いいハプニングが起きてほしいと思いながら撮っている
全員に見せ場がありたい

水野:ずっと作り続けるってどうですか? 大丈夫ですか?
上田:それは水野さんも一緒じゃないですか(笑)。でも作ってないほうが不安かもしれません。何も抱えてない時間ってあまり持ったことがなくて。
水野:たしかに。止まると精神的に落ちるんですよね。ずっと回っていないと。
上田:そうですよね。サメみたいに。
水野:これからどんな作品を作るかのアイデアなどは、すでにたくさんあるのでしょうか。
上田:あります。もう動いているものもいくつか。言える範囲で言うと、SF。あと今まで意外と中高年が主人公みたいな作品が多かったんですけど、新たに若いひとたちをメインとしたものなどを進めています。
水野:結構、いろんなジャンルで作られます?
上田:自分の好きなジャンルがいくつかあるんですよ。たとえば『アングリースクワッド』は、ケイパーもの。チーム強奪もの。『オーシャンズ11』とか。あと『ミッション:インポッシブル』のようなスパイ映画とか。大好きなので、そういうものを詰め込んだ映画を作りたくて。
水野:はい。
上田:一方で、リアルシミュレーションSFも好き。『日本沈没』とか『シン・ゴジラ』みたいな、「もしこの現代にこういうことが起こったら」とリアルにシミュレーションして作られるような。そういうものを自分のオリジナリティを持ちながら作りたいなと。
水野:いずれにしてもすごくエンタメですね。ワクワクドキドキ、あと驚きが必ずある。まさに『カメラを止めるな!』はそこに特化されたかのような作品で。
上田:もう資質としてそうなんだと思います。自分の性格上、映画作りに限らず、たとえば5人でご飯に行って、4人は楽しんでいて1人だけあまり会話に入ってなかったら、すごく気になってしまうんです。
水野:優しいひと。
上田:自分が参加したなら、その場の全員のエンタメにできてないと、ちょっとなーって。
水野:それが演出や脚本にも表れている気がします。みんながいい感じになっている。
上田:そうですね。僕の作品は結構、登場人物が多いんですけど、全員に見せ場がありたい。かつ必然性を伴っている見せ場でありたい。これも高校の文化祭から繋がっていることかもしれません。クラスメイトが、「俺にもちょっと見せ場くれよ」って言ってきたら、「オッケー!」みたいな。そこは一貫しているところがあります。
現場では「壊れてほしい」

水野:急に大きな質問になりますが、「映画監督をやっていてよかった」と思うのはどういう瞬間ですか?
上田:映画監督やっていてよかったなって思う瞬間かぁ…。
水野:あまり意識してないですか?
上田:してないですね。
水野:どの瞬間がいちばん楽しいのでしょう。
上田:それもよく訊かれるんですよ。脚本も監督も編集もすべてやっているので、「いつがいちばん楽しいですか?」って。公開して、いろんな感想をいただけたり、ヒットしたりそれも嬉しい。でも自分にとってのいちばんのご褒美はやっぱり作っているときで。どのパートでも、「これが入ることでめっちゃおもしろくなった」という瞬間があって。だから続けられているんだと思います。水野さんはどうですか?
水野:そうですね。作るという行為自体が多少、麻薬的なところはありますから。

上田:さらに、現場が最も楽しいですね。たとえば『アングリースクワッド』も、脚本を練り込んで練り込んで書いて、リハーサルして、固めて現場に入った。だけど、現場では「壊れてほしい」と思いながら撮っているんです。現場で生まれたアイデアによっておもしろくなったときが、いちばん上がります。
水野:いろいろ考えに考えたもののなかに、さらに現場でしかわからなかった想定外のものが引き込まれるというか。
上田:あと、誤解なきように言いたいんですけど…。トラブルが起きたとき、それをみんなで乗り越えようと立ち上がる瞬間がいいんですよ。僕は居酒屋でバイトもしていたんですけど、閉店間際に30人ぐらいの団体客が来たときとか、「…オッケー!もうやるっきゃない!行くよ行くよ!」みたいな。
水野:はい(笑)。
上田:凹むのを通り越して、みんなのモチベーションが一気に上がることってあるじゃないですか。現場でもそういう瞬間って多いんですよ。「おい、どうすんだよ。雨降ってきたぞ。…もうやるっきゃない!」って。なんかそういうとき、すごく幸せなんですよね。
水野:ライブも、準備したもので対応できないことが起こるとおもしろくなります。
上田:そうですよね。誰のセリフか忘れたんですけど、ミュージシャンの方の、「ライブ中にギターが2弦、切れたらどうするかって、あとの4弦で弾くだけさ」みたいな言葉があって。僕はそれがすごく好きなんです。その4弦で弾いたほうが、むしろライブ感が出るというか。
水野:某有名なジャズのレジェンド的プレーヤーが言ったという、また聞きの話なんですけど。「君が弾いたミストーンと呼ばれるものは、ミスではない。ハプニングだ。ハプニングは、みんなで楽しめば新しい曲になるんだ」って。それもあると思います。路上ライブもまさに予想し得ないことが起こる。
上田:うんうんうん。
水野:たとえば、酔っ払いのひとが来て、それをトラブルだとお客さんに思わせると、お客さんは引いてしまう。だから、その酔っ払いのひととどう楽しむかが大事で。「酔っ払いが来てこんな対応をしました、おもしろいでしょ」という演出のひとつとして伝えないといけない。そのときにこそ生まれるものはあるかもしれない。
上田:すごくわかります。現場では、いいハプニングが起きてほしいと思いながら撮っていますね。
週ごとに感想の層が変わる

水野:上田監督はTikTokで短い映像も出されていたりしますよね。より多くの方に見られることは、どういうふうに捉えていらっしゃいますか? ポジティブなのか、身構える部分があるのか。
上田:完全に前者ですね。
水野:バズるって、怖くないですか?
上田:え、嬉しいです。そうか、バズることが怖い場合もあるのか。自分が想定していた感じではない反響、ちょっと炎上が入っているような怖さ。でも自分は、そういう意見はそういう意見で学びになります。
水野:みなさんからの声がものづくりに影響するところはありますか?
上田:ありますね。「縦型ショートを撮って、それが映画にフィードバックされることはありますか?」という質問を受けたりするんです。縦型ショートって、映画やドラマに比べたらテンポが速いじゃないですか。
水野:そうですよね。
上田:要は、「そのテンポが映画にも影響しているか」という質問。たしかにそれもありますけれど、いちばん影響が大きかったのはやっぱり感想だったんですよね。
水野:感想。
上田:今まで自分がリーチしてなかった層からの感想がかなり来たんですよ。とくにTikTokは、若いひとたち。あと、縦型ショートはわりとビジネス層のひとも観るから。今まで自分がもらっていた多くの感想は、映画ファンの声なんですよね。「そうじゃないところの声はこうなんだ。こういうものを作るとこう思うんだ」と。
水野:なるほど。
上田:一般的な感覚を広く得られたことが、映画作りにいちばん活きているのかなと思います。たとえば、『会話サポートAI』という、会話をAIがサポートしてくれるお話の縦型短編映画を作ったんですよ。自分としては、「AIがここまでやるって怖くない?」という警鐘も含めた作り方をした。でも、「マジで欲しい」という声がめちゃくちゃ多かったんですよ。
水野:おー。
【短編映画(縦型 )】AIが会話をサポート「キミは誰?」本編
上田:「本当に口下手だから、こういうのがマジで欲しい」って。そうかぁ、そう思うひともいるよなぁって。ちょっと反省したというか。
水野:それはおもしろいですね。どうしても上田監督だったら映画ファン、僕だったら音楽ファン、いろんな文脈もある程度は知っている声が集まりがちだけれど。より広く拡散されることによって、普段はエンタメにあまり興味もないひとも、素直な言葉を出してくれる。
上田:だから視野が広がりましたね。今の『アングリースクワッド』も週ごとに感想の層が変わるんですよ。初週はもうXとか、ポスタービジュアルつきでぎっしり感想を書くみたいな。

水野:楽しみにしていた映画ファンの方ですね。
上田:でも3週、4週と経って広がっていくと、半券とフードコートのオムライスの写真が上がっていて。
水野:「観てきた!おもしろかった!」って。それだけの。
上田:そうそう、日記混じりの。それを見て、「あ、広がっているな」って感じます。
水野:それはまさにヒットの実感ですね。さて、最後に上田監督、この番組では毎回ゲストの方に、これからクリエイターを目指すひとたちへのメッセージをお願いしております。ひと言、お願いできますか。
上田:僕から言えることは、「いっぱい作って」ということですね。僕を『カメラを止めるな!』で知った方が多いと思うんですけど、そこまで山のように作っているんですよ。その山があっての『カメラを止めるな!』なので。よく「もう少し勉強してから」とか、「もっと環境が整ってから」とか、作ってないひとに会うけれど、作ることがいちばんの経験なので。
水野:説得力があります。上田監督は本当に多作だから。作らないと、ひとつ作ることのハードルがすごく高くなってしまったりする。
上田:そうなんですよ。「作ること」と「誰かに見せる」というハードル。これをすぐに超えないと、作る前に止まってしまうので。
水野:さぁ今回は、2週間にわたって映画監督の上田慎一郎さんをゲストにお迎えしてお届けしてまいりました。ありがとうございました。
上田:ありがとうございました。また呼んでください。
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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
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