対談Q 石川佳純(元卓球選手)第2回

あのときやめないでよかった。続けてよかった。

自分もインタビューされる側だったからこそ

水野:お話を伺っていてと思うんですけど、なんでそんなに明るくいられるんですか?

石川:いやいや(笑)。

水野:常に明るいオーラがある気がします。

石川:落ち込むときはすごく落ち込むんですけど、あまり引きずらないタイプかなとは思います。水野さんはどうですか? でも基本、ポジティブですよね?

水野:あの…変な話なんですけど、僕のなかで“バームクーヘン理論”というものがあって。

石川:はい。

水野:ネガティブそうに見えて、根はポジティブなひと。ポジティブそうに見えて、根はネガティブなひと。いきものがかりでいうと、僕は前者で吉岡はどちらかというと後者なんですよ、こんなこと言うと怒られるかもしれませんが(笑)僕はくよくよするし、グチグチ言うし、「あいついろいろ面倒くさそうだな」って思われがちなんですけど、実は根は明るい。大体は「まあ、しょうがないしな」って思えるから。でも、スポーツでトップレベルにいかれる方って、めっちゃ明るい方が多いなと感じます。今も。

石川:本当ですか。

水野:(競技以外で)落ち込むことってありますか? たとえば、テレビに出られたりとか、教室を開かれたりとか、そういう場面で。

石川:あります、あります。先日、初めて挑戦させていただいたキャスターのときも。生放送であの短い時間で、選手の4年間の歩みを伝えるって絶対に足りないじゃないですか。だから終わったあと、「もっとあのことを言いたかったのに」とか、「こう言ったほうがわかりやすかったな」とか、たくさん反省しました。

水野:求められていることに気づけたり、ご自身で反省できたりすることが、まずすごいなと思います。根が真面目なのか。

石川:ちゃんとやらないと気が済まないところはあると思います。あと、長い間、自分も選手でやってきたことが大きくて。試合を終えて、インタビューに答えるのって、負けたときはとくに大変だと思うんです。私もうまく言葉にできないことがありましたし。でも、今回インタビューさせていただいた選手のみなさん、どんなときも真摯に答えてくださって。それを「伝えなきゃ!」みたいな気持ちはすごくありました。

水野:ご自身がインタビューされる側の立場も経験されたことがあるからこそ、わかるツラさがあるんですね。

石川:はい。「こういうつもりで言ったわけじゃないのに…」とかもあるじゃないですか。なかなか選手の気持ちを100%伝えるのは難しいと思うんですけど、なるべくズレが少なくなるようにしたいなと思っています。

積み重ねはやっぱり大事なんだ

水野:選手という立場では気づけなかったことなどはありますか? 

石川:やっぱりオリンピックという舞台で戦っている選手たちは輝いているなと思いました。あと、この3年間で後輩の卓球選手たちがすごく成長している姿を、パリで観客として観て、「日々の積み重ねは裏切らないんだな」ということも強く感じました。それは、私自身が選手のとき、なかなか感じられなかった。

水野:逆にご自身が選手だと感じられないんですね。

石川:「上手くなっているのか、下手になっているのか、もうわかんないな…」みたいな。最後らへんはそういう時期も長かったんです。だけど「ああ、そうじゃなかったんだ。積み重ねはやっぱり大事なんだ」と気づかされた時間になりました。

水野:「努力が大事」とか「積み重ねが大事」とか、いろんなひとが言うじゃないですか。それって、口だけだとなかなか信じられないけれど。競技生活を送られて、しかもそれをまた外からも見た石川さんに、その上で「やっぱり積み重ねが大事なんだ」と言われると非常に重みがあります。

石川:ありがとうございます。水野さんはお仕事をされていて、いちばん苦しかったこと、逆にいちばん嬉しかったことって何ですか?

水野:苦しいのは、動けないこと、止まってしまうことですね。時間がなくて作れないとか。ものごとが前に進まないとか。スポーツ選手の場合、怪我をされてしまうと練習ができなくなっちゃうじゃないですか。それってすごくツラいと思うんですよ。もしかしたら、それと近い感覚かもしれません。たとえば、グループがいろんな事情で前に動かない瞬間もわりとあるんですね。そういうときは苦しかったな、という気持ちがありますね。

いちばん嬉しかったこと

水野:嬉しいのは、もちろん曲ができた瞬間も、ライブで拍手をいただけた瞬間もそうなんだけど、聴いてくださった方がご自身の話をしてくださったときがいちばんかな。石川さんも先ほど、「ありがとう」や「じょいふる」をオリンピックのときに聴いたり歌ったりしたとお話してくださって、それがめちゃくちゃ嬉しくて。そのひとの人生に関わることができたんだな、何かの役に立てたんだなって思うんです。

石川:はい。

水野:これはたまに話す話なんですけど。昔、何かのパーティーで女性の方が突然、声をかけてくださって。「あなたに会えたら伝えようと思っていたんです」と泣いていて。お話を伺ってみると、長年連れ添ったパートナーの方が残念ながら病気になって、もう亡くなられるというとき、病室で一緒にいきものがかりの楽曲を聴いていたと。で、出棺のときも「ありがとう」を流して。「ふたりの最後の時間が救われた」と言ってくださったんです。

石川:はい。

水野:そんな人生の大切なシーンで、自分たちの楽曲が少しでもプラスになったと思うと、嬉しかったんですよね。石川さんはどうですか? 競技生活を送られていたときに嬉しかったことというと。

石川:でも、私も近いかもしれません。自分が必死にやってきたことで、「その姿を見て卓球を始めました」とか「頑張ってみようと思えました」とか、言ってもらえるとすごく嬉しい。最初はそういうつもりで始めたわけではなくて。卓球が好きで、強くなりたくて、勝ちたくて、目標をクリアしていく楽しさを感じていたんですけど。そのなかで、誰かの日々をちょっとだけ明るくできているのかな、と思えた瞬間はすごく嬉しくて。

水野:そうですよね。 

石川:何回か卓球をやめたいなと思ったこともあったんですよ。でも、「あのときやめないでよかった。続けてよかった」って思うことが最近、すごく増えました。現役時代の後半は、そういう思いも自分の大きな力になっていたなと感じています。

水野:「続けてよかった」と言っていただけると、なんだか嬉しくなります。あれだけ頑張っていたひとに、しかもすべてが光り輝いていたわけじゃなくて、僕らの知らないような厳しさも経験してきたひとに、「でも続けてよかった」と言われると、非常に希望が湧きますね。

文・編集: 井出美緒、水野良樹
撮影:西田香織
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:SALON Coteau (サロン コトー)
https://daikanyama.chacott-jp.com/salon/about/

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