『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』小出卓史

混沌としたものや、ひとの意見や手つきが残るところがアニメーションのよさでもある。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、アニメ監督の小出卓史さんです。いきものがかりは、TVアニメ『さよならララ』という作品のオープニングテーマでご一緒させていただきました。アニメが大変話題になっていることが、携わらせていただいている身として嬉しいです。ご自身の実感はいかがですか?

小出:みなさんから声をいただけることが、まず嬉しいですね。そして、改めてオープニングテーマにこんな素敵な曲をいただけて、幸せな気持ちです。本当にありがとうございます。

いきものがかり「さよならララ」 (オリジナルTVアニメ『さよならララ』OPテーマ) Music Video https://youtu.be/k16sl6x4vL4?si=E_PE1HU6RQfBKxTJ

Side view of a man wearing large over-ear headphones and glasses, smiling while speaking into a microphone.
小出卓史(こいでたくし)
滋賀県大津市出身。アニメ監督。キネマシトラス所属。小気味良いアクションパートを得意としている。アニメーターとしてキャリアをスタートさせ、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』で副監督を務めるなど、緻密な画面構成とキャラクターの感情を象徴的に描く演出で頭角を現す。2026年にはキネマシトラス15周年記念のオリジナル作品『さよならララ』で初監督を務める。舞台は滋賀県で自身の原風景が取り入れられている。

とにかく遠回りをする人間

Person wearing large over-ear headphones speaks into a studio microphone in a recording booth.

水野:小出監督は、子どもの頃からアニメがお好きだったのですか?

小出:そうだと思います。とくにディズニー作品『ダンボ』のVHSを何度も繰り返し観ていました。今思うと、線で描かれたものがたくさん動いていることに興味があったんでしょうね。表情が変わったり、全身を使っていたりするところを、目で追い続けてしまって。夢中になっていましたね。

水野:そこからどのようにアニメーションを作る側に近づいていったのでしょうか。

小出:父が工業デザインの仕事をしていまして。家のリビングにある小さなこたつの隅に紙を広げて、パースの線を引いたり、よく作業をしていたんですよ。そういう姿を見て育ったので、絵を描くことに興味を持ちやすかったのだと思います。兄弟もみんな絵を描くので、自然と僕も描くようになっていきましたね。

水野:ただ、小出さんはストレートにアニメの世界に進まれたわけではないんですよね。

Man wearing headphones sits in a recording studio at a desk with multiple microphones and a glass partition behind him.

小出:とにかく遠回りをする人間でして。大学も経済学部でしたし、公務員試験の勉強をして、国立大学の職員になって、2年働いてからアニメ業界に来ました。それまでにもアニメの道に進むことは、何度も脳裏をよぎったのですが、「今はやめとくか」となってしまっていたんですよね。でも、諦めきれなくて。20代半ばになってやっと「もうやるしかない」ってスイッチが入った感じがあったのかもしれません。だから今、自分がアニメ監督になったことが感慨深いです。

水野:現場に入ってみて、ギャップはありましたか?

小出:ギャップだらけでした。今はアニメ業界の職場環境が是正されて、もう働き方も違うと思います。でも、僕が入った当時はいろんな意味でむちゃくちゃでしたね(笑)。でも、意外にツラくなかったんですよ。体力もありましたし、むしろ「こんなに毎日、絵を描いていていいの?」という嬉しさで満ちていて。25年間、憧れていた職業にようやく就くことができて、すごく楽しかった。だから、何でもやれたんですよね。

水野:絵を描く技術だけではなく、物語を作る力もつけなければいけませんよね。そのあたりはどのように培われていったのでしょうか。

小出:高校生の頃から、ソフトウェアを使ってFlashアニメーションをいろいろ作ったりしていましたし、大学生の頃には、時々マンガとかも描いていたんです。だから、0から何かを作ることや、想像することは習慣化されていたように思います。ただ、それと実際にオリジナルアニメーションを作ることには、かなりのギャップがありますから、そこは今回の『さよならララ』を作る際に苦労しましたね。

水野:初監督作品のTVアニメ『さよならララ』は、どうやってたどり着いたのですか?

小出:正直、運なんです。原作ものではなくオリジナルで、しかもゼロベースで作っていい機会なんて珍しいんですよね。ただ、僕は今のキネマシトラスという会社に十何年もいまして。ずっといろんな作品に参加して、支えてきたからこそ、当時の社長でありプロデューサーである小笠原宗紀さんから仕事がもらえたのかなと思います。水野さんと初めてお話したのは2年ほど前でしたが、企画自体は5年前からあって、長い道のりでした。

「決めてはいけない」

Person wearing over-ear headphones and speaking into a professional microphone in a recording studio.

水野:物語を立ち上げる上で、テーマはありましたか?

小出:今の自分の関心事に近い作品をどんどんやらなければ、という気持ちはなんとなく抱いていました。あと、ヨーロッパのほうで、当時の童話とはどういうものだったのか、どんな考え方があったのか。そういう本を読んでいたタイミングでもあって。その興味の先にあったのが、アンデルセンの原作だったのかもしれません。

水野:オリジナル作品を作るとなると、どうしても表面的な新しさを狙ってしまいそうな気がします。そんななかで、小出監督が童話のように長く愛され続けている作品をモチーフにされたのは、なぜだったのでしょうか。

小出:新しさは欲しいけれど、それは既存のものの組み合わせでも生み出せると思っていて。何気ない行動や普遍的なテーマでも、描き方でまったく違ったものになる。そこがアニメーション演出のおもしろいところなんですよね。

水野:視聴者の方の最初の反応として、「どこか懐かしさを感じる」という声も印象的でした。でも、監督や制作者のみなさんのお話を聞いていると、表層の部分だけをとらえた“懐かしさ”という言葉だけでは表現しきれない、本質的な“新しさ”があるのかもしれないなと感じました。

小出:おっしゃるとおりです。僕は自信がそんなにないタイプの人間ですが、『さよならララ』はどの作品にも似ていないことだけには自信があります。何年もかけて、何百人というスタッフとアニメーションを作るのだから、価値のあるものを作らないとみなさんにも悪いじゃないですか。だから、「今までにないものを作りたい」という気持ちが強かったですね。

水野:その新しさはどのように見つけていくのですか?

小出:見つけ方はふたつあると思います。ひとつは、いろんな作品を観たり、自分が知っているものだったりを引用して、新しい組み合わせを見つける。もうひとつは、自分が暮らしてきたところやルーツなど、自分の人生に関係のあるものを持ってくる。実は『さよならララ』は後者のパターンでした。つまり、グローバルな“人魚姫”というモチーフと、自分の地元である滋賀県をぶつけてみたんですよね。

Close-up of hands holding a clear booklet with a cartoon drawing and Japanese text; a water bottle and zigzag-pattern table in the blurred background.

水野:『さよならララ』では、主人公である人魚の王女・ララが、時を超えて滋賀県の琵琶湖に現れるんですよね。滋賀県のご出身である小出監督にとって非常にローカルな場所が、リアルに描かれています。そこで、ご自身でも想像していなかったことはありましたか?

小出:まずは、「こんなに自分のいた場所のことを作品に活かせるんだ」という気づきがありましたね。あと、滋賀県という場所を出したことで、逃げ場がなくなったよさもあります。自分のなかで、「やる」と決めることが大事で。決めたらもう、そのために動けますから。

水野:監督はずっと迷っていましたよね。主題歌のお話をされているときにも。しかもそれは答えのないもので。混沌とした状態のなかで、なんとか答えをひねり出していくというか。

小出:僕は、安易なソリューションというか、自分が楽になるために合理的な解決をするようなことがイヤで。それは作品づくりにおいて、絶対にやってはいけないという謎の信念があるんです。だから、とにかく「決めてはいけない、決めてはいけない」という気持ちを持ちながら、ずっと戦っていました。水野さんに曲を発注したときも、打ち合わせでずっとウジウジしていたと思います(笑)。

水野:「僕もわからないんです」みたいなことを、何度もおっしゃっていました。でも、それがリアルだなと。

Smiling man with glasses and headphones around his neck sits at a table during an interview, speaking into a microphone with a red plush toy in front of him.

小出:とくに監督という仕事は、決めないとみんな右往左往してしまうから。ワークフローにとってよくない。だから、ふたつの顔を持っていないといけないんですよね。建前の部分では、いろんなことを決める。一方、ものすごく深いところでは悩み続けている。でも、水野さんに依頼したオープニング曲は、作品の深いところに触るものなんですよね。だから、水野さんにも「決めてはいけない」という気持ちでお話していました。

水野:すごくリスキーなところで出会わせてもらったんだなと感じます。

小出:水野さんみたいな方に曲を作っていただけたことは、本当にありがたかったです。自分のなかで、「こういう形になればアニメになるだろう」というおぼろげな理想はあったのですが、なかなかそれを突破できませんでした。でも、「さよならララ」という曲をいただいたときに、何かを確信できた。それは“アニメにしてもらった”というような感覚ですね。

水野:『さよならララ』というタイトルはどのようにたどり着いたのですか?

小出:突然思いついたんです。しかも、“人魚姫”という要素と同時に。言葉というものがものすごく大事で。タイトルやキャラクターの名前が、わりとそのアニメを決めてしまうんですよね。企画会議をやっていても、「こういうタイトルだから…」ってみんな想像してしまうし。だからこそ、自分のなかではとくに悩ましいことで。実は企画が始まって1年半くらいは、タイトルを決められなかったんですよ。

水野:今、このタイトルを振り返ってみていかがですか?

小出:メインキャラクターの名前が入っていて、かつ、作品のスローガンにもなった、大事なものですね。自分が最初に「いい」と思ってつけたタイトルで、それをみなさんも気に入ってくれているように感じます。あと、当時の自分は「さよなら」って言いたい気分だったんだろうなと、思い出しながら作ることができましたし。改めて、このタイトルにしてよかったなと思いますね。

自分よりもアニメのほうが偉い

Person wearing headphones sits at a microphone in a dim recording studio with blue-lit equipment nearby.

水野:アニメーション制作の場で、チームのコミュニケーションはどう取られていくものですか?

小出:自分の場合は、「こういうものを描きたい」ってなんとなく手を動かしていきます。でも、それ以前にたくさんの打ち合わせをしますね。イメージボードを描いてもらう方、キャラクターデザインの方、いろんな方とお話をして、頑張って作業をしてもらいます。

水野:みんなで考え出したひとつひとつのアイデアは、どのようにまとめていくのですか?

小出:ある程度、「このラインは守ろう」とか、「これはこちらに行くべき」とか、方向性を決めたりはします。ただ、アニメーション制作は、最終的に監督がすべてはコントロールできないんですよ。混沌としたものや、ひとの意見や手つきが残るところがアニメーションのよさでもある。だから、半分はコントロールして、半分はコントロールしないのが、自分の立場ですね。

水野:“ひとが作ること”については、どういうことを考えていらっしゃいますか。

小出:最近、AIでの画像生成や映像生成が増えてきて、能力も上がっています。私は大前提として、極端な意味での”反AI”ではありません。もちろんアンフェアだったり、違法だったりする使い方はダメですが。その上で、これからどんどん新規性のあるAI作品で溢れていく時代になるだろうと思っています。一方で、今まで以上に“誰が作るか”ということも大事になってくる気がしていて。だから、2026年にゼロからアニメを作るなかで、「“誰が作るか”が大事な作品にしたいな」と感じたんですよね。

水野:『さよならララ』の初回オンエアのとき、僕はSNSをずっと見ていたのですが、こんなに制作者の方々が語っている現場は初めてだなと思いました。「あのとき、監督とこういうことを話して、迷ったな」みたいなエピソードも含め、そのひとそれぞれの愛ある言葉が溢れていて。

小出:それは本当に監督として誉れですね。みんながこの作品を好きになって、熱を注いでくれていることの表れだと思って、嬉しかったです。

Person wearing over-ear headphones speaks into a large studio microphone in a radio/ recording studio setting.

水野:また、yuma yamaguchiさんの劇伴も素晴らしかったです。

小出:yamaguchiさんとは、「ここは絶対に映像に音楽を当てたい」など、音楽が決定的に必要なシーンについては最初に話し合いました。通常のTVアニメでは、映像に合わせて音楽を作るということは、なかなかできないんです。でも今回は、yamaguchiさんが特定の話数で、映像に合わせて曲を作ってくださって。もちろん、それは必要だからお願いしていることではあるんですけれど、yamaguchiさん自身も作品づくりがすごく好きな方なんですよ。だから、かなりノリノリで取り組んでくださった、というのが正直なところですね。

水野:なぜ、小出さんのまわりにはそういうひとたちばかり集まるのでしょう。

小出:運としか言いようがないですね。でも、それは前作品からの縁で繋がっていたりするんですよ。毎作品、頑張って作ってきたから、「次もやってやるか」と集まってくれたひとがいる。そうやって、自分の運と縁でなんとか作ることができたのだと思います。商業アニメは、ひとと作る以外の作り方がないですから。まずは信頼されること。どんな仕事でもやって、みんなに認めてもらうことがいちばん大事にしてきたことです。

水野:これからは、どんなものを作っていきたいですか?

小出:本当にどうしましょうね。普通はオリジナルを作るまでにもっと段階があるのですが、自分はいきなりオリジナルを作ってしまったので、次に何をやろうか、また悩みに入ってしまいました。先が見えません。でも、今の状況とか、いろんな作品とかに影響を受けて、悩み続けるしかないんだろうなと思います。

水野:どうしてずっと悩んでいられるのですか? 

Man wearing over-ear headphones speaks into a microphone in a recording studio, with papers and a water bottle on the desk nearby.

小出:正直、僕もこんなんでいいのかなと思っています(笑)。でも、尊敬する監督のみなさんもずっと悩んで作っていらっしゃるだろうし、自分もそう在るべきなのかもしれません。あと、変な話、自分よりもアニメのほうが偉いと思っているんですよね。だから、いつも自分のなかには答えはなくて。満足してはいけない、慢心してはいけない、謙虚でなければいけない。そういう意識を大事にしている気がします。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

小出:自分はまだ1本しかオリジナル作品を作れていませんが、遠回りしてきて、ようやくアニメーション監督になることができました。それは自分の縁や、目の前の仕事をひとつひとつ大事にしてきたからだと思います。思わぬ縁が、自分の表現するものにつながったりしますから、諦めずに何かに通じてみてください。みなさんのいろんな作品を観てみたいです。よろしくお願いします。

Two men sit on a white couch in a bright office, one holding a handwritten card and two plush dolls.

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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