対談Q くどうれいん(作家)第4回

「万人受け」と「私にだけわかる」のどちらも欲しい。

短時間でこんなにすべての襖が開いている状態

くどう:私も今、誰かの特別な記憶を作品によって担うという大仕事の想像が少しはできるつもりで。だからこそ、水野さんがいろんな方と会って、絶対にお忙しいなかで時間を作って、こうして盛岡まで来てくださること自体がすごいなと思うんですよ。水野さん、誰かに壊されたいのかなって。

水野:そんなことはないですけど。変化のなかにはいたい。

くどう:私は誰かと会うことが大好きで、ひとと喋っているときがいちばん本来の自分だなって。ひとりで考えていると、自分ではない自分になっていくというか、変な調整をしてしまう。これだけ大きな作品を持っている水野さんのような方が、こうして離れた年齢の人間とも対等に対話をしてくださっているのは、すごくカッコいい。私もそうなれたらいいなと思います。いろんなひとと喋りたい。

水野:でも、普通のことなんですよね。多分、この感覚をわかっていただけると思うんですけど。本を読んで「おもしろい」と思った。もしチャンスを頂けるのなら会ってみたい。それは動機として普通じゃないですか。

くどう:はい、はい。

水野:そして、初めてお会いするから、失礼がないようにしたい。できれば、イヤな気持ちにさせたくない。これも普通じゃないですか。だけど、そういう普通のことをすると、「あんなたくさんの名曲を残しているひとが…」と言われるのは、どこかおかしいと思うんですよ。

くどう:なるほどなぁ。

水野:ただ、ズルいのは、今までやってきたことが名刺になって、会っていただいていることなんですよね。「あいつはいきものがかりというグループにいて、こういうことをやってきた。とりあえず会ってみよう」と思っていただけるから、会えていることが多い。その名刺を使いながら、「普通の自分ですよ」というのはズルいんですけど、やっぱり単に人間同士で普通のことだなって。その感覚をなるべく失わないようにしたい気持ちがありますね。

くどう:でも、「普通のこと」と言える誠実さと強さがあると思います。

水野:実は逃げでもあるんですよ。「すごい自分」を背負っている芸能の方たちもいるので。それを魅せなきゃいけないひとたちもいる。それが仕事になっている方もいるし。それはそれですごいなと思うんですけど僕は、「いや、ちょっと勘弁です」という感じで。

くどう:私は短時間でこんなにすべての襖が開いている状態になることはあまりなくて。それは、水野さんが自分より圧倒的にキャリアがある方であり、「どんなに私が思っていることを喋っても大丈夫だ」と思っているからなんですよね。相手から「でもすごいじゃないですか」と言われるのはツラい。どんな葛藤を喋っても、作ってない方からすると、「でもすごい」のほうに持っていかれがちで。

水野:難しいですよね。誤解ないように言うのが難しいんですが、すごいことはすごいと思うんです。たとえば、いきものがかりだったら、ありがたいことに曲が売れて、こうして初めて会う方に「聴いていました」と言ってもらえる。それは尋常じゃないことだと思うんです。

くどう:うん、尋常じゃないです。

水野:でも、それは僕も、他のメンバーも、関わってくださっている方々も、みんなが頑張ったから。みんなで頑張ってつくりあげてきたものを「すごくない」とは言えない。たしかに「すごい」。「大勢の力で建てたこのすごいお城、綺麗に残したいね」という気持ちはあります。ただ、「あなたの手柄だね」と言われると、「いや、違う違う。たしかに一部の石垣は作ったけれど…」って思う。やっぱり「あなたってこういうひとだね」も「すごいね」も嫌いなんでしょうね。

どの時点で死んでも惜しまれたい

くどう:折り合いをつけていかなければいけないことが、この先もたくさんあるんだろうなと思いながら書いています。

水野:年長者の変なアドバイスみたいになってしまうけれど、絶対に消費されてしまうから。その怖さはありますよね。

くどう:そうなんですよね。都度、荷ほどきしたい。「そのときの私なので!」って、軽やかでいられることが大事で。そのためにも加速していかないと。全員を振り払っていかないと。そういう謎の焦りもあります。応援してくださっている方に対して、「本当にそのおかげで作家の仕事ができている」という気持ちと、「“こういうひと”だと決められるよりも早く、どんどんスピードを出していかないと」という気持ち、両方ある感覚です。

水野:やがて死が訪れるじゃないですか。でも、死んだあとにも作品は残るでしょう。

くどう:どの時点で死んでも惜しまれたい。「あの時点が最高傑作だったよね」と言われる悔しさと、すでに向き合っています。

水野:それはおもしろい。今日は奇しくも宮沢賢治さんとゆかりのある場所で。

くどう:そうそう、すごくいい場所なんですよ。『注文の多い料理店』の出版にまつわる展示もあって。「作者は無名、販路はなく、予算のないくせに表紙の紙に拘ろうとして値段も高く、売れない三拍子が見事に揃っていて」とか書いてあるんです。自分もZINEを作って売ろうとしたときにそんな感じだったので、ここに来ると元気になります。

水野:おそらく宮沢賢治も本来の彼と、その後に物語として消費されていく彼と、ちょっと乖離がありますよね。

くどう:もう、しょうがないですよね。普通に生活していても、本当に気を許した仲よしと、そうでもない友だちとでは、見せる自分って違うから。それが作品で起きているだけである気もします。

水野:そういう部分も含めて生々しいなと。人間っぽいなって思いますね。

つるんと複雑になりたい

くどう:できるだけ全員に気に入られたいけど、「結局、飲みに行きたいやつとしか飲みに行きたくないよな」という自分も大事にしていたいんですよ。

水野:それは羨ましいな。

くどう:昔からブログを読んでくれている8人ぐらいの読者がいて。「その8人に失望されなければ大丈夫」って思っているところがあるというか。

水野:そこは僕が踏み込めないところだな。ずっと全員に作品を気に入られたい。これは何でしょうね。

くどう:しかも結構、全員に気に入られているじゃないですか。

水野:万人受けしたいんですよ。「気が狂うよ」といろんなひとから言われます。「100人いたら全員に気に入られるのはやめなさい。50人に好きと言われて、50人に嫌いと言われるぐらいがいい」とか、セオリー的にあるじゃないですか。

くどう:「たった1人に深く刺さったらそれでいいんだ」とか。

水野:そうそう。そういうことをいろんな先輩方が優しさも込めて言ってくださるんですけど、そのたびに、「うるせえ」って思っちゃう。

くどう:やばい!

水野:だからダメなんだと思う。

くどう:だからおもしろいんじゃないですか! これだけのお仕事をしてきた水野さんが、まだ「万人受けしたい」と言っているのは相当おもしろいです。私も、届くひとに届けばいいというより、「売れたい。うまくなりたい。“すげぇ”って言われていたい」みたいな気持ちはずっとあります。今の評価を捨て去りたいわけでも、面倒なひとになりたいわけでもなく。矛盾しているんですけど、つるんと複雑になりたい。

水野:つるんと複雑になりたい。いいですねぇ。

くどう:気さくで気難しくなりたい。「万人受け」と「私にだけわかる」のどちらも欲しい。ものすごく欲張りなのかもしれない。そして、「まだまだ私のことをみんなわかってくれてない」という気持ちがあるから、「わからせてやる」って書いているところもあるんですよね。

水野:すべてわかってしまったら、読むほうもつまらなくなってしまうから、どこかわからないピリッとした感じがいいんでしょうね。

くどう:ずっと「ミステリアスになりたい」って言っているんですけどね。水晶玉みたいになりたくて頑張ってきたら、ミラーボールみたいになっていて、「思っていたのと違うな…」という感覚でいるのが現状です。

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:谷本将典
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:光原社
https://morioka-kogensya.sakura.ne.jp

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