FIVE STORIES×ONE SOUND -Brewed in Coffee Moments- by STARBUCKS RESERVE® ROASTERY TOKYO + HIROBA

すべてが、ひとつの楽器のように物語のなかへ。

2026年2月14日、バレンタインの中目黒は、いつもより街がざわめいているように感じられた。誰かと過ごすひともいれば、ひとりで歩くひともいる。それぞれが違う物語を抱えながら行き交っていた。

そんな夜に、「誰かとつながる」というテーマが、静かに立ち上がる特別なイベントが開催された。スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京とHIROBAがコラボレーションした『FIVE STORIES×ONE SOUND -Brewed in Coffee Moments- by STARBUCKS RESERVE® ROASTERY TOKYO + HIROBA』だ。

本公演は、ロースタリー 東京で働くパートナー(スタッフ)の実話をもとにした5つの物語が、朗読と音楽によってノンストップで紡がれていくプログラム。ゲストパフォーマーには、HIROBAとも関わりの深いシンガーソングライター・関取 花を迎え、水野良樹を中心としたこの日限りのバンド編成による生演奏が、物語に寄り添うように並走した。パフォーマンスは、18時30分からと、20時30分からの2回に分けて行われた。

会場は、ロースタリー 東京の4階、AMUインスピレーションラウンジ。大きな窓ガラスに囲まれたその空間は、徐々に移り変わってゆく街の表情を、映し出すようなつくりになっている。客席とステージの距離がとても近い。各回30名という少人数制もあって、ひとつひとつの音や視線が、相手に届く。だからこそ、自然と余分な動きがそぎ落とされていく。演者も聴き手も、同じ“場”の空気のなかに在った。

演奏が行われているのは4階だが、1~3階は通常どおり営業している。その営みが続くなか、4階で鳴っている音が、館内放送を通してフロア全体に流れ出した。

「みなさん、こんばんわ!」

司会を務めたパートナーの、凛とした声が響くと、店内は「お、なんだろう?」という空気に、ほんの少しだけ傾いた。ふと視線を上げて、4階を仰ぐお客さんたちの姿も、目に入ってくる。

会場に集まったお客さんは、それぞれに好みのメニューを手にしている。アルコールを飲むひともいれば、食事やデザートを楽しむひともいる。過ごし方は自由だ。けれど、演奏が始まる前、ロースタリー 東京から、もう一杯のコーヒーが配られた。「東京 ロースタリー マイクロブレンドトレード™︎」。世界でも、ここでしか味わえないコーヒーだという。

パートナーは、「寒い日でも、温かい日でも、朝の陽ざしのなかでも、夜寝るときでも。心と身体に寄り添ってくれるような、私も大好きなコーヒーでございます」と言葉を添えた。誰かの“物語”を支えるために、前に出すぎない一杯を選ぶ。その判断にも、パートナーの思いが表れていたように思う。

やがてメンバーが姿を見せ、ステージに入ってくる。客席から拍手が起こった。この空間ではめずらしい、はっきりとした音だ。その音が止むと、一瞬、場の呼吸だけが聞こえるような気がした。やはり、客席との距離が近い。濃い緊張感が漂っていた。

最初に鳴ったのは、パーカッションの小さなリズム。そこに、ひとつ、またひとつと音色が重なっていく。ピアノ、バイオリン、ベース、楽器は増え、それぞれがモチーフメロディーをなぞりながら、世界はたしかに広がっていく。それなのに、場の濃度は薄まらない。どんどん密になってゆく。その感覚がどこか不思議だった。

朝倉真司 Per
eji Key
室屋光一郎 Vn
山口寛雄 Ba

そして、水野良樹が、「2026年2月14日です。みなさん、スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京へようこそ」と声をかける。そこから、5つの物語の旅が始まった。

最初に語られたのは、「あ、虹」だ。勤務中、誰かがこぼした声をきっかけに、思いがけない景色に気づいた瞬間。その心の動きに呼応するように、バイオリンが緩やかにメロディーを奏でる。思わず視線が上を向いてしまうような、余白のある音だった。さらに、「虹が出てますよ」というひと言を合図に、メロディーの重心はピアノへ、そして再びバイオリンへと移っていく。“その場の空気が変わる”という物語の芯を、音楽がそのままなぞっていた。

関取花 Vo

続く「はじまりの場所に、もう一度」では、場のリズムが軽やかになる。今は家族となったふたりが、かつて“ただのふたり”だった頃を思い出す。目の前には、赤ちゃんの小さな手。ふたりの過去と今のつづきに、そっと置かれた手。そんなまぶしい映像が浮かぶなか、メロディーの遠くで、カラン、カラン、と店内の音が鳴る。それはまるで、赤ちゃんをあやすおもちゃの音のようにも聞こえた。

ひと呼吸おいて、ピアノがメロディーを奏で、パーカッションが重なる。シンプルな構成で始まる「通学路の向こう側」は、ひとりの中学生が職場体験で得た感動から広がっていく物語だ。登場人物が増えるにつれて、音に厚みが生まれ、ひとのつながりが、演奏のなかで輪郭を帯びていく。そして、物語に導かれるように、ふと視線を下の階へ向ける。生放送に耳を傾けながらも、いきいきと働くパートナーの姿がそこにあった。

ここで、音の数がぐっと減る。水野良樹と関取花、ふたりだけのパートであり、自由演技だ。「ありがとうのかたち」は、耳の聞こえない、海外からのお客さまとのやりとりをめぐる物語。声に頼らない「ありがとう」が、相手に伝わる。朗読も、ピアノも、極端な動きはしない。一音、一語ごとに判断が積み重ねられていく、研ぎ澄まされた時間だった。その静けさのなかで、1~3階の日常音が、はっきりと聴こえてくる。食器が触れ合う音、ひとの動きや笑い声、焙煎や抽出の音。それらすべてが、ひとつの楽器のように、物語へと溶け込んでいった。

水野のピアノの余韻のなか、パーカッションが冒頭のリズムへと戻っていく。最後に語られたのは、「また来ました」という、もっとも何気ない日常を描いた物語だ。言葉を交わし、関係が少しずつ育っていく。ひと言が、いつしか安心や信頼を含んだ言葉へと変わっていく。これまで触れてきたはずのモチーフメロディーも、同じようには聴こえなかった。日常の景色や生活音は、似たかたちをしていても、すべて異なる。5つの物語を通過したあと、わたしたちは、もう同じ場所には立っていなかった。

そのひと続きの時間を、繊細に支えていたのが、関取 花の朗読だった。声は、わざと感情を大きく波立たせるものではない。かといって、ニュースを読むように淡々としたものでもない。たとえるなら、ドキュメンタリーナレーションだろうか。誰かのたからものを扱うように、たしかに“何か”を手渡していく声だった。そんな語り部だったからこそ、客席も音を“聴く”というより、物語を“見守る”ような姿勢になっていったように思う。

物語のなかで、きらめきに出会うたび、ふっと微笑んで頷くひと。足先や指先で、そっとリズムを刻むひと。ぴんと張りつめていた気配が、少しずつほどけていくひと。ゆったりとコーヒーをすするひと。目を閉じて音に身を委ねるひと。ただまっすぐ、ステージを見つめ続けるひと。それぞれが、それぞれのかたちで、この“場”を味わっていた。

5つの物語の旅を終えたあと、最後に届けられたのが、この日のために水野良樹が書き下ろした新曲「返事(with 関取 花)」だ。

誰かの返事を聴きたくて 今日もここに来た

ぬくもりが溶けてゆらめく テーブルの木漏れ日

歌はそんなフレーズから幕を開けた。この歌が見つめているのは、「返事」を待つ時間だ。誰かに声をかけ、返ってくるかどうかわからないまま、耳を澄ませる。他者がいるからこそ成立する、他者とのあいだにこそ、生まれる感情だ。

振り返ってみれば、この夜に語られた5つの物語も、すべて「返事」をめぐるものだった。「あ、虹」というひとりの気づきが、「虹が出てますよ」という声へとひらかれ、場のものになっていく。「あら、かわいい」というつぶやきに続く、思い出の告白。なぜここを選んだのか、という問いに返される、まっすぐな理由。それぞれの「ありがとう」のかたちが届く瞬間。そして、「昨日も来てくださいましたね」という声に、返事が重なり、関係が続いていく。

声をかける。返事を待つ。そのやりとりのなかで、関係が生まれ、物語になっていく。「返事(with 関取 花)」は、このイベントの土台にあったものを、あらためて歌にしたような曲だった。

音が止むと、客席から拍手が起こった。それは、演奏前に鳴っていたものとは、明らかに質の異なる拍手だった。大きさよりも、あたたかさが先に立つ。場そのものを、ゆっくり包み込むような拍手。涙をぬぐうひとの姿も、あちこちに見られた。

実際の上演時間は、およそ25分。体感としては、もっと短く感じられた。けれど心は、もっと長い時間を通過してきたような重みと充足感を抱いていた。そして、その感覚は、18時30分の回と、20時30分の回とで、わずかに違っていた。窓の外に見える街の色も、店内に漂う空気も、音の重なり方も同じではない。そこにあった時間は、それぞれ別のかたちをしていた。

終演後、水野良樹も、関取 花も、バンドメンバーも口々に、「ものすごく緊張した」「あの場の空気感に飲み込まれた」と語っていた。ただ、それは決してネガティブな意味ではなかったように思う。場に“押されていた”のではなく、彼らは“場になっていた”のだ。ロースタリー 東京という空間と、物語と、音楽と、ひとの気配と、すべてが溶け合い、ひとつの特別な風景として成立していた。

音楽も、コーヒーも、なくてもきっとひとは生きていける。でも、あるだけで人生が豊かになる。鮮やかになる。生きがいになる。だから、今日もどこかで、「また来ました」と言うのだろう。わたしたちの物語は、それぞれの場所で続いていく。

ロースタリー 東京の空気に飲まれている感じ

トークコーナー(第一公演+第二公演 ダイジェスト)

水野:今回は僕の“コーヒー好き”というきっかけが、ここにつながりました。関取さんには、朗読という形でやっていただきましたが、いかがでしたか?

関取:普段は歌っているので、マイクの使い方から何から初めての経験でした。しかも、バンドメンバーのみなさん、日本のトップミュージシャンなんですよ。だから、耳は惹かれてしまう。でも、「平静を保って、パートナーさんのエピソードをしっかり読まなければ」と、いろんな意味で緊張しましたね。

水野:僕も2回目は慣れるかと思ったら、そんなことなかった(笑)。リハーサルのときは昼間だったんですけど、そのときと光の感じも違うし、たった数時間でスタバの空気もどんどん変わっていくし。ロースタリー 東京の空気に飲まれている感じ。

関取:リハ、第一公演、第二公演と、どれも違っておもしろかったですね。

水野:結構、セッション感も強いんですよ。一応、構成というか、モチーフメロディーは決まっているんですけど、あとはわりと自由な感じで。とくに、4つ目の物語「ありがとうのかたち」は、僕と関取さんだけの完全な自由演奏なんですよね。ものすごく緊張しました。あれはテンポを合わせてくれていたんですか?

関取:いやいや、正直に言うと、水野さんとふたりきりの演奏が、朗読的にはいちばんやりやすかったです。リズムビートが入ってくると、バンド好きだからこそ、難しいところがあって。

水野:「このセリフが来たら、もうすぐ終わる」とか、「俺、まだ続く感じで弾いてしまっている」とか、頭のなかで計算しながら、お互いの空気を読み合ったりして。それもまた、楽しかったな。

スタバは“自分が自分になれるセーブポイント”

水野:コーヒーの話をしますと、僕は本当に毎日スタバに行っているんですよ。週に13回くらい。1日2回。もう近所のスタバの店員さんは、僕が一日に何度来ようが何も言いません。優しさを感じます。関取さん、コーヒーは飲まれます?

関取:毎日、飲みます。仕事をするときには、傍らにコーヒーがないと落ち着かないくらい好きですね。

水野:スタバで作業をすると、ものすごく捗るんですよね。

関取:わかります。もちろんコーヒーも好きですけど、BGMのチョイスや音量とかもちょうどよくて。みなさんそれぞれの時間を過ごされているところもいいんです。お仕事をされている方もいれば、ひとりでぼーっとされている方もいる。がっつり交わりはしないけれど、家とも職場とも違う同じ場所に集まっている感じがして、創作意欲が高まりますね。

水野:僕は全国ツアーに行っても、必ずライブ公演の日の朝、その土地のスタバに行くんです。観光地の美味しいお店って、「いらっしゃいませ」という“観光顔”をしていることが多いじゃないですか。そのよさもあるけれど。でも、日常のなかにあるスタバに行くと、その町の空気がわかる。方言が聞こえたり。

関取:私は富山県のスタバにも、タクシーに乗って行ったんですよ。景色が綺麗なスタバで有名なので、観光地的に来ているひともいれば、休憩所として使っている地元のひともいて、いろんなひとが入り混じっていておもしろかったです。

水野:僕は、スタバの席でひとり考えごとをして、人生をかなり左右するような決断をする瞬間も何回もあったんですよ。本当に何でもない日もあれば、そのひとにとってドラマティックな日もある。それをフラットにしてくれる何かが、もしかしたらこのお店のなかにはあるのかもしれませんね。

関取:チューニングされますよね。全国、どこに行っても、スタバでは絶対においしくてやさしいものがあると思うと、すごく安心しません? 日本各地、世界各地にある、“自分が自分になれるセーブポイント”みたいな。

水野:ちなみに今回は、楽屋もご用意していただいたのですが、今まで楽屋で飲んだコーヒーのなかで、いちばんおいしかったです。メンバーたちもたくさん飲んでいて。

関取:私もすごくおいしくて、先ほど豆を買いに行きました。

水野:そして、スタバのパートナーさんは、どうしてみんなあんなにいいひとなんでしょう。

関取:好みを把握してくださっているパートナーさんもいますよね。「前にアールグレイのスコーンがおいしいと言っていたので、次に食べるならこの味です」って。キュン!みたいな(笑)。これは自分の感覚なんですけど、いっぱいいっぱいのとき、コーヒーに助けられていて。同時に、“今、このコーヒーを思えた自分”にグッと来るんですよ。

水野:ああ、「ちゃんとまだこの感覚を保っていられている」と。

関取:自分の優しさだったり、何かを確認できる存在がコーヒーなのだとしたら、毎日それに接しているパートナーさんは、自然と豊かになるような気がしますね。

“声が返ってくる”ということは大事

水野:今回は最後に「返事(with 関取 花)」という新曲を初披露しました。この日のために作った曲ですね。

関取:水野さん、どうして「返事」というタイトルにしようと思われたのですか?

水野:スタバのパートナーのみなさんと、そんなに多くの会話をしているわけではないけれど、必ず店内には程よいざわめき、会話があるじゃないですか。僕は、そうやって誰かの声を聴く瞬間が、ひとにとって重要だと思っていて。“返事”って、誰かが言葉を投げないと始まらないですよね。二者の間で行われる。だから、このスタバという空間のなかで、“声が返ってくる”ということは大事なんじゃないかなと。

関取:サビ終わりの<春になれ>は、“桜”をモチーフにされたんですか?

水野:ロースタリー 東京って、目黒川があるから東京の季節をすごく感じやすいんです。だから、打ち合わせのときにも、「季節を感じるものを作りましょうか」という話になって。そして、今はちょうど冬と春の間なので、こういう歌詞になりました。

関取:そうか! 目黒川に桜が咲くということですね。

水野:というわけでございまして、今回は素敵な時間をありがとうございました。

バンドメンバー:⽔野良樹、関取 花
eji(Key)、山口寛雄(Ba)、朝倉真司(Per)、室屋光一郎(Vn)

5つの物語 ロースタリー 東京 パートナーの皆さん
1.「あ、虹」
2.「はじまりの場所に、もう一度」
3.「通学路の向こう側」
4.「ありがとうのかたち」
5.「また来ました」

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:堤瑛史
メイク:内藤歩
スタイリスト:作山直紀
監修:HIROBA
撮影場所:スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京
     https://www.starbucks.co.jp/reserve/

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