挑戦のために、どうしたらポジティブな切り替えができるのか
試合前や移動中、ずーっと聴いていました
石川佳純(いしかわかすみ)
1993年2月23日生まれ、山口県出身。小学1年生で卓球競技を始める。小学6年生で初参戦した全日本選手権で3回戦に進出し注目を浴びるようになる。2012年ロンドンオリンピックで男女を通じて史上初のシングルス4強入り。団体でも史上初のメダルを獲得。リオデジャネイロオリンピックでは団体で銅メダルを獲得。2017年の世界選手権では、混合ダブルスで日本人選手48年ぶりとなる優勝を果たす。2021年の東京オリンピックでは、日本のキャプテンとしてチームを引っ張り、団体で銀メダルを獲得。2023年5月、現役引退を発表。引退後は全国各地を訪ね、卓球を通じて経験した卓球の魅力、スポーツの楽しさを伝えている。
水野:すごく嬉しいことに、石川さんはいきものがかりの楽曲をカラオケで歌ってくださっているとか。
石川:はい、もちろんです!
水野:それを共通の知人であるメイクさんから伺って、ぜひいろんなお話を聞いてみたいなと思って。
石川:ありがとうございます。よろしくお願いします!
水野:この対談Qは、いろんなジャンルの方と一緒にひとつのことを考えていく、というコーナーでして。石川さんは、卓球競技のトップレベルにいらっしゃって、緊張の極致を経験されてきたと思います。そして今、競技生活を終えられて、またいろんな新しい挑戦をされていますが、どういう日々の切り替えをされているのか、リフレッシュをされているのか、そういうお話を伺えたらなと。まず、音楽はお好きなんですか?
石川:大好きです。毎日、必ず聴きます。選手時代も試合前や移動中、ずーっと聴いていました。
水野:スポーツ選手の方で音楽がお好きな方、多いですよね。どういう曲を選びがちですか?
石川:私はその時々に合わせていますね。すごく緊張しているときは、スローテンポな楽曲を聴いて、気持ちを落ち着けたり。逆にちょっとテンションを上げたいときには、かなりアップテンポな楽曲を聴いたり。
水野:試合前にプレイリストとか用意されるんですか?
石川:それはあまりしないです。その大会によって「これ!」と思いついた楽曲を聴いています。なんか、音楽を作っている方にお会いできる機会って本当にないので、今日はすごく嬉しいです。
水野:もうなんでも訊いてください(笑)。
「じょいふる」をチームみんなで
石川:2012年のロンドンオリンピックのときに「風が吹いている」を作られたじゃないですか。当時、私は選手として初めてのオリンピックだったんですけど、「どうしてこの気持ちがわかるんだろう?」って。
水野:本当ですか!
石川:やっぱり<ふるえる>ぐらい緊張したんですね。そういう思いをどうやって書かれたんですか?
水野:いやぁ…当時、実際に出場されていた方にそんなふうに言っていただけて、すごく大きな感動があります。当然ながら、僕はオリンピックに出たことがないから、何年も練習を繰り返し、人生を賭けて勝負される、そして多くの方に応援されるあのプレッシャーのなかでの競技……その心境がどういうものかって想像もつかないんですよ。でも、そこにちょっとでも追い風になるような楽曲じゃないといけないなと思って。
石川:はい、はい。
水野:様々なスポーツの名シーンを観て、このドラマティックなシーンに楽曲が流れたとき、ちゃんとハマるものを……みたいなことをたくさんイメージしながら書いていましたね。
石川:サビというか、タイトルはどうして「風が吹いている」にしたんですか?
水野:2011年に東日本大震災が起きて、その震災後のオリンピックだったじゃないですか。だから、もちろん選手の方々は頑張っているけれど、世の中の状況的にはまだなかなか落ち着いていなくて、選手を応援する余裕がないひとも結構いて。もっと厳しいことを言えば、「今オリンピックを応援している場合じゃない」という批判をされる方もいましたよね。
石川:はい。
水野:でも、そこに何かの希望を見出して応援する僕らみたいなひとたちもいて。いろんな意見があって、そのどれをも包みたいなと思ったんです。頑張っているひとだけじゃなく、それを応援できないひとも含めて包めればなと。だから、まったく意見や状況が違っても“同じ風のなかにいる”ことは確かだ、と歌えたらなと。
石川:当時、すごく必死だったので、「風が吹いている」を聴くとその自分を常に思い出します。音楽って、誰かの人生に入っているじゃないですか。そういうものを作るって、本当にすごいなって。あと「じょいふる」も大好きで。2016年のリオデジャネイロオリンピックのとき、初戦で負けてしまって、人生でいちばん落ち込んだんです。そんな「あぁ、どうしよう…」というときに、あの歌をカラオケで歌わせていただきまして。
水野:マジっすか!あのときに!
石川:チームみんなで歌ったんです。そして、そこから気持ちを持ち直した。正直、完全に切り替わったわけではなかったんですけど、持ち直すことができたんです。その結果、団体戦では全勝してメダルを持ち帰ることができたので、本当に「じょいふる」ありがとうございます。
胃が痛くて、震えるような緊張ができるって貴重な機会
水野:まさかあの曲がそんな…。でも競技中はまさに、思うような結果が出なかったり、自分では予想もしなかった敗戦があったり、それでも次の試合がやってきて……それってすごく精神的に負担のかかることだと思うんですが、そういうときには、どうやって気持ちの切り替えをされていたのですか?
石川:とくにオリンピックの場合は「これが人生で1回だけのチャンスかもしれない」と挑む舞台なので、結果が出ないときには、すぐに切り替えるのは難しかったです。でも逆にまだ団体戦でチャンスがあったからこそ、「このまま落ち込んで帰ったら、一生後悔する」みたいな気持ちが強くて。
水野:そうなんですね。
石川:で、団体戦で1回勝って、次に進めたときにはもう「絶対にメダルを取って帰る!」と、かなり切り替えられていました。そこはよかったなと思いますね。
水野:そういう極限の切り替えを何度も経験されているじゃないですか。競技生活を終えて、その時代を振り返られるようなフェーズに入った今、そのときの経験ってご自身にどういうふうに影響していますか?
石川:あのときはハイプレッシャーだったなと、改めて感じています。今でもすごく緊張することはあるんです。今年、パリオリンピックでインタビューをさせていただいたときも。でも、選手時代のあの経験があったからこそ、同じような緊張が来ても大丈夫というか。まぁ、大丈夫ではないんですけど(笑)、「これだけ胃が痛くて、震えるような緊張ができるって貴重な機会だな」と思えるようになりましたね。
文・編集: 井出美緒、水野良樹
撮影:西田香織
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:SALON Coteau (サロン コトー)
https://daikanyama.chacott-jp.com/salon/about/
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