対談Q 水野良樹 × 吉岡聖恵

「この曲は“あなた”に届く可能性がある」ということを信じているから。

水野:吉岡さんには、7年前、HIROBAが開設されたぐらいの頃に出ていただきました。今回はデビューから20年が経ち、いろいろな経験をした上で、「いい歌って何だろう?」というお話ができたらと思います。

Woman with dark hair in an orange knit sweater sits and speaks in an office setting, facing forward.
吉岡聖恵
1999年11月3日、水野良樹と山下穂尊によるユニット“いきものがかり”が行っていた路上ライブに飛び入り参加したことがきっかけで、“いきものがかり”のボーカルとなる。地元の厚木・海老名での精力的な活動から次第に注目を集め、2006年3月「SAKURA」でメジャーデビュー。「ありがとう」「YELL」「ブルーバード」「風が吹いている」など数々のヒット曲を世に送り出している。2017年1月に「放牧宣言」を行い、一時グループ活動を休止。2018年11月の「集牧宣言」で活動を再開する。グループ活動休止中の2018年2月にソロ活動を開始。2021年6月に同年夏をもって山下穂尊がグループを離れることを発表し、2人体制での活動がスタートした。

“吉岡聖恵”という魚がいる

Two people sit in office chairs facing each other in a recording studio, smiling as they converse, with audio gear and a wooden floor around them.

水野:自分の歌にはどういう特徴があると思う?

吉岡:ストレートっぽいよね。いろんな歌い方があるじゃない。癖があるとか、個性を出したいとか。そういうところをいちばん最初に「いいね」と言われていたら、そちらの方向に進んでいたのだと思います。でも、デビュー当時に、「まっすぐ強く明るく出すことが、声のよさだよ」と言われたんです。それを信じてしばらくやってきて、今は自分でも、そのとおりかなと感じる。あと、声が暗くはないね。

水野:たしかに。暗くはないね。

吉岡:細くはないし、太すぎもしない。奇をてらった歌い方もしない。だから、個性が強すぎない声だと思う。

Man in a brown shirt sits in an office chair, hand near mouth, looking to the right in a workspace with equipment and desk in the background.

水野:歌を“表現すること”についてはどう捉えている?

吉岡:いきものがかりの歌は、「フラットに捉えてもらえるように歌いたい」とは思っているかな。たとえば、歌詞に対して私が共感したとするじゃないですか。だからといって、「この歌が大好き!私もそういう気持ちなんだよね!」という表現の仕方で届くとは限らないというか。基本的には“物語の情景が思い起こされる朗読”みたいな感覚かもしれない。

水野:それを丁寧に積み重ねていった結果、「やっぱりこれは聖恵さんにしか歌えないよね」と言われるようなものになるのは、どうしてだろうね。

吉岡:“吉岡聖恵”という魚がいて。カツオだったらカツオ出汁、トビウオだったらアゴ出汁、そういうものが私の歌からも出ているのかな。

水野:基礎を固めて土台はしっかりするけれど、そこに乗る人間がより明確に出るんですね。

吉岡:ものや言葉に対する捉え方って、ひとそれぞれ違うじゃない。だから、たとえば「茜色の約束」だったら、“私が描く茜色”が出るだろうし。逆に他のシンガーの方が「SAKURA」を歌うときには、桜の色も枝のしなり方も、私とは思い描いているものが少しずつ違うだろうし。歌い口はまっすぐだとしても、その物語に対する感情というか、好みというか、そういう本音はどうしても出てしまうんだろうなと思う。

「ありがとう」の<あなたを>がチェックポイント

Two people sit in a recording studio, surrounded by sound and video gear and racks of equipment, talking to each other.

水野:デビューから20年が経って、聖恵的には自分の歌が進化・発展しているような感覚はある?

吉岡:最近、声が出しやすいですね。

水野:それは声帯の状況ではなく、技術的な部分で?

吉岡:姿勢です。立ち方や体重の乗せ方を習って、「このあたりに体重を乗せて、こういうふうに立ったら声が出しやすい」ということを学び始めたんです。それで歌いやすくなったところはある。

水野:突き詰めると技術だね。

吉岡:あと、基本的に大きい音・小さい音が出せるとか、息の混ざった声が出せるとか、バリエーションは多いほうがいいじゃないですか。そして、それを本番ですぐに出せることがいちばん理想的ですよね。考えるより早く。たとえば、「おお、思ってもいないところでフェイクした」って、あとから自分が気づくレベルで。

Side profile of a smiling woman with dark hair in an orange knit sweater and white collar, in a music studio.

水野:やっぱりずっと技術の話をしているのがすごいと思う。

吉岡:そういう引き出しがなるべく多くあったらいいなと思っています。だから、「こういう歌い方があるんだ」って、他の歌手の完コピをしてみたり、教えてもらったり。その結果、「おお、全然できなかったのにフェイクが出た。あのときにマネしていたやつかな」とか、「あのトレーニングがあったから、声が滑らかに上までいったな」とか、思えるときは嬉しいですね。

Music production studio setup with a small MIDI keyboard, mouse, and pen holder on a wooden desk, with studio monitors and gear in the background.

水野:自分のなかで、理想の歌はありますか?

吉岡:まず、理想って曲をもらってから生まれるんだよね。もらった曲を「いいじゃん」って感じに歌えたとき、ひとつの形にできたとき、「理想を実現できたな」と思う。だけど、あくまで“理想が叶った瞬間”なの。また久々に聴くと、別に満足はしないというか。

水野:「今だったらもっとこうするな」とかが出てくる?

吉岡:それもある。あと、他の曲では、その理想形は通用しないんですよね。だから、曲をもらうごとにその時々の理想形はあるけれど、自分のスタイルの理想形はあまり考えてないのかもしれない。でも、理想の基準となるような曲はあって。先日、尊敬する先輩にも言われたことで、そのとおりだなと思ったんだけど。「ありがとう」の<あなたを見つめるけど>の<あなたを>って、かなり上のほうで滑らかにいかなきゃいけないフレーズで。

Close-up of a person in dark clothing with hands resting or clasped on their lap.

水野:結構、難しいよね。これは作曲者の責任です。

吉岡:でも、それがライブで綺麗にできている状態は、ひとつの基準になるなと。技術的なチェックポイントだね。

水野:「心を込めて歌うとはどういうことですか?」と訊かれたら、どう答える?

吉岡:言っていいですか? 歌に対する尊敬、じゃないでしょうか。

水野:歌に対する尊敬。

吉岡:歌という存在に対する敬意というか、愛情というか。なんか堅苦しいですね。つまり「歌が好き」ってことなんだと思います。しかも、歌は自分だけのものではなくて、みんなのものなんですよ。いきものがかりとして発表する歌は、みんなのものになってほしいと思っている。だから余計、大切にしますよね。

水野:ライブでも同じ感覚?

吉岡:ライブでは、歌ともっとフレンドリーに付き合えたりします。肩を組むような感覚というか。たとえば、フレーズをちょっと変えてみたり。あと、実は逆にパーソナルなところを出せたりもする。たとえば「気まぐれロマンティック」だったら、私の遊びの範疇というか、「へーい!へーい!」ってふざけているときの自分もエッセンスとして出してしまう。実際に楽しいし。そういうものは歌にとって、いい方向にいくと思います。

やっぱり歌には、人間味が出てしまう

Man with dark hair in a brown shirt, seated in an office, looking to the right (side profile).

水野:どうして「歌はみんなのもの」という考えに行き着いたんだろうね。山下とか俺が20歳くらいのときに、そういう話をしたわけではないじゃん。

吉岡:でも、リーダーはインタビューとかで、「別にこいつの歌を作ったわけじゃないんですよ」とか何回も言っていて。それに対して最初は、「私が歌っているんだけど! そこまで言い切らなくていいじゃん!」とかは思っていたよ(笑)。山小屋に行ってしまった山下くんは、「でも聖恵もこういうところがあると思うから」って、寄せてくれているようなことも言ってくれていたんですけど。

水野:俺は全然違ったんだね。

吉岡:だからこそ、歌について考えた部分はあるね。というか、「え、じゃあ私はどうすればいいの?」って当時は思ったんだけれど。でも結局、リーダーが確信を持って書いてきてくれる物語だから。“まず歌ってみる”という姿勢になったのが大きいかな。歌いながら自分との距離感を確かめてきたところはあるかもしれない。

Two people in a recording studio momentarily mid-conversation, gesturing with their hands and smiling.

水野:自分のたどってきた道って、再現性があると思う? 

吉岡:でも、曲は大きいよ。曲の方向性がさ。

水野:まあ、出会いもあるか。

吉岡:うん、他の道がわからない。リーダーやほっちの作った曲を歌わせてもらって、それを歌うために最適なのがこういう歌い方だったというか。「私ってこう思うんだよね」という内向きの矢印ではなく、「こういう物語があるんです」という提示をして、みんなに共有する。「この曲は“あなた”に届く可能性がある」ということを信じているから。だから、パーンと前を向けるところはある。ありがとうございます。

水野:いやいや。僕の曲づくりも結局、表面的には聖恵をイメージはしてないけれど、聖恵の歌声で育ってきているからこうなっているんだと思います。10代の思春期の頃から、「自分を表現したい」ということが、叶わないようなグループ構造だったでしょう。そうやってずっと“吉岡聖恵というボーカルに歌われる”ということで適正化されてきた。結果、僕は吉岡の歌に作られた作曲家でもあるんですよ。お互いに相乗だよね。

吉岡:そうだね。

水野:特別なものじゃないのに、特別になっているのが、いきものがかりなのかもしれないな。それがおもしろいんだよね。あと、20年経ったからこそ思うこともあるんです。たとえば、『超いきものがかりフェス』にあれだけいろんなひとに集まっていただいて、関わってくださった方々に「おめでとう」と言っていただいたじゃないですか。それは、“人間として愛していただいた”結果があるということだと思うんだよ。

吉岡:うん、フェスをしたことで、「すべてを否定するのもおかしいぞ」って思ったよね。

水野:そして、改めて「人間味って何?」とも考えます。僕はずっと人間性には頼りたくなかったわけ。イヤだったというか。否定してきたというか。だけど、もう否定できない段階まで来たなって、最近は思う。……という吐露なんだけれど。

吉岡:やっぱり歌には、人間味が出てしまうんだと思うんだよね。リーダーも自分のことを書いてなくても、人間味は出ちゃう。でもそれがすごくいいエッセンスだし、料理でいうところの出汁とか、隠し味みたいなものなんじゃないかな。

Two people sit in a recording studio, smiling, with audio equipment and mixing desk behind them.

水野:今後はどんなシンガーになっていきたいですか?

吉岡:私は“自然な歌”を歌いたいですね。声帯も変わっていくとは思うんですけど、あまり衰えを感じさせず、クリアな声を保ちたい。高音も低音も綺麗に出る声で、いろんな曲にトライしたい。先日のフェスで、スキマスイッチさんと「風が吹いている」をやらせてもらったでしょう。あのときの大橋卓弥さんの歌い出しみたいな。息とともに自然に歌が始まる。ああいう歌が歌えるようになりたいと思います。

水野:今回、改めて“いきものがかりは珍しいグループだ”ということはよくわかったよ。こういうタイプのシンガーと、こういうタイプの作り手はあんまりいないんじゃないかな。仮に、同じようなことを考えていても、それを素直に表現できるグループは少ないかもしれない。もっとスター性を求められて、それに応えていかなければいけないタイプのひとは多いから。でも、人間味はそろそろやっていかないといけないなとは思うね。

吉岡:人間味、始めましたか?

水野:もう、しょうがない。

吉岡:20周年で?

水野:そう思った。ここまで続いてしまったから。それでごはんを食べているし、たくさんの方が会場に来て、我々を観てくださっているわけだから。もう、しょうがないよな、って。人間味よ。

吉岡:「人間味よ」で終わっていく対談…(笑)。

Two smiling people waving at the camera on a sunny city street outdoors.
文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:軍司拓実
ヘアメイク:内藤歩
スタイリング:作山直紀
衣装:ニット/Kota Gushiken イヤリング/ハクフルール リング/ヘンカ・gramii
監修:HIROBA

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