自然環境と、自分たちが心地よいと思える人工的な環境の接点を見つけたい
J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
ランドスケープデザインっていちばん楽しいかも
水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』、本日のゲストは、建築家の山田紗子さんです。よろしくお願いします。
山田:よろしくお願いします。
山田紗子(やまだすずこ)
慶應義塾大学を卒業後、藤本壮介建築設計事務所に入所。住宅設計などを経験したあと、退所して東京芸術大学大学院に進学。2013年に自身の事務所を構え、2020年には、両親同居で一家五人が暮らすために都内に建てた自邸《daita2019》が評価され、第三十六回吉岡賞(主催:新建築社)を受賞。2025年春に開幕予定の「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の会場内に4箇所設置される休憩所の1つを設計。
水野:あまりラジオとかには出ていらっしゃらないですよね。
山田:普段はまったく出ないです。
水野:お忙しいなか来ていただき、ありがとうございます。建築家の方にこうしてお話を伺うのは初めてで、楽しみにしておりました。まず、最初に建築に興味を持たれたのは、どういったところからだったのでしょうか。
山田:最初は「ランドスケープデザイン」という、公園や広場など、大きな風景のデザインに興味を持っていて、そういうことを勉強していました。そして、大学でいろいろ学ぶなかに建築の授業も入っていて。「建築もだいぶおもしろそうだな」と思うようになっていったのがきっかけですね。
水野:「ランドスケープデザイン」という言葉は、なかなか僕らにはなじみがないのですが、どういうことをやるものなのですか?
山田:たとえば、この場所を「都市の広場」にしたいというとき、どんな床の舗装にして、どんな樹木を置くのか、どれだけ日陰を作るのか、植物と人工物の両方を使いながら、“場”をデザインしていきます。もう少し規模が大きいものですと、農家だけがやっとあるような自然環境に近いところで、生態系をどう維持していくのか、人間が活動することによって起こってしまった変化をどう取りもっていくか、そういうことを考えたり。大小さまざまですね。
水野:建築というと、人工物の極端な例な気がするんですけど、「ランドスケープデザイン」から始まったことは、山田さんにとって何か影響がありましたか?
山田:建築をしながらも、「これはひとつの風景に、修正・変更を付け加えるという作業になるんだな」ということはいつも感じます。それが置かれることによる、周囲への影響や風景の変化がある。なので、ポジティブな面もネガティブな面も一緒に考えていきたいなという気持ちがありますね。
水野:もともと広場好きだったんですか?
山田:私が小さい頃から、母は自然環境がすごく豊かな場所で仕事をしていたんですね。ほぼ人工物がないような、アフリカとか。そういう場所の映像や写真を撮ってきて、見せてくれて。だから自然環境に対する憧れとか、そういうものを仕事にしたいという思いがありました。その自然環境への興味と、作ることへの「好き」という気持ちが、「ランドスケープデザインっていちばん楽しいかも」というところに繋がったんだと思います。
水野:お母さまがそういうお仕事をされていると、ご自身も旅をする方向になりそうですけれど、そうじゃなくて。「その光景そのものを作ろう」というほうに進んだのがおもしろいですね。
山田:母が行く自然環境って、ものすごく過酷で。予防接種を5本ぐらい打っていくようなところなんですよ。私もたまに一緒に行ったのですが、もう大変でした。ご飯もないし、キツい。いいところなんですけれど、大変。だからこそ、そういう自然環境と、自分たちが心地よいと思える人工的な環境の、何か接点を見つけたいなと思ったんですよね。
外国に来たような感じでした(笑)
水野:大学を卒業されてからは、建築家・藤本壮介さんの事務所でまず働かれたそうですね。そこではどんな日々が待ち受けていました?
山田:もう検討・確認の連続で忙しい。「こうしたらいいんじゃないか」と思ったことが、絵や模型にしてみるとうまくいかなかったり。クライアントの方と意見が違ったり。予算が合わなかったり。何度も巻き戻しを繰り返しながら、だんだん実現に近づいていく感じでした。でも、設計事務所って結構、いろんな会話をしながら作っていくんですね。とくに藤本さんのところはそれがすごくおもしろくて、クリエイティブだなと感じていました。
水野:お師匠さん的な存在の藤本さんと、山田さんがおふたりで話されている映像も拝見しました。最初に事務所へ入られたとき、山田さんはいわゆる建築用語や建築の歴史にあまり詳しくなくて、話が合わなかったと。
山田:そうですね。
水野:でも、そこから山田さんは事務所に置かれている藤本さんの本やいろんな建築の本を、片っ端から読まれたそうですね。
山田:当時は、とにかく藤本さんの喋る言葉ひとつひとつがわからなくて。外国に来たような感じでした(笑)。建築の世界で語られている独特の言葉のニュアンスとか、歴史を掴まないと会話に入っていけないなと。でも、建築の本っておもしろかったんですよ。写真と図とイラストとデッサンと言語がセットになっているので、それを一緒に読んでいくと、だんだん意味がわかっていく。なので、楽しくてどんどん読んじゃったという感じですね。
水野:そして、山田さんは事務所で実務経験を積まれたあと、東京藝術大学の大学院に進学されたんですよね。これ、結構ビックリすることだなと。
山田:普通の建築家の方は、大学で建築を学んで、そのあと実務を学ばれるんですけど、私は先に実務で。もちろん藤本さんのところで勉強したこともあるけれど、一度アカデミックな建築というものを、まっさらな状態で勉強してみたいと思って。それで大学院に2年間、行きました。
水野:僕は「もう一度、学び直す」ということに憧れがあるんですけど、実際に学んでみていかがでした?
山田:どうだったかな…、いい時間になりました。いろんな先生がいるなかで、自分が興味あることを自由に聞ける。かつ、制作プロジェクトを自分だけで進められる。でも、一応まだ学生という身分なので、トライアンドエラーが簡単にできる。そういう有意義な時間だったと思います。あと、行ってみてわかったのですが、大学院って、大学と違ってあまり教えてくれない。
水野:なるほど。
山田:勝手にどんどんやる。サポートしてくれる先生はいる、みたいな感じで。その都度、いろんなひとに頼りながら、基本的には自分のやりたいことをやるという時間でしたね。
庭のなかに住んでいるような家
水野:山田さんの代表作のひとつであり、第三十六回吉岡賞(主催:新建築社)も受賞されたご自身のお家《daita2019》についてもお伺いしていきます。これ、ぜひみなさんに検索してほしいです。実際に見ていただいたほうが「おお!」ってなると思いますので。そんなちょっと驚きのある外観や内装ですね。このご自宅、最初はどのようなコンセプトで作ろうと?
山田:自宅なので、実はコンセプトはあまりなくて。最初、家族と「どういう家にしようか」と話し合ったとき、父が「庭をいつも見ていたい」と言ったので、公園の横の土地とかを探していたんですけど、なかなか見つからず。じゃあ自分の家で、半分を庭にしようという話から構成が決まっていきました。家族と話しながら、作りながら、だんだんああいう形になっていった感じですね。
水野:ご家族は家が完成していくのを、どう眺めていたのですか?
山田:毎日、模型を作っていたんですけど、それを見に来ては、「ここちょっと低くない?」とか、「自分の部屋はもっとちょっとこういうのがいい」とか、いろいろ言う(笑)。それを聞いたり聞かなかったりしながら。
水野:また、伺ったところによると、「ルワンダの森に暮らすゴリラの群れを見たことがデザインのヒントになった」そうで。
山田:私も行ったことがあるのですが、母は1年の半分ぐらいルワンダに住んでいて、あっちでいつもゴリラを撮影しているんですね。それで写真を送ってきてくれたり、メールで話をしたりして。彼らの住まい方っていうのは、1日に何回も移動するんですよ。でも一瞬、休憩する。その瞬間に家族の風景が生まれるんです。
水野:なるほど。
山田:藪がわーっと立ち上がっていて。そのなかで食べながら、木をかき分けて、自分の寝床にしたり。それぞれが好きな場所を作って、腰をおろし落ち着く。決められた場所で団らんするわけではなくて。わさわさといろんなものがあるなかで、自分の場所を見つけて、「今日はここでくつろごうかな」みたいな。それぐらいの自然な感じがすごくいいなと思って。
水野:はい、はい。
山田:「庭が見えるお家」というのは、もともとみんなで考えていたんですけど、ただ見えるというよりも、庭のなかに住んでいるような家。家と庭が一体になっているというか。庭の木や草のもしゃもしゃが、家のなかにも連続してくるといいなと。それで、柱とか梁とか、なるべく壁にしないでそのまま出す家を作ろうと思いました。
水野:広場や公園的ですね。そこにいるひとが用途を決める、今のくつろぎ方を決める、主導権を握っている。僕、自分が暮らしていて思うのは、家にできる導線で自分の生活が決まってしまうなって。
山田:はい、はい。
水野:家族の生活、もっと言うと健康状態まで決まってしまう気がする。動線が決まっていることによる安心感もあるけれど。そこに自由度があったら、自分の年齢や家族の暮らしの変化に応じて、違うものが生まれるのかもなって今お話を伺いながら思いました。《daita2019》はそういうお家なんだろうなって。近くの小学生が遊びに来たりする光景が目に浮かびます。
山田:子どもがちょうど小学生なので、友だちが必ず集まりに来ます。
水野:子どもにとったらたまんないですよね。
山田:そうですね。家というより、なんでもやっていい遊び場みたいなイメージがあるみたいです。
水野:どんなふうに遊ぶんですか?
山田:「ダメだよ」って言っても登りますね(笑)。やんちゃな子は登ったり駆け下りたり、楽しそうに遊んでいます。
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文・編集: 井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
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