

紫 今:最初は「ゴールデンタイム」が、曲として成立しているかどうかも不安だったんです。自分としては、アレンジを含め、王道から外れているものを作った感覚があったので。「私はいい曲だと思うけれど、ひどいものになっていないかな?」みたいな気持ちで投稿したんですね。そうしたら、「すごくいい」「新しい」というコメントをたくさんいただくことができて、「ああ、よかった~」と安心する気持ちが大きかったです。
水野:その経験は、次の作品にも繋がっていきましたか?
紫 今:次に発表した「凡人様」は、「ゴールデンタイム」で出した自分のオリジナリティを分析して、それを意識しながらも、新しい一面を見せるということをしましたね。
水野:どうして最初の段階から、ご自身を俯瞰で見ることができたのでしょうか。
紫 今:小さい頃から、そういう性格なんです。どこか冷静で、自分を俯瞰して見ているところがある。あと、「紫 今というアーティストを大事にしたい。慎重に活動していきたい」という気持ちも大きかったですね。自分の歴史を長い目で見て、「こういう面をこのタイミングで出すべきだな」みたいなことを考えていましたね。
水野:その設計図はどれくらい細かく見えているのですか?
紫 今:活動当初は、かなり細かく見ていました。でも、今の時代は想定外のことが起きるじゃないですか。いいことも悪いことも。たとえば、「魔性の女A」が自分の想像以上に広まって、そのイメージがついたり。だから最近は、「ここに行くためには、これはしないほうがいい」という視点は持ちつつ、ある程度は柔軟であるようにしています。“決めすぎない”というように、変化している部分があるかもしれません。
このバイブスは自分の武器になる

水野:楽曲が受け入れられていくフェーズから、実際にライブをしたり、他のアーティストとの出会いがあったり。それらはご自身にとってどのような刺激になりましたか?
紫 今:ライブを本格的に始めて、もともと眠っていた核の部分が、目覚めた感覚がありましたね。もちろん最初は難しかったのですが、経験や努力を重ねるうちに、両親と一緒にアフリカ音楽を歌っていた5歳の自分を、ステージで出せるようになってきて。このバイブスは自分の武器になると感じました。
水野:はい、はい。
紫 今:また、私自身が多ジャンルなので、かなりいろんなジャンルのアーティストと対バンをやらせていただいています。みなさん異なる音楽のルーツを持っているので、たくさん刺激をもらいました。それをどんどん吸収して、影響を受けて、曲づくりやアレンジ、ライブ、いろんな面でアウトプットしている感覚がありますね。

水野:どんどん循環していきそうですね。抱えきれなくなることはありませんか?
紫 今:私、本当に負けず嫌いというか、変なところがストイックで。たとえば、「ライブでこういうことをやりたい」と思ったら、それを叶えるための曲が必要じゃないですか。すると、それだけ作曲者としての実力も必要だし、それを歌えるだけの歌手としての実力も必要。さらにMVで伝えられる表現力、カメラに映ったときの被写体としての力も必要。だから、いろんな自分が「もっとやれるよな?」と自分のなかで切磋琢磨していますね。
水野:紫 今さんには、『いきものがかり meets 2』にご参加いただきまして、「YELL」をレコーディングしていただきました。
紫 今:もう嬉しくて、嬉しくて。とくに「YELL」は思い入れが深い曲だったんです。中学生のとき、合唱コンクールで先輩がこの曲を自由課題曲で歌っていて、ものすごく感動して。私も次の年に、この曲を歌いたいなと思っていたのですが、残念ながら他のクラスに取られてしまって。でも、その後悔みたいなものを、こんなに最高の形で晴らすことができました。本当にありがとうございます、という気持ちですね。
水野:どういうふうに向き合っていかれましたか?
紫 今:今回、改めてじっくり「YELL」と向き合ってみて、中学時代とは歌詞がだいぶ違って聴こえたんです。学生時代の卒業以降も、いろんな面で出会いと別れがあるじゃないですか。だから、23歳の私にしか歌えない「YELL」にしたいなと思いました。そういう視点で、アレンジも手がけさせていただきましたね。
水野:他のアーティストと曲を作っていくことは、どのように捉えていますか?

紫 今:自分の1億ある引き出しのなかで、そのコラボ相手の方に通ずる引き出しを開けるだけだと思うと、意外と難しくないものですね。逆に引き出しが多すぎて、オリジナリティの薄れはあるかもしれません。扉の数が少ない方のほうが、オリジナリティが確立されている場合もあって。そういう方は、「どれくらい相手に寄せよう」とか、「どうやって相手にない引き出しを出そう」みたいな難しさがあると思います。
水野:TVアニメ『勇者のクズ』エンディングテーマ曲として書き下ろした新曲「メンタルレンタル」もそうですが、タイアップという形もありますよね。これもある意味ではコラボですが、どう向き合われていますか?
紫 今:タイアップがあったほうが、実はありがたいんです。引き出しが1億もあったら、「どれを開けよう」って迷ってしまうじゃないですか。そこに、「この扉を開けてください」というリクエストがあると、迷いの過程を飛ばせる。求められているものが明確なほうが、楽ですし、楽しいですね。
あらゆる世界線のデビュー曲を

水野:そういうなかで、どうやってオリジナリティを保たれているのでしょうか。
紫今:まず、私は「曲に対して嘘をつかない」という美学を持っていて。結局、私という人間から出ている言葉だから、家族や友だちが聴いたときに、「ああ、アイツらしいな」と感じると思うんです。そこが軸にあります。だから、対人関係と一緒だなと。最初のうちは、“そのひとらしさ”なんてわからないけれど、仲よくしていくうちに、それぞれのなかで“らしさ”ができあがっていく。つまり、リスナーの方々のなかで“紫 今”らしさが勝手に生まれていく。そうやって時間が解決していく気がしています。あとは、声ですね。
水野:ああー、声ですね。
紫 今:私はいろんな歌い方をします。でも、何年か経って、ヒット曲も出て、いろんなところで流れている“紫 今”の声を聴いているうちに、どんな声の曲を聴いてもみんなが、「あのひとだ」ってわかるようになるんですよ。だから、そこはあまり焦らずにいます。あと2~3年やっていればイヤでも、「ぜんぶ同じ曲に聴こえる」とか言われるようになるんじゃないかなって。

水野:たしかに、言われます(笑)。でも、それを今の段階で見通しているのがすごいなと思います。
紫 今:将来の“紫 今”像をちゃんと言語化できるように、毎日考えています。それは、苦しくもあり、楽しくもあります。たまに忘れたいときもありますけど、考えてないと不安なんですよ。目指すものがわからなくなると、途中の判断もわからなくなる。途中経過で、“今やるべきこと・やらないほうがいいこと”は必ずあるので。何も考えずに、そこを間違えて、可能性を潰して後悔することがイヤなんですよね。
水野:大きくなればなるほど、関わるひとが増えていきますが、外部の方とのコミュニケーションはどのようにされていますか?

紫 今:まわりのスタッフの方に、「ケンカしましょう」とよく言っています。常に、丸がいくつもあると思っていて。たとえば、ライブひとつでも、音量が大きいほうが好きなひともいれば、小さいほうが好きなひともいますよね。座って楽しむ、立って楽しむ、ジャンプしたい、静かに聴きたい、お酒を飲みながら聴きたい、みんな違うじゃないですか。でも、いろんな丸が重なる小さい部分が必ずあると思っていて。そこを見つけたい。
水野:なるほど。
紫 今:だから、全員の意見を聞いて、私はなるべく反対側に立つようにしています。私は討論が好きなんですけど、討論は反対側の意見がないと成り立たないから。「それいいね」ってずっと賛同していたら、どんどん偏っていってしまう。反対側に立って、いろんなひとと、いろんなことを話して最適解を見つけたいんです。

水野:これから、どこへ向かうのでしょう。
紫 今:今、この先にリリースする曲を準備しているのですが、「すべてをデビュー曲だと思って作ろう」というテーマがあります。少し前に、自分のアーティスト像に悩んだりもしたんです。多ジャンルな分、どれで行ったらいいのかわからない。そこで、あらゆる世界線のデビュー曲を出そうかなと。たとえば、私のダークで毒々しいところを出す曲、ボカロの系譜の曲、ブラックミュージックを前面に出す曲。そうしたらおもしろいかなって。
水野:パラレルワールドみたいな。
紫 今:そうです。それを2026年にやることで、2027年以降の紫 今が固まるんじゃないかなと思っています。すべてをやること自体が“らしさ”になるかもしれないし、そのなかのどれかがすごく世間に受け入れられて、「これで行こう」となる可能性もあるし。そういう感じで、未来を描いております。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

紫 今:とにかく「遊べ」ですね。私は、勉強や学校、宿題、仕事っぽくなると、やりたくなくなってしまう性格で。「これは遊びの延長線上だ」という意識でやったほうが、おもしろいものが生まれるし、続く。逆に、「まったく遊びだと思えなくなる前に、やめたほうがいい」と言いたいくらいです。すべて遊ばなくてもいいんです。でも、ライブだけとか、曲づくりのときだけとか、ひとつでも遊べるところがあればいいなと思います。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:北川聖人
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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