『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』三井淳平

曖昧な部分を重ね合わせて、「これだ」と自分のなかに置く。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、レゴ認定プロビルダーの三井淳平さんです。

三井淳平(みついじゅんぺい)
1987年生まれ。日本人初のレゴ認定プロビルダー。幼少期からレゴブロックに触れ、高校時代にはテレビ番組『TVチャンピオン』にも出演。東京大学在学中、「東大レゴ部」を創部し、作品が話題に。2011年、大学院時代にレゴ認定プロビルダーに最年少で認定される。2015年に三井ブリックスタジオを創業。2023年にはボストン美術館で現代アートとして作品が展示される。

最初に浮かぶのは、断面図

水野:いつ頃から、ものづくりがお好きだったのですか?

三井:小さい頃から好きでした。折り紙や積み木からスタートして、段ボールで大きなものを作ったり。レゴもいろいろ遊んでいたもののひとつで、1歳半くらいから触り始めて、そこからずっと遊んでいます。3歳年上の兄がいたので、最初は兄のマネをしたり。徐々に乗りものや秘密基地などを作るようになりました。あと、レゴにはミニフィグという人形がいるのですが、それを乗せて遊べるようなものをよく作っていましたね。

水野:レゴの何がいちばん楽しかったですか?

三井:自分が「こうしてみたい」と思ったことを、すぐ試すことができるところですね。ちょっと失敗しても、「次はここを変えたらよくなるかも」と直せる。そこは子ども心に楽しかった覚えがあります。

水野:小さい頃から、空間を把握する能力が長けていたのですか?

三井:得意なほうでした。算数の立体図形の問題も得意で。とはいえ、算数自体の点数とイコールではなくて。立体の問題を考えるとき、「そういえばレゴで作ってみたとき、ああいう感じだったな」と繋がるような感じでしたね。

水野:レゴを組み立てているとき、頭のなかでは何が浮かんでいるのでしょうか。

三井:最初に浮かぶのは、断面図ですね。たとえば、動物を作るとしたら、「この動物をこの部分で切ってみたら、どんな形が出てくるだろうか」ということを、いろんな方向からやってみるというか。

水野:CTの輪切りみたいなものですか?

三井:そうですね。大雑把にいうと、正面・横・上、みたいな三方向からカットしていくのが基本になります。頭のなかで、どんな方向からのカットもイメージできるようになると、立体を作りやすくなるんです。よく算数の問題で、「この立体系をここで切ったら、どんな形が出てくるでしょう?」みたいな問いがあるじゃないですか。あれもカットのイメージができたから、得意だったのかもしれません。

水野:レゴでプロの道へ進むことは、いつ頃から意識されていたのですか?

三井:最初はまったく考えていませんでした。私は普通に工学部の出身で、エンジニアとして3年間、会社員もやっていたんです。当時、レゴのプロは、レゴ社に入らないと役職がなくて。でも2005年くらいから、レゴ社に入らなくてもビジネスをしていいというポジションが生まれたんですよね。そのタイミングで、「これだったら私のやりたいことに近いかもしれない」と思って、プロの道を目指すことにしました。

水野:東京大学在学中には、東大初のレゴ部を立ち上げられたそうですが、当時は「とにかく楽しいからやる」という感覚だったのでしょうか。

三井:そうです。もう趣味として、フル活動していこうと思っていました。ただ、運がいいことに、当時から仕事としての依頼も来るようになっていたんです。すると、材料費は出してもらえる。学生なので付加価値はつかないですし、儲かるような話ではないけれど、少なくともいちばんの課題であるパーツを買う予算はあったわけです。それでいろんなものを作ることにチャレンジすることができましたね。

水野:だんだんご自身の作品が認められて、話題になっていきますよね。そのなかで、何を思っていましたか?

三井:自分がやりたいことが、よりできるようになっていく感覚がありました。大きな仕事が入ってくると、さらに知名度も上がって、結果またおもしろい仕事が入ってくる。そのサイクルが楽しかったです。

水野:作品づくりのいちばんのモチベーションは何でしたか?

三井:自分の内なるものを作りたいというより、「見たひとがおもしろいと思ってくれるものを作りたい」という気持ちのほうがモチベーションになっていたように思います。「これは今まで誰も見たことないだろうな」と考えて作ることや、それに対する反応をいただけることが、自分にとってのやりがいに繋がっていました。

水野:依頼を受けたとき、どこからスタートするのですか?

三井:まずは、ものをしっかり観察するところから始まります。たとえば、ビルを作るなら、現地に行っていろんな角度からビルの写真を撮る。近くからも、遠くからも見る。3Dスキャンするくらいの感覚ですね。縮尺も、正しくコピーして、正しく再現することが、作品を魅力的に見せるひとつのコツだなと思っていますね。

水野:動物のような動きをイメージさせる対象の場合はいかがですか?

三井:必ずスケッチを描くようにしています。そのとき、筆に迷いがあるとしたら、まだ頭のなかで整理できていないということなんです。いろんな角度からスケッチを描いてみて、「ああ、これだな」と納得できたら、その対象を落とし込むことができている。そういう確認作業をしますね。

形をとらえきれないようなものを、“もの”として表現する

水野:なぜ、最初から美大ではなく、工学部に行かれたのでしょうか。

三井:ものの仕組みや中身や性質が、表に現れることに興味があったんです。「内側がこうなっているから、外側はこうなっているはずだ」というイメージをしたいタイプ。そこが工学部のほうにより繋がっていました。また、私は“機能美”という言葉が好きなのですが、それは「機能性をよくしていけば、自然と外側も美しくなっていく」みたいな意味合いで。そこに工学的な美しさを感じますね。

水野:三井さんのレゴ作品のひとつ、葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」はどのように作られたのですか?

三井:波の研究から始まりましたね。いろんなタイプの波があるから、まずは波の論文をいくつか読んでみて。「大きな波はこういう条件のときに生まれるんだな」とか、「波がこうぶつかり合った瞬間に、あの形ができたんだな」といったことがわかってくるんです。すると、「この波の反対側はこうなっているはずだ」みたいなことも見えてくる。そうやって頭のなかで整理できてから、スケッチを描いて、作るという流れで作りました。

水野:制作にはどれくらいの時間をかけられたのですか?

三井:400時間くらいかけて作りました。基本的に、メイキングをすべて定点カメラのタイムラプスで残していて。そのデータ量を見て、何か月かかったか逆算すると、大体の制作時間はわかります。

水野:それはなぜ記録するのですか?

三井:単純に、作っている過程を見て「おもしろい」と言ってくださる方が多いことがひとつ。あと、私はレゴブロックの作品づくりのおもしろさの本質は、“ひとがそれを積み上げて、形にしていく行為そのもの”にあるんじゃないかと思っているんです。だから、完成形もいいのですが、過程も含めて作品の一部だと考えて、動画を撮っています。

水野:あれだけの長時間、ひとりで積み上げ続けるって、凄まじい物語ですよね。

三井:多分、ブロックを積むこと自体は、みなさんも経験したことがあるじゃないですか。だからこそ、「あれをかけ算したらすごいことになるな」と想像させるおもしろさがあるように思います。

水野:作っている途中でイヤになることはありませんか?

三井:いや、ものすごく楽しいんです。ブロックに触らない日もあるのですが、作るときには一日十何時間とか一気に集中して作ります。波を作っているときも、20時間くらい連続で作業していましたね。

水野:この波、飛沫まで細かく作られているじゃないですか。そこのイメージも最初からご自身のなかに見えているのですか?

三井:作りながらですね。すぐ作り変えて、試し直せるのがレゴのいいところなので。そこは本当にストレスがありません。「あんなに時間をかけたのに、またやり直すのか」ではなく、「パーツを変えたらもっとよくなる」と、どんどん試していける。そんな感覚です。常に遊び心を持って作っています。

水野:今、どんなテーマがいちばんおもしろいですか?

三井:水とか炎のように、形をとらえきれないようなものを、“もの”として表現することを、今の課題として取り組んでいます。波も、一瞬を切り取っていると思われがちなんですけれど、そうではなくて。0.1秒前には形が違っている。その移ろいのニュアンスも入れられると、一気に動きが表現できるかなと思うんです。私は北斎の絵を見たとき、「波が起きた瞬間を繋ぎ合わせて、いちばんカッコいい瞬間を作り出したんだろうな」と感じて、それをレゴで作ったので。そういうものを表現していきたいですね。

水野:そこに、音や温度のイメージもありますか?

三井:最近、少しずつそれを感じられるようになってきています。私の作るレゴブロック作品はデコボコしているので、0と1で作られているようなデジタルなイメージがあると思います。でも、その間の領域もあって、それを重ね合わせていく感覚になってきているんです。「ここは絶対にこうあるべき」という部分と、少し曖昧な部分が両方あって、それをだんだん濃くしていって「ここがいい」と決める。それを意識するようになりましたね。

水野:その“あわい”の部分をレゴで表現できるかもしれないと、どのように気づかれたのですか?

三井:誰も見たことがない表現をしたいと考えたとき、私が工学部で学んでいた“量子力学”の世界に興味を惹かれました。私たちの常識だと、“もの”は固くて絶対そこにあると認識している。でも量子力学で、原子レベルまで小さい世界に入り込むと、“確率的にこのへんにこれぐらいあるんじゃないか”ということだけで成り立っている世界があって。その小さな世界に飛び込んだら、まったく違う考え方があるなと。それを自分が住んでいる世界のスケールに拡大して、感じることができたらおもしろいんじゃないかなと思ったんですよね。

水野:北斎の絵に、いくつもの瞬間の層が混ぜられていると、三井さんはなぜわかったのですか?

三井:最初、アートのバックグラウンドがなかったことがよかったのかもしれません。フラットに工学的な興味から、「波がどうあるべきか」とか、「理論だけで考えるとこうなるはずなのに、なぜ北斎はこういう描き方をしたんだろう」とか、疑問を持つきっかけになったので。工学的な知識や経験は、表現のためのツールをひとつ多く持っているような感覚だと思いますね。

“私という人間がレゴブロックを積み続けている行為自体”が作品に

水野:こうしてお話を伺っていると、三井さんはすべてを言語化できる気がします。

三井:もともと私は言語化が得意ではなかったんです。でも、やっぱり言語にすることで、ひとに表現の意図やコンセプトが伝わることが多いので。ものを作るだけだと、その裏側はなかなか伝わらない。だから最近になってようやく言葉にすることに挑戦しているところはあります。

水野:言葉にして、ご自身にフィードバックされることもありますか?

三井:ありますね。それこそ、先ほどお話したことに似ています。「なんかこんな感じかな」という曖昧な部分をいくつか重ね合わせて、「これだ」と自分のなかに置く。そうすることでようやくひとつのニュアンスが表現できるような気がしています。レゴ作品づくりと言語化は実は似ているのかもしれません。

水野:0から1を作る瞬間はあるのでしょうか。

三井:そこに関しては、パーツ自体はあえて、オリジナルを使うのがいいかなと思っています。レゴブロック作品のおもしろさのひとつって、制約があるなかでどう組み合わせるか工夫するところにあるので。言語もまた、既存の言葉を組み合わせて、新しい言葉を作り出したりするじゃないですか。そういう制約があるなかでこそのクリエイティブである気がしていますね。

水野:失礼な問いになってしまうかもしれませんが、ロジカルに構想していくものはAIがもっとも得意とするものだと思います。AIが作る作品と、三井さんが作る作品の差は、どういうところにあると思いますか?

三井:10年先と20年先で答えは変わってくると思います。最初の10年は、レゴブロック的な部分とそうではないように見える部分の組み合わせの工夫を生み出せるのは、まだ人間だけ。でも20年後はそれすらもAIができるようになってくる。すると、“私という人間がレゴブロックを積み続けている行為”が作品になってくるんじゃないですかね。美しく正しく作るのはAIのほうができる。それを人間がひたすら積み上げ続けていること自体がおもしろい、みたいな。そちらのほうが本質になっていく気がしています。

水野:おもしろいですね。なぜ人間はそこに価値を見出すんですかね。

三井:やっぱり「実は自分にもそういうポテンシャルがある」というところに、希望を見出せるとか。そういう面もあるのかもしれません。

水野:先ほど、「ブロックを積むこと自体は、みなさんも経験したことがある」とおっしゃっていましたが、だからこそ、あの作品にたどり着けるすごさが誰しもわかって、感動してしまう。すべて繋がっていますね。三井さん、これからの目標はありますか?

三井:レゴブロックに興味ないひと、自分から遠いところにあるひとにも、新しい考え方を投げてみたいです。それが響けば、また戻ってきた球を見て、私自身も何かを感じ取りたい。そういうキャッチボールをしたい思いがあります。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

三井:私もいろいろ作っていますが、それを見てもらって、リアクションを受けて、そこから得られるものがあると思います。だから、作ることと発信することをセットでやっていってほしいですね。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:北川聖人
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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