慣れないこと、普段やっていることと違うことがあると、僕は楽しい。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、映像作家の田向潤さんです。

田向潤(たむかいじゅん)
映像ディレクター/グラフィックデザイナー。1980年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業後、E.に入社しグラフィックデザイナーとして2年間在籍。その後Caviarに移籍し、映像ディレクターユニット・tamdemとしてミュージックビデオやCMをディレクション。2011年8月よりフリーランス。2018年よりCONNECTIONへ参加。きゃりーぱみゅぱみゅのミュージックビデオの演出を多数手がけている。
もうずっと楽しい

水野:子どもの頃から、映像には興味があったのでしょうか。
田向:映像が好きという意識はありませんでしたが、ひとりっ子なのでずっとテレビを観ていた記憶があります。バラエティとかアニメとか好きで。絵も描くのが好きでしたね。ドラゴンボールを模写したり、「ベジータ描いて!」って友だちに言われて描いてあげたり。
水野:そこからどのように映像の道へ?
田向:高校で進路を選ぶとき、みんなと同じように必死に勉強するのはちょっとイヤというか、無理そうな気がしてきて。「僕は美大に行くので、そんなに勉強はしないです」みたいな感じで言い出してしまったんです。結局、美大にも勉強は必要なんですけどね。そんなふうに適当だったので、二浪しましたが、なんとか美大に入って。グラフィックデザイン学科で、映像ではない、いわゆる平面のポスターとか新聞広告とかを学びました。
水野:グラフィックデザインのお仕事へ進まれようとは思いませんでしたか?
田向:いや、新卒ではデザイン会社に入って、2年ぐらい必死で働いたんです。でも、大学のとき自分で映像も作ったりしていて、それが楽しくて。「やっぱり映像がやりたい」と思って、こっそり転職活動を始めて。「いいよ、来なよ」と言われたので、デザイン会社を辞めて映像会社に入り、そこから映像を勉強し始めました。
水野:ジャンルでいうと、どういう映像を作りたかったのでしょう。
田向:僕は映画にもテレビにも興味がなくて、とにかくミュージックビデオが作りたかった。MTVでケミカル・ブラザーズの「Star Guitar」という曲のMVを観たとき、衝撃を受けすぎて。「これが作りたい!どうやったら作れるんだろう」と、まだお遊びみたいな感じでしたが、大学で自分でも作るようになっていきましたね。
水野:実際に仕事でMVを作るようになるのは、何歳ぐらいから?
田向:26~27歳ぐらいのときですね。映像会社でお仕事をいただいて。同じ年の相方と一緒にMVを作ったりしていました。「最高だな!本当にアーティストに依頼されてMVを作らせてもらえるんだ!」とふたりで寝ずに作業をして。最初に作ったのはフルCGの作品で、やればやるほど密度が上がっていくのがものすごく楽しくて。そこから今に至るまで最高の状態が続いている感覚です。
水野:ツラいと思うことはないですか。
田向:撮影が長いと、肉体的にツラいことはありますが、精神的にはまったく。もうずっと楽しいです。
「驚かせたい」という気持ちは常にある

水野:「こういうイメージで撮ってほしい」というリクエストには、どう向き合っていらっしゃるのでしょうか。
田向:完全にフリーで、「すべて考えていいですよ」と言われることも嬉しいけれど、どこから着手していいか難しくて。何かオーダーでヒントをいただけるとありがたいですね。そして、いただいたテーマに対してまっすぐ進んでいくと、その曲から誰でも思いつくような普通の映像になってしまうので、わざと脇道に逸れたりして。「あ、こういうところで元の道に戻れた」みたいなところがおもしろさにつながる気がします。
水野:きゃりーぱみゅぱみゅさんのMVを多数手掛けられていますが、どういう出会いだったのですか?
田向:映像の会社で4年半くらい勤めて、独立しようと思って、それをいろんなひとに宣言していたんです。すると、知り合いの映像プロデューサーの方から、「会社を辞めるなら、おもしろいMVをやってみない?」と言われて。きゃりーさんのチームが、デビューから一緒に長くやっていけるディレクターを探しているタイミングで、そこに紹介していただきました。
水野:きゃりーさんはコンセプトがしっかりあるので、それを映像化するのは大変な気がします。

田向:きゃりーさんはおもしろくて個性のあるひとで。その個性を活かしたいし、なんなら増幅させたいと思いました。僕も時間があったので、「持っている技術をすべて詰め込んで、むちゃくちゃやってやろう」と。それでデビュー曲「PONPONPON」のMVを作りましたね。当時、きゃりーさんは高校生だったのですが、すでにちゃんとした大人で。僕が作ったものを、「おもしろいですね」と真摯に受け止めてくださったのを覚えています。
水野:作品がどんどん広がっていって、いろんな反応が返ってくることに対しては、いかがでしたか?
田向:ちょうどきゃりーさんのデビューぐらいから、YouTubeでMVを観ることが一般的になってきたり、Twitterが普及してきたりして、コメント欄やSNSで作品に対するリアクションを見られるようになったんです。そこにはもちろん否定的な声もありましたが、とにかくみなさんのいろんな反応が嬉しくて。今でもMVを出したらコメント欄をよく見るし、それぞれの受け止め方が勉強になりますね。
水野:ご自身の作風は整理されますか? それともアーティストごとにまったく違う作品を作る感覚なのでしょうか。
田向:僕の作風ってあまりないと思っていて。学生のときはずっとモノクロ作品ばかり作っていましたし。あと、水野さんのようなクリエイターとも少し違って、完全に裏方だから、いただいた仕事を打ち返す感覚なんです。ご依頼いただければ、ポップなものもモノクロなものも作る。どんなお仕事でも、その方にとって最適だと思う作品を作りたいです。ただ、「驚かせたい」という気持ちは常にありますね。
水野:作るとき、どこにいちばん難しさを感じることが多いですか?
田向:企画を考えるときですね。大体、企画を作って、承認をいただいて、それを膨らませて演出プランを作るのですが、最初のおもしろい企画が浮かばないときはずっと煮詰まっています。でも、机に向かうような真面目な時間ではなかなか思いつかず。犬の散歩中など、力が抜けたタイミングで思いつくことが多いです。
朝ドラ125話分、125本を納品

水野:昨年は、NHK連続テレビ小説『おむすび』のオープニング映像を手掛けられたんですよね。
田向:ドラマのオープニングはある意味、強制的にくっついてくるものなので、目にするときにカロリーを使いすぎる映像もよくないのかなと考えたりもしました。ただ、お話をいただいて、「観る回数が多いというのは、他には絶対ないメディアだな」と。そこで、主人公がどんどん成長・変化していくのと同じように、オープニング映像も少しずつ変わったらおもしろいかなと思いつきまして、125話分、つまり125本を納品したんですよ。
水野:おおー!
田向:多分、ほとんどのひとが気づいてないと思います。最後のタイトル前に長いカットがあるのですが、そこをもっと長く撮っておいて、使いどころを毎日少しずつ変えている。ストーリーに合わせて、その回の付近でキーになるモチーフが現れたりするんです。
水野:何話でどのアイテムが来るか、最初から計算されたんですか?
田向:はい。具体的には、1日3フレームずつズレるようにしました。1秒24フレームで作っているので、2つ見ても気づかないぐらいの違いなのですが。「3フレームずつズレると、125回でこれぐらいズレる」という計算をして、現れるモチーフを配置して。そんなこと誰も求めてないしスタッフも、「マジかよ」みたいな感じでしたが(笑)。でも、おもしろかったんじゃないかなと思いますね。
水野:ジャンルによっておもしろさは違いますか?
田向:そうですね。それこそ朝ドラのオープニングは、125回も観ることになるおもしろさがありましたし。慣れないこと、普段やっていることと違うことがあると、僕は楽しい。どんどん違うことをやってみたいなと思っています。
水野:CMもまた違いますよね。
田向:CMはわりと歴史が長いものなので、決められた仕事の進め方みたいなものがある気がします。いろんなひとの知恵や経験から作り上げられてきたワークフローがある。それがあるおかげでスムーズに進むんです。でも、「こんなの誰も作ったことがないけれど、どうするんだろう」みたいなおもしろさもあるので、そういうジャンルも楽しみですね。

水野:ご自身の技術的な部分は変化させていきたいですか?
田向:そうですね。ずっと勉強をし続けている気持ちです。MVを作って、「ここはもっとこうすればよかった」みたいなことも学びになるし。10年前よりは上手くなっている気がします。成長を止めないようにしないと、仕事が来なくなって悲しいですから。
水野:「こんな映像作家でありたい」という理想像は描かれますか?
田向:いえ、僕は高い目標はなくて、今が最高なので。仕事が来続けてくれれば、もう十分。逆に、仕事が来なくなったら強制的に定年退職という形になるので怖いですよね。だからこそ、勉強し続けていこうと思います。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
田向:ものを作るってすごく楽しいし、それを仕事にできたら、こんな最高なことはありません。とくに近年はいろんなメディアも増えて、クリエイターが活躍できる場が広がっているので、「なりたい」と思えば、なれないことはないと思います。情熱さえあれば、誰でもなれるはず。
水野:大事ですよね。みんな「なれない」と思ってしまいがちですから。
田向:むしろありふれた仕事じゃないですかね。世の中にものづくりをしているひとはたくさんいる。だからそんなに難しいことではないだろうなと、僕は思っています。


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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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