対談Q 岡田惠和(脚本家) 第4回

わからないひとにはわからなくていいや、とは思えない

AI君、日本語はなかなか難しいぞ

水野:AIが出てきて、物語を書くことが、「誰が書いてもいいじゃないか」ってなっちゃう可能性もありますよね。でも、そうでもない気がするというか。書き続けるって、どういう意味があるのかなって。

岡田:音楽もやっぱりAI的なものでできあがっていく空気がありますか?

水野:そうですね。遜色ないものができあがるのは、もう半歩先だと思います。ただ、言語化しにくいんですけど、先ほどから話題にも上がっている“人間の熱”みたいなものが実は大事というか。あと、僕らはずーっと生きているじゃないですか。否が応でも常に新しいものを取り入れる。そうやってリアルタイムで現象が起きているのが人間で、AIはその時点での知識の総量で戦っているから、処理能力は早くても半歩遅れているんですよね。

岡田:はい。

水野:非常に極小な差のように見えて、決定的な差のような気がして。ずっと蠢いている存在と、固定している瞬間が何度も続く存在とでは、書けるものが違う気がする。岡田さんがこのホテルに来る前と、今こうしてお話をしてホテルを出たあととでは、きっとちょっと変化していると思うんですよ。その積み重ねが実はプラスに働くんじゃないかなって。やっぱり岡田さんという人間を通して、しかも自我を持っているひとが書くものは、常に違うものになるんだと思っています。

岡田:そうですよね。ドラマでも、展開させていくことは多分、AI君のほうが僕よりもうまくできる未来がもうそこまで来ていると思う。でも、僕らの持っている味みたいなものは信じているし。そこで「が」にするのか「は」にするのか、みたいな選択にもそれぞれの人生が出る気がして。あと、僕らが得をしているなと思うのは、やっぱり日本語はなかなか難しいぞ、ということです。

水野:なるほど!

岡田:これは違う国の方と合作するときにもあるんですけど、「I Love You」ひとつでも僕らにはニュアンスが何万通りもあるじゃないですか。「私」なのか「僕」なのか。「好きだ」なのか「好きです」なのか。この感覚はなかなか飲み込めんぞ、手ごわいはずだぞ、とは思っていて。

水野:主語の不明確さとか、日本語の利点はあまりに自然に使っているからこそ見えづらいですけど。実はすごいですよね。

岡田:あと、「あえて言わないから伝わる」みたいなことも、人間にはあったりするじゃないですか。それもやっぱり手ごわいよね。

水野:ドラマでも会話のなかで、一瞬の間ができるとか、ちょっと言いよどむとか、そのひとの技術や味が出るところですね。

岡田:なかなか芯にいかない感じとかが会話劇の味だと思っているので。だから芝居が長くなるんだけど(笑)

水野:でも、そのひとつひとつに、岡田さんが選んでいることの意味がにじみ出ていて。結果、岡田さんらしさと匿名性が合わさったものができていくんですね。

常に遠くへ遠くへ。他者へ他者へ。

岡田:水野さんはいきものがかりをやっている一方で、HIROBAの活動をしたり、小説を書いたりすると、フィードバックされる感じはありますか?

水野:すごくありますね。結局、自分を解体する作業なので。今までは曲も歌詞も自分で作っていたんですけど、HIROBAでは歌詞をもう半分以上、他の方に預けたり。ずっと自分で地図を書いて歩いていたところを、地図は他のひとが書いてくれて、どこに行くかわからないまま歩く、みたいなまったく違う感覚なので。

岡田:それは楽しい?

水野:本当に楽しいです。結果、自分と出会っているんですけど。やっぱり自分って、他人との関係のなかで構築されていくし、出会うひとによって変わっていくと思うんですよ。吉岡や山下と出会ったことでも人生が変わったし。目の前の小さな出会いたちも自分を作っている。曲作りにおいても、最果タヒさんや皆川博子さんの歌詞に出会って、自分とまったく違うものに感覚を合わせたとき、違う自分に出会えるおもしろさがあって。

岡田:あぁー。

水野:こうして岡田さんとお話させていただいても、僕はどうしても自分との共通点を探してしまうんです。話しているうちに自分のなかで整理されて、贅沢な時間だなって。それをいつも感じていますね。僕が変わると吉岡も変わっていく。僕の作った曲を歌うから、彼女も変わらざるを得ない。それが連鎖していけば、グループにとってはプラスになるだろうなと今は思っていますね。

岡田:そうかぁ。でも、いきものがかりのファンの方たちがいて「そのひとたちが何を求めているのだろうか?」みたいなことも考えるわけですよね。

水野:考えますね。

岡田:「変わらないこと」を求めている場合もあるじゃないですか。それはどうするの?

水野:僕、表に出るひととしては、完全な失敗作だと思うんですよ。

岡田:へぇー。

水野:求められるものに応えるのがイヤでしょうがなくて。他人との関係のなかで自分ができあがっていくのはおもしろいんですけど、他人に規定されたり、「わかった」と思われるのが、どうやら相当イヤみたいで。それは小さい頃から。だからいきものがかりのファンの方を、裏切るような行為もたくさんしているでしょうし、これを読んで今、ファンの方たちは苦笑いをしていると思います。

岡田:なるほどねぇ。

水野:でもそうじゃないとあのグループは続いていかないし、ファンの方以外のひとたちにも届けていかないといけないから。常に遠くへ遠くへ。他者へ他者へ。ドラマって、不特定多数の方が観るじゃないですか。恋に興味がない方も、ふと恋のドラマを目にしてしまったり。だからこそ、常に求められてしまうわかりやすさがある。そこは多分、ドラマと歌って近いんじゃないかなと思います。

岡田:わからないひとにはわからなくていいや、とは思えない。許されない。そういう気持ちが根っこにありますね。だけど、今までにないものを作りたいし、わかってほしい。そこは多分、答えがないんだろうなぁと思います。でもやっぱり水野さんも、歌詞も小説もそうだけど、「やりますが、尻尾は掴まれたくないです」って感じがある気がして。そのための理論武装をしている感じ。

水野:(見透かされていて)怖いです。怖いなぁ。

岡田:おもしろいですね。「別に違うところに行っているわけではないです」っていう感じというか。

詞先ってなんか…言い訳ができない(笑)

水野:岡田さん、いつか何か作品でご一緒できたら…。あ、そういえば薬師丸ひろ子さんの楽曲で…。

岡田:はい、水野さんと同じアルバムに参加していて。おぉ!と思いました。不思議なオファーでした。今までドラマに関する歌詞とかを作ったことはあるんですけど。薬師丸ひろ子さんのオファーは純粋にアルバム収録曲の歌詞を書いてほしいと。僕のこと作詞家だと思っている…?って(笑)。

薬師丸ひろ子 ニューアルバム『Tree』(2024年1月24日発売)
M-3「きみとわたしのうた (featuring LIBERA)」作詞:岡田惠和
M-7「Love Letter」作詞:水野良樹
M-10「皆勤賞」作詞:岡田惠和

水野:詞先ですか?

岡田:いや、曲先じゃないと、とてもじゃないけど。

水野:詞先で書かれたらどうですか? ください、ください!

岡田:本当ですか? 詞先ってなんか…言い訳ができない。曲先だったら、「だってメロディーと音の数がこうなってるから」って言えるけど。それこそ「岡田さんこんなこと思っているんだ」とか思われるのがイヤで(笑)。でも、もし組めればぜひ。

水野:ぜひ、よろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました!

文・編集: 井出美緒、水野良樹
撮影:西田香織
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
協力:Gallery 11

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