ずっと反骨精神が原動力になっている。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、アーティストの川谷絵音さんです。

川谷絵音(かわたにえのん)
1988年12月3日生まれ、長崎県松浦市出身のミュージシャン、作詞家、作曲家、プロデューサー。高校時代からバンドを始め、東京農工大学では軽音楽部にて活動。indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ、ichikoro、礼賛という5つのバンドを掛け持ちしながら、ソロプロジェクト・独特な人、美的計画、休日課長率いるバンド・DADARAYのプロデュース、アーティストへの楽曲提供やドラマの劇伴なども手がけている。
自分みたいな人間が安定していいとは思っていない

水野:川谷さんにとって、最初の音楽との出会いというと?
川谷:父の出身地が長崎県の五島列島なので、よく行っていたのですが、島のひとが美空ひばりさんを歌っていたんですね。それで僕も小さい頃から歌わされていて。そのとき、島のひとたちに、「お前の声はいい。ミュージシャンになれ」と言われて、「音楽をやりたいな」とうっすら思うようになっていきました。でも、まったく機会がなくて。長崎はわりと、“バンドとかやっているのがダサい”みたいな風潮もありましたし。
水野:カッコいいではなく、逆に“ダサい”だったんですね。
川谷:だから、なかなか始めることができずにいました。それでも高校生のとき、友だちとバンドを組んだものの、僕だけクビになりまして。大学1年生で軽音楽部に入って、ギターを買って、ようやく本格的に始めた感じですね。
水野:曲作りのスキルはどのあたりで身につけられたのでしょう。
川谷:軽音楽部でのコピーに飽きてしまって、大学3年生くらいから自分で曲を作り始めました。mixiでメンバーを集めて、オリジナルバンドも組みましたし。とはいえ、MTR(マルチトラックレコーダー)みたいなやつで作った、目も当てられないようなクオリティの楽曲でしたけれど。でも、根拠のない自信があったんです。音楽はすごく聴いていたから、「これだけインプットしたら、アウトプットできるはずだ」みたいな。
水野:影響を受けたバンドというと、いかがですか?

川谷:いろいろあるから難しいけれど、indigo la Endというバンド名は、スピッツのアルバム『インディゴ地平線』に由来しているので、スピッツと答えることが多いかもしれません。歌詞も、とくにindigo la Endでは草野マサムネさんに影響を受けた部分が大きいですね。でも正直、バンドごとに歌詞の特徴は異なります。
水野:どうしてそんなにいろいろなバンドができるのでしょう。
川谷:いろいろやっていないと、ひとつが沈んだとき、どうにもならない気がして。バンドって浮き沈みがあるじゃないですか。沈んだとき、そのバンドで挽回するのはなかなか難しい。でも、違うことでとりあえず憂さ晴らしをすると、もうひとつのほうも頑張れるようになる。別のほうで脚光を浴びて、またもう一方を照らすみたいなほうが僕は向いているというか。そうやっていちばんいい精神状態で生活したいんです。
水野:メンタルが落ちると、創作の生産性も落ちますか?
川谷:いや、僕は上がります。自分ひとりではなく、他者がいて落ち込むじゃないですか。その自分を落ち込ませた原因となったものに、仕返しがしたい。基本的には、ずっと反骨精神が原動力になっているんです。もともとバンドをクビにされたからこそ、「絶対に音楽をやろう」と思ったわけですし。
水野:幸せな場面が増えてくるといかがですか?
川谷:幸せなことは増えないんですよ。僕は自分で壊していくタイプなので。バンドだけはなぜかクラッシュしないのですが、人間関係とかもリセットしたくなります。平凡な日がちょっとでも続くと、つまらなくなってくるというか。そもそも自分みたいな人間が安定していいとは思っていないので、「違うな。なんかおかしいな」と。そのほうが結果、創作意欲も湧きますし。
水野:「何のために曲を作っていますか?」という問いには、どのように答えますか?
川谷:もちろん、美しいものが作りたい気持ちとかもあるけれど、基本的には「なめられたくないから」です。
水野:でも今、ものすごく認められているじゃないですか。
川谷:特定のひとに「いい」と思ってもらいたいんですよ。その時々で、「このひとに向けて書きたいな」と思うひとの顔が見えている。だからこそ続くんです。
水野:作れなくなる怖さはありますか?
川谷:どうだろう。でもたくさんバンドをやっているからこそ、仲間に助けられながら、絶対に作り続けられるだろうなと思っていますね。拠り所がいろいろある。バンド自体がすべてなくなることは、あまり想像したことがないけれど、それでも別に何かしらやっている気がします。
「お前、自分で全部やりすぎ」

水野:川谷さんはずっと飄々とされていますよね。
川谷:自分のなかで、「飄々としてないといけない」という気持ちがあるんです。いろんなものに左右されたくない。自分の感情をコントロールされたくない。自分のことは自分で決めたいし、誰にも何も言われたくない。
水野:バンドだと、誰かの意見が出てきますよね。そういうものとはどう向き合われているのですか?
川谷:礼賛以外のバンドでは、基本的に僕が舵を取っているので、あまりぶつかることはありません。礼賛に関しては、僕がサーヤちゃんをすごく尊敬していることが大きくて。サーヤちゃんが決めること、やることは、そのとおりにやりたいと思えるんです。僕も少し意見を言うことはあるけれど、最終決定権はサーヤちゃんにある。僕にとっては、初めての状態ですね。
水野:その状態はいかがですか?
川谷:楽しいです。後ろにいて、ギターを弾くこともなかったですし。すべてを任せられる現場がひとつあると、それはそれで精神衛生上、いいことに気づきました。以前、僕は自分でやりすぎていて、先輩ミュージシャンに、「お前、自分で全部やりすぎ」と言われたことがあって。意外と誰にも言われたことがなかったから、雷が落ちたような感覚だったんです。それで、「誰かに任せないといけないんだ」と思ったのがきっかけでもあります。
水野:自分が決定権を持っているバンドの場合、どのようにコミュニケーションを取られていますか?
川谷:細かくは言うけれど、僕は結構、まわりを見ていますね。みんなが機嫌のいい状態を保つ努力をずっとしています。誰と誰の組み合わせがいい、というのもあるから。音楽と関係ないときの会話もよく聞いていて。
水野:子どもの頃から、まわりを見ているタイプでしたか?
川谷:小学生のときって、“ハブられる”みたいなことがあるじゃないですか。そのときに、「まわりを見ていないとハブられるんだな」ということに気づいたんです。僕の場合、「学校でいちばん権力を持っているひとは誰だろう」と考えて、そういう生徒のまわりにいました。自分に火の粉がかからないように。

水野:たくましいですね。必ず生き残るスタイルを取っていく。
川谷:逆境が好きなんですよ。倒す相手がいるような、少年マンガ的なものがあるほうが楽しい。
水野:僕はずっと“マジョリティ側”と言われてきたんです。僕としては“自分はマジョリティ側ではなかった”という認識だから、ずっとそこに違和感を覚えながら生きているんですけど。いきものがかりも、「みんなが聴いているもの」みたいなグループで。それは逆に、個性を持っているタイプ、反骨精神を持っているタイプのひとは、聴きたくないものじゃないですか。だから、反骨精神を持っている川谷さんとは離れたところにいる気がして。
川谷:でも、僕は初めてお会いしたとき、意外と近いのかなと感じましたよ。僕もポップスの世界でやっていて、“マジョリティ側”と言われることもあったので、その気持ちもわかりますし。もちろんいきものがかりは、またまったく違うものだけれど。水野さんは、Xの使い方とかも僕と近くて。自分をオープンに下げられるひとというか。出演するテレビ番組も似通っている部分がありますし、勝手に「似ているな」と思っていました。
水野:僕は、「誰かを敵にする」とはオープンに言わないタイプだけれど、たしかに通ずるところはありますね。ある意味、マジョリティなグループで、「マジョリティと言ってきたひとたちを、全員倒してやろう」と思っていたから。実は似ている部分があるのかもしれません。リスナーからの感想や意見は、どのように受け止められていますか?

川谷:単純に「おもしろいな」と思っています。ラジオへのメッセージとか、SNSとかを見ていて、僕がまったく思っていなかった方向に行くこともあるじゃないですか。僕がそこまで考えなくても、リスナーが広げてくれる安心感があったりしますね。説明しなければ、本当にわからない歌詞もあるけれど、みんなが想像してくれれば、そこにそれぞれの正解があるので。僕が書いたからって、僕が正解なわけでもないなと感じますね。
水野:ご自身の歌詞を読み返して、「ああ、こんなことを書いていたのか」と振り返ることもありますか?
川谷:たまに取材で、並べてある歌詞を見て質問されたときに、「あんまり記憶がないな」って思うことはよくありますね。僕は、音づくりも覚えていないことが多いんですよ。レーベルのひとに、「リファレンスにしたものはありますか?」みたいなことを訊かれるんですけど、本当に覚えていない。いくつかの曲をバーッと聴いて、「リズムはこの感じにしたいな」とか思ったはずなんですけど、その瞬間だけの感覚というか。
水野:どれぐらい即興性が入っていますか?
川谷:曲によります。indigo la Endは構築していくタイプ。ゲスの極み乙女はものすごく即興タイプ。礼賛は、サーヤちゃんが歌を作るので、僕はとりあえず曲を作って、サーヤちゃんに丸投げする。だから、「ここがサビだと思っていたのに、Aメロになっている」ということもあっておもしろいです。まあ僕は、メンバーが楽しそうにしているのが好きなんですよ。メンバーがいちばん大事。いろんな過程はあったとしても、最終的にはメンバーが「いい」と言ってくれる曲を目指していますね。
『情熱大陸』は休日課長に密着するべき

水野:礼賛のみなさんには、『いきものがかり meets 2』にご参加いただきまして、「ブルーバード」をレコーディングしていただきました。本当にありがとうございました。いかがでしたか?
川谷:大好きな曲なので、やらせていただいて逆にありがたいです。最初にサーヤちゃんが「ブルーバード」を挙げて、僕らもこの曲ができるならいちばんありがたいし、サーヤちゃんの声でも聴いてみたいな、と。選曲はスルッと決まりました。そして、元のコードを一回さらってから、ちょっと自分流にアレンジしていきましたね。
水野:ライブでも演奏されたそうですが、反応はいかがでしたか?
川谷:もう歌い出しでお客さんが「うわー!」ってなっていました。僕はいろんなひとの“歌ってみた”動画を観るのが好きなのですが、「ブルーバード」がいちばん観たくなるんですよ。それぐらいあの曲は、本当にメロディーが強いし、気持ちいい。ライブでやってみて、「すごい曲だな」と改めて思いました。
水野:サーヤさんの声、強いですよね。歌い出しでもうしっかり形ができていて、色が出ている。サーヤさんの声の魅力には、どのように気づかれたのですか?
川谷:もともとは漫才を見ていて、「いいな」と。発色がいい声というか。聞き取りやすいし、太いし、耳なじみがよい。さらに、サーヤちゃんは、昔からアプリで“歌ってみた”みたいなことをやっていたのですが、それを観て自分の作品に参加してもらったのが始まりでした。これだけお笑いのクリエイティブがあるひとで、曲を作れないわけがないと思ったので、作ることも提案したんですよね。
水野:川谷さんは「自分はこうなっていきたい」みたいなイメージはされますか?

川谷:昔はすごく設計図があったのですが、最近はなくなってきました。設計図どおりにいくことなんてないから、もうやめようと思って。30代後半に差し掛かってから、未来を意識するのもやめました。桑田佳祐さんや小田和正さんの活躍を見ていると、逆に不安になってくるんです。「あれは超人だからできることだ」って(笑)。「とりあえず今が楽しければいい」という精神になっていますね。
水野:ライブとレコーディングでは、どちらが好きですか?
川谷:レコーディングですね。もちろんライブも楽しいですけど、レコーディングはずっと構築されていく。一生ものの曲ができる。それが楽しいです。ライブはどちらかというと、終わったときのことを考えています。
水野:終わったとき?
川谷:ライブが終わったら、飲めるじゃないですか(笑)。その楽しみのほうが大きいんです。打ち上げがあるのは礼賛だけなのですが、5年間、同じことをやっているんです。反省会とかではなく、しょうもないことしか喋っていない。本当に友だちみたいな感じです。ベースの休日課長とは、もう18年ほど一緒にいますけど、いまだにふたりでものすごく会話するんですよね。一緒に地方へご飯だけ食べに行ったりもします(笑)。
水野:仲よし夫婦みたい(笑)。でも、ライブに並行して制作もされていて、本当に大変ですよね。
川谷:大事なところをサーヤちゃんに任せられる、礼賛みたいな場所が増えてきたから、だんだん業務形態は変化しているのかなと思います。任せることの大事さは、最近とくに噛みしめていますね。自分たちで事務所もやっているので、そういうことも含めて。基本的には、休日課長が社長業務をやっているんです。それはベンチマークになるかな、と。若手バンドにも、“自分たちでもできる”ということを教えてあげたい部分があります。

水野:やっていることがオープンにできるといいですよね。わりとブラックボックスになっているから、そもそも何をやっているか、知らないひとのほうが多いですし。
川谷:だから、『情熱大陸』は休日課長に密着するべきだと思っています。あんなに会社のことを全部やっているひとはいないから。決算の資料作りや、物販の発注。今日もメンバーの給料を振り込んでいましたから。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
川谷:課長みたいな、スーパーマンを見つけること。
水野:要はマネージャー業務的なことをやる、相棒を見つけるということですね。そういう人材は絶対に必要です。いきものがかりにも、出会えたひとがいますから。“ひとを見つける”という角度のひと言をくださった方は、初めてかもしれません。これはものすごく大事なことですね。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:北川聖人
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/



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