愛情を「与える」だけじゃなく「もらう」ことも含めての共有感
自分自身が高い踏み台でないといけない
水野:2024年10月24日には『ロマンシング サ・ガ2』の完全フル3Dリメイク作品『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』が発売されます。過去のレジェンド作品がまた新しい形でリリースされるんですよね。
伊藤:ここ数年、自分のサウンドチームが出来上がっていて。もうおなじみになっているアレンジャーさんがちゃんとついてくれるので、非常に助かっています。彼らは当時、『ロマンシング サ・ガ2』で遊んでいた世代だからこそ、すごく愛情を持ってやってくれるんです。僕が気づいていない「サガ」の魅力を持ってきて、新たに作品に注入してくれるので、それはとても嬉しいことですね。
水野:当時のゲームユーザーの方が、自分と同じサウンドプレイヤーとして戻ってくるというのは、どういう気持ちになるのでしょうか。
伊藤:とっても嬉しいです。
水野:憧れの目で見られたりするわけじゃないですか。やりづらくはないんですか?
伊藤:ああー。だからなるべく彼ら目線でいろいろ話をしたり、「じゃあちょっとご飯でも食べに行こうか」みたいな感じで、よくお酒を飲んだりしています。
水野:若いミュージシャンとどういう話をするんですか?
伊藤:普通のバカ話っていうか(笑)。音楽半分、あとは「最近どうよ?」みたいな感じ。彼ら自身の佇まいや個性も含めて、自分にとって参考になっています。
水野:伊藤さんの対談やドキュメンタリーも拝見したのですが、若いミュージシャンみなさんが口を揃えておっしゃるのが、「伊藤賢治さんはこんなにすごいひとなのに、同じ目線に立って喋ってくれる」と。
伊藤:あらあらあら。でも、いろんな意味で、彼らのほうがすごいですからね。こちらが参考にさせていただくことが多い。そうじゃないと、自分がどんどん固まってきちゃって、つまらない人間になると思うんですよ。彼らと話している時間は楽しいですし、いい関係でいさせてもらっています。
水野:ご自身をどんどん成長させたい、という気持ちがずっとあるのでしょうか。
伊藤:格好つけた言い方なんですけど、若いひとたちに対して、「僕を踏み台にしてもらって構わないから」と言っていて。であるからして、自分自身が高い踏み台でないといけないなという気持ちがあるんですよ。ひょいと駆けのぼれる、大したことない低い踏み台だと思われるのも癪なので(笑)。彼らがまた別のところに行っても、「あのときの踏み台があったから自分はこうしていられるんだな」と思ってもらえたら嬉しいなと。
水野:そういう気持ちになることができたのはご自身の経験からですか?
伊藤:何も言われなかったけれど、植松さんもきっと同意してくださる部分があると思います。師匠を見て、そう思うようになっていったところがありますね。
「楽しませなきゃいけない」ではなく「一緒に楽しみましょう」
水野:他のクリエイターの方と、横の繋がりはあるのでしょうか。
伊藤:そこそこありますよ。結構、みんな仲がいいです。直接は会わなくてもネットで、「こういうことがあったよ」「ああ、すごいね」みたいな、文字情報で盛り上がったり。自分も「今度ご飯に行かない?」と飲みに誘ったりします。寂しいので(笑)。
水野:ゲーム音楽以外にもやっぱりアンテナを張るんですか?
伊藤:グルメ情報も詳しいですよ。
水野:えー! いや、これ、あるあるだと思うんですけど、すごいミュージシャンの先輩方って、意外とご飯に行くと音楽の話をしないんですよ。だけど、やたら博識で。それこそグルメに詳しかったり、趣味の分野に詳しかったり。音楽以外のものにちゃんと刺激を受けていらっしゃる方が多い。まさに伊藤さんもそういう方ですね。それって、作品に具体的に影響するものなのでしょうか。
伊藤:「ここに行こうよ」ってゲストを連れて、つまりホストになるわけです。それが自分は楽しいんですけれども。
水野:はい、はい。
伊藤: ホストになるって“おもてなし”じゃないですか。そしてある意味、「楽曲に我も出すけれど、ユーザーの方のことも考える」というのも“おもてなし”ですよね。そういうところが繋がるのかもしれないですね。
水野:たしかにゲームって、楽しませなきゃいけないから、常に“おもてなし”の状態というか。常にサービス精神がある状態でいないといけない、非常に難しい分野ですよね。
伊藤:あ、でも今おっしゃった「楽しませなきゃいけない」という気持ちは意外となくて。それよりも「一緒に楽しみましょう」という共有感のほうが、僕は強いし、好きですね。
水野:ユーザーから返ってくるフィードバックは直に影響していくものですか?
伊藤:すごく影響します。だから、賞賛も批判もただの悪口もすべて受け入れます。それでへこんだりはしないですね。「ああ、そういう考えなんだ。じゃあ次回はそこも含めて新たにやってみよう」と。
水野:ある意味、マーケティングというか。ヒアリングをして、「ここで楽しいんだ」とか「ここがおもしろくないと思うんだ」とか、情報として吸い上げて、すべて形にしていく。
伊藤:僕、TM NETWORKも好きで。小室哲哉さんは、ものすごくいろんな種類のマーケティングをされていると、当時のインタビューで読んだんですよ。「音楽家がここまでやるんだ!」と感銘を受けまして。だから自分も、「ユーザーの声はすべて参考にできるように頑張ろう」と思うようになっていったところがありますね。
インストにどれだけ歌心を入れられるか
水野:『TOKYO GAME SHOW』で今、新しいゲームがたくさん展示されています。ゲームの進化って凄まじいじゃないですか。とくにAIとかの進化もあって、かなり影響を受ける分野である。そういうゲーム自体の進化に対して、ゲーム音楽はどういうふうに変わっていくと思いますか?
伊藤:今後も、作るメロディー自体は変わらないと思います。でも、たとえば音響として、「ひとつの音色でサラウンド的なことも含めて脳内にまわって、そこだけでちょっとハイになってしまう」とか。そういう効果は出てくるかもしれないですね。
水野:それに対してどう対応されていきますか?
伊藤:そういうオファーがあったら対応しますが、「自分はあくまでもメロディーメーカーなので」と言います。
水野:格好いいですね。そこで「メロディーメーカーです」って言い切れるのがすごく格好いい。
伊藤:やっぱり歌が好きなんです。自分にとって、究極は歌かもしれないですね。ゲーム音楽ってインストなので、そこにどれだけ歌心を入れられるか、というのは自分の好みやオリジナリティーとして、強いと思います。
水野:伊藤さんのどの作品を聴いても、必ずメロディーが鳴っていますよね。
伊藤:そうですね。しつこいぐらいに鳴っている。
水野:ゲーム音楽って環境的な要素が強いじゃないですか。メインのシーンがあって、キャラクターが動いていて、それを囲むという要素があるから、メロディーが鳴ってなくても成立する瞬間もある。でも伊藤さんの作品は、ずーっとメロディが“喋って”いるんですよ。それはすごいことだと思います。そこに覚悟、こだわりがあるんだなと拝察していました。
伊藤:僕は出発が歌だったので。当時、素晴らしい歌の世界だったじゃないですか。自分は、西城秀樹さんや野口五郎さんから始まって。で、沢田研二さん。その後にグループブームがあって、ゴダイゴさん、オフコースさん。そうやって歌をずっと追いかけていたので、そこはずっと外さないと思いますね。
水野:これから、どういうものを作っていきたいと思っていますか?
伊藤:ここ数年、いろいろ旅をすることがあって、それぞれの場所で友人も増えてきたんですよ。だから、そういう彼らと一緒に“おらが村発信”はやってみたいですね。
水野:おもしろい。
伊藤:やっぱり音楽も含め、いろんな思いや考えを「共有」したいんですよ。影響を受けたいし、与えたい。ギブ&テイク。そうやって一緒にやっていきたいと思えるぐらいの友人が最近、いろんなところでできたので。
水野:へぇー!
伊藤:僕は東京生まれなので、あまりふるさと感ってないんですよ。でも、彼らはふるさとに対する想いが強い。そこに自分が、手助けとは言いませんけれども、何か一緒に楽しんでできることがないかなって。今はそういうところがきっとおもしろいんだろうなと思いますね。
水野: 明日もミニライブをされると伺いました。ミュージシャンたちとステージで演奏していくことにも積極的にされる。ゲーム作りはひとりの作業かなと思いきや、他者と作るほうが好きなタイプなんですね。共創することが大好きというか。
伊藤:バンドとしてみんなと一緒にやるのも楽しいんですけど、自分を高めたいというのもあります。僕の拙いところを、みんながサポートしてくれる感じではダメで。だからピアノソロもちゃんとやっていこうと思うし、自分が引っ張る部分がないと、彼らもついてきてくれないだろうし。ハードルを高くしていかないと、というウエイトは常に自分の肩に乗っけていようと思います。
水野:ゲーム音楽を作られるなかでは、「自分を失っちゃいけない」「自分を必ず出す」とおっしゃっていて。そして他のミュージシャンと演奏をするときも、「自分というものがないと相手と繋がれない」とおっしゃる。どの場面でも一貫されていますよね。
伊藤:わがままなのかもしれません。
水野:いや、本当にわがままだったら、仲間は作れないと思います。
伊藤:まぁ「一緒になったひととは楽しみたい」という気持ちが強いので。終わったら、「じゃあ一緒に打ち上げしようね」という、そういうノリです。
水野:すごいフランク。
伊藤:もうリハの時点で、「打ち上げなんだけど、先に日にち決めよう」みたいな(笑)。みんな忙しいので。
水野:みんなをまとめ上げていく。だからこそ、伊藤賢治さんのまわりにはひとが集まるんだろうなと感じますね。では、最後に、クリエイターを目指す方たちにメッセージをひと言いただければと思います。
伊藤:あまり格好つけるのは好きじゃないけれど、わかりやすいところでいうと「愛情」なのかなと思います。いろんな意味での。でも愛情を「与える」だけじゃなく「もらう」ことも含めての共有感は大事で。共有感を持った上で、愛情を保つことは、すべてにおいて意識しています。きっとそこが通じれば、いいものができるのではないでしょうか。
水野:ずっと双方向なのが、素晴らしいですね。どうしても「自分が、自分が」となったり、「与える」という言い方になってしまいがちなところを、伊藤さんは「共有する」とおっしゃる。大きなヒントをいただいたなと思います。というわけで本日は『TOKYO GAME SHOW 2024』の会場から番組初の公開生収録でお届けしました。ゲストはサウンドクリエイターの伊藤賢治さんでした。ありがとうございました。
伊藤:ありがとうございました。
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文・編集: 井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
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