対談Q 岡田惠和(脚本家) 第3回

どれだけ自分以外のことを考えるか

自分だけが泉だとキツイ。

水野:僕は、自分は大衆歌、商業音楽をやっているんだとよく思うんですけど。いちばんビビットな世界だなって。作り手の事情だけじゃない、いろんなひとの欲が絡む。ビジネスの事情も。そういう欲が混ざり合ったところって、おもしろいものができるんじゃないかなって。人間のリアルが出ているから。変に俗世界と離れた純粋芸術みたいなもののほうが、実はつまらなくなってしまうときもあるんじゃないかなと思って。

岡田:はい。

水野:なので、欲深いところにいたいなって思うんです。そしてテレビドラマって、まさにリアルタイムで世の中の状況が入ってきちゃう。作り手や演者のクリエイティブ以外のものもいろいろ入ってくる。だからこそ、この瞬間の“今”を表していて、それが素晴らしいなとお話を伺っていて感じました。

岡田:その商業音楽のスタンスはまったく一緒ですね。僕の場合、誰かが岡田のことを思い出さないとお呼びがかからないですし。多くのお金が投入されて、放送の電波を使う以上、結果が問われないことはない。「あんまりパッっとしなかったけど、よかったよね」みたいなことは認めてもらえないというか。結構シビアに言われますから。止まれない。ひとの考えていることを聞かないと、どうにもならない。でも清濁併せ呑む、みたいなことも含めてあるからこそ、おもしろいものができる気がして。だからテレビが好きなのかもしれないですね。

水野:僕なんかが言うのはおこがましいですが、岡田さん、聞き上手でいらっしゃるんですね。今日も空間を読む力というか、受け止めてくださる力がすごい。器が広いからこそ、お書きになれるんだろうなって感じます。

岡田:謙遜とかではなく「よくそんなおもしろいこと思いつくなぁ」みたいな才能が溢れる作家はいて。自分はそこまで行けてないという思いがあるんです。じゃあどう勝負するかって「どれだけ自分以外のことを考えるか」じゃないかなって。まわりが変わっていくわけだから、自分がやることはいつになってもあるわけで。自分だけが泉だとキツイなぁ。というか飽きたときは終わりだよなぁって。そういう恐怖はありますでしょう?

水野:そうですね。足りないです。僕はもう自分には何もないって思っています。だからそろそろやめたくて。

岡田:ああ、本当に?

水野:1回止まって、(アイディアを)入れる時間が欲しいって思っちゃいますね。それはちょっと甘えもあるんですけど…。

岡田:もちろんわかります。

水野:なぜ自分が、生意気ながらも岡田さんにシンパシーを感じたのか、今日すごくわかりました。自分を泉とするのではなく、常に外から受け取っていらっしゃるんですね。

打ち合わせに行くときはひとり被告。

水野:岡田さんはどんなときがいちばん嬉しいですか?

岡田:嬉しい、か。

水野:何を目的に書いてます? 急に大きな話になっちゃいますけど。

岡田:わりと“職業”だと思っているので。「やりたいのか」みたいなことをあまり自分には突き詰めないようにしているところはあって。だから「忙しくていいんだ」って思うようにしているんですよ。

水野:ああ。

岡田:多分、忙しくないと本当に何もしないと思う。楽器を弾いているひとって、ずーっと楽しそうに弾いているでしょ?でも脚本家が「書くのが楽しくて楽しくて!」みたいな瞬間はほぼないので(笑)。

水野:(笑)。

岡田:いつも打ち合わせをして「こういうのをやったら楽しいよね!」って話をしているときは、めっちゃハッピーなんですよ。でも持ち帰って、「なんであんなこと言っちゃったんだろう。誰が書くの?」みたいな(笑)。書くのはツラいんです。

水野:それでも「ツラいなぁ」と思いながら書いて、できあがった脚本を演じられているのを観る喜びとか、ドラマがみなさんに届いて反応がきたときの喜びとか、そういうものを感じる瞬間がないわけではない?

岡田:もちろん、あります。まぁ脚本が役者さんに行くのはだいぶ先なんですけど。一緒にやっているスタッフとかプロデューサーとか監督が「おもしろい」って言ってくれたらそれだけで「まぁいっか!」って感じはあって。むしろそこから先はちょっとご褒美的な感覚なんです。形にならないとお金にもならないかもしれないけど。本当はその瞬間でかなり終わっているんですよ。

水野:1回目に見せたところがいちばんですか。

岡田:はい。だから初稿を書いてあまり反応がよくないときは、捨てたい。もうなんか…直したくない。直すんだったら、新しく書きたい。

水野:それは何ですかね。顔も知っていて、信頼しているスタッフの方々の反応だからこそ喜びを感じるんですか? それとも一発目の他者の反応だからってことなのか…。

岡田:いや、信頼していたり、今までの経験があったとしても、毎回初めての裁判みたいな感じですよ。

水野:もう0から。

岡田:はい。「何十年も一緒にやってきているんだから味方になってね」ってことは、通用しない。初稿を送って、打ち合わせに行くときはひとり、被告(笑)。

水野:判決を受ける。

岡田:だから雑談から入られたりすると「ちょっとなんか…言いにくいのかなぁ」とか。あと会議室に入った瞬間に空気が変わるときもあって、「何を話していたんだろう…」とか。持っている原稿にいっぱい付箋が貼ってあると「あれはいい付箋なのか、気になる付箋なのか…」とか。毎回、緊張して、毎回、「いったい誰が味方なんだろう?」みたいな(笑)。

「作れるのは俺だろ!」

水野:それ自体がドラマになりますね(笑)。万が一ダメだったとき、どういうスタンスでいかれるんですか?

岡田:基本は僕がAを提出して、仮にそれがそんなに評価されず、Bを提案されたとしたら、意地でもCを出す。B´でもいいけど。

水野:カッコいいですね。そこは岡田さんの人柄が出ていますね。意地というか。

岡田:「作れるのは俺だろ!」みたいな気持ちは常にあるとは思います。だから映画監督さんとかで、自分も脚本を書くひととやるのはいちばん難しい。

水野:ぶつかるからですか?

岡田:ぶつかるし、最終的に「じゃあ自分がやるよ」っていう結論がある感じがして(笑)。そうじゃないひとはいろいろあっても、最終的にはこっちに投げてくる。

水野:「ピッチャーはあなただ」みたいな。

岡田:うん。「ピッチャー交代」って言われるとちょっとキツいっていうのはありますね。

水野:原作がある場合はどうですか?

岡田:音楽で言うところのカバーみたいな感じですかね。そこにあるスピリットはいじっちゃいけないよね、と。「よくこんなこと思いつくな」って原作をいただくときはやっぱり楽しい。原作ものをやると自分の持ってない脳の回路が開く気がします。

文・編集: 井出美緒、水野良樹
撮影:西田香織
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
協力:Gallery 11

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