対談Q 井上芳雄(俳優)第3回

ひと手間かけてくれる演出。

瞳孔を開いてやってみたら…

水野:相手の役者さんを意識したとき、何をヒントにして空気を汲み取っているのですか? 僕は芝居をやったことがないからわからないけれど、やっぱりセリフを追ってしまう気がするんですよ。

井上:正直、僕もわからないんですよ。教えてほしい。

水野:最初の「まったくわからない」というところからは、どうやって培っていったのでしょう。

井上:演出家の方から怒られたりしたのもありますし。あとは上手な先輩たちを観て、ひとつひとつ発見していったんだと思います。幸い、名優の方々と一緒にやらせていただける機会はたくさんあって。「どうしよう。何が違うんだろう」と思いながら観てみたとき、差は明らかでした。たとえば「みんなすごく目を見る」とか。

水野:はい、はい。

井上:僕は普段、まったくひとの目を見ることができないんですよ。恥ずかしくて。でも、先輩方はずっと見ているし、僕が話しているときもそうやって聞いてくれる。それで試してみると、ちょっとやりやすくなるんです。でも、ずーっと目を見ていても気持ち悪い。すると、目を逸らすときの意味もわかってくる。そうやって少しずつ発見していった感じです。いまだにわからないことばかりで、発見し続けていますね。

水野:「今、うまくいっている」というのはどういうところからわかるのですか?

井上:「昨日までなかったのに、今日はここで笑いが来た」という変化などからですね。そういえば、2日前ぐらいに「瞳孔を開いたらやりやすいんじゃないかな」と思って、常に瞳孔を開いてやってみたら、たしかにやりやすかったんですよ。日常よりちょっとテンションが高いということなのか。

水野:それによってすべてのアクションが大げさになるってことですか?

井上:ただ瞳孔を開いているだけで、ちょっと受け取れるものが広くなるというか。聞こう聞こうと思わなくても受け取りやすくなって。

水野:えー!

井上:日々、そういう小さな発見の繰り返しですね。

ダメ出しされるのが苦手

水野:すごくおいしいスープを飲んでも、味付けがわからないのと似ていますね。いろんな方が細かい工夫と試行錯誤を重ねた結果、美味しいものができあがっている。先輩とそういう話はするんですか?

井上:しないですね。聞いたら教えてくれる方はいっぱいいるでしょうし、聞いたほうがいいとわかってはいるんですけど。僕、ダメ出しされるのが苦手なんですよ。表現者として致命的なんですけど(笑)。

水野:「ダメ出しが苦手です」って素直に言ってくれる方、初めてかもしれません(笑)。みんな強がりでも基本、「鍛えたいので何でも言ってください」と言うじゃないですか。そして凹んでいくじゃないですか。

井上:若いときは言われて当然だし、まぁ今もそうなんですけど、それでも「すごく傷つくな」とか「なんでこんなこと言われなきゃいけないんだろう」とか思うのは嫌なんですよ。あと、海外では“ダメ出し”という言葉はないらしくて。海外である演出家の方とやったときには、「ダメ出しという日本語は本当によくない」とすら言っているんです。それで僕も「やっぱりおかしいよな。“今から傷つくことを言いますよ”って時間はなんだ?」と。

水野:はい、はい。

井上:海外の演出家は、基本は「よかったよ」と言ってくれる。その上で、「今日もすごくよかったけど、明日こっちもやってみてほしい」とか。結局はダメ出しと同じことなんですけど。

水野:提案という形なんですね。

井上:はい、言い方が違います。そこにひと手間かけてくれることによって、自分の心が閉じずに済むんですよ。「みんなもそうなんだけど」とか「自分もそうなんだけど」とか、ちょっとした言葉があることで感じ方が大きく変わる。水野さんはそういうのは大丈夫ですか? 小田和正さんとか、厳しそうなイメージがありますけど…。

水野:小田さんははっきり言いますね。「ダメだな」ってバッサリ。でも小田さんの場合、「俺はこう思う」という言い方なんです。押しつけない。あと、小田さんはもう、僕が言っても聞かないタイプだとわかっていらっしゃるんだと思います。僕、ダメ出しが嫌いとは言わないですけど、ひとの話を聞かない。

井上:ああー、そういうひとがいちばん強いですよね。

水野:子どもの頃から母に「とにかくあなたはひとに興味を持ちなさい」と言われていて。自分ではその意味がわからなかったんです。普通に友だちもいるし。だけど、だんだん大人になっていくにつれ、「これは本当にひとに興味がないぞ」と思ってきて。ただ、何の因果かグループで世に出たし、他者と関わらないと前に進まない方向に自分の人生が動いていったので、すごく人見知りなのにこうして他の分野の方にお話を伺ったりして。

井上:なるほど。あえてひとに興味を持つように。

水野:先ほど井上さんが、「場を与えてもらえれば交流できる」とおっしゃっていましたけれど、そこは僕も近いところがあるなと思いました。

井上:それでいうと、僕はひとの話を聞きすぎてしまうんだと思います。だから、言われたことにすごくショックを受けてしまうし、真に受けてしまう。

水野:深く刺さって、影響されすぎてしまうんですね。

井上:そうなんですよね。必要なことだけをちゃんと受け取って、活かしていけるようになりたいです。

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:谷本将典
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:hotel it. 大阪新町
https://hotelit.jp

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