対談Q 村上健志(芸人) 第4回

場に合わせることで
今まで自分が思いつかなかった言葉が
出るかもしれない

「あれって、村上かららしいよ」

水野:ここからもどんどんご自身の俳句が変わっていきそうで楽しみですね。

村上:「これ!」っていうのが書けたらいいなと思います。ちょっと専門的な記憶が曖昧なんですけど…、松尾芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」って俳句がありますよね。あれって今聞くと、「だから何だ?」って感じじゃないですか。

水野:(笑)。

村上:でも当時、蛙が飛びこんだとき、音に焦点を当てていた句がそもそもなかったそうなんです。

水野:なるほど。画期的だったんですね。歴史のなかで、そういうエポックメイキングな句を書いてきたひとがいて、そのたびにみんなの視野が変わっていって。それはすごい影響力ですね。

村上:それまでも蛙が飛びこんだら音はしていたはずなのに、その句を知るまで気にしていなかった。だからすごいよなぁと思います。

水野:音楽でいうと、坂本九さんの「上を向いて歩こう」ってあるじゃないですか。あまりにスタンダードになりすぎて深く考えてなかったけれど、いつのまにか「上を向くこと」=「前向き」のような。

村上:ああ、そうか。たしかに。歌として「涙がこぼれないように上を向く」という意味合いがあったけど、もう「上を向け」という言葉が「元気を出せよ」みたいなニュアンスになっていますもんね。なんか、そういうのができたらいいですよね。「あれって、村上かららしいよ」みたいな。

水野:あり得ると思いますよ。50年後に大学の教授が、「村上健志の句によって、この時点で俳句の表現に大きな変化が起きて…」って授業で。

制限があることによって…

村上:ここから見えているものでも、誰もまだ書いたことのない気づきがあるはずなんですよねぇ…。そういう意味でも、今回の「自分の言葉が“場”に影響を受ける瞬間」というテーマと俳句は相性がいいと思っていて。自分が得意じゃないジャンルっぽい句会に参加したときこそ、その場に合わせることで、今まで自分が思いつかなかった言葉が出るかもって。そういう信頼があります。

水野:場に身を委ねる、みたいな。

村上:はい。そもそも五七五という字数にだいぶ委ねていますし。以前、最果タヒさんと穂村弘さんがお話されていて。最果さんは詩人ですけど、短歌も読まれて、すごく上手いんですね。でも「私は定型があることがあまり…」とおっしゃっていたんです。一方、穂村さんは、「定型があることによって、自分の考えでは届かなかったギフト的な言葉が手に入る」とおっしゃっていて。それぞれで、なるほどなぁって。

水野:むしろ制限を補助輪のように使うというか。

村上:本当にそれぞれの好みなんですけどね。まったくの自由で、何もないところから自分で作りたいという方もいるし。それもカッコいいなと思います。でも僕は、制限があるなかでルールに寄せながらも、ちょっと違うことを、というのが好きですね。

水野:それこそ僕、最果タヒさんの詩に曲を書いたことが2回あって。いきものがかりでは、“曲先”といって、自分の書いた曲に対して歌詞をつけることしかやったことがなかったんですよ。だけど、初めての“詞先”が最果さんで。歌詞が先に書いてあると、そこで制限ができていくじゃないですか。そしてその制限によって、今までの自分では浮かばないメロディーが出てきたり。そこは今のお話と近いかもしれませんね。

◆HIROBA『OTOGIBANASHI』(講談社)― 
5人の小説家、5人の音楽家、5人の歌い手、音楽と物語の共創作品 ―
「透明稼業」(作詞:最果タヒ/唄:崎山蒼志/編曲:長谷川白紙/作曲:水野良樹)

もしも僕が歌詞を書くことになったとしたら

水野:村上さん、歌詞は書かないんですか?

村上:それこそ水野さんがさっきおっしゃったように、「歌詞は書くけど俳句は…」というのと同じで。失礼な話ですけど、世の中に「自分は文章を書かせたらイケるかも」って思っているひとは結構いるじゃないですか。僕もそのタイプで。「俺に歌詞を書かせてくれ!」って思っていたんです。だけど、いざ書いてみようと思ったら、「これ…みんなどういう文脈で作っているの?」って。何行? どういう感じで言葉を切るの?って。

水野:あぁー、構造として作り方がわからないと。

村上:そうなんですよ。作ってはみたいですけどね。

水野:作ってくださいよ! 曲をつけますから。

村上:えー!

水野:僕は別の分野のひとに歌詞を書かせようとするというクセがあって(笑)。もし興味があったらぜひ。

村上:めちゃくちゃ興味はあります。本気でやってみたいです。ただし、僕が“芸人村”を好きなのって「つまらない」って言い合えるからなんですよ。

水野:はい、はい。

村上:逆に言うと、芸人以外のひとに「つまらない」と言うのが超怖い。だから、もしも僕が歌詞を書くことになって、水野さんに相談したら、「いや、これはマジでダメです」とか言ってほしいんですよ。

水野:なるほど。

村上:いいところを探して、「さすがですね、俳句をやっているだけあって…」とか言われるのがいちばん気まずいので(笑)。ドラマとか出たときも、「コントやっているので、芸人さんって演技が上手いですね」とか言われるんですけど。自分で見てみたらめちゃくちゃ下手だったんですよ。みんな気まずそうにしているし。

水野:言ってくれよと(笑)。

村上:そう。それなら下手さを笑ってくれた方が、次また頑張れる。なので、もしも作った歌詞を見ていただける機会があったら、本当に素直な意見をください。

水野:ぜひぜひぜひ。『OTOGIBANASHI』をやったときも、ひとによって本当にやり方が違ったので。

村上:へぇ! この本に歌詞の作り方のコツみたいなの書いてないんですか?

水野:書いてないです(笑)。

村上:歌詞もそうですけど、曲に関しては1ミリもわからないです。作れている理由が。

水野:いや、僕もコントとか大喜利とか作れている理由が1ミリもわからないです。どうしてひとの笑いのポイントがわかるのか。

村上:俳句は一応、最初の一歩があるじゃないですか。でも曲は何もなさすぎて宇宙。すごいなと思いますよ。

水野:ただ、番組の企画でバカリズムさんに歌詞を書いてもらう機会があって。そのときは僕が曲を先に送って、あとからバカリズムさんが歌詞を書いてくださったんですけど、一晩で返ってきたんです。

村上:えぇ! なんかイヤだなぁ(笑)。

水野:でもそれは芸人さんとしてのネタ的なタイプの歌だったから、笑い要素も入っていて。バカリズムさんに、「なんでそんな早く書けるんですか?」って訊いたら、「いや、大喜利を目の前でやるのに、一晩も与えてもらったら書ける」って。

村上:カッコいいなぁ。ズルいなぁ。それは無理だなぁ。

水野:でも村上さんには、笑いとはまたちがった方向で、俳句と同じように書いてほしい。

村上:青春っぽい歌か、恋愛っぽい歌かわからないですけど…。でも最近、子どもが生まれまして。

水野:ニュース見ました! おめでとうございます!

村上:あやすときにオリジナルの歌で<ぴーたんくん ぴーたんくん あひるのたまごのぴーたんくん♪>っていう作詞はしています(笑)。

水野:最高ですね。そういうの大事です。

村上:こどものうた、いいですよね。

水野:意外と難しいし深いですよ。こどもにわからないといけないから。

村上:たしかに。でも本当に作詞、ちょっと挑戦してみたいですね。

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:西田香織
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:プルミエメ
https://premiermai.suzu-pr.com

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