『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』細田守

「アニメーションだけど嘘ではない」と感じられる瞬間がある。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、アニメーション映画監督の細田守さんです。

Close-up of a man wearing glasses speaking into a microphone in a recording studio setting, with headphones nearby.
細田守(ほそだまもる)
1967年生まれ、富山県出身。アニメーション映画監督。1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社し、アニメーターを経て1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督としてデビュー。その後、フリーとなり、『時をかける少女』、『サマーウォーズ』を監督。2011年に自らのアニメ映画制作会社「スタジオ地図」を設立した。『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』で監督・脚本・原作を手がけた。『未来のミライ』は第91回米国アカデミー賞長編アニメーション作品賞にノミネート。『竜とそばかすの姫』は自身の監督作品歴代1位の興行収入を記録。第74回カンヌ国際映画祭カンヌ・プルミエール部門に選出された。

早々にひとりでは非力だと気づいた

Three people in a dim radio studio speak into microphones, wearing headphones, seated around a table with notes and drinks; clock with red lights visible above them.

水野:細田さんはアニメというものにいつ頃から興味を持たれたのでしょうか。

細田:幼稚園の頃から絵を描くことが好きで、アニメーションの“絵が動く”という不思議さや楽しさに惹かれていました。物語への興味もその頃からあって、僕にとって絵と物語は必然的に一緒になっているものなんです。たとえば、一枚の絵を描くときも、その人物がどんな気持ちで、どんな成り行きでそこに立っているのか、そういうところまで大事で。そのすべてを描きたい、みたいなところがありますね。

水野:自分が作る側になることは、どのあたりから意識されましたか?

細田:子どもの頃は、引っ込み思案だったので、画家のようにひとりで絵を描いて、渡すことが仕事になるような職業にしか就けないだろうと思っていました。他者とコミュニケーションを取るのも苦手でしたし。でも、アニメーションはひとりだと作れないじゃないですか。だから「作りたいものを作るには仲間を見つけて一緒にやっていかなければ」と思うようになって。やっていくうちに、だんだん自分自身が変化していった気がします。

Person wearing over-ear headphones speaks into a microphone while writing on papers in a recording studio.

水野:なぜ、アニメづくりというたくさんのひとが共同作業で関わるジャンルに惹かれていったのでしょう。

細田:ひとりの力には限界があるけれど、誰かと力を合わせればもっと大きなことができる。そこに憧れがあったんですよね。たとえば、『サイボーグ009』も、9人それぞれの力が合わさることで、相乗効果で何倍もの力になる。そんなふうに、ひとりひとりが協力して、大きな力を発揮して、世の中の問題を解決しているんじゃないか、と子どもの頃に妄想していて。それがアニメーション制作につながっている気がします。

水野:誰かと力を合わせることで、相乗効果が生まれることに気づいた。きっかけはあるのでしょうか。

細田:早々にひとりでは非力だと気づいたというか。僕は引っ込み思案でしたから、ひとりでまともに生活できるとは思っていませんでした。でも、そういう欠点をわかっているからこそ、「誰かと一緒にやりたい」という動機に結びついたのだと思います。絵や物語、音楽など、それぞれの能力があるひとが集まることで、ひとりでは作れないおもしろいものが生まれる。だからこそ、自分のような人間にも居場所があると感じられたんです。

水野:誰かと一緒に作るときのコミュニケーションはどのように身につけましたか?

Man with glasses speaks into a microphone in a recording studio, smiling slightly.

細田:現場で先輩たちから、一緒に働く相手を敬う態度や言葉遣いを学んだところは大きいですね。自分自身が作っていくときにも、一緒にやってくださる方への敬意と感謝が大前提にあります。素晴らしいアニメーターや美術の方にやってもらうなら、その方の力がいちばん活きるようにしたい。そういうことをいつも考えながら作っていますね。

水野:今開催されている「細田守の原点/展」では膨大な数の原画が展示されています。原画にはアニメーターの皆さんに作業を引き渡すときのメッセージも書いてあったりして。それに僕は感動して。「この汗の滴り方は違うんじゃないか」といったワンカットごとの細かいイメージやメッセージが書き込まれていて。2時間近い作品のすべてにわたってご自身のイメージを仲間に伝えるのは、途方もないことだと感じます。

細田:たとえば、『おおかみこどもの雨と雪』で、雪原を駆ける子どもたちをお母さんの花が追いかける重要なシーンは、日本でも最高のアニメーターと言われる井上俊之さんに作画をお願いしました。だからこそ、その力を最大限に活かせるよう、絵コンテの段階からより感動的で生命感に溢れるシーンを目指したんです。すると、井上さんの原画を見た他のスタッフも、「うわ、これはただごとではない」と刺激を受けて、自然と力を尽くすようになって。そういう相乗効果が重なって生まれたシーンは、きっと観客のみなさんにも届くと思っています。

“何かのきっかけ”をみんな待っている

Man with dark hair in a black shirt speaks into a microphone, gesturing with his hands.

水野:なぜ、そんなにひらいていられるのでしょう。ご自身の創作的なエゴが漏れ出す瞬間はありませんか?

細田:もちろんあります。『おおかみこどもの雨と雪』も、僕の母が亡くなったことをきっかけに作ったんです。自分は母の幸せにどれだけ貢献できたのか考えてみると、まったくできてないと思ってしまった。それでも、しっかり育ててもらった。そういうことを映画にしようと。そういう意味ではすごくパーソナルなものですよね。でも、一方で、誰もが親から生まれ、誰かに育てられてきたという点ではみんな共通しているじゃないですか。

水野:はい、はい。

細田:そういう普遍的なところまで意味を持ち上げていくと、みんなが共有できるものになるのだと思います。それが、最初からマーケティング的に“母と子の感動物語”を狙って作っても、まったく届かない気がするんです。むしろ、自分しか知らないような個人的な体験や感情を盛り込んだほうが、「そうかもしれない」と多くの方に感じてもらえる。真実味を帯びる。これが創作の不思議なところですよね。

水野:個人的な体験や感情を普遍化したときに、どの瞬間がいちばん“できた”と思いますか? 

細田:たくさんのスタッフと一緒に制作して、それぞれのリアルみたいなものも乗せていってもらうことで、作品の輪郭がよりはっきりしてくるんです。すると、自分の想像を超えるものが生まれて、「アニメーションだけど嘘ではない」と感じられる瞬間がある。本物以上の本物感というか。魂がそのまま立ち上がってくる瞬間があって。映画全体のなかでそんな場面に2、3か所でもたどり着けたら、「すごくいいものになったな」と思えますね。

水野:物語のアイデアは、どういったところから広げることが多いですか?

Side-profile of a man with dark hair and glasses wearing a black jacket; a hand rests on his chest in the foreground.

細田:日常のちょっとしたところから妄想を膨らませますね。水野さんは、歌詞の最初の種って、どういうところからやってくるんですか?

水野:僕は、喫茶店で隣のカップルの会話などをすごく聞いています。こんなことを言ってはいけませんが、それが別れ話だったりすると最高です(笑)。というのも、別れ話をしているときって、ふたりの気持ちに差があるじゃないですか。そういう会話って、いろんな物語を含んでいる気がして。それを種に曲を書くことがありますね。

細田:いいですね。僕もよくファミレスなどに行くので、そこで得たものが種になることもあります。ただ、ファミレスで別れ話は聞こえてこないな(笑)。どちらかというと、草野球帰りのおじさんたちや家族連れの方々がワイワイしている。そういう風景を見ながら、明るい気持ちの波を受けます。こちらも楽しい気持ちで絵コンテやシナリオを作ることが多いですね。

水野:考えてみると『サマーウォーズ』も『時をかける少女』も、キャラクターたちが、家族や学校などコミュニティのなかにいますよね。そして、「こういうおばちゃんいたな」とか思える。そういう集団を描くことができるのは、普段の観察からでしょうか。

Three people wearing headsets sit around microphones in a recording studio, chatting through glass walls with a clock visible above.

細田:だんだんひとに興味が出てきたんですよね。美術大学やアニメーションの現場に行って、引っ込み思案な自分が変化していきました。近くにいるひとの魅力を引き出そうと思うようになったり。昔はワイワイやっているひとたちって苦手だったんですけど、そういうひとたちをちゃんと描写することのおもしろさに気づいたり。改めて、“職業”というものは偉大ですね。ひとを変えることができるわけですから。

水野:また『時をかける少女』にはタイムリープが用意されています。『おおかみこどもの雨と雪』には現実には起こり得ない要素も含まれています。

細田:それが映画のおもしろさというか。自分は学生のとき、「つまらない日常が続くな。何かひとつ違う要素が入ってくれば、急におもしろくなるのに」という欲求不満が溜まっていた気がします。日常がガラッと変わって、より魅力的に見えてくる“何かのきっかけ”を、きっとみんな探しているし、待っている。何より、自分自身がいちばんそういうものを欲しいと思っているから、物語のなかにワンアクションを取り入れるのだと思いますね。

作らずにはいられないから、作っている

Man with glasses smiles into a desk microphone during a podcast recording; another person is blurred in the foreground at the table with water bottles nearby.

水野:映画を観た方からの言葉は、どのように受け止めていらっしゃいますか?

細田:いったん作ってしまうと、もう観客のみなさまにお渡しする感覚がありますね。受け手のリアクションによって、作品を変えていいのであれば、車みたいにマイナーチェンジしたいけれど。多分、それは許されない。どこかに何か後悔があっても、直せない。だから、完成した作品に対して自分が思ったことも、観てくださった方が寄せてくれた言葉や気持ちも、次の作品に持っていきます。その繰り返しですね。

水野:作品が完成したあとは、作ったご本人もチームのみなさんも、もうコントロールできないものになるのですね。

細田:多分、歌も同じですよね。作品から何を読み取るかは、作り手とは違う解釈でもいいし、時代を経たからこその解釈でもいい。価値観が変わり続けるなかで、作品を再解釈し、新たな価値を見出していくのは、観客の鑑賞力なのだと思います。そうして作品はさらに膨らみ、観客自身のものになっていく。だからこそ、「作り手とは一体何だろう」ということも考えさせられます。

水野:あらためて、東京・京橋のCREATIVE MUSEUM TOKYOで現在開催中の「時をかける少女」20周年記念『細田守の原点/展』について。圧倒的な展示量ですが、ご自身の原点やこれまで関わってきた作品を振り返ってみて、どんなことを感じましたか?

細田:今まであまり振り返らずにやってきたんです。完成したそばから忘れるようにしていました。そうしないと新規性は生まれないと思っていたので。今回は展覧会を機に、初めて振り返った。20年前、『時をかける少女』を作っていた自分は、先がわからない中、全力を注いでいた。その気持ちが今、伝わってきている。「こんなに頑張っていたんだ」と、自分で実感するのは不思議な感覚でした。

Two people wearing headphones speak into microphones at a recording studio, with papers and water bottles on the table in front of them (foreground person focused).

水野:振り返って気づいたものは、この先のご自身の作品にも関わってきますか?

細田:そうだと思います。振り返ることによって、過去に執着してしまって、新しいものが生まれないのではないかと思っていたのですが、逆にそこからインスピレーションを得たんです。20年前の自分とは違う視点で、当時の自分を見て、世の中の何が変わって、何が変わらないのかを確かめることができる。すると、自分のなかからまた新しいコンセプトやビジョンが見えてくる。そういうことに気づけたことが意外でしたね。

水野:いつまでも作り続けるイメージを持たれていますか?

細田:僕は多分、中学生の頃にひとりでアニメを作り出したときから、何かを思いついたら形にせずにはいられない性分なんですよ。逆に、「誰かに褒められたい」とか、「誰かがこの作品を観て笑顔になってくれるところを思い浮かべながら作っています」とか、そういうひとの気持ちはまったくわかりません(笑)。自分が作りたいから、作らずにはいられないから、作っている。こういうタイプの人間には、終わりはないと思います。僕はいくら褒められても、逆にボロクソに言われても、あんまり関係ない。ただ、作ることが好きなんです。

水野:作っている瞬間がいちばん幸せですか?

Man wearing a black shirt and glasses speaks into a studio microphone during a recording session.

細田:そうですね。作り終えたらつまらないんですよ。直すこともできないですし。「これができたらすごくおもしろいだろう」という気持ちを維持して、それを完成に導くまでに大変な労力がかかるけれど、そこまでが自分の役割という気がします。そして、完成したら、僕ら作り手は新しい旅に出なければいけない。考えてみると、アニメーションは本当に手間がかかります。それでもやめられない。苦しいけれど、それ以上に楽しいんです。

水野:これからクリエイターを目指す人たちに向けてメッセージをお願いします。

細田:『細田守の原点/展』には、僕が学生のときや、キャリア初期の頃の作品もたくさん展示されています。そういう展示を見て、「最初はこんな感じだったんだ」とか、「こんなしょうもないものを作っていたんだ」とか、いろいろ感じて、「自分もやってみようかな」と思ってくださったら、ぜひご自身でも作ってください。作るって、楽しいので。みなさんも一緒に作りませんか。そんなメッセージをお伝えしたいです。

Two men in black clothing pose in front of a J-WAVE 81.3FM backdrop.

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:軍司拓実
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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