『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』蓮見翔さん【後編】

自分が書いたものは、最後まで自分でやりたい

降りないひと、降りちゃうひと

水野:今、コントだけじゃなくいろいろ書かれていますよね。

蓮見:自分らの演劇もそうだし、その他のお仕事もちょこちょこやらしていただいて。今はもうとにかくいっぱい書く時期かなと思って、量を書いていますね。

水野:手が止まることはないですか?

蓮見:止まったら、別の仕事をする状態です。コントを書けなくなったら演劇を書いて、演劇を書けなくなったらドラマを書いて。ぐるぐる回しています。

水野:共感します。Aの仕事が行き詰まるとBの仕事で気分転換。

蓮見:やばいですよね。本当は行き詰まったら旅行とかするべき。仕事から仕事ってまったく健全じゃない。

水野:自分のなかで、「こう変化していきたい」というビジョンはありますか?

蓮見:これ、水野さんに訊きたくて。今いろんなひとに、「これからどんどん脚本家として売れていくよ」と言ってもらえたり、明らかに観てもらえる人数が増えていたり、自分でも「上手くなったな」「いろいろ書けるようになってきたな」と思うことがあったりするんです。でも、「自分はどう在ればいいんだろう」となってきて。

水野:はい。

蓮見:表にも出ているから、ずっと謙虚でいるのは気持ち悪いと思うし。かといって、ちょうど今の自分の評価と同じぐらいの立ち振る舞いで居続けるのも難しい。

水野:真面目!

蓮見:水野さんは多分、ざっくり言うと、紅白とかに出ているひとのなかでいちばん謙虚だと思っていて。

水野:それ、騙されています(笑)。

蓮見:本当ですか? 「やばい。すげえ売れているぞ」って思った瞬間とかありますか?

水野:あるある。明確にあります。

蓮見:それは何のときですか?

水野:朝起きたら、外で曲が流れていたんですよ。寝室の窓から聴こえてくる。「あれ、聴いたことある曲だな」と思ったら、目の前の小学校の校庭で、いきものがかりの「じょいふる」が徒競走の音楽として使われていて。あ、売れてる!って。

蓮見:自分の曲が、日常にパッって出てきたときに思うんですね。

水野:でもなんか…テレビとかに出ていて「おかしい」って思う瞬間ありません? 蓮見さんだったら、さまぁ~ずさんやジュニアさんともう共演もされているじゃないですか。で、ジュニアさんに、「こんなに才能あるのにいいやつで、どこを攻めればいいんだ!」とか言われたり。

蓮見:あんな嬉しいことないですよね。

水野:僕も、ミュージックステーションとかに出たとき、バーッて横にスターが並んでいて、一応は自分も出ている側の人間の振る舞いをするんだけど。ふと、「なんだ、このおかしな世界」って。

蓮見:降りちゃう(笑)。

水野:僕は中途半端だから、降りちゃうんですよね。振る舞いでいうと。でも、降りないひとがいるんですよ。

蓮見:アーティストさんには多いじゃないですか。

水野:あれも売れるためには必要なんだと思う。

蓮見:それをすごく思うようになりました。ファンが安心してついていけるものって結構、降りないひとというか。でもやっぱり吉本じゃない芸人には無理で(笑)。音楽フェスとか観ていても思います。降りているMCと降りてないMCだったら、降りてないMCのほうが盛り上がっているんですよね。

水野:そうなんですよ。「夢を与える仕事」みたいなところもあるから、そこをまっとうしているのは素晴らしいんですけど、自分はそれができるタイプじゃなくて、「へへへ…」って思っちゃう(笑)。

蓮見:評価されればされるほど、降りてはいけなくなってくる気もして。でも僕、サンボマスターさんを観たとき、めっちゃ感動したんですよ。それで恥ずかしくなりました。もう降りる降りないとかの段階じゃないんだと。

水野:人間が出るタイプのひともいますよね。それはそれで素晴らしい。ただ、おこがましくも言ってしまうと、蓮見さんは考えちゃうタイプだから。たとえ全部をさらけ出しても、「今、俺さらけ出している」って俯瞰して見る自分が残っちゃう。その自分から逃れられないタイプ。それも、そのひとの良さだと思います。いや、難しいです。

蓮見:水野さんがライブのMCでおっしゃっていた、「いきものがかりをどの曲で知ってもらいましたか?」ってやり取りあるじゃないですか。あれができるのも限られていると思うんですよ。どの年代でもヒット曲を出してないといけないわけだから。

水野:ライブを観てくださった感想として、「ああいうことを自分たちもいつか言ってみたい」と、他の番組でもちょっと話してくださっていましたよね。俺、「あ、気づかれている」と思った。

蓮見:気づかれている(笑)。

水野:謙虚なふりをしているけれど、どこか「この話題がうちのグループでは成立する」「通じる」と思っている。全然、謙虚じゃない。だから僕は腹黒いんですよ。それを成立させることで、自分のなかに保っているものがあるんですよね。「ポップスとしてずっとやってきた」ということを、まるで謙虚かのように言う。でもそこを見透かすひとは見透かす。

蓮見:いや、水野さんはそこの塩梅が絶妙なんだなと思いました。自信を持つところと、謙虚でいるところのパーセンテージが揺らぐと、見ていられなくなってしまうこともありますから。

最終的には劇場にいたい

水野:蓮見さんはどんなふうになっていくんですかね。

蓮見:でも、最終的には劇場にいたいなとずっと思っています。完全にそのためにテレビに出ているんです。お客さんを劇場に呼びたいから。もちろんテレビは好きだけれど、そこを忘れないでおかないと。俺がちやほやしてもらって調子に乗って、気づいたらネタも書かず、変なテレビタレントになっている可能性もあるわけじゃないですか。そういうことだけは絶対に避けたい。とにかくつまらなくなりたくない。

水野:今後、映像とかも作られるんですか?

蓮見:それはまだまだ先かなとは思います。やるなら監督をしたいので。やっぱり自分が書いたものは、最後まで自分でやりたい気持ちがあって。

水野:なるほど。

蓮見:今、新規ファンの方と昔からのファンの方が、ごちゃ混ぜに客席にいる状態だと思うので、ここから5年ぐらいはどちらの方も同じくらい笑えるものを作り続けたいなとは思っています。

水野:わー、大変な時期ですね。理想像はあるんですか?

蓮見:東京03さんとかは、「一緒に歳をとっていく」という言い方をされていて、それがすごく素敵だなと思います。自分たちもファンの方も60歳ぐらいになったとき、その子どもたちが見ても、センスいいおじさん・おばさんではいたいですね。東京03さんはまさにそれをやっているひとたちだから。

水野:カッコいいですよね。

蓮見:同世代がどかどか笑いながら、若者もちゃんと笑う。そういうものを作れることがわかってしまったから、もうサボれなくなっていますね。でも正直、まだわからない。結婚とかも関係してくるだろうし。自分が結婚するかしないかもわからないし。それがいつなのかもわからないので、ちょっと…わからないですね。

水野:脚本以外の分野で挑戦ことはありますか?

蓮見:一応、言っていいですか。音楽やりたいんですよね。

水野:あの…歌詞を書きません?

蓮見:ええ! マジですか!

水野:今日はもうそれを伝えに来たんですけど(笑)そういうの興味ありますか?

蓮見:興味はここ1、2年ずーっと。もともと音楽が好きで。僕の父親がギタリストなんですよ。

水野:そうなんですか!

蓮見:だからこそ、音楽はやっていなかったところもあって。ちょっと恥ずかしいじゃないですか。教わるのも照れちゃうし。でも先ほどの、映像の監督をやりたいという話にも繋がるんですけど、演劇をやる上で音楽はひとに任せていいものではない気がしていて。本当はこれも自分でやってみたいなと。

水野:え、全部やりたいの? 映像をやるなら監督、脚本、演出、音楽、出演、蓮見翔になる。北野武さんのような域に。

蓮見:やりたいですね。音楽は何からしたらいいのかもわからないので、おざなりになってしまっているんですけど。本当ならとっくに始めていたいぐらいの感じではあります。

水野:どんな感じになるんだろうな。脚本を書くひとが音楽をやるって、意外とないルートじゃないですか?

蓮見:たしかに。でも、宮藤官九郎さんとかはやられていますよね。

水野:あ、そうか、クドカンさんだ。そう考えると、クドカンさんとか三谷幸喜さんとか、そのひとにしかできないものを作っていますね。きっと蓮見さんもいつか、「蓮見翔しか、あれは成立しないよね」というスタイルになるんじゃないですか。

蓮見:そうなっていたいです。体力が落ちてきて、若手に脚本で勝てなくなったとき、総合点で勝っていたい。

水野:体力は本当に落ちるからね。

蓮見:ですよね。ここまで踏ん張れないだろうなと思うときがあるだろうから。

最終的にはやめたかったらやめてください

水野:さあ、たくさんお話を伺ってまいりましたけれども最後に。この番組では毎回ゲストの方に、これからクリエイターを目指すひとたちへのメッセージをお願いしております。

蓮見:ひと言で言うなら、「やめたかったらやめてください」っていう。

水野:出た。でも優しい言葉だと思います。

蓮見:やめたかったらやめられるひとは、きっとやりたくなったらまたやれるひとだから。やめて、普通に5年働いて、もう1回やるとなったとき、5年働いた経験が活きてくる世界ですし。僕も最初、漫才をやっていて、つまらなすぎると思ってやめて。そして、ダウ90000になってからM-1に出て、準々決勝まで行けたりしていますし。

水野:はい。

蓮見:「やめることも才能」とはよく言いますけど、「やめて、もう1回やることも才能」じゃないかなと。だからこそ、今しんどかったら1回、やめたほうがいいと思います。

水野:それはすごいなあ。

蓮見:やっぱり人生は長いので。僕自身も「まだ27歳か」ってちょっと思います。もう折り返していたいけどな、みたいな。

水野:27かぁ…。頑張ってください。急に年上っぽくなって恥ずかしいけど。

蓮見:長く売れている方に言われると重みが違う。

水野:今後が楽しみですね。どんどん新しい作品を書かれていかれると思いますので。

蓮見:頑張ります。:音楽を作ったら聴いてください。

水野:あの、本当に曲を送りますので。歌詞をよろしくお願いします。

蓮見:うわー、ありがとうございます!

水野:さあ、今回は2週間にわたってダウ90000の主宰で脚本家の蓮見翔さんをゲストにお迎えしてお届けしてまいりました。蓮見さん、ありがとうございました。

蓮見:ありがとうございました。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

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