~「どう喜んでいただけるか」と「どう作りながら楽しめるか」の両方が大事~

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
最初はミキサーの配線さえわからなくて
水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』。今回は番組初の公開収録として『TOKYO GAME SHOW 2024』が開催されている幕張メッセ国際展示場ホール8『Samsung SSD』ブースからお届けしています。気になるゲストは、RPGゲーム「サガ」シリーズや「聖剣伝説」シリーズなど数々のゲーム音楽を手掛けられている、サウンドクリエイターの伊藤賢治さんです。よろしくお願いします。
伊藤:よろしくお願いします。

伊藤賢治(いとうけんじ)
作曲家。高校卒業後、専門学校を経て、株式会社スクウェア(現・株式会社スクウェア・エニックス)に入社。同社のゲーム作品である「サガ」「聖剣伝説」のシリーズなど多数の音楽を担当し、2001年にフリーの作曲家として独立。現在はゲーム音楽作品を始め、舞台・TVアニメ等の劇伴、シンガーへの楽曲提供及びアレンジ、各種プロデュース等、幅広い分野で活躍中。
水野:もともと音楽そのものとの出会いというと?
伊藤:4歳からピアノを始めたんです。だから入りはクラシックですね。
水野:そこからどうやってゲームに興味を持ち始めたのですか?
伊藤:テレビゲームがきっかけですね。当時、ゲームセンターや喫茶店のテレビで、いわゆるインベーダーゲームが流行っていて、それを見るのが好きで。たまにやるのも好きなんですけど、ファミコンとかを買うところまではいきませんでした。
水野:当時、ゲームに音楽をつけることはあまり一般的ではありませんでしたよね。しかも現代のゲームのような音楽がついているなんて、想像もしなかったと思うんですけれども。そこからゲーム音楽のクリエイションのほうへ行くきっかけは何だったのでしょうか。
伊藤:当時、専門学校に行って、音楽の仕事に就きたいと思っていたのですが、なかなか難しくて。誰かの弟子になるわけでもないですし。そんなとき、たまたま『ドラゴンクエストIII』が社会現象になるぐらい流行って、そのゲーム音楽を手掛けたすぎやまこういち先生のお名前がドンと知れ渡った。自分の世代からすると、すぎやま先生といえば『ウルトラマン』シリーズのイメージなんですけど。
水野:はい。
伊藤:そのすぎやま先生が、『ドラゴンクエスト』のゲーム音楽をやっているということが、かなりニュースになって。そこで「あ、自分もやってみたい」と思ったのが始まりでした。
水野:そして、スクウェア(現・株式会社スクウェア・エニックス)という会社に入社されるじゃないですか。
伊藤:はい。当時は、スクウェアのスの字も知らなくて、「ファイナルファンタジー? 何それ?」の世界でしたけど。
水野:それなのになぜスクウェアに入ろうと思ったのですか?
伊藤:当時、『ファミコン通信』を読んで、どこの会社を狙おうか考えていたんですね。そのときちょうどファミコン最後の作品『ファイナルファンタジーⅢ』が期待の新作として出ていて。そのグラフィックが、他のメーカーさんに比べてとても綺麗だったんですよ。それで「応募してみようかな」と。
水野:はい。
伊藤:すると、面接に「ファイナルファンタジー」シリーズの作曲をされている植松伸夫さんがいらっしゃって。2、3度面接をしていただき、ご縁があって入ることができました。
水野:入社した最初の頃は、それこそ植松さんのお仕事のお手伝いなどを?

伊藤:お手伝いも半分。あと当時、数本ゲームのプロジェクトが進行していて。それが『ファイナルファンタジーIV』とゲームボーイの『サ・ガ2 秘宝伝説』だったんですね。それを植松さんがどちらも担当されていて、「そろそろ誰か部下がほしいな」というタイミングで入ることができたので、『サ・ガ2 秘宝伝説』の制作を半分やることになったんです。
水野:当時のゲーム音楽って、制限がすごく多かったと思います。容量がないとか、発音数に限りがあって和音を十分に再現できないとか。そういうルールはどのように乗り越えていかれたのでしょうか。
伊藤:いや、最初はもう会社に入りたいがゆえのはったりばかりで(笑)。面接で、「君はコンピューターとか打ち込みも詳しいかい?」と訊かれたら、「もちろん!詳しいですよ!」って目をキラキラさせて。全然知らないのに。そして、入社していろいろ機材が届くわけですけれど、ミキサーの配線さえわからなくて。「センドとリターンって何?」みたいな。
水野:すごい(笑)。
伊藤:で、目の前に植松さんがいらっしゃるので、「すみません、全然わからなくて。ミキサーの配線もできないんですけど…」って言ったら、「お前、面接ではいろいろわかるって言ったじゃないか!」みたいな(笑)。
水野:植松さんも優しいですね。怒りながらも教えてくださる。でも、ファンのみなさんが憧れる“イトケン”さんこと伊藤賢治さんにも、そんな時代があるというお話を聞くと、ゲーム作曲家を目指している方々は希望が湧くと思います。
伊藤:みなさん僕なんか、すぐに超えていくと思いますよ(笑)
歌ものだと、オフコースが大好き

水野:だんだん現場で覚えていって、「これなら自分ひとりでやっていけるな」という瞬間はありましたか?
伊藤:ゲームボーイ『聖剣伝説』初代で、初めてひとりで音楽を担当させていただいたんです。で、当時、モニターとかをやっていたチェックのひとたちがいたんですけれど、エンディングを迎えるにあたって、みんな泣き出したんですね。感動してくれて。それに自分もジーンとしちゃって。「自分も植松さんのところにちょっと届くことができたのかな」と感じた瞬間でしたし、そこから少しずつ自分の名前が浸透していってくれた気がします。
水野:ゲームって、たくさんのシーンがあるじゃないですか。バトルのシーン、泣きのシーン、妖艶なシーン、すごく明るいシーン。ひとつの映画じゃ収まらないぐらい、たくさんのジャンルを書かなければいけない。それはどのように書き分けているのでしょうか。
伊藤:当時はインターネットがなくて、CDの時代だったので、タワーレコードとかHMVに入り浸っていましたね。たとえば、民族音楽のCDを山のように買って、「インド、アジア、トルコ、どう書くんだ?」みたいな。そうやって耳で聴いて消化して、それを作品に出していくような感覚でした。いろいろメモしたり、分析したりもして、勉強しながら曲を作っていくというか。
水野:そのカロリーはとてつもないですね。
伊藤:それは最近もそうですよ。現場では突然「K-POPのような曲の歌を作ってくれ」みたいなことを言われるわけですが、それまでK-POPって聴いたことがないから、勉強していく。
水野:「K-POPのような曲の歌を作ってくれ」と言われた場合、伊藤さんだったらK-POPのどこらへんから見ていくのですか?
伊藤:全体の構成です。今はきっとTikTokとかがメインになるので、「いかに短くインパクトを与えられるか」というのが大事で。もう一様にイントロが短いんですよ。4小節ぐらいで終わって、すぐに歌が入る。そういうことを知って、曲を作っていきます。
水野:ただ、ファンのみなさんがよく“イトケン節”と言うように、非常にメロディアスな展開が多かったり、伊藤さんはわりと手数が多いタイプのソングライターというか。
伊藤:そうですね。
水野:そういう方からすると、イントロが短いとか、数秒でインパクトを残さなきゃいけないって、また別の越えなきゃいけない壁みたいなものはありませんか?
伊藤:でも、自分が小さいとき好きだった音楽の蓄積があって、それが自分のオリジナリティになっていると思うんですね。それさえ外さずにいけるなら“イトケン節”というのは、なくならない気がしています。
水野:小さい頃、どんな音楽を聴かれていたのですか?
伊藤:ポール・モーリアとかリチャード・クレイダーマンとか、イージーリスニング。歌ものだと、オフコースですね。大好きで。だから羨ましいんですよ。水野さんが小田和正さんと一緒にやられているのが。
水野:小田さんにはお世話になっています。
伊藤:もうテレビを観て、半分妬ましい気持ちで(笑)。
水野:オフコースもいろんな時代がありますけど、どのあたりがお好きですか?
伊藤:僕ね、アルバム『ワインの匂い』が大好きで。きっかけは「さよなら」だったんですけど、遡ってみたんですよ。そこで「あれ、鈴木さんと2人でやられていたときのこのアルバム、全曲いいな」って。で、ピアノ楽譜を買って、弾き語りで練習するみたいなことをやっていましたね。
水野:やはりメロディアスなものが好きだったんですね。ちょっと自慢をすると、小田さんから聞いた話があって。
伊藤:いいなぁ、いいなぁ(笑)。
水野:「2人で何ができるかを常に考えていた」って。たとえば、2人でどれだけ和音を実現できるか。2人で足りないなら、5人ならハーモニーが実現できるか。実はこの制限がある感じって、ゲーム音楽と近いかもしれないですよね。
伊藤:あー、たしかにそうですね。
水野:いろんな条件のなかで、どれだけ豊かにできるか。実はそこが繋がっているのかもしれないなと思いました。
「自分も捨てない」

水野:僕、ゲーム音楽って想像ができないんですけれど、「こういう音楽を作ってほしい」というリクエストって、どんなふうに言われるものなんですか?
伊藤:「サガ」に限っては箇条書きですね。たとえば、「こういう主人公がいて、こういう生まれで、こういう性格で、こういうふうに考えているかもしれないけれど、それはのちのち決めていきます」と。
水野:はい、はい。
伊藤:「ダンジョンは2~3種類。バトルも3曲ぐらい。最後の大ボスはもしかしたら最終形態が2~3つあるかもしれない」みたいな。結構アバウトなんですよね。
水野:それでわかるんですか?
伊藤:わからざるを得ないというか(笑)。
水野:その段階では、デモ画面みたいなものはあったりするんですか?
伊藤:デモ画面はまったくないです。キャラクターデザインがたまたま届いていたらラッキー。もうそれを本当に穴が開くぐらい見ながら、想像していきますね。
水野:どういうことを想像されるのですか? ユーザーの方とか?
伊藤:それが第1ですね。「ユーザーの方にどう喜んでいただけるか」と「自分がどう作りながら楽しめるか」の両方が大事で。自分も捨てないんですよ。捨てない上で、考えます。
水野:「自分も捨てない」というのは、「我を出す」ということですかね。それとも、ご自身の好き嫌い、主義や主観を失わないということなのか。
伊藤:結構、我を出す部分もあると思います。たとえば、その時々の自分の好きなものとかを少し。でも、そこを0にしてしまうと、自分のものにならないので。
水野:自分を入れたときと、入れてないとき、どちらが反応はいいですか?
伊藤:いや、すべて自分は入れていますね。
水野:入れてないときがないんですね。おもしろいです。自己表現がなかなかしづらい分野なのかなと思っていました。
伊藤:人によるかもしれませんが、僕は「だって自分が作っているんだから」という気持ちが強いです。
水野:きっとそこが作品としての濃さや強さに繋がっているんですね。
Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集: 井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
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