王道に行きたい。映画でいえば『ハリー・ポッター』になりたい。
水野:中野なかるてぃんさんとは、同じ一橋大学出身というご縁もあり、今回はその繋がりをきっかけに、おふたりと「芸事は“勉強”できるのか」という問いをあいだに置きながら、お話をしていけたらと思います。

ナイチンゲールダンス
NSC東京校22期生の中野なかるてぃんとヤスが結成。2017年2月に『NSC大ライブ』で優勝し、同校の首席として4月にデビュー。2023年正月に『ぐるぐるナインティナイン』の恒例企画「おもしろ荘」に出演。同年7月に『ツギクル芸人グランプリ』で優勝。2025年11月に写真集『君とナイチンゲールダンス─もしも出会っていなかったなら─』を発売。
芸事は“勉強”できるのか

水野:おふたりが、お笑いで“ウケる”ことに憧れたのはいつ頃ですか?
中野:ふたりとも小学生のときからです。ひとを笑わせるのが楽しくて、僕は音楽の授業で童謡に合わせて、よく後ろで踊ったりしていました。
ヤス:あとから知ったのですが、なかるてぃんは教室の後ろで踊っていて、僕は給食の時間に教室の前で踊っていたんですよ(笑)。もし同じクラスだったら、前と後ろでダンスコラボができていて、最高だっただろうなと。
中野:ただ、僕も相方も、「学校の先生のモノマネとかで笑いを取るのはなんか違う」という感覚があって。

ヤス:簡単にウケてしまいますからね。「これは自分のためにならないな。自分から出たギャグやダンスじゃないと認めない」とは、子どもながらに思っていました。
水野:そこから実際に、お笑いの道に進まれた理由というと?
ヤス:やっぱり結果がついてきたからですかね。大学生のとき、初めて教室で先輩の前でネタをやったらウケて、「気持ちいいな」という成功体験があって。そこからコンビを組んで、大学生M-1グランプリで優勝して、「嬉しい、このまま行けるんじゃないか」と思えた。自分にとってのクエストみたいなものを、ひとつひとつクリアしていった先に、今がある気がします。

水野:ネタづくりなど、技術的なものはどのように学んでいくのでしょうか。
ヤス:“自分たちに合ったネタづくり”って、高度だと思っていて。自分の人間性や他者からの見え方を完全に理解していないと難しい。だから最初は、とにかく自分がおもしろいと感じることから始めるひとが多い気がします。他の芸人のマネからでもいいですし。客観的に自分を掴むのがうまいひとは、一気に伸びますね。とくに女性芸人。女性は日常会話で空気の読み合いをしているから、自分の見え方も考え続けているのかもしれません。
中野:僕としては大学時代、見られ方など意識せず、ただ自分がやりたいようにやっていました。そして、芸人になってから、いろんな芸人のネタを見たり、マネしたりして、「外側の部分は勉強でなんとかなるな」と思ったんですよね。それぞれが生まれ持っているコアの部分は、魅力的だけれど、そのまま出しても食べづらい場合がある。それなら、“そのコアを伝えるためのまわりの整備”を学んでいけばいいんだなと。
なかるてぃんは“しっとり”している

水野:なぜ、ヤスさんは、なかるてぃんさんとコンビを組もうと思ったんですか?
ヤス:いろんな記事で適当な理由を言っていますが、結局は第一印象ですね。「雰囲気が“しっとり”している」と思ったんですよ。おとなしいとかじゃなく、動かしやすそうというか。たとえば、完璧に顔が整ったイケメンにどんな役をやらせるかって、難しいじゃないですか。でも、“しっとり”しているなかるてぃんなら、大きなスピーカーになってくれそうな感覚がありました。
水野:なかるてぃんさん、その自覚はありますか?

中野:いや、「僕は“しっとり”しているのか」って今思いました(笑)。
水野:ふたりでお笑いをやってみて、印象が変わったことはありますか?
ヤス:舞台上のパフォーマンスに関しては、いい意味で期待どおりでした。ただ、まさかこんなにプライドが高いとは思わなかった。俺の何十倍もプライドが高いです。とくに覚えているのが、渋谷をふたりで歩いているとき、カラスがなかるてぃんに糞を落としたときのことで。俺が、「なかるてぃん糞落とされてんじゃん!」って言ったら、「いや、ハトの糞のほうが多くつけられたことがありますけれども」って謎のマウントを取ってきて。
中野:ダサいじゃないですか。カラスから糞をされてビビっているの。
水野:最高ですね。

ヤス:そう、最高なんですよ。そのときの「え?」って顔がマジでプライド高くて。今でこそ「ダサい」と言ってくれますし、こうしてお笑いになっていますけど、当時の現場では真顔。しかも、マンツーマンだから、まわりがおもしろがってくれるわけでもないので、茶化したらケンカになりそうでした(笑)。
中野:たしかに僕は頑固なんですよね。そこがプライドの高さにも繋がっていると思います。あんまりひとに否定されたくないというか。下に見られたくないわけではないけれど、「そこは下にしないでほしい」というポイントがあるんですよ。
ヤス:そのポイントがよくわからないからこそ、すごくおもしろいんですよね。そこをどんどん出していってほしい。なかるてぃんは意外と、「こいつマジで人間っぽいな」という瞬間が多いから。そういう部分を出せたときのほうが、爪痕を残せたり、記憶に残ったりするなと思っています。

中野:まあ、一橋のひとはみんなプライド高いですからね(笑)。
ヤス:でも、そのプライドの高さや真面目さも、芸人としていいところだなと思います。やっぱりそういうひとが残っていきます。お笑いサークルがある大学って、わりと偏差値が高めなんですけど、そこに行くひとたちはちゃんと受験勉強をして、努力の仕方をわかっている。だから、プロになって舞台でネタがウケなくても、SNSを頑張ったり、努力の源がある。そういう意味で、高学歴芸人はかなり強いですよ。
中野:たしかに、売れているひとたちはぶっ飛んでいるように見えても、本当にたくさんメモしていますからね。自分がおもしろいと思ったことを箇条書きにしていたり。そこに関しては勉強力が必要だなと思います。コツコツやらなきゃいけないことを、コツコツやる。それは僕も自然にできたところではあります。
「あ、一橋大学ってこう使うんだ」

水野:勉強して努力が蓄積されていくと、経験値も技術も上がっていくじゃないですか。でも、「最終的には人間味だよね」と言われたとき、そこはどうすればいいと思いますか?
ヤス:年を取れば取るほど、人間味を出すことは簡単になっていく気がします。逆に若者は、みんな同じな感じがする。一見、突飛に思えるやつも、「突飛になりたいやつ」みたいな二十代がたくさんいるというか。
中野:個性かと思ったら、後付けでそういう洋服を着ているだけみたいな。

ヤス:そうそう。何かに憧れているやつって多いじゃないですか。僕自身もそうでした。それでいろんな衣装を試しましたし、海賊キャラになりたかった時期もありましたね。
水野:海賊キャラ?
中野:海賊の衣装を買って、海賊のネタを作って、海賊として漫才をやっていたんです。でも、結局はお金がなくて、海賊の衣装を売って。普通のスーツで海賊ネタをやるという異常な状態に(笑)。
水野:それはいつ「このキャラでは無理だ」と気づくのですか?
ヤス:自分が飽きるんですよね。だから、どんどん変えていきました。「次はフードを被った、ハッカーキャラだな」とか。なかるてぃんも無理やり、ガリ勉キャラとかして。

中野:プロフィールとしては一橋で、ガリ勉だとわかりやすいので。最初の頃はそれを求められるけれど、そのキャラで入ってしまうと、お笑いにおいてかなり厳しくて。僕を踏み切り板にして、周りのひとたちがボケて、アホや天然が羽ばたいていく展開ばかりで。でも、あるとき、麒麟の川島さんにヒントをいただいたんです。川島さんは僕が高学歴と知っていたのですが、最初はそこには触れず。僕が滑ったりギャグをやったりしたあと、「彼、一橋大学出身ですからね」ってポロっと言ったら、それがすごくウケたんですよ。そのときに、「あ、一橋大学ってこう使うんだ」って気づきました。
ヤス:結局は、使い方というか、演出の仕方でした。水野さんは、何者かになりたかった時期とかありますか?
水野:10代の頃はそうだったかもしれません。こちらを見てほしいというか、自分が褒められたいというか。
中野:そのタイプなのに、よくメインで歌わずにいられましたね。
水野:そうなんです。何の因果か、いきものがかりという、ボーカルが女の子のグループになって。しかも僕とはまったくキャラも違う子で。「これでは自分が好きなことができないじゃん」みたいなところがスタートでした。
ヤス:ええ、そうなんですか!

水野:高校のときは部活動みたいな感じだから、そんな真剣に考えていなかったんですよ。でも、大学に入って、「音楽でやっていくぞ」みたいな空気に3人ともなって。そこでやっと「どう表現していこう」と頭でっかちに考えるわけですが、「え、女の子の恋の歌を書かなきゃいけないの? 全然わからないよ」と。
中野:「全然わからない」とは思えないくらい、マジで天才ですよ。
水野:事務所の偉い人にも、「女の子のボーカルなんだから、かわいい女の子の恋の歌を書きなさい」と言われて。半分嫌々、思いっきり書いたのが「コイスルオトメ」という曲なんです。ただ、その曲をライブでやってみたら、高校生の女の子が、「なんで私の気持ちがわかるんですか?」と言ってくれて。「この子がクラスの友だちにも言ってないような気持ちに、繋がることができるって、結構すごいことかもしれない」と。そこから意識が変わっていきましたね。
中野:それは勉強と関係あったりしますか?
水野:社会学部に入ったのは、よかったなと思います。ひとつのものごとをいくつもの視点で見るタイプの学問じゃないですか。世の中で「これはこう」とされていることを、「本当にそうですか?」って開いてみるというか。だから、「ひとに曲を聴かせるとは?」とか、「自分で歌わず、自分の言葉を誰かに表現させるとは?」と真面目に考えるモードになった気がします。
“死にたくない”願望がものすごく強い

中野:僕は芸人になってから、水野さんが一橋大学の先輩だと知って、かなりインタビューとか対談とか、いろんな文章を読ませていただきました。すると、いろんなところで「ど真ん中の音楽を狙っていた」とか、「みんなに聴いてもらえる音楽を」とおっしゃっていて。僕らも同じ考えでお笑いをやっているので、嬉しかったんです。
ヤス:うん、王道に行きたいんですよね。
水野:王道とはどういうものだと思いますか?
ヤス:ひとに紹介して恥ずかしくないものだと思っています。たとえば、娘がパパに、「最近こんな芸人さんが好きなの」と見せたとき、「いいね、おもしろいね」って言えるようなもの。別に下ネタをまったく言わないとか、そういうことではないのですが、紹介しやすいひとになりたいですね。そのほうが広まりやすいから。
水野:なぜ、王道に惹かれるのでしょうか。

ヤス:爆裂な大スターになりたいからじゃないですか。映画でいえば『ハリー・ポッター』になりたい。そうじゃないと意味がない。
中野:最初に好きになったものも、王道ですからね。僕、親があまり文化的ではありませんでしたし、ひとりっ子だったので、もう何も考えずに生きていて、耳に入ってくる音楽とか目に入ってくるものが好きだったんですよ。だから、自分たちもそういう存在になりたいという気持ちがあるのかもしれません。
ヤス:少し話が逸れますが、僕がなぜ爆裂な大スターになりたいかというと、“死にたくない”願望がものすごく強いからなんです。消えたくない。向こう1億年くらい、ずっと残っていたい。「こんなひとがいたんだ」って存在になりたい。そのためには、かなり名前を馳せるか、何かしらを残さないといけない。自分のネタを石に刻んで、海に沈めておきたいくらいです。そうじゃないとなくなってしまうから。それがとても怖いです。

水野:すごく共感します。今のところ、僕らの肉体は時間を超えられないですからね。
ヤス:だからこそ、お笑いとか音楽とか文化的なものは、残ることができるんじゃないかなと思うんです。そういうことを夜寝る前とかによく考えます。
水野:中野さんはどうですか?

中野:僕はあんまり未来のことも過去のことも考えません。今しかできない経験に対して、ガッツポーズをすることが多いですね。たとえば、地方のライブに出て、売れている芸人さんを目的に観に来ている方々の前で、ウケることができたらすごく嬉しい。僕は、「自分たちはいずれ売れる」という計算で動いているので、僕らをまったく知らないひとの感情を動かすことは、この5~6年くらいでしかできないだろうなと思うんです。
水野:世の中のひとが、おふたりを知っているという状態になった先は、どんなことを想像しますか?
ヤス:僕は必ず世界に行きます。日本人はなめられているので、「こんなやつがいるんだぞ」と、全員に一泡吹かせたいですね。
中野:わざと相方の逆を言うわけじゃないけれど、僕はまったく世界には行きたくない(笑)。自分が手の届く範囲で、できることをやりたいですね。だから、僕版のHIROBAみたいなことを始めるかもしれません。
明るい「お正月」ソングを作ってほしい

ヤス:音楽は、言葉が通じないひとでも感動させられるからいいですよね。「ブルーバード」のYouTubeのコメント欄とか外国語だらけじゃないですか。最高ですよ。
水野:メキシコの方とか、インドネシアの方とか。韓国のライブで「ブルーバード」を歌ったときも、韓国の方の乗り方に圧倒されました。下北沢の家賃6万5千円の部屋で、ひとり小さな声で作っていた曲が、世界中の方に聴かれていたり歌われていたりする。それがドラマとしてすごいことだと、頭では認識しているんですけど、どこか受け止めきれないところがあります。
ヤス:ちなみに、どうしてあの曲だけ「ブルーバード」という英語タイトルにしたのですか?

水野:何も考えていませんでした。しかもあの曲、1回も“青い鳥”が出てこないんですよ。
ヤス:たしかに! でも、英語タイトルだったからこそ、外国の方も入りやすかったところはあると思います。
中野:「SAKURA」もローマ字ですね。
水野:デビュー当時、すでに桜ソングがたくさんあったんですよ。僕らが「SAKURA」をレコーディングしていた頃、コブクロさんの「桜」がヒットしていましたし。河口恭吾さんや森山直太朗さん、ケツメイシさんなどの名曲もありました。それで、「この期に及んで、また桜ソングで出るのか」というムードだったので、少し変えてみようということで、英語で「SAKURA」にしたんです。

中野:実は僕ら、いきものがかりさんのショートネタを作ったことがあるんです。
水野:ええ!
中野:僕が、「カラオケに行ったらいつも歌う曲は決まっている。“桜”」と言って、相方はコブクロさんの「桜」を歌って、同時に僕がいきものがかりさんの「SAKURA」を歌う。さらにそのあと「HANABI」「ありがとう」「ホタルノヒカリ」と続きます。こんなに一般名詞のタイトルで強い曲があるって、本当にすごいですよね。
ヤス:芸人で言ったら「コンビニ」とか「警察」ネタみたいなことですよね。みんながやっている。
中野:もう先人がいるところに殴り込みに行っているイメージです(笑)。
水野:すでにあるもののイメージをすべて引き剥がすことはできないので、そこが難しいところですよね。

ヤス:ただ、ひとつ俺らがずっと話していることがあって。芸人なので正月は元旦の朝からネタライブがあるんです。そのライブ前に必ず「春の海」が流れるんですけど、その影響でお客さんが少し眠くなって、みんな毎回いつもよりウケないんですよ。だから、アーティストの方に明るい「お正月」ソングを作ってほしい。
中野:クリスマスから年末までずっと“その年の顔”みたいなヒット曲が流れ続けているのに、1月1日0時0分になった瞬間に「春の海」一色です。
ヤス:なんとかならないですかね。
水野:なんとかなりません(笑)。
ヤス:なんでお正月だけヒットソングがないんですかね。

水野:たとえば、クリスマスならカップルの物語もあるし、寂しい思いをするひともいるから、それは歌になりやすいんですよ。だけど、お正月って家族団らんのイメージで、恋も何も起こらないじゃないですか。そして、もちろん寂しさもあるけれど、それは笑えない寂しさになる。お正月のなかの孤独は、みんなが聴くというスタイルのものにはならない。<今日 俺の前には誰もいない>みたいな曲が流れたあとに、笑ってもらうのは難しいというか。
中野:なるほど。たしかに。切なさとか悲しみがないといけないけれど、ありすぎてもダメで。
水野:ちょうどいい塩梅じゃないと、そういった意味でのみんなの歌にはならないんです。もっと個人的なものになっちゃう。それはそれで大切だけれど。
ヤス:今、ようやく納得できました。
水野:最後ここに落ち着くとは思いませんでした(笑)。

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:谷本将典
ヘアメイク:内藤歩
協力:一橋大学
監修:HIROBA



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