対談Q 村上健志(芸人) 第3回

「明日の朝食をちょっと楽しんでみよう」と思ってもらえたら。

“芸人村”が好き

水野:素人な質問になってしまいますが、どうして村上さんはお笑いに行こうと思ったんですか?

村上:子どもの頃からお笑いが好きだったというのは大前提で。とはいえ、なかなか勇気が出なかったんです。でも大学時代、みんなが就活をするタイミングで、「やっぱり芸能をやりたいな」と。

水野:お笑いの世界に入ってみていかがでした? 

村上:ずいぶん月日が経ったので、新鮮な感覚は忘れてしまったんですけど、僕はすごく好きです。“芸人村”みたいなものが好きなんですよ。それが苦手なひともいると思います。芸人村のひとたちは寛容である一方、やっぱり「おもしろくない」ということに関しては異常に厳しくて、村から出されるんですよ。村に居続けるためには、おもしろくないといけない。ただ、今まで属したいろんなコミュニティーのなかでは断然好きですね。

水野:お話を伺えば伺うほど、句会と近いですね。音楽は結構、個人競技だなと思うことが多くて。たとえば、曲を提出して褒められるのもけなされるのも、そのアーティストだけ、みたいな。

村上:たしかに。たとえば、自分の音楽活動以外で、他のアーティストの方のところに行って演奏する、とかなかなかないですよね。

水野:そうそう。その日だけのノリ、みたいなのはないですね。

村上:とことん向き合って作品を出すイメージというか。お笑いだと、それが何になるわけでもないけど、「この日のこのライブがただただ楽しい」というのが結構いっぱいあるから。俳句やお笑いは、即興性の面が強いかもしれないですね。でも音楽も、お金は取らなくても、仲間で集まって誰かが弾き出して歌う…とかありませんか?

水野:セッションみたいなね。まぁそれもわりと難しくて。技術がないといけないのもあるし。あと、やっぱり演奏に性格って出ると思うんですよ。「このひとと合わない」とか。

村上:ああ、それはありますよね。

水野:演奏が上手ければ上手いひとほど、そういう難しさもあるんだと思います。

村上:なるほど…。1曲を即興で作るのもあまりにも難しいですよね。とくに歌詞をみんなで…とか。

水野:無理ですね。

村上:ひとつの物語だから。

水野:しかも短歌より長いわけですから。だから俳句って絶妙ですよね。短いからこそみんなが加わっていける。一見、広いほうがみんな入れそうだけど、実は狭いほうがそぎ落とされていて入りやすいというか。

村上:しかも同じテーマでこれだけやっているのになくならないですし。季語なんてある程度、流れも決まっているなかでやっているのに。

水野:決まっているからこそ、「じゃあ自分はちょっとズラしてみよう」とか「あえてど真ん中に行こう」とかできるんですよね。それが羨ましくて。歌は結構、分断されているんですよ。「前にこういうひとが歌っていたよね」というのは、そんなに強く残らない。

村上:そうですよね。

水野:いきものがかりは「SAKURA」という曲でデビューして。当時、桜ソングがたくさん出ていたタイミングだったので、「お前らも桜で出るの?」とか言われたんですけど。むしろ「桜」とか「卒業」とか、それぐらい大きなテーマにならないと、みんなで文脈を共有し合うようなことは起こりにくい。

村上:音楽もお笑いも、誰が歌っているかとか、誰が話しているかとか、大前提で。そのひとの表現者としてのパワーも乗っかるから、「そもそもこのひとがやる以上、このひとのオリジナルだよな」ってなりますよね。そういう意味だと、俳句の匿名性の強さは大きな特徴ですよね。

俳句で目指していること

水野:村上さんはどんな俳句を書けるようになりたいと思いますか?

村上:僕は基本的に、なんでもない日常のなかにある、他のひとも見たことあるだろうけど取り上げなかった気づき、みたいなのを書くのがいちばん好きなんですよ。コンビニとか、すぐに行こうと思えば行けるような場所のなかから作るのが好き。

水野:カッコいい。

村上:でも、いつかは大きな自然とかも書いてみたいですし。僕は「あ、そこに焦点を当てるんだ」というのが武器だと思っているんですけど、さらに進化して、「ここにこういう助詞を入れるのか」とか「この言葉で終わらせるのか」とか「そうやって余韻を膨らませられるんだ」とか、行き進めばたくさんあって。そこはもう感性では飛べない部分で、もっと勉強しないと難しいかなと。

水野:カメラのレンズを変えるような感覚ですね。手元を映していたところから、自然を捉えるとか。いろんな方法論や進み方があるんでしょうね。

村上:あと目指していることはあって。僕も自分でやる前は俳句って「よくわからなくてつまらない、教科書に載っているもの」というイメージだったし、多くの方にとってそういう部分も強いと思うんです。だけど、ちょっと軽はずみに見てみたら、「あれ、全部はわからないけれど、この句だけはなんかいいかも」みたいな。

水野:はい、はい。

村上:そして、たとえばその句に「朝食のパン」のことが書いてあったら、「明日パンを食べるとき、今までよりよくパンを見てみようかな」って思ったり。そういうふうになったらいいなぁって。

水野:そのひとの次の日がちょっと変わるというか。

村上:そうそうそう。イヤな意味じゃなく、お笑い芸人とかアーティストを目指す方って、「自分のなかにある思いで誰かを救いたい」とか、「誰かの希望になれば」とか。

水野:エゴがありますよね。

村上:はい。それは僕もあったと思うし、今でもすごくあると思うんですね。「わだかまりを言語化してくれた」とか「悲しみに寄り添ってくれた」とか言われたら、嬉しいじゃないですか。だけど多分、僕はその思いが強すぎて、わざとやろうとするとめちゃくちゃ酔っちゃう。

水野:(笑)。

村上:寄り添いすぎて、向こうが拒否するみたいな(笑)。それが俳句だと、自分の思いというよりは、「自分が見た光景のこの部分がオススメです」という感じなので。

水野:ちょうどいいワンクッションなんですね。

村上:そう、僕の思いじゃないんですよ。それでも、誰かが僕の俳句を見て、「明日の朝食をもうちょっと楽しんでみよう」とか、「明日、風が吹いたら目を瞑ってみよう」とか、そういう影響はすごく嬉しいなと思っています。カッコつけて言えば、そのひとの今までの世界が、行ったことある場所が、ちょっとだけ広がっている感じがするじゃないですか。

水野:それはすごいことですよ。『俳句修行』に収録されている、俵万智さんとの対談のなかでも『サラダ記念日』のお話があったじゃないですか。やっぱりあれも、ひとつの短歌でちょっと生活が変わったというか。誰かと食事をしているときの気持ちの持っていき方が変わっていて。多分、僕も今、テーブルにマスクが転がっていたら違う見方をすると思うんですよ。

テーブルに 君の丸みの マスクかな (村上健志)

村上:もともと僕がしたかったのは、ひとの心をグイッと掴むことだったけど、実はそっちじゃなかったんだなって思いますね。

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:西田香織
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影協力:プルミエメ
https://premiermai.suzu-pr.com

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