コントを書くとき、台本は書かない
HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されているトークラジオ『小説家Z』。こちらはアーカイブ記事です。
水野:さぁHIROBA、小説家Zです。今日のゲストは初めての小説『おおあんごう』を出版された、かが屋の加賀翔さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。
加賀:よろしくお願いします。かが屋の加賀と申します。凄まじいところに呼んでいただきました、本当に。
注釈1 加賀翔(かが しょう) 1993年、岡山県生まれ。マセキ芸能社所属のお笑い芸人。 相方の賀屋壮也と2015年に「かが屋」を結成。 「キングオブコント2019」では決勝に進出。ラジオ・バラエティ番組の他、趣味の短歌と自由律俳句のイベントにも出演しマルチに活躍中。
「かが屋」加賀翔、初小説! 切なく、熱く、優しく紡ぐ、ぼくと家族の物語。 「この父親なのめちゃめちゃたいへんじゃの!」 岡山の田舎の小さな町。 細いゴリラのような父に振り回され、 繊細な心を削られて生きるぼく。 凛とした母、ふんわりしたおばあちゃん、無二の親友。 痛みと悲しみは「笑い」に変わり、いつか「夢」を運んできてくれる。 「なぜか、涼やかな風が吹きとおった。 うつむくと胸もとに、 ビール缶みたいな穴がまんまるく空いていた」 いしいしんじ 「私もこの絶望を知っている。悔しくて恥ずかしくて、それでもまた期待してしまう。そして当然に裏切られる。 少年には憐れみも情けもいらなかった、笑いとなるこ………
水野:この番組は、僕のプライベートスタジオで収録しているんですけど。もう入って来るなり、加賀さんがスタジオを褒めてくださって。
加賀:いやいや。
水野:なんなら僕の活動まで褒めてくださって。褒め殺しからスタート(笑)。
加賀:僕、ここドキュメント映像で見たことありますもん。先輩たちも多分、お世話になっているだろうし。自分たちは、広島のラジオをやらせてもらっているんですけど、会社の会議室みたいなところで録っているんですよ。どれだけ普段、劣悪な環境で録音しているか…。普通に救急車の音とか、バイク通ったときの音とか入る。
水野:生活音がね。
加賀:その何十倍もいいスタジオで、感動しちゃいました。
水野:今日は小説家Zということで初めての小説についてもお伺いしたいですし。そもそも物語を書くとは、加賀さんにとってどういうことなのかなみたいなことを、お聞かせいただけたらなと。
加賀:僕も、水野さんというか、清志まれさんの小説を読ませていただきまして。いやビックリでした。最近、別の業種の方の書かれている本を読ませていただく機会はよくあるんですけれども。落ち込みましたね、本当に。
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水野:今日、基本褒めてくれる(笑)。
加賀:いやーおもしろかったですねぇ。「なんで書けたの?」って思っちゃいました。
水野:逆に、「なんで書けたの?」ってところ聞きたい。普段、コントとか書かれているじゃないですか。膨大な数のストーリーをずーっと考えていて。
加賀:そうですね。主にお話を考えることを。
水野:コントの場合って、演技があったり、言葉とかセリフ以外の要素でもたくさん伝えられるじゃないですか。ただ、小説となると風景ひとつとっても、全部書かないといけなかったりして。だいぶ書き方、作り方も違ったんじゃないかなと思ったんですけど。
加賀:そこが本当にしんどくて、苦手で。コントを書くとき、台本は書かないんですよ。
水野:あんな精密なコントなのに、台本ないんですか!
加賀:一生懸命、動いて喋って。その動画を撮って、「これは使えるな」とか。
水野:そうなんですか。
加賀:文章で書いていると、「この会話とか文法っておかしいんじゃないか」とか、気にしちゃって。台本を書けないんですね。なので、口伝えというか。それがカッコいい風に振る舞って、できないのを隠して、騙し騙しやっていたんですけど。
水野:はい、はい。
加賀:小説を書くってなったとき、たとえば、衣装でエプロンを着ていてとか、お医者さんの格好をしていてとか、見て一発でわかることを、文で説明しないといけない。これがどんなに大変かって。
水野:もともとコントを作るときって、頭のなかでは文章が浮かんでいるんじゃなくて、映像とか空気感とか。
加賀:そうですね。どちらかというと視覚的なものを好む傾向にあって。学生服を着ていれば伝わるだろうとか、絵で考えるタイプなので。何回も、「やめます、僕は書きません」って編集のひとに泣きついたぐらい。
水野:逆に翻訳する作業というか、自分の頭のなかを描いていくというか。
加賀:そうそう。そのお話をもらって最初、一生懸命書いたんですけど。30ページくらいで全部終わっちゃって。
水野:そうか! コントでいうと、大事なポイントだけ書けば、あとは流れでいけるから、短くなるんだ。
加賀:「この子の背格好とか、髪型ってどんな感じですか?」 え!伝わってないんだ!みたいな。
水野:なるほどなるほど。
加賀:そういうことに対して、最初は何にも書いてなかったんですよ。ただ、地元の風景とかだったら思い出せるので、それを元に書いたんです。見たことのない景色は書けない。だからこそ、水野さんは本のなかで、テレビ局のお話、アナウンサーさんのお話、本番前の感じ、「え、なんで書けるの?」って。
水野:いや、あれは半分見ているんですよ。やっぱりテレビ局に行っているから。NHKのニュースとかもゲストで出させていただいたことがあって。
加賀:あぁー、なるほど。
水野:ニュース番組のキャスターの方が座るあの席って、モニターがいくつもあって、天気予報とか、地震の情報とか、すぐに情報が見られるようになっていて。「宇宙船みたいだぁ」って。社会科見学みたいなことをやったことがあったり。あと『めざましテレビ』の本番前の緊張感とかも、「あー、こういう感じで作っているんだ」って思った経験があったり。
加賀:そういうことかぁ。
水野:全部が想像ではなくて、「あのとき、たしかストップウォッチ持っていたなぁ」とか、そういう景色。加賀さんはご自身の記憶を、すごく生々しく書かれたんですね。
加賀:そうですね。自分の見た景色とか思い出とか。それを舞台セットのつもりで使って、自分の父親とか母親とか友達とかをモチーフに役を動かす。人形遊びの延長みたいな感じで、コントを作るときの感覚を一生懸命に使いました。
僕としては、ずっと笑いながら書いていたけど
水野:『おおあんごう』のストーリーを読んでいただけるとわかると思うんですけど、おそらくご自身が経験されたことも結構入っているんじゃないかって思って。地元の風景の話、学校の風景の話、スーパーのなかでの話、いろいろあるじゃないですか。
加賀:はい。
水野:生々しく書けば書くほど、ご自身の過去に触れるというか、感情移入する場面もあるんじゃないかなと思ったんですね。そこはどういうふうにバランスを取っていたのかなって。
加賀:実際の話とフィクション半々な感じですね。あと、1を10にしていたり、10を1にしていたり。
水野:なるほど、はいはい。
加賀:かなりオブラートに包んでいるところもあるんですけど。僕としては、ずっと笑いながら書いていて。
水野:あ、そうなんだ。
加賀:「これはウケるぞー!」みたいな。でも蓋を開けたら、オカンから、「読んだよー。ちょっとあんた、これしんどいわ、私」って言われたり。中学生とか高校生の子から、「自分の家はこんなじゃなかったから、自分って幸せなんだって思いました」とか。
水野:あぁー!
加賀:僕としては、「おかしみあるぞー」と思って書いていたところが、意外としんどかったり。純粋にねじれて育っていることを突き付けられたり。でもそれがおもしろかったですね。自分が当たり前だと思っていることや経験って、こういう捉え方されるんだって。
水野:あぁー。
加賀:コントだと、笑いに来ているお客さんに向けてやるので、なんでもおもしろがってくれるんですよ。でも小説だと、笑いたいと思って読んでいるひとって少ないというか。受け取り方が違うひとたちの目に触れると、感想がお笑いと全然違ったので勉強になりましたね。
水野:予想外の反応って、ご自身ではポジティブに捉えられるんですか?
加賀:気まずかったところもありました。「おもしろかったです」とか「感動しました」とか、ありがたいことを言ってもらえることあるんですけど、ちょっと落ち込ませちゃったり。
水野:なるほどなぁ。
加賀:売る前は気楽に、「おもしろがって読んでもらえたら」って言っていたんですけど、感想が来てからは一応、「元気なときに読んでください」って言うようになってしまいましたね。
ハッピーエンドにしようかどうかも迷った
水野:主人公のお父さんがかなり強烈なキャラクター。言っちゃえば乱暴な方というか。
加賀:かなり暴れん坊な。
水野:たとえば読者としては、いつもフィクションの物語だと捉えていれば、あるひとつのキャラクターじゃないですか。悪いキャラクターや乱暴なキャラクターが出てきても、そのひとのことを、「乱暴だ」とか「悪い」とか言えると思うんです。キャラクターだから。
加賀:はい。
水野:だけど、この小説って、読んでいると主人公の子にも感情移入していくし、お父さんのことをストレートに、「こいつどうしようもないやつだなー」とか言えない。どこかに愛らしさを感じるというか。
加賀:嬉しいですね。
水野:主人公の子が、お父さんに抱いている、ただの反発心だけじゃない気持ちを踏んじゃうと、お父さんのことを悪く言えないなって。それぐらい思わせちゃうのは、やっぱり加賀さんのポジティブな気持ちなのか。
加賀:それがいちばん嬉しいです。馬鹿だけど、嫌えない、憎めないって思ってもらえたらありがたい。親父から電話がかかってきて、「小説読んだで」って言われて。「わし、そんなダメじゃったかのー」って。
水野:いや、いいなぁー。
加賀:僕は、「いやいやいや、ホンマのこともあるし、ホンマじゃないこともあるけど、もっとダメやと思う」って(笑)。そういう話もできていて、ありがたいというか、雪解けになっているところもあったりするんですよ。
水野:はいはい。
加賀:だから、もう今ここではひとつ解決している。なので、読んでいるひとたちには、親父の知らないSNSとかで、バンバンぼろくそに言ってもらっても大丈夫(笑)。
水野:お父さまの、「わし、そんなダメじゃったかのー」ってひとことで、いろんなことが伝わるのがすごいですね。それは、小説を読んでないと伝わらない。不思議ですね。
加賀:ありがとうございます、本当に。
水野:他のことを何も言ってないのに、「電話してそのひとことを聞いたんです」って、今の加賀さんのお話で、あぁー、そうなんだぁ!って。僕らもどこかお父さんを好きになってしまうような。これはおもしろいですね。
加賀:ハッピーエンドにしようかどうかも迷ったんです。これを読んだとき、母親がどう思うか考えて。もちろんうちの母親は、「ここが元になっているんだな」とか、「これはお話だな」とかわかるので。で、最後だけはできるだけ事実に近いようにしようと思って。あんまりハッピーエンドに書きすぎると、なんか悲しいというか。
水野:わかります。
加賀:「自分の子どもがハッピーエンドにしたかったのね」みたいな。
水野:なるほど。優しいなぁ。
加賀:妄想のなかで幸せにしてあげると、悲しく思うかなって。だから本当に最後は、ダメなほうにいかせた。そういうところはありましたね。
文・編集: 井出美緒、水野良樹