時に収集がつかなくなったりもしながら、
横並びでものづくりをしていく

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
「今日はどんなものを撮る?」から始まる放課後
水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』、本日のゲストは映画監督の上田慎一郎さんです。新年1発目に来ていただきまして。あけましておめでとうございます。
上田:あけましておめでとうございます。

上田慎一郎 (うえだしんいちろう)
1984年生まれ。滋賀県出身。映画監督。中学1年の頃から自主映画やコント映像の制作を始め、高校卒業後も独学で映画制作を学ぶ。2009年、映画製作団体・PANPOKOPINAを結成し代表を務める。オムニバス映画『4/猫 ねこぶんのよん』の1編「猫まんま」の監督・脚本で商業映画デビュー。監督作は『カメラを止めるな!』『イソップの思うツボ』『スペシャルアクターズ』『100日間生きたワニ』『ポプラン』他。2024年11月22日には、最新作の映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が公開。
【対談Q】前半:上田慎一郎—一番美味い白飯を作る!—
【対談Q】後半:上田慎一郎—映画の撮影はジャズ!?—
「100日後に死ぬワニ」× いきものがかり「生きる」
水野:上田監督とは、いきものがかりとしては映画『100日間生きたワニ』でご一緒させていただいたり、HIROBAでも対談させていただいたり。なんと言っても今、最新作の映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が絶賛公開中でして、これがおもしろい。僕も試写会に伺わせていただきまして。
上田:ありがとうございます。しかも水野さんにはコメントも寄せてもらって。もう宣伝部が発狂するほどの、歌詞のような、ひとつの作品のようなコメントなんですよ。
水野:またまた(笑)。今、本当に劇場が盛り上がっていると伺っています。感触としてはいかがですか。
上田:想像以上に大好評をいただいて、ビックリしております。舞台挨拶も20、30回を重ねる形になりまして。
映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』予告編
水野:改めて伺うのは初めてだと思うのですが、映画の世界に興味を持ったのは最初どういうところからだったのでしょうか。
上田:僕、滋賀県の長浜市木之本町という田舎で生まれまして。映画館も電車で1時間ぐらいかけないとないようなところなんですよ。でも、1軒だけレンタルビデオショップがあって。小学生の頃、そこでよく作品を借りていたんですね。あと、友だちのお父さんの本棚にめちゃくちゃ映画があったんです。黒文字でタイトルだけ書かれているビデオテープがずらっと並べてあって。
水野:へぇー。
上田:どういう作品かわからないけれど、それをタイトル借りで片っ端から観ているうちに、映画が好きになりました。小学生の頃に『タイタニック』『インデペンデンス・デイ』みたいなハリウッド大作から入って。中学生で『パルプ・フィクション』とかちょっと作家性の強い作品を観て、「あ、映画ってこんなに自由なんだ」って、本当の映画好きになっていった感じですね。
水野:観る側から、自分で作ろうって思ったタイミングというと?
上田:浴びるように観ているうちに自然と「撮ってみたいな」と。父親のハンディカムを借りて、友だちと自主映画みたいなものを撮るようになったのが原点です。台本もないんですよ。「今日はどんなものを撮る?」から始まる放課後。「バトルロワイアルっぽいものにしよう」とか「『グラディエーター』っぽいものにしよう」とか、口頭で脚本を進めていって。日が暮れてきたら、「じゃあみんなそろそろ死のう」って撃ち合って死んだり(笑)

水野:一日で完結する(笑)。
上田:そう、持ち越さずに次の日はまた、「今日は何撮る?」から始まっていました。そして、高校では3年間、文化祭の出し物としてクラスで映画を撮ったんですよ。それがちゃんと脚本を書いて、キャスティングをして撮った初めての作品。
水野:みなさんからの反応は?
上田:めちゃくちゃよくて、3年間グランプリでした。僕、バンドもやったことあるし、コントもやったことあるし、いろんなことをやってきたんですよ。そのなかでも昔から、映画がいちばん褒められました。
水野:そのお話から、すごく人気者のキャラクターが思い浮かぶのですが、学校では目立つほうでした?
上田:自分で言うのもなんですけど、目立つほうでした。中学1年のとき、国語の授業で「班ごとに劇を作ってみよう」みたいな課題があったんですよ。それで『桃太郎』とか『金太郎』とか演目を選ぶところ、「いや、先生、僕オリジナルやりたいです」って言って。
水野:おもしろい。
上田:『3人と1体』という、女子高生3人とロボット1体の友情物語みたいなものを書いたんですよね。それがクラスのなかで好評で。「これを『3年生を送る会』で、全校生徒の前でやろう」ってなって、1年生全体でキャスティングをし直して、稽古して、劇をやったんですよ。それがいちばん最初の創作かもしれません。
水野:当時から、演出も脚本作りも、仲間と一緒に作品を組み上げていく作業もしている気がしますね。そこが今の現場にリンクしている部分もありますか?
上田:あります。たとえば、高校のときはクラスメイトに当て書きで書いていて。そのひとがいちばん活きる感じにしていたんですね。で、『カメラを止めるな!』とか『スペシャルアクターズ』という作品も完全に当て書きだったので、かなり通じているなと。高1では20分ぐらいの短編、高2では60分ぐらいの中編、高3ではもう120分の戦争映画を撮っていました。高校生4人が第二次世界大戦下の満州にタイムスリップしちゃった話。
水野:もう完全に映画。戦争映画ってどういうロケをしたんですか?
上田:サバイバルゲームをしているひとたちに、服や銃を借りて、2週間ぐらい山に籠って撮りました。その作品は、学校を飛び越えて、地元の新聞にも取材していただいたり。
上京してから25歳までの暗黒期

水野:卒業してからはすぐ映画の世界に入ったのですか?
上田:いや、ちょっと暗黒期が…。まず、高校の文化祭で作った映画のおかげで、高2の終わりぐらいに演劇部にスカウトされたんですよ。そこから作・演出・出演をするようになりました。これも自慢になってしまいますけれど、ずっと地区予選落ちだった演劇部が、自分が手掛けたやつで近畿2位まで行きまして。
水野:うおー。
上田:それで有名な大学から、「うちに来て、劇団をやらないか」って。でも当時の僕、すごく生意気で。「国内にはいられない。ハリウッドに行こう」と思って、高校卒業して、大阪の英語の専門学校に行ったんですよ。
水野:まずは語学からだと。
上田:そう、そのあたりは慎重で。だけど、その学校がまったく合わなくて半年ぐらいで辞めてしまって。それが19歳ぐらいのとき。それから、「映画監督になるなら東京だろ」と思って、東京に出たんですよ。お金もなかったから、ヒッチハイクで「東京」って出して。で、最後に乗せてくれたひとに、「映画監督になるには東京のどこに住めばいいですか?」って訊いたら「下北沢だ」って言われて。
水野:間違ってない気がする(笑)。
上田:下北沢に行って、「いちばん安い不動産を出してください」と言って、3万円ぐらいのところを出されて。そこに住み始めて、東京がスタートしました。
水野:すぐに映画の業界に入ることができるものですか?
上田:入れなかったんです。だから19、20歳で上京したものの25歳まで1回も映画を撮ってなかった。
水野:何をされていたんですか?
上田:ここは本当に話せば長くて…。たとえば、ちょっと怪しいビジネスに足を突っ込んでしまって、200万ほど借金をしました。それで家も友だちも失って、一時期は代々木公園でホームレス生活を。
水野:マジですか。
上田:さらに、200万の借金を返した直後、「本を出さないか? 160万かかるんだけど」って言われて、出しちゃって、また200万ほど借金をして。そういう暗黒期が25歳まで続きました。近道をしようとして、遠回りをしていた期間ですね。「お金を貯めてから映画を作ろう」とか、「小説家として有名になってから映画を作ろう」とか。そうやって1本も映画を撮っていなかったんですよ。
水野:映画を作ってみて、変わっていきましたか?
上田:ものすごく変わりました。25歳で自分の映画制作団体を立ち上げたんです。スタッフはSNSで集めて。そこで着実に短編映画を撮り、映画祭に応募して、とかをやり始めた。すると、ありがたいことに結構、入選や受賞をしまして。それを見たプロデューサーが、声をくださって作ったのが『カメラを止めるな!』なんですよ。
水野:繋がっていくんですね。やっぱりそういういろんな経験は活きますか?
上田:はい。ホームレスにまでなったことがあるので、最悪そこからリスタートできる自信がある。失敗できないと思うと、チャレンジできないけれど。落ちてもまた這い上がればという自分がいますので、勝負しやすい。
「めっちゃ走り回りますね」って

水野:最新作『アングリースクワッド』を試写会で拝見して、上田監督は、少人数での楽しみ方と大人数での楽しみ方、どちらも両立される方なんだなと改めて思いました。ご自身がたくさんの経験をされたからこそ、どんなタイプのひとともものづくりができるのかなって。
上田:『アングリースクワッド』のキャストは、内野聖陽さんや岡田将生さんといった猛者、大ベテランの方々じゃないじゃないですか。でも、「珍しい現場だった」「劇団みたいだった」っておっしゃっていました。みんなが現場で活発に意見を出して、時に収集がつかなくなったりもしながら、横並びでものづくりをしていく。自分はずっとそういうスタイルでやってきましたけれど、メジャーではそんなにないことなのかもなって。
水野:話し合うことは、必ずプラスになるものですか? 時には決定することが難しくなったりするのかなって。
上田:だからこそ現場では、話し合いが目的にならないようにしていましたね。主演の内野聖陽さんとは、もう撮影に入る2年前からタイマンに近いような脚本の打ち合わせを何回も重ねていますし。チームごとにリハーサルをして、そこでも話し合っていますし。現場では、いろいろ議論してもやってみないとわからないことが結構あって、結局「やってみる」がいちばんなので。
水野:監督をリーダーだとすると、グイグイ進めるパターンの方と、なぜかひとが集まってきて、いつの間にかチームになっているパターンの方がいますよね。どちらがいいというわけではありませんが、上田さんは後者なのかなって。

上田:そうかもしれません。「めっちゃ走り回りますね」ってよく言われるんですよ。監督ってあまり現場で走り回らないから。モニター前にドシッといる方も多くて。あと「すごく楽しそうだね」って言われます。そこでまわりを巻き込めているのはあるかもしれないですね。あまり「仕事」という感じでやってない。
水野:SNSで『アングリースクワッド』のPRをされているじゃないですか。その呟きが、上田監督のお仲間たちもみなさん楽しそうなんです。「自分の友だちがおもしろいものを作ったよ!」という会話がずっと続いていくコミュニティってすごい。眩しく見ています。
上田:僕は公開後の動きも独特ですよね。監督がここまでやっているのは珍しいかもしれない。あと、公開後により仲よくなるんですよ。
水野:そうなんですか。
上田:現場はあまり雑談する時間もないですし、力んでもいますから。『カメラを止めるな!』も『アングリースクワッド』も、公開後に一緒に舞台挨拶とかして、仲よくなっていったところはありますね。しかも『カメラを止めるな!』は、ファンのコミュニティもできていて。カメ止めのイベントで知り合ったのがきっかけで結婚した方が2組ぐらいいるんですよ。僕、保証人になりましたもん。
水野:その巻き込み力はすごいですよ!
上田:プロとして誇りを持ってやっていますが、高校の文化祭がずっと続いているみたいな感覚があります。
水野:高校の文化祭の感覚と、そこに足される緊張感や矜持と、そのバランスを保てるのが上田監督のすごさなんだろうなと思います。
Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
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