スマホをスクロールしたとき、「ん?」って手を止めてもらいたい。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
今回のゲストはとんだ林蘭さんです。

とんだ林蘭
1987年生まれ。アーティスト。文化服装学院スタイリスト科を卒業後、販売員やOLを経て、25歳のときにイラストレーターを目指し、アートの世界へ。自身の作家活動に加え、あいみょんや木村カエラといったミュージシャンのアートディレクション、ファッションブランドとの協業も話題を集める。ミュージシャンの池田貴史(レキシ)が名付け親。
週5くらい通っていたお洋服屋さんで…

水野:“とんだ林蘭”さんというお名前は、どこから来ているんですか?
とんだ林:レキシの池ちゃん(池田貴史)から命名してもらったアーティストネームです。
水野:レキシネーム以外で名前をつけてもらうひともいるんですね!
とんだ林:珍しいと思います(笑)。
水野:とんだ林さんが今のお仕事に足を踏み入れることになったきっかけというと?
とんだ林:小さいときからマンガは大好きで、マンガ家が憧れの職業ではあったのですが、「自分がなれるわけない」と思って生きてきたんですね。それで普通にOLや販売員として働いていました。でも25歳のとき、「今、いちばんなりたいのはマンガ家だ」と気づいて。いきなり描き始めました。
水野:それが仕事になるにはなかなか距離がありますよね。
とんだ林:正直、マンガはすぐ挫折してしまったんです。一度は編集部に持ち込んだりしたんですけど、「才能ないな」ってすぐ自分で見切りをつけて。でも絵を描くことは楽しいと思えたので、イラストに転換して。当時は、みなさんがどうやって仕事をもらっているのか見当もつかない状態だったものの、好きなことなので続けていたら、いつの間にか仕事をもらえるようになっていました。
水野:ご自身の転機となるような出会いもありましたか?
とんだ林:当時、浅草に住んでいたんですけど、暇すぎて週5くらい通っていたお洋服屋さんがあって。そこには椅子とテーブルがあって、みんなでトランプをしたり、ご飯を食べたり喋ったりしていて、結構おもしろい方が集まっていたんです。それこそ池ちゃんだったり、水野さんもご一緒されていたパーカッションの朝倉真司さんだったり、いとうせいこうさんとかミハラヤスヒロさんとか、いろんな方が来ているお店で。
水野:へえー! でもそのコミュニティー、普通に入れるものですか?

とんだ林:今思うと怖いもの知らずですよね。年齢もやっていることもかけ離れ過ぎていて、逆に仲よくしてもらっていました。そこで楽しい大人たち、好きなことをやって生活している大人たちに初めて出会って、「こういうふうになりたいな」って思ったんです。
水野:そこからどのように今みたいな広がりに?
とんだ林:まずはとにかく、やりたいことを見つけられた嬉しさが大きかったんです。だからOLをやりながら、帰ってすぐ描いていました。ちょうどInstagramを始めた時期だったので、作品帳みたいな感じで載せたり。個展をやり始めたり。“とんだ林蘭”という特徴的な名前なので、結構みなさんすぐに覚えてくださって。「知っているよ」という方がだんだん増えていって、そこから徐々に徐々に仕事に、という感じでした。
水野:最初から、「たくさんのひとに見てほしい」みたいな気持ちはありましたか?
とんだ林:いや、最初はただ楽しいから描いていて、むしろ、「一般人がいきなり表現するなんて恥ずかしい」みたいなところがあったんですけど。それもまわりの大人たちに、「そういうとき恥ずかしがっちゃダメだよ」って言われて。続けていくうちに、名前にも慣れて、表現していることが当たり前になっていきました。同時に「できればいろんなひとに見てもらいたいな」という気持ちになっていきましたね。
水野:そこからイラストという分野だけじゃなく、MVのような映像のほうに行ったり、どんどん作品が広がっていきましたよね。
とんだ林:単純に飽き性なんですよ。最初はイラストで仕事をいただけるようになったけど、私の場合は、ずっとひとつのことだけをやっていると飽きてしまう。コラージュとか、いろんなことをやるほうが性に合っているんだと思います。あと、依頼があったら、「できないかも」より、「やってみたいからとりあえずやってみよう」とできるだけやるようにしているところも大きいですね。
生肉を可愛いと思わない?

水野:とんだ林さんの作品は “シュール”と言われることが多いと思うのですが、ご自身は“シュール”をどう定義されています?
とんだ林:あまり意識はしていないんです。最初にちゃんとしたギャラリーで個展をやったとき、プレスリリースで書いてくださったのが、「猟奇的でキュートでシュールな世界観」みたいな見出しで。それがバーッて広まっていったんですよ。だからシュールというイメージがついているのかなって。どちらかというと、もともと好きだったものをまわりから「シュール」って言われて、「あ、これはシュールだったんだ」と知った感じで。
水野:普通に好きなものを作っていたら、それがシュールと言われるものだったんですね。
とんだ林:最初はそうでしたね。でも今ではたとえば、アートディレクションでものを作るとき、スタッフの方に世界観を共有するために“シュール”という言葉を使ったりもします。
水野:どうしてシュールと呼ばれるような世界観に惹かれるんですかね。
とんだ林:もとをたどって考えると、さくらももこさんがすごく好きだったんですよ。最初、「マンガ家になりたい」と思ったのも、「さくらももこさんみたいになりたい」っていうのが大きい理由で。さくらさんの描く笑いって、小さいときは当たり前に読んでいたんですけど、あれはシュールだったんだなって。幼少期から『ちびまる子ちゃん』とか読んでいたので、シュールが染みついていたのかもしれないです。
水野:とんだ林さんの作品のなかで、コラージュというのも大事なポイントですよね。
とんだ林:YouTubeでヤン・シュヴァンクマイエルという作家の動画を観て、コラージュに興味を持ちまして。自分の手で1から作るのではなく、すでにある素材を組み合わせて作るのもおもしろそうだなと。頭の使い方が違いますし。それで当時、知り合いの美容室師さんが移転するタイミングで雑誌を大量に捨てる、っていうのを聞きつけて。その雑誌をもらうために青山まで電車で何往復もして、切り始めたのがスタートですね。
水野:最初から自分で作っていくイラストと、編集的な要素もあるコラージュと、どちらのほうが楽しいとかありますか?

とんだ林:気楽さで言ったらコラージュですね。何にも考えずにできるっていうか。正解がないじゃないですか。とりあえずある素材を動かして、終わりも自分で決められる。いつでもできる楽しさがある。イラストは結構、自分と向き合わないと描けない気がするので。違った楽しさですかね。
水野:…生肉は何ですか?
とんだ林:シンプルに可愛いなと思って(笑)。
水野:生肉を可愛いと思う感覚、結構おもしろいと思うんですけど。
とんだ林:可愛いと思われないですか?
水野:そうですね…。多分、ふたりのあいだを隔てる河がある気がします(笑)。何も考えずにコラージュを作っていくと、とんだ林さんのそういう素のセンスがビビッドに出てくるのかなって。ご自身の感覚が他のひとと少し違うような意識はありますか?
とんだ林:たくさんの方がいいと思うような、正統派な綺麗なものより、ちょっとギョッとするもの、引っかかるもののほうが好きという意識はありますね。今はスマホのスクロールでいろんな作品をワーって見ることができるけれど、せっかくなら「ん?」って手を止めてもらいたい。そういう気持ちはあります。
水野:あいみょんさんの「マシマロ」のMVも全編コラージュで制作されたんですよね。
とんだ林:アルバム収録曲のなかから、3曲のMVを作るうちの1作の監督に選んでくださって。あいみょんはデビューから、ジャケットやティザー映像をやらせていただいていたんですけど、MVは初めての依頼だったので嬉しくて。自分の原点でもあるコラージュで作ったら、他の監督さんとも差が出るし、MVのバリエーションとしてもおもしろいんじゃないかなと思って提案して。「いいね」と言ってもらえた感じでした。
水野:また、同じくあいみょんさんの新しい作品「スケッチ」のMV、とんだ林さんの作家性が非常にはっきり出ている気がして。僕らもMVを作ってもらう側なので、どういうコミュニケーションでこういう作品になったのか興味が湧きました。
とんだ林:「スケッチ」のMVは眠るときに見る夢がテーマだったんですよ。だから、ありえない状況とか、日常っぽい状況とか、なんでもありの世界じゃないですか。そういう説明がついたので、好き勝手にやらせていただきました(笑)。
ひとと何かを作るほうが楽しいタイプ

水野:自分の価値観みたいなところは意識されたりしますか?
とんだ林:私の場合、「世界観があるタイプ」と言われるので、それを求めて依頼して来てくださっている方が多いんです。逆に私は、自分の世界観じゃない仕事もやりたいんですけど。提出したら、「もうちょっと世界観を出してください」と言われたりすることもあって。
水野:そうか、依頼する側のほうに、「とんだ林蘭といえばこれ」というイメージがあるんですね。それがご本人からすると、だんだん飽きてくる?
とんだ林:飽きるわけじゃないんですけど、「今回はこの感じがいい」って自由に提案できるほうが楽しいなって。でも客観的に、「自分はやりやすい状況なんだな」とは思っています。
水野:作っていていちばん楽しいのはどういうときですか?
とんだ林:撮影の現場ですね。文化祭のようにみんなで作り上げていく楽しさがあるので好きです。
水野:撮影となると、自分とは違う価値観の、たくさんのひとが関わるじゃないですか。チームでものづくりをしていくことについては、どう折り合いをつけていますか?
とんだ林:むしろ自分にないセンス、自分にない型を持っているひとを、指名させていただいてチームを作ることが多いんですよ。
水野:自分に近いひとというより、自分と違うひとを選ぶ感じですか?
とんだ林:自分よりちゃんとしたひと(笑)。結構みなさん、広告業界でバリバリ経験を積まれていて、かつセンスがある方、アーティスティックな方もたくさんいらっしゃるから。あと、性格がいいひと。やっぱり一緒にいて気持ちが明るくなるひとが好きなので。技術やセンスに加え、人間的に好きなひとを選んでいますね。

水野:ここからさらに何かやりたいことはありますか?
とんだ林:映像はもっとやっていきたいですね。でも自分で決めるより、ふわーって生きていて、そのとき依頼があったものをやるみたいなほうが好きなんですよ。だから、何でもやりたいと言えばやりたいという感じです。
水野:ビジュアル的なもの以外にも、たとえば文章とかいかがですか。
とんだ林:ああ、エッセイは書いてみたいですね。2年前、手書きで紙にエッセイを書いてインスタに載せていた時期があって。それを書いているとき楽しかったですし、読んでくれた方がたくさん感想を言ってくれたので。とはいえ、ひとに会わないひとりの時間じゃないとなかなか書かないので、そこからまったく書いてないんですけど、いつかもっと書きたいなと思っています。
水野:自発的な作品へのモチベーションは上がったりしないんですか?
とんだ林:昔は自分が書きたいもの、作りたいものだけで生活している作家さんに憧れていました。でも最初に個展を何年もやって、そこからだんだんお仕事の案件が増えて、CDジャケットや広告を作っていくなかで、「どうやら自分はひとと何かを作るほうが楽しいタイプだ」と気づいたんですよね。だからそこに未練はないです。
水野:「こういうタイプのものを作りたい」みたいなものは何かありますか?
とんだ林:最近、自分の興味が、ダークファンタジー、SFっぽいものに行っているんですよね。それって非日常というか、普通に街を歩いていて撮れる風景ではないじゃないですか。だからそういう世界観の作品は、もっと作りたいなと思っています。単純に自分が見たことないものを見たいですし、心がウキウキするので。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
とんだ林:話していて伝わったと思うのですが、私はあまり強い意思はなく、作りたいものや楽しいものに引き寄せられて作っている感じです。だから今、クリエイターを目指している方たちも、「自分はこう」と枠を決めすぎず、そのときやりたいこと、楽しそうだと思ったことに、気楽に行ってもいいのかなという気がしています。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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