自分のなかでOKはないので、永遠に
楽しいです。ずっと楽しいんですよ。
水野:ご自身の出演された作品はご覧になりますか?
野間口:観ないですねぇ…。恥ずかしくて。映画の試写会とかも、まもなく自分のシーンだというときは下を向いてしまう(笑)。
水野:反省とかはされませんか?
野間口:反省をするのは撮影中ですね。帰り道で、「あのシーン、もうちょっとああすればよかったな」とか「あのひと、せっかくああ来てくれたのにうまく返せなかったな」とか。でも「もう1回お願いします」と言うことはないです。僕がこの仕事を始めたばかりの頃に一度、言ったことがあるんですけど、「生意気なこと言うな。監督がOKならOKなんだよ」と言われて。それ以来、言うのはやめました。
水野:なるほど、なるほど。
野間口:だから終わったあと、モニターチェックとかもしません。監督がOKならOK。でも自分のなかでOKはないので、永遠に。
水野:今やっているものに対しての、「ああやっておけば、こうやっておけば」という反省はあるけれど、終わったものを振り返るということはあまりないんですね。時間が経ってみて、「あぁよかったな」と思うことは?
野間口:ないです、ないです。だからドラマに出て、みなさんに「よかったよ」と言われても、「ありがとうございます」って言いながら内心は「いや…まあ…うーん…」って。
水野:じゃあどこでガッツポーズするんですか?
野間口:ないです。
水野:うわー。苦しくないですか?
野間口:だから続けているんだと思います。いつかガッツポーズできる瞬間が来ると信じて。
水野:逆に来ちゃったら怖くないですか?
野間口:来ちゃったら終わりでしょうね。もう辞めるとき。でも永遠に来ない気がします。それがおもしろい。正解がひとつもないから。
水野:目指すものがあるわけじゃなく、とにかく「この瞬間」がおもしろいんですね。そうしたら永遠に楽しいじゃないですか。
野間口:楽しいです。ずっと楽しいんですよ。
水野:ちょっと羨ましい。
野間口:周りからみたら苦しいと思われているのかもしれないですけど、それすらも楽しいというか。「今回は追い込まれているなー」という苦しさも楽しい。でもあまりこういうタイプはいないと思います。松重豊さんにも、「お前ずっと楽しいままじゃダメだぞ」って言われる。
水野:松重さんは苦しんでいらっしゃる?
野間口:苦しみのなかから生み出している。でも僕は楽しい。普段、実生活では誰とも会わないんですよ。だから現場に行って、初めていろんなひとにお会いして話せることも、お芝居を合わせることができるのも、いろんなひとのお芝居を観るのも、楽しいです。
水野:言い方が失礼かもしれませんが、お芝居に対して常に無邪気でミーハーというか。少年のようですね。それはめちゃくちゃ眩しいです。
野間口:若い役者さんを観ても、「うわ、このひとすごい。今度会ったら言おう」とか思います。たとえば、岡山天音くんとか会ったときに、「あのドラマのあの言い方が最高で…」って。
水野:それすごく喜ぶんじゃないですか?
野間口:いや、でも天音くんって、「あ、はーい」みたいな感じで(笑)。
役者は与えられるものにどう乗っかるか
水野:野間口さん去年、大河ドラマをやられていたじゃないですか。でも僕はファンだから勝手に、スーツを着られているシーンの印象が残りすぎていて、武将というイメージがなくて、一瞬、気づかなかったんですよ。
野間口:みなさんそうですよ。眼鏡をかけないで出るだけで、Yahoo!ニュースになるとは思いませんでした(笑)。
水野:でも、観る側の勝手なイメージさえ越えていく。それがすごいなって。
野間口:普段の僕と違うから、逆にハードルが低くてよかったんじゃないですかね。ただ、ドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』で、格闘技の稽古を1年ぐらいやっていたので、そういうのは活きました。太刀さばきとか槍や弓の扱いとか。
水野:野間口さんはドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』でも公安の役をやられていて。二つのドラマって職種は近そうですけど、微妙に役柄が違うじゃないですか。
野間口:SPのときはもう“溶け込む”っていう作業だけですからね。
水野:すごく基礎的なことですけど、たとえばどう演じ分けるんですか?
野間口:あー。でも『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』と『SP 警視庁警備部警護課第四係』に関しては、金城一紀さんが緻密な脚本を書いていらっしゃるんですよ。そこに乗っかるだけという感覚なので、かなり楽でした。
水野:楽なんですか!
野間口:はい。セリフひと言でも何回も推敲されていて、「あ、このときだけ一人称が変わるんだ」とか、細かく設定があって。事前に話し合いもさせていただきましたし。
水野:複合的なものなんですね。僕は素人だから、役者さんのほうにばかり目が行ってしまうけれど。セリフの文脈、セットの文脈、あらゆる要素がそのキャラクターを作り出している。
野間口:役者は基本0から1になるわけではないんですよね。脚本とか衣装とかの下準備があって、「こういう役柄ですよ」と与えられるものにどう乗っかるか。逆に、0からキャラクターを作るとか、名前だけ与えられているとか、そういうほうがキツいと思います。
いまだに“ファンだった野間口”が出る
水野:そこに葛藤はないですか? 僕は曲を作る人間として、歌い手って難しいだろうなと思うことがあって。たとえば、「私はあなたのことが好きです」と歌うラブソングがあるとするじゃないですか。すると、その歌い手自身が本当に誰かを好きではないとしても、役者さんと同じように“好き”を表現しなきゃいけない。
野間口:なるほど。
水野:で、いきものがかりの吉岡の場合、歌のなかでは10代の女の子なんですけど、「私こんなにキャピキャピしてないよ」とか「私もう40代だけど」みたいなことが起こるんですよ(笑)。それでも自然に、無理なく歌う難しさを常に抱えている。吉岡は「ナレーターのようだ」ってよく言うんですけど。役者さんも、野間口徹という生身の人間がいるじゃないですか。役を演じているとき、そこから離れる葛藤とか難しさはないのかなって。
野間口:いや、むしろ僕は自分の意思がそんなに強くないので、役を通すほうが楽ですね。自分じゃない人生を経験できる楽しさのほうが勝っちゃう。
水野:やっぱり楽しいんですね。
野間口:猟奇的な殺人犯とか現実ではなり得ないじゃないですか。
水野:でも役としてはあり得る。
野間口:それがおもしろいですね。「このひとはどういうロジックでここに至ったのか」とか、考える時間も楽しいですし。「今回は猫背で行こう」とか「ちょっとびっこを引こう」とか、考えるのも楽しい。
水野:ちょっと…普通じゃないですね(笑)。
野間口:よく変態だとは言われます(笑)。一日中、お芝居のことを考えていますね。
水野:お芝居オタクというか。いいなぁ、天国みたいじゃないですか。しかも、最初は憧れていらした松重豊さんとか、先輩俳優の方々と今は同じ現場でお芝居をされていて。
野間口:はい。いまだに“ファンだった野間口”が出るんですよ。「嬉しい!やった!」っていう。それを「今は芝居を…」と押さえて演じています(笑)。
文・編集: 井出美緒、水野良樹
撮影:軍司拓実
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:喫茶銀座
https://www.instagram.com/ebisu.ginza/
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