『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』落合翔平

細かいところまですべて描かないと、嘘がバレてしまう気がする。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、画家の落合翔平さんです。

Man in a yellow sweatshirt speaks into a professional microphone during a podcast recording, gesturing with his hands on a desk with bottles nearby
落合翔平(おちあいしょうへい)
埼玉県大宮生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻を卒業後、2018年から画家として活動を始める。日用品や玩具など、身の回りにあるアイテムを描いたペインティングやドローイングを発表してきた。ダイナミックで予想不能な形状や立体感、力強い筆圧で描かれた線画が特徴。ファレル・ウィリアムスが主催するデジタルオークションハウス「JOOPITER」に作品を提供するなど、国内外で活動の幅を広げている。2023年にはTerrada Art Complex II のYUKIKO MIZUTANIで個展「THIS IS OCHIAI SHOHEI」を開催。

強みは“熱量むき出し”なところ

Three people in a radio studio sit at a white table with microphones and headphones, a clock on a back wall, and a person wearing a mask in the middle.

水野:落合さんは、もともと芸人をされていたと伺いました。

落合:でも本当に少しだけで、やっていたと言えるほどではなくて。小さい頃から芸人になりたくて、半年ほど舞台にも立ったのですが、ほとんどやっていないに等しいですね。もともと、「ひとを笑わせられることって最高だな」と思っていて。M-1の覇者になりたかったんですけど、途中で心が折れてしまって。

水野:笑わせることに惹かれた理由は何ですか?

落合:小学校受験をするような環境で育ったので、わりと真面目な子どもだったんです。でも一服の清涼剤のように『クレヨンしんちゃん』や『志村けんのバカ殿様』を観て、ものすごく楽しくて衝撃を受けて。「こんなにふざけていいんだ!あっち側になりたい。ひとを笑わせたい」と思ったんですよね。

水野:人生のなかで、絵にはいつ出会ったのですか?

落合:高校生くらいですね。「美大っておもしろいらしい」と聞いたのがきっかけでした。もともと自分はメインカルチャーが好きだったのですが、サブカルに詳しい友だちがいて、いろいろ教えてもらううちに、「なんだこの世界は」と思って。そして、その先に美大があると知って、「とてつもなくおもしろいひとがいそうだ。行ってみたい」と思ったんです。そのためには、どうやら絵を描かないといけないらしい、というところから始めました。

水野:絵にもいろんなジャンルがありますが、最初はどこを目指したのでしょうか。

落合:自分はいちばんかっちりしているプロダクトデザインを選びました。自分が高校生の頃、スターデザイナーと呼ばれるひとたちが多くて。深澤直人さんや吉岡徳仁さんの作品を見たときに、頭に稲妻が走ったんです。「こんなかっこいいものを作りたい!」と思って、絵ではなくプロダクトのほうを目指しました。

水野:すぐに憧れてしまうのですね。

落合:本当にそうなんです。小さい頃も『めちゃ×2イケてるッ!』とか『はねるのトびら』とかにものすごく憧れていましたし。

Person in a black sweater resting chin on hand, speaking into a microphone in a studio setting

水野:資料を拝見したのですが、「フジテレビに入りたい」ではなく「フジテレビになりたい」と思っていたそうですね。

落合:もうフジテレビがやっているものすべてが好きで。「俺がフジテレビを継ぐぞ!」ぐらいの勢いで、個人的にフジテレビに行ってみたりしていました。

水野:フジテレビのストーカーじゃないですか(笑)。でも、それでなぜ今、画家に?

落合:大学卒業後、フジテレビで『笑う犬』などを手がけていた吉田正樹さんに弟子入りして、お手伝いをしていました。そして「ちゃんとお笑いをやってみよう」と思ったのですが、あまりに上がり症で。舞台で持ち時間が3分あるんですけど、1分半で終わってしまったり。すべてネタが飛んでしまったり。これはマズいなと。一方でずっと絵も描いていて、そちらは褒めてもらえていたので、それなら絵をやろうと思ったんですよね。

水野:絵に自信はありましたか?

Podcaster wearing a yellow shirt and black headphones speaks into a microphone in a studio.

落合:めちゃくちゃありましたね。大学ではデザイン科だったのですが、課題はあまりやらずに絵ばかり描いていて、コンペにも出していたんです。それでわりといいところまで行けていたので、「自分の絵は最強だな」と思っていて。それで、絵のほうに進もうと決めました。

水野:ご自身の絵のどんなところが強みだと思いますか?

落合:ピュアさ全開というか。「子どもの絵みたい」と言われるんですよ。そういう熱量むき出しなところがいいのかなと思っています。

水野:その熱量は、絵の対象へのものですか? 絵を描くこと自体に対するものですか?

落合:両方あります。対象物に対しても、たとえば、カップを描くときに、プロダクトデザイン科だったので、文字のデザインの大変さもわかっていて。「すべてちゃんと描いてあげないと、職人さんに申し訳ないな」という感覚があるんです。あと単純に、全部描きたいんですよね。なんでだろうな。細かいところまですべて描かないと、嘘がバレてしまう気がする。

子どものように“楽しい線”を探している

Man wearing black over-ear headphones speaks into a foam-covered microphone in a recording studio, side profile.

水野:どうしてそんなに対象に興味を持てるのでしょうか。

落合:好奇心がすごく強いんだと思います。すぐ興味を持つし、憧れてしまう。車を描くときも、タイヤの構造を調べて、「ここがこう動くから回るんだな」と理解してから描くんですよ。あと、小さい頃に図鑑が好きで。クジラ大集合、カブトムシ大集合みたいな、画面パンパンに何かが入っているものが好きなんですよね。そういうところも今に繋がっている気がします。

水野:とはいえ、描いたものは現実とは違いますよね。ご自身のカーブがあったり、筆の強さがあったり。そこの違いはどのように愛するのですか?

落合:子どもって何も考えずに楽しく絵を描くじゃないですか。自分も同じように“楽しい線”を探している感覚なんですよね。だから出来上がったものに対しても、現実のモチーフ以上に、「いいなぁ」と思えるし、「世界最高峰だ!」みたいな気持ちになるんです。だから、最初は自分の絵を誰にも売りたくなくて、ただ見せるだけの展示とかもしていたんですよ。それくらい自分の絵が大好きなんですよね。

水野:誰かから見られることは意識しますか?

落合:少しはします。でも、自分が「いいな」と思うものを作ることができたら、みんなにもいいと思ってもらえるんだろうなという気持ちのほうが強いですね。

A man in a black sweater speaks into a microphone at a desk, gesturing with a raised fist in a studio setting.

水野:作品に対して、不安になる瞬間はありませんか?

落合:出たものに対する不安はあまりありませんが、描いている最中の葛藤はあります。とくに慣れないことを始めていったとき。最近だと、風景画を描いているんですけど、「この形、自分のいちばん気持ちいいものになっているのだろうか」と心配になったり。でも、そのなかで戦っていって、いちばんよいものを出していくしかないんだろうなと思っていますね。

水野:絵を描くときの題材選びはどこから始まるのですか?

落合:風景とか、好きなものから始まってしまいますね。わりと静寂や自然が好きです。たとえば、渋谷でも、にぎやかな場所というより、路地裏の落ち着いた渋谷に惹かれるんです。

水野:絵を描くときの角度というか、捉え方はどのように選ぶのでしょうか。

落合:写真を撮ります。どの角度がいいか、いろいろ動いて撮って、プリントアウトしてみて。でも、わりと自分の絵にはいろんな視点が入っているので、真正面のものが多いですかね。

水野:いろんな視点を混ぜ合わせるとき、頭のなかではどう整理しているのですか?

落合:描いている途中で、「ああ、やばい。今どの視点なんだろう」とわからなくなることがあって、そのたびに悩みます。でも、やっぱり「すべて見せてあげたい」という気持ちが強いんです。ひとつの角度だけだと描けない部分があると、別の視点も入れてしまう。結果的に、右や左の面も加えて、展開図のようにしてしまうんです。

Three people in a recording studio around a table with microphones and headphones; one person in a yellow sweatshirt speaks into a mic.

水野:最近は風景画をよく描かれているそうですが、惹かれる理由は何ですか?

落合:今までは、プロダクトのような固まったものを描くことが多かったのですが、もう少し動きのある、自然に近いものを描きたいと思うようになって。風景だと、画面に広がりや流れが生まれるんです。静物も好きですが、風景は画面以外のところまで想像できる感じがあっておもしろいので、自分でも描いてみたいと思いました。

水野:風景を描くとき、時間は意識されますか?

落合:僕は晴れ渡った空とか青い海とかが好きなので、朝や昼間に描いていることが多いですね。たとえば、高知県にある沢田マンションという建物を描いたとき、あまりにも高知の空が高く感じられて。それでもう一枚付け足して、「全部を空にしてしまおう」と描いたんですよね。それぐらい空が好きです。

水野:色合いはどのように選んでいくのですか?

落合:見たときの感覚ですかね。あと、浮世絵が好きで。グレーっぽいというか、濁った色合いが大好きなので、そういう色合いになることが多いと思います。経年劣化も好きなので、自分の絵を描き終えたあと、「雨ざらしにしておいたら、北斎に近づけるかな」とか考えたりします。

美容師さんから言われて、ハッとしたこと

Person with black over-ear headphones speaking into a microphone in a recording studio (side profile).

水野:浮世絵以外にも、外の作品から影響を受けることはありますか?

落合:子どもの絵とか。あと、アウトサイダー・アートを見ると、「素晴らしいな。敵わないな」と思って、影響を受けますね。

水野:何が「敵わない」と思うんですか?

落合:多分、自分にはまだ「こう見せよう」とか「見てほしい」とか、そういう気持ちがあるんです。でも、そういうものがないところ。自分のなかで完結しているところがカッコいいですし、潔いなと感じます。

水野:どうして我を離れると、作品っておもしろくなるのでしょう。

落合:難しいですよね。なぜだろう。そういえば先日、髪を切ったんです。そこの美容師さんが自分のインスタを見てくれていて、「いちばん最近、投稿していた電車の絵がすごくいいね。めっちゃパワーを感じた」と言ってくれて。そのときに、ハッとしたんですよね。その絵は、大学生くらいのとき、ただただ好きなものを描いたものだったから。そういうふうに見えるんだなって。

水野:純粋な気持ちを保つためには、どうすればいいんですかね。

Person wearing headphones speaks into a desk microphone in a soundproof recording studio.

落合:そうですよね。でも、絵を描くことはずっと大好きなので、そこはあんまり心配していないかもしれません。

水野:落合さんは、人物画は描きづらいそうですね。

落合:はい。表情が多すぎて追いきれないんですよ。シワの数とか、まつ毛の数とか、「どこまで描いたら終わりなんだろう」と思うと難しくて。描いていた時期もあったのですが、怖くなってしまったんですよね。でも、いつかは描きたいなと思っています。

水野:人物画では、相手の造形を見ているのですか?

落合:キャラクターを見ることが多いかなと思います。たとえば、立川談志さんとか、川端康成さんとか、自分がおもしろいなと思うひとを描いていて。そこはバラエティー好きなことが影響していますね。

Man wearing a yellow sweatshirt speaks into a professional microphone in a recording studio, wearing over-ear headphones.

水野:自画像は描かれないのでしょうか。

落合:描かないと思います。自分のことは大好きですし、自分のアトリエとか、作業している机とかは描きたくなるんですけどね。自分自身に対して描きたい気持ちはまだありません。

水野:これから何を描いていきますか?

落合:やっぱり風景画。サッカーが好きで、ワールドカップもあるので、スタジアムとか描きたいと思っています。あと、苦手なものも描きたいです。海とか山とか、自然物を描けるようになりたい。まだ描いてないものはたくさんあって、「大変だな。戦いに行かなければならないのか」という気持ちにもなります。でも、自分の作品が好きなので、「どういう絵になるのか楽しみ」と、ワクワクする気持ちがいちばん大きいですね。

水野:死ぬまで描くイメージですか?

落合:はい、そうですね。死ぬまで。本当に絵を描くことだけしかできないと思うから。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

落合:当たり前のことになってしまうのですが、自分の好きなことをとことんやりきって、諦めないでほしいです。僕はお笑いを諦めてしまったけれど、絵があったからよかった。絵を諦めないで、続けてきたから、今回ここに来ることができましたし。続けていればいいことがたくさんあるので、やり続けてほしいですね。

Two men sit on a white couch in a bright office, one in black and the other in a yellow sweatshirt, facing the camera.

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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