『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』杉山日向子さん【前編】

「絶対に許さねえ」という気持ちで、自分を描いている

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。

本物たちを見て焦り、悩みました

水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』。さあ、本日のゲストをお迎えしたいと思います。現代アーティストの杉山日向子さんです。よろしくお願いします。

杉山:よろしくお願いします。

杉山日向子 (すぎやまひなこ)
1997年、東京都に生まれる。2022年、東京藝術大学美術学部油画専攻卒業。2020年1月、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』メインビジュアルの
背景デザインを担当。2021年7月、西武渋谷『鬼頭健吾×薄久保香 推薦作家展』、11月、西武渋谷『SHIBUYA STYLE vol.15』、2022年3月、what cafe『CROSSROADS』、5月、西武渋谷『nine colors XVI』、8月、寺田倉庫『ブルーピリオド展』を開催。

水野:緊張しますね。

杉山:いや、私のほうが緊張しています。当たり前に。

水野:その緊張感が伝わってきて。

杉山:もうガチガチです。

水野:出ていただいてありがとうございます。

杉山:いえいえ、とんでもないです。

水野:杉山日向子さんはたくさんの作品を抱えていますけれども、2020年に放送されたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』のメインビジュアルで背景デザインを担当されるなど、今注目されるアーティストです。作品の特徴はズバリ、自画像。絵を描くっていうところに興味を持ったのはいつ頃から?

杉山:小学校低学年ぐらいから、週に一度くらい地元の絵画教室には通っていました。「何を描いてもいいよ」みたいなゆるい感じで。そして図工が好きで、その流れでなんとなく美術系の中学に行って、なんとなく芸大に入って。なんか、なんとなくです、ぜんぶ。

水野:他にいくつも遊びや習い事はありますが、自分が絵を好きである感覚はあったのでしょうか。

杉山:水泳をやっていて、わりと得意だったんですけど、中学受験が分岐点でした。水泳部がある中学に行くか、美術系の中学に行くか。そこで、「やっぱり美術のほうが好き」となったんですよね。

水野:昔から誰かに「絵がうまいね」とかってよく言われていました?

杉山:いや、全然。どちらかというと、美術系の中学と高校の成績も中くらい。よくなかったぐらいかもしれません。

水野:美術系の学校って、どうやって成績をつけていくものなのでしょう。

杉山:うーん、多分もう先生の感覚だと思います。でも写真っぽく描けている子がやっぱり成績よかったかな。もちろん独創的なところとかも加味されますが。

水野:自我はどれぐらいから出てくるのですか?

杉山:私は芸大に入るとき、二浪しているんですね。油画科とは、すごく独創性や発想力が求められるところで。受かるために、自我を鍛えるというか、自分の世界観を頑張って見つける感じでした。大学に入ってからがいちばん苦労しましたけど。

水野:独創性を学ぶって、すごく逆説的で難しそう。 

杉山:もともと持っている感覚的なものやセンス+自分でそれをどうよく見せるか。それは試験のなかでの話ですけど、私の学科は本当に少ししか受からないところだったので、まわりと被っちゃいけないんですよね。いろんな山脈の頂点の子たちが受かるみたいな感じで。

水野:なるほど。「大学に入ってからがいちばん苦労した」とおっしゃっていましたが、芸大に入ってみて、何かそれまでの価値観や世界が変わりましたか?

杉山:中学高校と楽しくて、自分はそこで人格が形成されたと思っているんですけど、大学って全国からいろんな子たちが来るじゃないですか。そういう子たちと過ごしていくうちに、まず自分はなめていたなと。浅かった。頑張って受かったはいいけど、その先で何をすればいいかわからないし、まわりの子たちの考えていること作っているものはすごいし。自分がなんとなく美術をやってきたからこそ、本物たちを見て焦り、悩みました。

水野:まわりの方たちのどういうところにすごさを感じたのでしょう。

杉山:私が見たことないもの、感じたことないものを、表現するところですかね。しかもそれが生半可じゃない。みんな、自分のなかでの問いかけができているのが当たり前。自分はそれが全然できていなかったから、差を感じたし、「卒業したらどうなっちゃうんだろう」とかすごく考えましたね。

水野:それは自分的にはもう乗り越えられました?

杉山:いや、まだ乗り越えられてないです。大学生の頃よりはマシになりましたが、ずっと「これでいいのかな」「まだわからない」って思いながらやっています。みんな目標を持って行動しているけれど、自分は何のために絵を描いているのか。そもそも絵を描いているのが正解なのかもわからない。あんまりこういうひとっていないと思うんですけど、私はそんな感じです。

見た目的なコンプレックスの反動

水野:もう何度も訊かれているかと思いますが、なぜ選んだ題材が“自画像”だったのでしょうか。

杉山:最初はひとを描いていなかったんです。でも“自分”は無料だし、いつでもいるし、ファッションも好きだし、自分をモデルに一度描いてみようと。その延長線上にいる感じです。でも今って超ルッキズムの世界じゃないですか。思えば、人間関係において言われた、見た目的なこととか、コンプレックスの反動はあるかもしれません。それが強い。「私は今こういうことをやっているけど、あなたたちは何をしましたか?」みたいな気持ち。

水野:すごい。

杉山:もう超絶自我です。復讐心みたいな。きっかけはなんとなくでしたが、「絶対に許さねえ」という気持ちで、自分を描いているのもありますね。

水野:自分を描くって、どこかナルシズムともぶつかりそうで。僕は絵を描く技術はないけれど、自分というものを対象に何かを考えるとしたら、大変な作業だろうなと思ってしまうんですよ。でも杉山さんはそこをラフに行きますよね。

杉山:そうですね、たしかに。そもそも「自我!」って感じの性格なのかもしれません。でも水野さんみたいに、いろんな方に向けて曲を作るほうがずっと難しいと思いますけど。

水野:いや、それみんな言うけれど…。

杉山:絵描きはひとりよがりみたいなところがあるので。もちろんみんなに見てほしい気持ちはあるけれど、いろんなひとに向けて作るというのは、私には到底できないことです。

水野:逆に他者を描くことのほうが難しいですか?

杉山:うーん、人物をデッサンで描くとなったとき、自分の顔に似てしまうというシンプルに物理的な問題はあります。

水野:えー! それってよくある傾向なんですか。

杉山:結構あると思います。やっぱり自分の顔をいちばん見ているので、似ちゃうのかもしれないですね。私はとくにそうです。本当に最近は自画像ばかり描いているから。

水野:先ほどコンプレックスの反動、復讐心がパワーになっているとおっしゃいましたが、反発の方向性もいろいろある気がして。たとえば、何か悪いことを言われたとして、「いや、そんなことねえ! いいだろ!」という感じなのか。あるいは、「そうかもしれないけれど、もっとよくなるんだ!」みたいな感じなのか。

杉山:前者ですね。完全に。受け入れてもらおうみたいな気持ちは一切ありません。

水野:すっごく今、言葉に力が入っている。

杉山:SNSを見ていても、容姿のことをすごく気にしている女の子ってたくさんいるじゃないですか。それはやっぱり他者から言われてきたことのせいでそうなっているんですよね。最近はそういうコンプレックスを抱えた子たちに寄り添いたいという気持ちも強くなってきたなと思います。だから別に、可愛くなることや綺麗になることが目的でもいいし。もっと自分らしく、でもいいし。ちょっとずつ変わってきました。

水野:他者基準の美しさとか、かっこよさではなくて、「私の美しさ」というか。

杉山:そうですね。「私はこれをやっています」ってだけ。

自分がいつまで絵を描いているのかわからない

水野:シンプルだけど、すごく強い言葉です。ただ、自画像が作品として広がっていったとき、そこにまた評価が入ってきますよね。そういう声に対しては、どう思うのでしょうか。

杉山:絵に対してすごく否定的なことを言われたことはないかも。でも、言われたとしても、「もっと上手くならなきゃ」と思うだけですかね。それに関しては。見た目のことを言われたらすごくイヤだし、「は?」ってなるけど、絵のことを言われたら、シンプルに「頑張らなきゃ」って思う。

水野:カッコいい。作品に対して誠実ですね。どうして“油絵”という技法を選んだのですか?

杉山:高校2年生ぐらいのときは工芸科に興味があったんです。ただ、工芸科の試験ってアクリル絵の具なんですね。アクリル絵の具ってすぐ乾いちゃうんですよ。で、ムラなく綺麗に色を塗る“平塗り”ができなきゃいけないんですけど、それができなくて。だから油絵に行きました。本当にそれだけ。

水野:若干、消去法で(笑)。油絵の「乾きづらい」ということは、絵にとってどんな利点があるんですか?

杉山:まず発色がいい。そして乾かないことで、より綺麗にグラデーションを描くことができる。やっぱりアクリル絵の具だと、綺麗にグラデーションかけるのも難しかったりします。

水野:今、杉山さんは評価を受け始めているじゃないですか。その状態についてはどう思っていますか? 

杉山:評価されているかはわかりませんが、一歩踏み始めちゃった感はあるので、あと戻りできなくて逆に困っています(笑)。どうしようかなって。

水野:曲のAメロが始まっちゃっていると。

杉山:アート市場も複雑で。私が大学生ぐらいのときは、コロナ禍で海外に行けなくなったので、みんな若手作家の絵を買ったりしていて、アートバブルだったんです。でも今はもうバブルが弾けて、大変な感じになっていますし。自分がいつまで絵を描いているのかわからない。一生、自画像を描き続けたいみたいな気持ちもない。でも「楽しいからやるか」みたいな感じなんですよね。そんなにプライドを持って、絵を描いていないというか。

水野:自分という存在に対する肯定が強いですよね。自画像を選び、ルッキズムに対する反論の気持ちも強い。だけど、自分の行為に対してはすごく謙遜なさる。「いや、もっとよくなるはずだ」とか。

杉山:そうです。どうしてもそうなっちゃうんです。

水野:芸能で、自分の行為には自信があるけど、自分自身に自信を持ってないひとって多いんですよ。アクションばかりに目を行かせるというか。でも杉山さんは、確固とした自分がある。安定している。そこがすごく眩しく見えます。

杉山:そんなこと言っていただいて嬉しいです。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:軍司拓実
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/

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