Samsung SSD CREATOR’S NOTE』永田琴

登場人物が自分のなかで、知り合いのように生きている。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、映画監督の永田琴さんです。

永田琴(ながたこと)
映画監督、脚本家。大阪府生まれ。関西学院大学商学部卒業。岩井俊二監督のもとで助手を務めた後、2004年にオムニバス映画『恋文日和』で劇場公開デビュー。代表作に『イタズラなKiss~Love in TOKYO』、東野圭吾原作『分身』『変身』、『愚か者の身分』などがある。2011年ginger studio株式会社を設立し、子どものための映画ワークショップ「えいがっこ!」を主催。映画制作を通じて子どもたちのコミュニケーション能力の向上をめざすプロジェクトを立ち上げるなど、活動は多岐にわたる。

ずっとやりたかったのは“演出”だった

水野:最初に映画や映像に興味を持たれたのは、いつ頃でしたか?

永田:この世界に入ってからです。もともとはダンスの振付師を目指していました。でも1995年の日本では、まだダンスの文化がそんなにひらけていなかったんですよ。かといって、アメリカに行ったら小さい子たちのレベルが高すぎて愕然として。「手遅れだ…」と。そこでMVのように映像でダンスの世界を撮ることができれば、ダンスから離れなくて済むんじゃないかと思いまして。そういう短絡的な考えで「よし映像を覚えよう」と東京に来ました。映像にどんなキャリアのたどり方があるかもわからずに、とあるプロダクションに紹介してもらって入った感じで。

水野:最初はどういう仕事から始めたんですか?

永田:いわゆるAD、ドラマや映画の制作部の進行をやっていました。石の上にも三年と言われるように、最初は黙って、「与えられるものをすべて吸収しよう。言われたことを150%の力で返そう」という意気込みでした。今やっていることを覚えた先に、「ダンスを撮る」という私のやりたいことがあるから、それまではやめるわけにはいかないと。本当に何も知りませんでした。入って初めて、“監督”という立場のひとがいることを知ったぐらい。

水野:映画のスタッフ構成もわからないまま。

永田:最初はお芝居にも興味がなくて、「一体、なんだこの世界は。でも撮ることを覚えなきゃいけないから、我慢しないと」と思っていたんですよ。それが、スタンドインでその場所に立ったり、セリフを喋ってみたり、役者の代わりに動いてみたりしているうちに、だんだんお芝居に興味を持っていったんですよね。

水野:どこで覚える段階を超えて、「自分も撮れるかもしれない」と変わっていったのですか?

永田:下っ端でお茶汲みをしながら、いろんな役職のところに行くじゃないですか。すごく厚かましいのですが、そのときに「私がやりたかったのはこれだ」と思ったのが、監督の仕事だったんです。振付も、チームの動きを考えながら、フォーメーションを作っていくじゃないですか。つまり、ずっとやりたかったのは“演出”だったんですよね。

水野:どんなスタイルを、自分のものにしようとしていましたか? 

永田:26歳ぐらいで初めてドラマをやったのですが、何も知らなかったことに気づきまして。もう一度、助監督をやって、そこで岩井俊二さんと出会いました。そして、制作も助監督もやりながら、どういう監督になりたいのか、少しずつ考えていきましたね。自分の描きたいものを表現して作っていきたいなと。

水野:新人時代にはカメラマンの篠田昇さんにも出会われたと伺いました。岩井俊二監督や篠田昇さんはどんな方々でしたか?

永田:ふたりともクリエイティブに対して妥協がない。作りたいものを諦めず徹底的に作っていく。だからお互い気が合っただろうし、楽しかっただろうなと思います。私もそばで見ていて、篠田さんと仕事をしたいと思っていましたから。篠田さんはもう亡くなってしまいましたけれど、フィルムの扱い方や現像の仕方、映像に関わるすべてのことを教えてくれましたね。ご自身が持っている知識を惜しまずにシェアしてくださるひと。岩井さんも同じです。 だからこそ、「私もついていかなければ」という意識が芽生えました。

水野:目の前でそういう方々を見てきたからこそ、感じるプレッシャーも大きかったのではないでしょうか。

永田:岩井さんのまわりで、「彼を見て、俺には無理だと思ってプロデューサーになった」というひともいて、その気持ちもわかります。近づけば近づくほど、すごすぎて怖くなる。でも、人間が違うから、私にしかないものもあるはずだと信じることで、頑張ってこられたかな。今も、岩井俊二さんには到底かなわないですけど、クリエイティブを続けていく上で、小さい疑問の答えを徹底的に見つけていく姿勢は大事にし続けています。

水野:今、改めてご自身の強みは何だと思いますか? 

永田:ある種の鈍感さだと思います。敏感でありながら、鈍感になる瞬間は必要で。それこそ岩井さんとか、レベルが高すぎて気が遠くなる瞬間もあるんですけど、それを忘れる(笑)。自分は違う人間だからって。一方で、わかってもいるんですけどね。それを「超えなきゃ、超えなきゃ」って思っていても仕方ないので。

ハードルの高いお見合いをしている感覚

水野:昨年、公開された映画『愚か者の身分』は第30回釜山国際映画祭のメインコンペティション部門に選出。さらにNetflixの配信では、日本のランキング1位を記録する大ヒットとなっています。

永田:「あ、届いたんだな」と、素直に嬉しいです。企画が実るまでにも1年ぐらいあったし、「おもしろくないのかな。ひとりよがりなのかな」と思っている時期もありました。編集している間も、不安を持ちながら、信じて作っているわけじゃないですか。それが無事、映画になって公開されて。釜山で認められたことも、まずひとつ安心しましたし。配信でも、ものすごく多くの反響をいただいて。嬉しさと安心感と。

水野:映画って、企画を通すという難関があって、その後も数年間にわたって、公開までの物語がありますよね。どういうメンタルで向き合っていくものなのでしょうか。

永田:メンタルはすごく強く持っていないとダメですね。ハードルの高いお見合いをしている感覚です(笑)。自分の小さな思いに、億単位でお金を出してくれるひとを探さなければいけない。「よし、お金を出してやろう」と言ってくれるスポンサーとのお見合い成立まで、本当に大変ですね。

水野:そして、資金調達ができても、次はクリエイティブな現実に向き合っていかないといけない。ご自身が想像されていたセリフのトーンなどが、よくもわるくも変わっていくし、化学反応も起こる。

永田:それこそが演出の醍醐味なんですけど、そこはコミュニケーションに尽きますね。役者がこのキャラクターやセリフについてどう思っているか、私がどう作り上げたいか、セッションしていく。そして問題はズレたときですよね。「あれ? 違う」って思ったとき、「違いますよ」って言ってしまって、全身全霊で否定されていると思われても困るわけです。だから、前に進みながらも、スッと寄せるように声をかけるようにしていますね。

水野:『愚か者の身分』は、扱っているテーマも、出てくる暴力の扱い方も、すごくセンシティブなものだと思います。そのあたりの調整はどのように?

永田:そこは脚本段階でしたね。もともと私が、若者の犯罪とか貧困をテーマに扱いたくて、そこにマッチングする『愚か者の身分』という原作を合わせました。多分、自分がオリジナルで書いてしまうと、伝えたいメッセージが強すぎて、延々と説教みたいになってしまうんです。でも原作は、クライムサスペンスが鮮やかに描かれているので、力を借りたくて。そのなかで感情を表現することによって、感じてもらえる部分が多くなるかなと。

水野:とはいえ、どうしても書きたくなってしまうひともいるじゃないですか。その距離を取る勇気も必要というか。迷いはありませんでしたか?

永田:ドラマも含めて、それなりの本数をやってきたので、なんとなく自分でわかるんです。「これをやってしまうと失敗するな」みたいな。料理が目分量で作れるようになるような感覚ですね。

水野:数をこなして培われた感覚は、言語化できるものですか? たとえば、後輩の方に伝えることができるのでしょうか。

永田:難しいですね。個々の価値観が違いますし、若いときは自分の思いが強すぎて、役者の演技を見ることができなかったりしますから。それで役者と違う方向を向いてしまったり。でも、「ひとりよがりになっているよ」と伝えても、気づけないんじゃないかな。そこは経験でしか補えない感覚だと思いますね。

水野:永田さんはどのように気づいたんですか?

永田:私は気が強く見られますが、意外と相手の話も聞いているタイプなんですよ(笑)。助手時代も長かったですし、「おい聞け!」みたいな強い先輩方がいたから、聞かざるを得なかったところもありますし。だから習慣で、まず相手が何を言いたいのか受け止める姿勢が培われてきたのかもしれません。

水野:その経験は、ご自身の作品にも活かされていきますよね。

永田:そうですね。私はやっぱり、役者が打ち出したいもの、やりたいことを見ています。現場ではもう台本を見ていないですね。仮に新しいセリフが出てきても、おかしくなければそのままでいい。余計な芝居が入ったとしても、編集で切れるというのもありますし。どちらかというと私は、彼らをいかに伸ばすかを、とても前向きに考えているタイプです。ただ、“ズレ”だけは敏感に察知できるように、常にアンテナを張っていますね。

問いかけをしたい。知ってもらいたい。

水野:原作があるものを映像に変換していくとき、どういうところから要素を拾っていきますか?

永田:私の場合、人物設計がすべてかもしれません。プロフィールみたいなものを書いて、愛してもらえる登場人物、見守りたい登場人物を考えていきます。「こういうバックボーンがあるから、今ここでつまずいている」とか、そういう積み重ねの部分も含めて。映画で描くのは登場人物の人生の一部ですからね。そして、その登場人物たちがどう絡まり合えば、どう影響し合えば、いいストーリーになっていくのか構成していく感じです。

水野:実際にふたりを出会わせてみると、もともとのイメージと会話が変わっていくこともありますか?

永田:あります。たとえば『愚か者の身分』で、タクヤとマモルがアジの煮つけを食べていて、タクヤが撫でようとしたとき、殴られると思ってマモルが身をかわすシーンがあって。あれは原作にはなくて、オリジナルで作ったんです。それも登場人物が自分のなかで、知り合いのように生きているから浮かんでくるというか。「きっとふたりがご飯を食べていたら、こういうことが起きるんじゃないかな」ということを撮る感じですね。

水野:どんどんキャラクターを好きになってしまうんじゃないですか。

永田:はい、そこから抜けられません(笑)。実在しているのかどうかも、よくわからなくなる現象も時々ありますね。物語のなかに入りすぎて、「私って誰だっけ」みたいなこともありますし。

水野:どういう登場人物に惹かれますか?

永田:主人公にするのは、何かできないものを持っているひと。100%に見えても、実はダメなところがあるとか、ギャップがあるひとですね。

水野:では、“理想の役者”みたいなものはありますか?

永田:それはないかもしれない。結局は、役に合う・合わないですよね。役者は何にでもなるとはいえ、そのひとがそのとき持っている顔もあると思うんです。たとえば、結婚されたばかりのときは、顔つき自体も安定していたり。そういう時に、今わざわざ過労死寸前みたいな役をやらなくてもいいかなと。いつも役者本人の私生活や状況も少し加味しながら、考えているところがあります。

水野:映画には照明さんや美術さん、とてつもない数の方が関わっていますよね。チームとのコミュニケーションはどのように取られていますか?

永田:私はとにかく喋ります。ただ、最初に下っ端で働いていたとき、各部署がどんな仕事をして、どういうモチベーションで、どんなときにテンションが落ちるのか見ていたので、現場がわかるんですよね。だからそこはあまり苦労がありません。「今、あの部署は疲れているだろうから、お茶でも持って行ってあげて」とか、「先にこのひとに話しておかないと、あとで言われたら準備できなくなる」とか、そういうことも含めて。

水野:永田さんはこれから何を撮っていくのでしょうか。

永田:私は華やかなデビューを飾って、ここに来たわけではなくて。『愚か者の身分』は、「再デビューを果たすから」って言って、作ってきたところがあるんです。この作品がこれからも自分の描いていきたいテーマのひとつなのだと思います。社会的なテーマを扱いたい。「女性監督は、女性の物語を描いておいてください」みたいな流れもありますけれど、私は社会的なテーマを掘り下げながら、自分なりの表現方法で映画を作っていきたいですね。

水野:なぜ、社会的なテーマに惹かれるのですか?

永田:解決策は簡単に見つかるものではないので、問いかけをしたい。知ってもらいたい。そこがいちばん大事ですね。知っているだけで、変わってくることってたくさんあると思うので。でも、まったく私自身に意識がないものを取り上げても、届かないと思うから。そういう意味では、自分が疑問に思っていることを、掘り下げていくことが第一かなと思っています。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

永田:若いときは絶対に「根性」のひと言でした。でも今は変わってきて、「折れない意思」と「しなやかな心」ということでまとめようかなと。映画はやはりひとりでは作れないので、いろんなことが降りかかってきます。それでも「自分がやりたいことはこれだ」とはっきり言わなければいけない。でも、頑固でもいけない。だから、いろんな槍が飛んでくるなかで、折れずに突き進んでいく力と、柔軟性が必要だろうなと思います。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:Miyajima haruka
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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