『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』神谷圭介

“おかしい自覚がなくなっていく”ことが、実はいちばんおかしい。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、コント作家で演出家の神谷圭介さんです。

Close-up of a man wearing black over-ear headphones and round glasses, looking to the left in a neutral setting.
神谷圭介
千葉県出身。コントグループ・テニスコートのメンバーで、ソロプロジェクト・画餅の主宰。2017年玉田企画への出演をきっかけに舞台や映像作品へと活躍の幅を広げるほか、雑誌での連載やイラストなども手掛ける。近年の主な出演作に、ドラマ『青天を衝け』『ばけばけ』、舞台『夜衝』『世界は笑う』『A-②活動の継続・再開のための公演』、脚本 ドラマ『庭には二羽』『飯を喰らひて華と告ぐ』『パレード界隈』などがある。

「可笑しい」という観点

Person wearing over-ear headphones at a recording studio, speaking into a microphone.

水野:神谷さんは、「何をやっているひとですか?」と聞かれたらどう答えますか?

神谷:ここに呼んでいただいて、まさにそれを整理していきたいなと思っています。自分がやっていることって、本当によくわからないんですよ。芸人さんからは、演劇のひとだと思われていそうですし、演劇のひとからは、お笑いのひとだと思われていそうですし。どちらでもない宙ぶらりんな状態を続けてきた感覚があります。

水野:もともとどのように演劇やお笑いに興味を持ち始めたのでしょうか。

神谷:マンガや映画、音楽などのカルチャーが好きだった流れで美大に行きました。美大でまわりがアートとか映像とかを作っているなか、そこで僕らは「自分たちの表現としてコントをやってみよう」というスタートをした。だから、芸人さんのコントともニュアンスが違うんです。卒業後も自主的な公演をやるだけなので、スタイルは演劇に近くて。お笑いでも演劇でもないまま来てしまったのは、そういう理由だと思います。

水野:なぜ、コントという表現を選ばれたのでしょうか。

神谷:作家性やパーソナリティを活かそうとしたとき、コントがいちばんうまく表現できそうな気がしたんです。あと、作品づくりのなかでも「可笑しい」という観点を入れたものが好きで。声に出して笑うわけではないけれど、おかしくて仕方ないものを見ているときの感覚というか。そういうコメディー要素は、美術作品や小説、映画にもあって、それが自分のやりたい部分だなと感じました。

水野:「可笑しい」に惹かれるのは、何かの体験がもとになっているのですか?

Man wearing large over-ear headphones and round glasses, gesturing with his hands while talking or explaining something.

神谷:宮沢章夫さんのエッセイがいちばんのきっかけだったと思います。18~19歳の頃に読んで、「視点によって、日常の言葉や風景がこんなにおかしく見えてくるんだな」と。しかも、自分が舞台を始める上で大きな影響を受けたシティボーイズの皆さんと、昔から一緒にやっていた作家さんだったことをあとから知ったんです。他にも、自分が興味を持ったいろんなカルチャーの点と点が、どんどん繋がっていくような感覚がありましたね。

水野:ものづくりや表現の技術はどのように獲得していったのですか?

神谷:技術的なことはまったくわからず、「とにかくやってみる」とスタートしました。美大に行って、ひとつの山を登っていたけれど、「意外とできるかもしれないから、別の山も登ってみよう」みたいな感覚で、初期衝動で動いていましたね。

水野:美大で習ったことはコントにどう転換されたのですか? 

神谷:芸術家の赤瀬川原平さんが路上観察学として「超芸術トマソン」というものを見出したんです。道端にある、のぼってすぐ降りる階段とか、壁の3階に唐突にあるドアとか、最初は何か用途があったのだろうけれど、目的がなくなっても残っているもの。そういう少しおかしな視点で、笑いに近いけれどアート的な感覚もあるものに、影響を受けていたところはあるかもしれません。

水野:はい、はい。

神谷:ただ、20代はどことも繋がっていないまま、ただ自分たちのコント公演をやっていて。しかも、ナンセンスコメディと言われるものだったので、「本当にこれは誰かが見ているのか?」と、暗闇に石を投げ続けている感覚もありました。ガラパゴスなまま、歪なものを自分たちだけで作っていた。それをおもしろがってくれるひとが出てきて、芸人さんの世界に行ってより成形されて、徐々に伝わりやすいものになっていったのだと思います。

Side-profile of a person wearing large over-ear headphones in a recording studio, with a blurred circular clock on the wall behind them.

水野:何もないところから何かを立ち上げていくことに、怖さはありませんでしたか?

神谷:怖さもありました。でも、時代のおかげもあったと思います。養成所に行って芸人になるというより、当時はマンガ家の天久聖一さんが作っていた『バカドリル』とか、カウンターカルチャー的なカッコいい笑いや、文化的なものがたくさんあったんです。その影響も受けて、お笑いではない形で、笑いを生む作品づくりをやりたいと思うようになっていた気がしますね。

水野:どこがいちばん楽しいポイントですか。

神谷:「おもしろそうな気がしてきたぞ」と匂い立つタイミングですね。どのジャンルでも、どの媒体でも、どの空間でも。常に「おもしろいものが作りたい」という理由だけでやってきたので、「これが生業だ」という感覚が自分のなかで弱かったのだと思います。

会話を0ではなく5から始める

Three people wearing headphones sit at a table in a recording studio, speaking into microphones across a glass partition.

水野:コントで使う音はどれぐらい意識されていますか? 

神谷:コントって、ほとんど素舞台だったりするんです。だから、その音だけでみんなが何かをぶわっとイメージできるような環境音を使うことが多い気がします。共感性のある音が入り口になっているというか。ちなみに僕は、舞台でひとり、トランポリンを跳び続けている5歳の子どもと会話するお父さんの役をやったことがあって。そのときは、トランポリンのガッシャンガッシャンという音が鳴っているのを、目線を上下させて追いながらセリフを言いました。音と目線だけで、本来はない風景が立ち上がるのがおもしろかったですね。

水野:それはどこから着想するのですか?

神谷:デザイン的なものに近いと思うんですけど、“削いでもわかる”っておもしろいなと思うんです。一部分だけで、全体の風景が浮かぶとか。だから、まず状況を思い浮かべているのかもしれません。たとえば、「舞台上にはひとりの人間がいて、眼球が上下しているだけなのに、トランポリンを跳んでいる少年と喋っているように見える」という演出上の状況。あと、会話を書いてみてから、表現を取捨選択していくこともあります。

Person wearing over-ear AKG headphones sits at a desk, hands clasped near chin in thoughtful pose.

水野:会話の間(ま)はどのように作っていくのでしょうか。

神谷:俳優さんに任せて演出する場合は、いろんな設定や汲み取り方を説明して、共有します。でも、僕はわりと自分自身がプレイヤーとして演じることも多いので、そのときはやりながら「こういう言い方だな」と、見えてくることが楽しかったりしますね。トランポリンの話も、そもそも離婚した夫婦が5歳の子どもの留学について揉めるという設定なんです。

水野:ただの夫婦でも物語は成立しそうな気がしますが、離婚しているんですね。

神谷:でも、「離婚した」という説明はしていなくて。おそらく一緒に住んでないな、とか。子どもと久しぶりに会ったんだな、とか。会話から伝わってくるわけです。喫茶店で他人が話しているのを聞いていて、だんだんそのひとが何者かわかってくる感じが好きなんですよね。だから、会話を0からではなく、5から始めて、6、7と聞いていくうちに、1から4までの想像ができるようなものを作ることが多いと思います。

水野:集団でやるテニスコートと、ソロプロジェクトの画餅には、どのような違いがありますか?

Man wearing oversized black headphones and round black glasses, with hand on chin in thought.

神谷:テニスコートでは、ナンセンスコメディをベースにしたコントを3人でやっていたんです。やがて、いろんな俳優さんと知り合って、舞台を見たときに、「すごい。このひとたちと一緒に、テニスコートではできなかったことをやりたい」と思って。それで画餅を始めました。画餅とは「絵に描いた餅」が由来で、“変なことを変にしすぎず、おかしく思える”という感覚を、より多くのひとに伝えるものに変えているイメージがありますね。

水野:でも、その“変なこと”が伝わると、“変ではない”ものになってしまうというか…。

神谷:“変なことが変ではなくなる”ということを、その場で体感するのも変だと思うんですよ。最初はおかしかったはずなのに、ずっと見ているうちに、観客も変な状況が当たり前になっている。そこに取り込まれていく。そうやって、“おかしい自覚がなくなっていく”ことが、実はいちばんおかしい気がして。それは僕の不条理劇で好きな要素ですね。

水野:「それをやる目的は何ですか?」と訊かれたら、どう答えますか?

神谷:これも不思議なもので、「なんでそんなことをやるの?」と思われていることに、意味があるかもしれないと思ってしまったのかもしれません。スタートの段階で。

まだないところに石を置く作業が楽しい

Man wearing headphones and glasses sits at a recording studio microphone, prepared to speak into it in a dimly lit booth.

水野:神谷さんのお話を伺って、「わからない」と言われていることが、実は大きなことなのかもしれないと思えてきました。

神谷:たしかに。うまく言葉にできていれば、わざわざやる必要がないものもあるじゃないですか。もちろんある程度は整理していくことも大事だけれど、学問みたいになった途端に、何か違う気がするというか。「今のこの感じは何だろう。おもしろいけど、どうだろう」みたいなところをずっと突いていきたいのかもしれません。経験則のなかで、まだ“無い”ところに石を置く作業が楽しくなっている自分がいますね。

Close-up of a person wearing black AKG over-ear headphones, side profile visible.

水野:飽きることはありませんか?

神谷:基本的に飽きっぽいからこそ、「これは前に見たことがある感じになりそうだから、違うバランスを見つけてみよう」と、どんどん変わっていってしまうんです。でも一方で、「売れていくひとは、浸透するまである程度は同じところに石を置き続けるんだ」という話も聞いて。売れて多くのひとに知ってもらうことで、やりたいことがやりやすい環境になるのであれば、必要なことなので参考にしようとも思っていますね。

水野:ただ、みんながどんどん“神谷圭介”というひとをわかり始めたとき、怖くはないですか?

Man with black hair and round glasses speaks into a studio microphone during a podcast interview.

神谷:ああー、なるほど。「こういうひとね」って思われることは、たしかに怖いですね。大昔のサブカルチャーって、“サブカルチャー”という名前をつけられて、括られていったことで、なくなっていった感じがするじゃないですか。みんな、わかったような気になりたいから、何かしらの言葉で捉えようとするけれど、そうすると消えてしまうんですかね。

水野:たとえば、ドキュメンタリー番組などで「神谷圭介とは~である」と言われた瞬間に、みんなが「その在り方は神谷さんじゃないよね」と思うというか。

神谷:水野さんはドキュメンタリー、出たことがありますよね。どうでしたか?

水野:すごく怖かったです。あと、ドキュメンタリーって、ひとを映す番組じゃないですか。でも僕は、「ひとを売ることがイヤだ」というタイプで。当時、「僕らを見ているだけだと、見落とす部分がありますよ」みたいなことを言ったんですよ。そうしたら、逆にその言葉が放送でパンチラインになっていました(笑)。

神谷:「作品がいちばん」という気持ち、僕も同じです。芸人さんになった場合、自分自身がひととして売れて、好きになってもらわないといけないじゃないですか。だから、「それは自分には無理だろう」と思ったところもあったんですよ。水野さんがおっしゃるとおり、“作っているものがおもしろい”の方向がいいですね。

Person wearing black over-ear headphones (AKG) smiling in a side profile view.

水野:どうして神谷さんは神谷さんの視点を持つことができるのだと思いますか?

神谷:たとえば、「絵に描いた餅」ということわざを、僕はあまりマイナスに捉えてないんです。本来は、「絵に描いた餅は食べられないからくだらない」という意味合いなんですけど。絵に描くまで、お餅に思いを馳せるってすごくないですか? それだけの気持ちがあるひとって、本物のお餅を見ても、「自分のイメージしていたお餅のほうが絶対にいい」と思ってしまいそうだし。だから、自分で勝手に解釈するというところはありますね。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

神谷:ひとつのことだけを目指す必要はないな、ということです。憧れているジャンルとは、少し違うジャンルのことをやってみると、その影響で既存の何かとは違うものが出てくることもありますから。どんどんいろんなことにトライして、作ってみるのは楽しいと思います。僕が飽きずに続けてこられたのも、そういうことを続けてきたからだという気もしていますね。

Two men in black shirts stand in front of a J-WAVE 81.3FM branded backdrop, posing for a photo with a radio event vibe.

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:軍司拓実
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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