『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』石田多朗

雅楽は”自然と一体になるファンタジーミュージック”だと思う。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、作曲家の石田多朗さんです。

Man wearing headphones speaks into a microphone in a recording studio with glass partitions.
石田多朗(いしだたろう)
ボストン生まれ。幼少期をサンフランシスコで過ごす。23歳から音楽を学び、東京藝術大学音楽学部に合格。大学院を卒業後、2014年に雅楽作曲に挑戦し、オリジナル楽曲「骨歌」が坂本龍一氏に評価される。総合音楽編曲を手がけたハリウッドドラマ『SHOGUN』のサウンドトラックは、世界最高峰の音楽賞「グラミー賞」にノミネートされるなど高い評価を受ける。以降も雅楽と現代音楽、西洋音楽を融合させた作品で国内外から高い評価を受け、文化イベントの音楽監督やプロデュースにも活躍の場を広げている。

“間に入る”という強み

Man in a gray shirt speaking into a desktop microphone in a recording studio, with sound equipment nearby.

水野:学生時代は、どういう分野に興味があったのですか?

石田:運動がキライで、ゲーム好きでインドアな普通の子どもでしたね。高校時代は、ユニコーンをよく聴いていました。一応、日本文学などにも興味があったので、上智大学の文学部に行ったのですが、そのあと音楽の道に進むときに初めて、「何かに興味を持つとはこういうことか」と気づいて。今思うと、文学にはハマっていなかったのかもしれません。「みんな大学に行くから、自分も行くか」という感覚で生きていた気がします。

水野:どのように音楽の道へ進まれたのでしょう。

石田:世界的に活躍するピアニスト・大西順子が親戚なのですが、もうレベルが違いすぎて、そんなに意識はしていなかったんですね。それが上智大学時代の終わりくらいに、突然、「音楽だ!」と雷に打たれたような感覚になりまして。親もまわりのひとも、「なんで急に音楽家に?」と衝撃を受けたと思います。しかも、バンドなどで表に出るイメージもなくて。最初から、音楽を作ること以外は何も考えていませんでした。

水野:楽器の経験はありましたか?

Man wearing black shirt and large over-ear headphones speaks into a microphone in a recording booth with a glass-topped table and water bottle nearby.

石田:鍵盤を少し弾いて、五線譜がちょっとわかるレベルでした。音楽の“おの字”もわからないので、上智大学卒業後はまず池袋のレコード屋で働いたんですよ。でも、あまりに忙しくて、「このままじゃ音楽家になれない!」って気づいて。休憩時間に店を飛び出して、近くの本屋に行って、音大受験の赤本を端から見ました。すると、ひとつだけ一発芸的な受験方法があって。「これなら受かるかも」と手に取ったのが東京藝術大学の本で。

水野:すごい。

石田:新しい学科ができて、実験的な入試をしているタイミングだったんですよね。音楽の能力を問う部分が少なくて、半年間、猛烈に勉強したら通ってしまった。多分、今だったら合格しないと思います。

水野:受験では何をやったのですか?

石田:考え方で挑もうと思いまして。楽器って、年月とともに変化していって、音色がよくなったり悪くなったりするじゃないですか。それに対して、電子音は、パソコンのなかのデータなので変わらない。そこで、「経年劣化する電子音」という架空のプログラミングを提示しました。

水野:そのコンセプトを考えつく段階で、かなり他のひととは違う気がします。

石田:「他の藝大生には勝てない」という前提が大きかったと思います。みんな幼少期から楽器をやっているなか、自分は22~23歳からピアノを弾いているので。それで「どうしよう」と考えたとき、総合的に見て行動する人間になったほうがいいのではないかと。ちなみに、『SHOGUN』の総合音楽編曲を手がけましたが、僕は一切、和楽器を演奏できないんですよ。ただ、和楽器のひとたちと仲よくできるし、発想がわかる。一方でLAのひとたちの気持ちもわかる。だから、自分は“間に入る”というパターンになるわけです。

水野:メタ的な視点で見て、いろんな要素やひとを繋ぎ合わせて、全体を構築していく力が、ご自身の強みだったんですね。

Man with dark hair and glasses speaks into a microphone at a panel, seated at a table in a studio setting.

石田:そこでしか勝負ができないんだと思います。藝大に入ったあとも、ラフマニノフの楽譜を見た瞬間に弾くようなモンスターしかいないんですよ。とにかく居場所がない。ただ、隣に行くと美術学部があって。美術学部の学生は、音楽を作ってほしいけれど、音楽のひとは映像のことを知らない。そのとき、僕がパイプとして入ると、すべてがつながっていくことに気づきました。『SHOGUN』もまったく同じで、自分なりの道を見つけた感覚です。

水野:ご自身のアイデンティティや自信は、どのように手にしていったのですか?

石田:僕はずっと裏方だったので、「松竹梅の竹を頼まれたら、それを握って出す」みたいな、職人的な感じだったんです。でも『SHOGUN』でいきなり表に打ち出されて。それがヨーロッパの公演で「ブラボー!」と評価を受けたりして。45~46歳にして初めてそういう体験をしたことで、「俺、合っているのかな。その関係で他の仕事が来たときも褒めていただいているから、大丈夫かもしれないな」と思えましたね。

水野:『SHOGUN』という作品では、日本の文化の説明をしたり、いろんなひとと繋がったりという課題と、どのように向き合われましたか?

石田:世界的に活躍している作曲家のアッティカス・ロスをはじめ、LAの音楽家は日本の音楽を最初はわかっていないんですよ。でも、彼らは謙虚で、なるべく話を聞こうとしてくれて。日本の音楽家にはもちろんプライドや思いがあって、どうしてもハリウッドサウンドにするときに、「それは私たちの音楽ではない」みたいなことが起きるのですが、アッティカス・ロスたちが歩み寄ってくれるわけです。すると、日本の音楽家たちも、「それなら私たちも」という気持ちになる。この交流の間に僕が入って、バランスを取る感じですね。

Person wearing over-ear headphones speaks into a microphone at a radio studio desk in a broadcast setting.

水野:どうやってその歩み寄りを実現するのですか?

石田:音楽家の喜びって、レコーディングのときだけではなく、終わったあとの評価もあると思うんです。だから、たとえば『SHOGUN』が発表されたとき、僕がなるべくみんなの名前を出すとか。そうやって、「大変なレコーディングもあったけれど、やってよかったな」という終着点に持っていくようなフォローアップをしています。

水野:大事ですね。

石田:ミュージシャンも、自分と自分の音楽を大事にしているかどうかを見ているじゃないですか。「大事にしてくれるなら、一肌脱ぎましょう」というひとたちなんですよ。リスペクトなく「いいところだけ使わせて」というひとだと、続かないのだと思います。

職人モードでは、日本の音楽家たちの味方

Three people wearing headphones sit around a table with microphones in a recording studio, with a clock and sound equipment visible in the background.

水野:なぜ、石田さんはアッティカス・ロスのような音楽家たちと向き合っていけるのでしょうか。

石田:アッティカス・ロスは、ハリウッド業界のボスのような方で、みんな名前を聞いたらビビるくらいの存在です。でも、僕は『SHOGUN』の話が来たとき、完全に頑固な寿司職人みたいなモードだったんですよね。だから、アッティカスが最初に書いてきてくれたものにも、「ここの部分は演奏できない」とか、たくさん赤を入れました。普通なら怖くてできない。そうしたらすごく信用されて、「それなら多朗に任せる」となっていったんです。

水野:忖度なく、フラットに作品を見ることができたんですね。職人モードとそうではないときにはどのような差があるのですか?

石田:基本的に職人モードでは、日本の音楽家たちの味方です。「その音は出ない」とか「音が掠れる」とか、楽器や奏法の性質上、もう決まっているところがあるので、それをズバズバと言います。アーティストモードのときには、もう少し柔らかい感じですかね。「この掠れているのもいいかな」とか、「今までにない奏法もいいかな」とか考えられる。

水野:職人モードのときには、ご自身が学んできた雅楽の知識がベースとしてあるというか。

Side profile of a man wearing over-ear headphones and glasses, speaking into a microphone in a recording studio while gesturing with his hands.

石田:あと、外側からはなかなかわからないこだわりもあるんですよ。たとえば、雅楽のひとたちに、「メタルバンドを一緒にやってください」って言いづらいじゃないですか。でも意外と、そこは平気でやってくれたりするんですよ。一方で、「右舞(うまい)なのか左舞(さまい)なのか」みたいなことにはものすごくこだわったりします。その“気にするポイント”は本などには載っていない。簡単に調べられず、実際に現場で理解していくことも多い。だから、ひとの顔を見て、「あのひと、これはイヤがるな」と把握する感じですね。

水野:大事にしているマナーやルールは、外からは見えないわけですね。

石田:楽琵琶という楽器では、秘められた曲である“秘曲”が今でもあるんですよ。1500年くらい昔の曲なのですが、ひとに見せてはならない奏法があり、それは今でもカメラ撮影してはいけません。それを無下にスマホとかで撮ると、すごく怒ると思います。そういう、いろんな侵してはいけない線を現場で僕があいだに入って守るということなんです。

水野:石田さんは、“音”と“音楽”のあいだをどれぐらい意識されていますか?

石田:すごく意識しています。今、雅楽とクラシックを融合させたものを作っているのですが、音と音楽の境界以前に、「音楽って何だろう?」と揺らいでいるところです。

水野:西洋音楽と雅楽って、考え方が違うじゃないですか。それを繋ぎ合わせるって、とても難しいことに思えます。

石田:たとえば、フルートと龍笛って、形状が似ているんです。でも、森などで聴くと如実なのですが、フルートは自然と違う音として綺麗に目立つ。一方で龍笛は、馴染みすぎて自然として聴こえてしまう。だから、両者は合わないと思っていたんですよ。ただ、よく考えてみると、「枝葉は分かれていたとしても幹は合うのでは?」とも思って。そこで、プロの演奏者を集めて“遊ぶ”という試みをしてみたんですね。ただ、音を伸ばしたりして実験してみた。そうしたら、一発で合ったんですよね。つまり、考えすぎだったわけです。

Man wearing headphones speaks into a microphone in a studio, a masked woman in the background.

水野:現場では具体的にどのような気づきがありましたか?

石田:突然、夢みたいな感じで合ったというか。ある部屋に、雅楽の楽器とクラシックの楽器が並んでいて、そこに子どもがわーっと入ってきて、めちゃくちゃに演奏しているイメージが湧きました。それが「意外とよくない?」って。思い込みってまだまだあるんだな、と思いました。

水野:なるほど。

石田:LAのひとたちと『SHOGUN』でレコーディングをしたときにも印象的なことがあって。コロナ禍だったので、リモートで雅楽のレコーディングをしたんですよ。すると、篳篥(ひちりき)とか龍笛などの楽器を演奏すると大喜びで。「イエーイ!」「ファンタスティック!」って盛り上がって。それで気づいたのですが、日本人は雅楽の楽器に対して、「神社などで鳴っているつまらない音」というレッテルを貼り終えてしまっているなと。

水野:はい、はい。

石田:知らないひとからすると、マジックみたいな音楽だと思います。子どものためのワークショップとか、いろんなところでお話しているのは、その間違ったレッテルを剥がしたいからなんですよね。認知を変えたい。

水野:子どもは雅楽の楽器にどのような反応をするのでしょうか。

石田:大体、最初は大爆笑します。聴いたことのないところで耳が鳴っているのか。笙(しょう)とか聴かれたことはありますか?

水野:しっかり聴いたことはないですね。

石田:ぜひ、目の前で聴いてみてください。衝撃的な音が鳴っています。実は雅楽の楽器って、クラシックの楽器より音が大きい場合もあって。実際に雅楽のオーケストラが鳴っていると、私たちの会話も聞こえないくらいです。あと、雅楽がすべて聖なる音楽なわけではなくて。たとえば「越天楽」はもともと宴会の曲だったと言われています。昔の貴族が飲み会のときに演奏していた。みなさん、そういう思い込みもある気がします。

叶わないから芸術になる

Woman wearing headphones in a recording studio, smiling at a microphone.

水野:ご自身の作品では、どうやって新しい概念を作り出していくのでしょうか。

石田:昨年、アルバム『常世』を出したのですが、基本的には雅楽とクラシックを融合させた作曲をしていて。いい感じになってきたら、自分の頬を叩いて、外に行くんです。すると、僕は森のなかに住んでいるので、様々な自然現象に触れます。木の表面に表現しがたいパターンがあったり、雨にコンピューターのものとは異なるランダム性があったり。そして、デスクに戻ると、楽譜のなかにエゴがあることに気づく。そのエゴを消して、つるんつるんにして、自然現象に似たものを作るのが、今の時代の雅楽に近い作曲だと思って試してみました。

水野:なるほど。

石田:それをコンサートでも、感情ではなく自然現象を表現する感覚で演奏するのですが、不思議なことに、泣いているお客さんもいるんです。多分、鏡みたいなものができたんでしょうね。聴いたひとそれぞれの顔を映す鏡。僕はそういう作品を作りたかったのだなと思います。だから、自分の感情は無というか。

水野:無になる過程で、自他の区別はあるのでしょうか。

石田:どうやら他のメンバーに訊くと、「美学はうるさい」そうです。たとえば、「ガラスに粘着性のある液体が垂れてくる、ねっとりした感じで弾いて」とか。フィナーレも、ストリングスが3人いたら、「きちんと揃って終わるのは違う。鳴いているカエルはピタッと終わらないから、全員ズラして終わって」とか。そういう自然現象を盛り込むことにはこだわっていますね。

水野:人間の手が及ばない流動的な恣意性に寄っていくと、僕らが「美しい」と感じるのはなぜでしょう。

Person wearing glasses and over-ear headphones, speaking into a mic in a recording studio with a raised hand gesture.

石田:エジプトのような乾燥地って、湿った音が好きなんですよ。そして、日本のような湿度の高い国は、三味線とか尺八とかすべてカラッとした音が多い。でも、どこか嘆き節がある。一生懸命、乾いた音で演奏するけれど、実は湿度が高い。つまり、叶わないから芸術になるのだと思います。僕はよく「自然派ですか?」と訊かれますが、まったくそうではなくて。実は、自然に憧れているくらいのほうがいい作品になる気がしているんです。

水野:それをどうやって超えていくのでしょう。

石田:「絶対に無理」と思いながらも、「こういうふうに演奏して」って半笑いでやっている感覚です。レコーディングのときにも、そういう二面性がある気がします。多分、平安時代の雅楽も自然と一体になるような音楽なのですが、実は貴族も屋敷から出られなかったんですよね。盗賊とかいるから。だから、雅楽は“自然と一体になるファンタジーミュージック”だと思うんですよ。意外と「叶わない」って大きなポイントかもしれません。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

石田:「自分の人生で作品を完結させる」と思わないほうがいい、ということです。私自身も苦しい時期があったのですが、雅楽と関わったときに、1300年前から未来まで空間と時間が広がりました。自分が傍らで少しいいことができたら、次のひとが引き継いでくれる。そういうビジョンが湧いてきたとき、楽になったんです。だから、ひとりで達成しなくても、みんなで達成すればいいんじゃないかなと、最近は強く思っています。

Two men pose for a photo in front of a J-WAVE 81.3FM backdrop, wearing light gray and dark navy shirts.

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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