AIはパートナー。他者とコラボしている感覚に近いです。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、現代アーティストの草野絵美さんです。

草野絵美(くさのえみ)
1990年、東京生まれ。慶應義塾大学SFC 環境情報学部を卒業。歌謡エレクトロユニット“Satellite Young”を主宰。歌唱・作詞作曲・コンセプトワーク・MVディレクションを担当しており、2017年には世界最大の音楽フェス「SXSW」に出演。個人の活動としては、イベント・CM・ラジオ・TVへの出演や執筆などの傍ら、広告代理店勤務の経歴を活かし、コンセプトプランニングやミレニアル向けコンテンツのコンサルティングなども行う。
とにかくレトロな文化が大好き

水野:アートやものづくりに興味を持ち始めたきっかけというと?
草野:私が10歳くらいの頃、ちょうどインターネットが普及し始めた時期で。そのときからすでに何かを作っていたんです。お人形の洋服を作って、デジカメで写真を撮って、それをウェブサイトにアップロードしたり。するとリアクションが返ってきて。「小学生なのに生意気だ」と叩かれたこともありました。そうやって常に発信しながら作り続けてきたので、ものづくりは職業というより、もう私にとって自然な感覚かもしれません。
水野:ご家族や友人に見せるというより、最初から不特定多数のひとたちへ見せていたんですね。
草野:そうですね。当時、“ブライス”という人形が好きで。バービー人形に似ているんですけど、顔がグレープフルーツくらい大きくて、目がぎょろっとしている。その人形好きなひとたちのコミュニティがオンライン上にあったんです。70年代に1年間だけ発売された人形なんですけど、そのレプリカ人形があって。それを代官山まで行って、誕生日に買ってもらいました。今思うと結構、オタク気質でしたね。
水野:10歳でその人形にたどり着くのがすごい。
草野:10歳のときに、うちに初めて家族用のパソコンが来たんですよ。そこからネットサーフィンができるようになった影響が大きいと思います。“ブライス”はパルコのコマーシャルで使われていて、誰がクリエイティブを手掛けているのか検索して見つけました。
水野:当時から、ものづくりを仕事にしていくというビジョンも見えていたのでしょうか。
草野:最初は“フォトグラファー”という言葉すら知らなかったので、「写真を撮る仕事があるんだ」とか、「お人形の洋服を作っているひともいるんだ」とか、「被写体が人形でもいいんだ」とか、少しずつ学んでいって。なので、「こういう職業のひとになりたい」というビジョンから入ったわけではない気がします。なんなら今でも「自分が何をやっているか」は、よくわかってないというか(笑)。

水野:影響を受けたアーティストはいますか?
草野:とにかくレトロな文化が大好きで。“ブライス”も70年代の服を着ていましたし、ヒッピーカルチャーも魅力的でしたし。音楽でいうと、私は90年代生まれですが、80年代の昭和歌謡が好きで。マドンナや森高千里さんをよく聴いていました。とにかくキラキラしていて。当時は、ああいう派手な衣装のアイドルも少なかったので、昔のバラエティ番組のアーカイブを観るのも好きで。もちろんモーニング娘。とかも普通に好きでしたよ。
水野:草野さんはちょうどモーニング娘。世代ですよね。
草野:まさにそうですね。モーニング娘。の影響を受けたアーティストとかをディグっていくと、バナナラマとか80年代のディスコポップにたどり着く。そこからまた背景を彫るのが楽しかったんです。でも、とくに60~80年代のカルチャーに対する憧れや執着が異様に強くて。
水野:今、90年代後半や2000年代前半が“レトロ”として語り始められている時期ですよね。そこに興味を持っていくこともあるのでしょうか。
草野:あると思いますが、70年代や80年代のような、「みんな共通でこうだったよね」という美意識や憧れのようなものをそこまで強く感じなくて。たとえば、2010年に流行ったアイテムというと、かんかん帽やスカーフ巻きなどがありますが、“濃さ”はあまりない気がします。やっぱりグローバル化が進んで、ソーシャルメディアが出てきた影響は大きいですよね。
水野:草野さんの作品は、レトロなモチーフと、AIなどの現代的なテクノロジーを融合されているのがとてもおもしろいですよね。70年代や80年代をモチーフにすることで得られる強さや伝搬性を、どのように捉えていますか?

草野:私の作品を見て、海外の方が「すごく懐かしい」と言ってくださったり、日本の80年代を経験していない若い世代の方が「強く惹かれる」と言ってくださったり、そういう“ノスタルジーの力”はあるなと思っています。どの時代も、若者が新しい文化を生み出すなかに、前の世代への反骨精神があったりするじゃないですか。そういう空気を感じることで、いろんな思いが溢れるのかもしれません。
水野:時間の流れやその背景も文脈として楽しむことができるんですね。
草野:そうですね。たとえば、私は80年代のタケノコ族の写真を見たとき、「ここに映っている、肌がピチピチの若い子が、今は60歳ぐらいなんだろうなぁ」と思ったんです。原宿の風景や建物は一緒でも、そこに立っているひとの服装は違う。そこに人生の短さを感じて、切なくなりました。
水野:たとえば、タケノコ族は日本の文化圏での出来事ですが、海外の方がそこに共感したり、懐かしさを覚えたりするのもおもしろい。
草野:何かしらの共通点があるのかもしれません。タケノコ族も、日本独自のものではあるけれど、当時のディスコカルチャーやグラムロックファッションなどに影響を受けている部分も多いから。あと、シティポップの再ブームが起きたことでYouTubeを観ていると80年代の日本の映像が流れてきて、そこに憧れを持つひとも増えていて。ネットの海でいろいろ見つけられたのだろうなと思いますね。
体験したことがない時代を、1から作ってみたい

水野:AIという最新テクノロジーを使うことが、作品に与える影響についても教えてください。
草野:少し専門的な話になりますが、生成AIって膨大なデータから、特徴を抽出して再構築するんですね。でもその元データは、たとえばOpenAIやGoogle、中国の企業などが持っている巨大なデータセットが中心で。だから、日本のニッチなカルチャーを作ろうとしても、そもそも情報が入っていない。「タケノコ族を出して」と言っても、出てこないわけです。
水野:なるほど。
草野:だから、タケノコ族が影響を受けたであろうものを組み合わせて、「タケノコ族とは何か」ということを、まったくタケノコ族を知らない外国人に向けて英語で説明するように、プロンプトを重ねたりしていきます。すると、ちょっと歪められたものが出てきたり。あと、当時はドローンなんてありませんでしたが、AIではドローンショットで映像にできたりもして、そこがおもしろいなと思います。
水野:時代のコピーペーストではなく、“再構築”なんですね。
草野:まさに“再構築”に興味があります。私自身も体験したことがない時代を、1から作ってみたい。もしかしたらそれは違う世界線のタケノコ族に見えるのかもしれませんし。AIを触る少し前、Satellite Young(サテライトヤング)というバンドをやっていたときも、近未来の80年代アイドルという設定にしていたんです。AIの歌やテクノロジーをテーマにしていて、そういう歪みにおもしろさを感じますね。
水野:テクノロジーに惹かれるのはなぜでしょう。
草野:なぜでしょう…。でも本当にSFが好きなんですよね。とくにタイムスリップする話とか。
水野:ベタに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか。
草野:大好きですね。好きすぎて、中3ぐらいのときに『バック・トゥ・ザ・フューチャー 4』を二次創作で書いたことがあるくらいです。
水野:まじですか! でもそれも、今の作品と通ずる部分があるというか、“再構築”ですね。
草野:そう、再構築ですね。私、もともとテックに強いわけじゃないんですよ。プログラミングも苦手でしたし理系でもない。どちらかというと文系タイプ。でも、だからこそ、よくわからない専門用語が聞こえてくると心躍るというか。いつかSF小説も書いてみたいなと思っています。
水野:草野さんがずっと続けている習慣やこだわりってありますか?
草野:もう、いっぱいあります。私は習慣でできています。直接、ものづくりに関係するというより、普段の生活導線を習慣化していて、それをカレンダーに入れているんです。たとえば、「トイレに行ったらスクワットを5~10回する」とか。そうしたら1日5回はトイレに行くので、合計50回は毎日スクワットもできる。
水野:ものすごく健康的で賢い!
草野:腹筋を割るために、子どもに本の読み聞かせをしながら、足を45度浮かせたり。作品づくりの時間も、ちゃんとカレンダーに入れるようにしています。そうしないと、打ち合わせをしてしまったり、怠けてしまったりするから。それを防ぐためにも、「この時間は作品をひとつでも作る」と決めて、カレンダーに従って生きています。
水野:それはいつ頃から?

草野:30代になって、自分の弱みを知ってからだと思います。結局、精神状態がいちばん大事だから、とにかく自分が楽しく仕事できるように、苦手なこととかも熟知しておこうと。20代の頃とかは、ジムの会員になっても、1ヶ月行かずにお金を無駄にして終わっていました(笑)。
水野:まさに今の僕です。現在進行形です。
草野:そうなんですか(笑)。水野さんは何か習慣やこだわりありますか?
水野:僕、今42歳なんですけど、最近やっと気づいたことがあるんです。自分は長時間、何かをコツコツやることが無理だと。曲作りも大体1〜2週間でやるんですけど、それも短距離走じゃないですか。短距離走を繰り返すほうが自分には合っている。だから習慣は諦めて、「短距離走を積み重ねていこう」と思うようにして、自分を管理しているんですよね。
草野:私も短距離走タイプです。コツコツやっても、永遠に終わらないような制作もありますし、逆にひらめいた瞬間、一気に終わることもある。締め切りギリギリでやっとアイデアが思いつくことも多いです。
水野:アイデアは、展示会などのプロジェクトごとに出すのですか? それともひとつの作品ごとに?
草野:プロジェクトごとですね。ただ、今は生成AIが本当に日進月歩で。数か月前に作っていたものに対して、「こういうことができるようになったよ」とか、「こんな機能が出たよ」とか、突然出てくる。そうなると試してみたくなるし、直前にガラッと変わることもよくあります。「動画にしてみよう」みたいな。
プロンプトを打って終わりじゃない

水野:AIという技法とはどのように向き合われていますか?
草野:それは今、アート界でも非常にホットなトピックですね。AIって、写真的アプローチでもあり、相談相手でもあり、コラボ相手でもあり、ツールでもあり、いろんな側面があって。私自身は2017年頃から粗い生成AIを自分のMVに使ったりしていましたが、当時は操作も難しくて、プログラミングの知識がないと触れないようなレベルだったんですよ。とてもハードルが高かった。
水野:なるほど。
草野:でも、今は写真的な表現が無限にできるようになっているじゃないですか。さらに、自分のモデルを作って、自分だけの世界観ごと生成できる。画像同士を組み合わせたり、動画に変換したりもできる。ツールではあるんですけど、行き詰まったときにはChatGPTに、「このプロンプト直して」とか、「このモデルはどうやって作るの?」とか、相談したりもします。だからAIはパートナー。他者とコラボしている感覚に近いですね。
水野:生成AIという仲間のようなツールと、コラボレーションすることで作品が生まれているんですね。
草野:しかも、カスタマイズ性と不確実性が高いツールなんです。私は昔から「自分の枠外に出たい」と思っていたタイプで。生成AIは、想定していなかったものを出してくれたりする。自分の目指すビジョンを拡張してくれる。それが大きな魅力です。
水野:一方で、生成AIは一応の“完成品”を出してくれますよね。そのうえで「これは完成していない」というジャッジはどのように?
草野:写真に似ているかもしれません。写真って誰でも撮れるし、何回でもシャッターを押せる。そこから選んでいくのは人間ですよね。AIも同じで、何百枚も生成して、「これがベストだ」と選ぶ。そのあとに、色味を調整したり、複数を組み合わせて中間的な画像を作ったり、別のモデルをかませて雰囲気を変えたり。動画にモーフィングでつなげたりもします。プロンプトを打って終わりじゃない。そこはちゃんと伝えたいですね。
水野:草野さんの将来的なビジョンはお持ちですか?
草野:具体的な目標もありますが、今とくに意識しているのは、この生成AIを取り巻く議論で。生成AIがアートの歴史においてどんな意味を持つのか、それを作品として落とし込みたい。そして、自分の作品が美術の文脈でちゃんと評価されるようになっていきたい。それが目標ですね。
水野:なぜアート史において、何かを刻むことに惹かれるのでしょう。

草野:こんな時代ってなかなかないと思うんですよ。人間が文字を発明したとき、インターネットが登場したとき、そういう“黎明期”はおもしろい。そこで行われている議論だったり、そこに興味があって活動している世界中の友だちができたり、それは自分にとって刺激的であり、財産なんですよね。
水野:怖さはありませんか。
草野:もちろんありますよ。今まで必要だった仕事がなくなる可能性。プライバシーの問題。あと、「生成AIが政権を乗っ取ったらどうしよう」とか。そういう怖いことはたくさんある。でも、だからこそ、自分で生成AIを触ってみたいんです。アーティフィシャル・インテリジェンス、あるいは、エイリアン・インテリジェンスと、人間がどう共存していくか。私の作品がその議論のきっかけになることができたらいいなと思っています。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
草野:恐れずにChatGPTから触ってみてください。1時間くらい触ってみると、「人間が得意なこと」と「AIが得意なこと」がなんとなくわかってきます。すると、「ここはやっぱり自分にしかできないな」とか、「ここはAIに任せて、自分は別で強みを発揮しよう」とか、わかると思うので。とにかく触ってみることがおすすめです。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/



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