「伝えたいこと」まで言ってしまわないように気をつけている

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
「自分がなるのは無理だな」と
水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』、本日のゲストは、ダウ90000の主宰で脚本家の蓮見翔さんです。以前、ダウ90000のみなさんには全員でHIROBAの対談にも来ていただきまして、楽しくお話しさせていただきました。今回は一対一で、よろしくお願いします。
蓮見:よろしくお願いします。

蓮見翔 (はすみしょう) 1997年生まれ。日本大学芸術学部卒業。2020年に旗揚げされた8人組ユニット・ダウ90000のメンバーであり、蓮見翔が主宰、脚本・演出を担当。ABCお笑いグランプリでは2022年〜2024年にかけ、3年連続で決勝に進出。脚本家、演出家、ラジオパーソナリティとしても活躍している。
対談Q ダウ90000(前編)
対談Q ダウ90000(後編)
水野:蓮見さんが、お笑いや演劇に興味を持ち始めたのは、どういうきっかけだったのでしょうか。
蓮見:最初、演劇はまったくでお笑いだけ。小学3年生の頃に『モヤモヤさまぁ〜ず』を観て、さまぁ~ずさんを好きになって。そこから単独ライブの全DVDをTSUTAYAで借りて観たところがいちばん最初ですね。
水野:さまぁ~ずさんにビビッと来た理由というと?
蓮見:『モヤモヤさまぁ〜ず』で、僕の地元・花小金井に来ていて、普通に散歩しながら目についたものを喋っているんですけど、さまぁ~ずのおふたりがとにかく楽しそうなんですよ。きっと僕はその姿を観て、「おもしろいな」「いいな」と感じたんですよね。あと、今思えば、あの番組って日常と地続きじゃないですか。
水野:はい、はい。
蓮見:創作物を観るよりもハードルが低かったから、スッと入っていけたのかなって。で、ネタを観たら、それもすごくおもしろかったんです。悲しいダジャレや俳句のネタで。たとえば、「イルカショー 1匹下で 死んでいる」みたいな、本当にシンプルな五七五なんですけど。
水野:もうおもしろい(笑)。
蓮見:学生(三村さん)の宿題を、お母さん(大竹さん)が手伝ってあげるみたいな構図で。小3の子どもでもわかる、おもしろいものを作られているってすごいですし、多分いいコントから入っていけたんだろうなと思います。

水野:でも、そこから「自分もやろう」というのはだいぶハードルが変わりますよね。
蓮見:はい、小3の時点ではまだ「やろう」とは思っていなくて。そのあと小4ぐらいで、2006年のM-1でチュートリアルさんが優勝しているネタを観たんです。でも当時10歳だったから、どうしてチュートリアルさんの漫才がウケているのかわかりませんでした。
水野:チリンチリンのやつですかね。
蓮見:あと、新しく冷蔵庫を買うやつ。あのネタの「結婚前みたいになっている」という前提をわかってないから、あまりピンと来てなかった。だけど母親がめちゃくちゃ笑っていて、「どういう構成だ?」と興味を持ち始めたんです。そうしたら、当時の担任の先生がM-1の全DVDを持っていて。
水野:ラッキーでしたね。
蓮見:それをすべて観て、先生と感想を喋って、とやっているうちにどんどんお笑いが好きになって。さらに中学に入ったぐらいのタイミングで、深夜バラエティーの存在を知りました。『にけつッ!!』とか『ざっくりハイボール』とか。ジュニアさんとさまぁ~ずさんとか、それらを観て逆に「自分がなるのは無理だな」と思ったんです。あまりにおもしろすぎて。
水野:えー、そうなんですか。
蓮見:無理だと思ったんですけれど、それでもお笑いっぽいことをしたくて、日本大学芸術学部に入って、メンバーたちに会うという流れです。
ひとりひとつ武器を

水野:でも、コントや漫才、日常のバラエティー番組で芸人さんがツッコんでいくみたいな笑いをたくさん観たとしても、ダウ90000にはならない気がするんですよ。大人数で、しかもかなり演劇要素が多い、ちょっと異形のもの。あのかたちに到達するには、どのような経緯が?
蓮見:大学にお笑いサークルがあって、そこで漫才コンビを組んで3年ぐらいやったんですけど、全然ダメで。一方、同時並行で演劇サークル“はりねずみのパジャマ”もやっていて、今のメンバーとかもいて。でも卒業した年がコロナ禍で、活動も何もできなくて、連絡も取らないし、たまに飯食うみたいな状態で。僕は就職もしてなかったので、「ちょっとこれはもう売れよう。何でもいいから絶対に売れないとダメだ」と。
水野:当たり前すぎるけど、すごい結論。
蓮見:お笑いは、自分が苦手な分野だけど、もうそれをやりたくなってしまっている。それで、「苦手を隠しながらできる方法ないかな」と思ったとき、原始的な考えで「人数が多かったら目立つよな」と。
水野:なるほど。
蓮見:大学のとき、演劇をちょっと書いたりもしていたので、それを活かせば10人くらいのコントだったら書けるかなと思って。それで4分のコントを書いたら、毎月のコントライブでそのネタだけ変なウケ方をしたんですよね。「あ、多いだけでウケている。これはラッキーだ」って、続けてみた結果、今に繋がっているという。
水野:メンバーのなかには、お笑い志望じゃない方、俳優志望の方もいらっしゃったと思いますけど、お笑いという面を理解してもらうコミュニケーションもあったのでしょうか。
蓮見:今となってはですけど、まず売れてしまえばいいだろうと。
水野:強い(笑)。
蓮見:僕らの大学、日本大学芸学部の映画学科で、僕は脚本のほうなんですけど、メンバーは演技コースが多くて。当たり前ですけど、ほとんどが売れずに辞めていくわけです。もう4年生の段階で諦めて、普通に就職する子も多い。「いや、上手いと思うけどな」ってひとも、売れずに辞めていくから、「どれだけ上手くても目立たなきゃ意味ないんだな」ということは、薄々みんなも感じているんですよね。チャンスがないと無理。
水野:ああー。
蓮見:だから、「まずチャンスを絶対に作るから、そのあとに好きなことをやってくれ」ということは最初に少し言いました。オーディションに行かなくても、ダウ90000という名前があれば、ドラマ出演者の候補にはなれるぐらいの段階までは頑張って持っていくから、いったんコントライブとかもやらせてほしいと。
水野:蓮見さんの監督気質は、どこから生まれているものなのでしょう。メンバーをまとめるだけじゃなく、「君はこういう性質があるよ」とかガンガン言う。しかもメンバーのみなさんも、「蓮見が言うなら聞きます」と受け入れている。
蓮見:僕、あんまり目立ちたくはないんですね。まだ「恥ずかしい」とか言っちゃうぐらいの感じで、そのへんは全然プロじゃないなと思うし、メンバーのほうが演技は上手い。でも、「何が上手いかわかっていないひと」を見るのがすごくイヤなんですよ。宝の持ち腐れで腹が立つ。なぜ自分が得意じゃないところにプライドを持ってぐちゃぐちゃになっているのか。
水野:意地悪で優しいタイプ。
蓮見:評価されることってひとつじゃないですか。オールラウンダーが評価されるのは、40歳を超えてからの業界というか。
水野:なんなんだその冷静さは。
蓮見:全部ができることは、若いうちってあんまり意味がない。一点突破のひとを引っ張り上げたくなるし、使ってあげたくなるなと思って。それで、コントを書くたび、ひとりひとつ武器を持たせるように、毎回同じようなキャラクターにしたんです。「こういう発声でこう喋ればあなたはおもしろいから、こうやってください」と。だから果たして当て書きなのか? という気もします。
水野:共同でキャラクターを作っていったというか。
蓮見:はい、もうそこを作る段階から一緒にやった感じがしますね。
もう8人分なら、頭のなかで見える

水野:今はどういうふうに作品作りをしているんですか?
蓮見:演劇でいうと、90~100分くらいは引っ張れるものがないといけないので、こちらが「言いたいこと」はわかるように書くけれど、「言いたいこと」と「伝えたいこと」は意外と違うと思っていて。「伝えたいこと」まで言ってしまわないように気をつけて書いています。だから、「伝えたいことがない」と評価されても、「いや、ないように書いているんだよ」と。
水野:はい。
蓮見:「僕たちはこう思いました。あなたはこれを見て、笑うなり泣くなり好きにしてください」という状態を舞台上に作り出したいんです。誰かが言っていたらしいんですけど、「客席に100人いたら、50人が笑っていて、50人は泣いているのがよい」みたいな。本当にそうだなと。その言葉を聞く前から目指していたところだったので、やっぱりそう言われているんだなと。
水野:「言いたいこと」と「伝えたいこと」のラインって、明確にあるのですか?
蓮見:書きながら、ラインを引く感じですね。たとえば、主人公が元カノに対して気持ちを伝えるみたいなセリフをバーッと書いていって。改めて読んだとき、全部で10行あるうちの5行目まではおもしろいんだけど、その先で「いや、もうこいつの言っていること合っているな」となってくると、そこで切ります。
水野:へぇー!「言っていること合っているな」で、切る。
蓮見:ボケでありたいときはそうですね。「こんなにこいつが愛される必要ないや」みたいな感覚というか。逆にずっとボケてきたやつなら、「たまには合っていることを言わなきゃ」っていう場合もありますし。
水野:蓮見さんの頭のなかがどうなっているのか…。複数人の視点がそれぞれ当たり前に見えているんですか?
蓮見:最初は、ホワイトボードに名前を書いたマグネットを貼って、脚本を作っていたんですよ。誰が舞台上にいるかわからなくなってしまうから。でも最近はもう8人分なら、頭のなかで見えるようになってきています。これはもう鍛錬です。外でも書けるようになったので、かなり便利になりました。
水野:それはすごい。しかも、お客さんの視点も意識しないといけないじゃないですか。
蓮見:多分、僕は「客席がどう思うか」を考えるのは結構、得意なんですよ。新ネタをやるとき、最初はまったくウケなくて、舞台上でどんどん変えていくタイプと、最初からドン!とウケて、逆にそれ以上はおもしろくできないタイプがいると思うんですけど、僕はかなり後者で。
水野:あ、意外ですね。
蓮見:単独ライブとかも初日からちゃんとウケる。「これぐらいウケるだろう」があまり外れない。だけど、そこにもうひとつ展開を足したりするのが苦手なんですよね。水野さんは、「この曲が売れるんかい!」みたいなことありますか?
水野:いきものがかりのジンクスとして、「水野が“これイケますね”と言った曲は行かない」と言われています。だから、僕がそれを言い出すと吉岡が、「いや、言わないで」みたいな(笑)。
蓮見:ちょっと話が戻ってしまいますけど、「何の意味もないですよ」みたいな曲もあるんですか?
水野:あります。僕も先ほどの笑いと泣きのお話が、あるべき姿だと思うんですよ。だから「何も書いてないね」って言われることが、いちばんいいなと。
蓮見:受け手側の環境によって勝手に変わればいいですよね。自分と同じような話を見たら泣けばいいし、自分には想像つかないものだったら笑えばいいし。音楽も聴くタイミングが大事じゃないですか。でも音楽は、結構みんなそこをわかってくれている感じがある。演劇もそれでいいのになって。
水野:演劇のほうがメッセージ性を求められる文脈が多いんですかね。
蓮見:多いですね。こんな言い方はあれですけど、まだ「物語でひとの気持ちを変えられる」と思っているんですよ。だから「俺は違います」と言いたい。演劇を見た喜びや活力を、勝手に自分で変換して別のものに活かしていく。エネルギーを補充するだけの単純なもの。
水野:急に熱くなっちゃうけど、そのことが今、本当に大事だと思いますね。社会的にも、わかりやすい物語で助けられようとしすぎ。どっちが悪いとか正しいとか。「本当はこんな嘘があったんだ」っておもしろい物語を作って、そのなかに何かを乗せて、社会が先導されるみたいなことが多い。そうじゃなくて、物語を見たひとが自分で考えるというか。
蓮見:そう思います。「それであなたはどうするの?」ということを、僕らはやり続けられていればいいなと。
Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
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