「なんかいいな、おもしろいな」
というコミュニケーションの在り方
J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
水野:前原さんは「こういうことはしない」という線引きは、なかなかされないタイプだと伺いました。
前原:お断りする案件がひとつだけあって。「会話ができない」というのは、お互いにあまりいい関係にならないので、ちょっと難しいとお伝えさせていただいています。それ以外はもう、アートディレクターって、いろんな職種に携われるというポジティブな捉え方をしています。たとえば、林業関係、お花関係、水野さんたちをはじめとした音楽関係、そういった方たちとも触れ合えるので、僕のなかに謎のナレッジが溜まってくるんですよ。
水野:まったく違う世界からのインプットがあるわけですね。
前原:みなさん、誠心誠意お仕事をされているので、すごい知見がある方たちがバーって情報を流してくださる。そういうなかで本気で会話をしていくと、やっぱり僕のほうにも常にいろいろ勉強になることがあるんですよね。
水野:多分、お仕事をすればするほど、前原さんご自身も変化されていきますよね。価値観がアップデートされていくというか。それは作るものにも影響を与えるのでしょうか。
前原:僕が思う以上に、外からのインプットって強いので、そこに順応していきたいなと。最近は、「まだいいのかわからないけれど、おもしろいかも」くらいの段階のことに対しても、エールを出したいなと思っているんですよ。自分のなかだけで凝り固まってしまうと、自分の模倣になるので。活動としても、表現としても、もう1歩、半歩、新しいところに踏み込んでいきたい。
水野:自分を変えることに抵抗感はないタイプですか?
前原:そこまで僕、自信がないんですよ。もともとはすごく内向的な子どもでしたし。常に新しいもの、おもしろいものに飛びついていきたい、という感じですね。
水野:「これからこういうものが作りたい」というビジョンなどはありますか?
前原:定型化されていない、まだ名前や価値がついていない活動を盛り上げていきたいですね。たとえば、うちの奥さんはカメラマンで、家族写真館をやっているんですけど、見ているとおもしろいんですよ。みなさん結構、「いい顔で撮ろうぜ」って気合を入れてくる。そのときに生まれる空気感がなんかいいなぁと思っていて。そういう活動を続けていると、どんどんひとが集まってくる。だから「なんかいいな、おもしろいな」というコミュニケーションの在り方が形になっていけばいいなと思っています。
代々木公園、代々木八幡駅にある 写真館 東と西
型に嵌まらず、それぞれの家族のその時が写っている。本当に残しておきたい姿や空気が写っている。
水野:家族写真館での1コマや空気感に気づかれるのがすごいです。見過ごしてしまいそうじゃないですか。でもそこに、価値やおもしろさや楽しさがあるって、どうして気づけるのでしょう。
前原:多分、根暗なんでしょうね(笑)。昔から神経質で、ひとつひとつ気になっちゃうんですよ。
水野:でも実は僕も、写真館で家族たちの時が刻まれる瞬間に何かおもしろさがある、みたいな感覚はすごく共感できます。曲を作るとき、「あのときのあの瞬間のあの空気感を、どうにかメロディーに落とし込みたい」みたいなことをよく思うんですよ。
楽しいことに対して嘘をつかない
前原:僕はコミュニケーションの在り方が変わっていくと、デザインも変わっていくんじゃないかなと思っていて。たとえば、よく出入りしているデザイン事務所でペンギン島というところがあって。そこは食堂機能があるんですよ。社長が食品衛生士の資格を持っていて、夜に打ち合わせすると、お酒とご飯が出てくる。
ペンギン島
インスタグラムにて、#ペンギン島食堂の美味しそうなお料理をたくさん公開。人が集まると楽しい。
水野:いいですねぇ。
前原:そういうコミュニケーションを受けて、アイデアをいただいて、デザインとして昇華させていくというか。すると、やっぱりできあがってくるものが違うんですよね。その感じが重要なんじゃないかなと、最近は思っています。
水野:よくも悪くも今って、「プロジェクトそのものとは関係ないコミュニケーションが意外と大事だよ」というと、「昭和的な…」って嫌がるひともいるし。もちろんそこで軋轢が起きたり、無駄なことがあったりもすると思うんですけど。そうじゃなくて、一緒に食卓を囲むとか、雑談をするとか、そういうことが実は本来の仕事の血液循環を変えるというか。
前原:そうなんですよ。結局、デザインという仕事において、課題やクライアントさんの想いの先にあるのは、どうしても“ひと”なので。僕も成長するし、相手も成長する、みたいな、ひと同士の成長ができていくと、血液循環がよくなっていく気がしていますね。
水野:前原さんは、どういうふうに他者とコミュニケーションをしたい、出会いたいと思われていますか?
前原:これは課題ですよね。どうしても時代柄、なかなか会えないところもあるし。クライアントさん含め、やり方が固まってきちゃっているところもあるし。でもポイントとしては、楽しいことに対して嘘をつかないことですかね。「あのひとがこれをいいと言っていた」とか、よくおっしゃる方いるじゃないですか。僕も言うときあるんですけど。「それってあなたの感想じゃないよね」って。
水野:今、そのお話を伺っていて思い出したのですが、前原さんとのデザインの打ち合わせって、前原さんの感想がしっかり出てくる瞬間が多いんですよ。「僕はこの間、家族でこんなことがあって…」と、ご自身のエピソードを話してくださって、その上で「これはすごくおもしろいなと思ったんですよ」とおっしゃってくださる。それは自分という主体性を失っていない、ということなんだなと改めて感じました。
前原:たとえば仕事のとき、クライアントの方が「会社の方針で」って言い方をされることがありますよね。それも仕方がないと思います。でも、そのまま行ったら多分、幸せになれないんですよ。
水野:そうですね。みなさん立場もあるから難しいけれど、大事なことですよね。
前原:打ち合わせって、一期一会じゃないですか。真剣に会話して、お互いにさらけ出すというか。本当のことを言い合えるようになっていけば、変わってくのかなと思っています。
水野:これからもずっとそういうコミュニケーションを繰り返していかれるイメージですか?
前原:そうですね。今までひとりでやることも多かったんですけど。最近、ひとりでできることと、仲間がいてできることは違うなって思っていて。本気のコミュニケーションを取ることができる仲間を増やして、愉快な仲間たちに囲まれて、仕事をしていきたいなと思っています。
水野:その仲間たちに加えていただきたい。
前原:ぜひぜひ。
デザインを通してひとや社会と繋がる喜びを経験してほしい
水野:最後、これからクリエイターを目指すひとたちへのメッセージをお願いします。
前原:僕はクリエイターって、特別な才能があるわけではなく、誰しもがその源泉を持っていると思うんです。だけど、社会のなかで、恥ずかしかったり、緊張したり、挫折したり、いろんな壁にぶち当たって辞めちゃう方も結構いらっしゃる。それでも、一度でいいので、デザインを通してひとや社会と繋がる喜びを経験したら、やみつきになっちゃいますよ。デザインが楽しい、ということを感じてもらえればいいなと思っています。
水野:かっこいいですね。作ることのさらに先、大事なことです。曲を作っていてもそう思います。聴いてくれるひとがいて、その先があって、変わっていく部分があるなと。
前原:僕も水野さんの歌は、常にその先を見ているなと感じています。
水野:最後はお互いに褒め合っちゃって(笑)。でもだからこそ、シンパシーを感じて、一緒にお仕事できたのかなと思っています。本当にありがとうございました。ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。
前原:よろしくお願いいたします。
J-WAVE Podcast 放送後 25時からポッドキャストにて配信。
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文・編集: 井出美緒、水野良樹
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
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