「どの曲を聴いても、好きな曲に草野華余子がいるぞ」
と思ってもらえるように
わりとスパルタな楽曲制作

水野:ご自身の仕事のクオリティーを上げていくために、普段どういうインプットをされていますか?
草野:最近はXGさんが、ファンクラブに入るくらい好きです。好きなアーティストが多いので、全国のいろんなライブのチケットを取って、行きまくっています。さいたまスーパーアリーナクラスから、関西にある火影という小さなライブハウス規模のものまで。30人の前でやるようなパンクバンドのライブとか、いろんな規模感・ジャンルを観ますね。
水野:ライブでは何をいちばん見ていますか?
草野:偉そうな目線ですけど、ボーカルの覚悟とかは見ますね。「こいつ、今日死んでもいいと思って歌ってねえな」みたいな。私は20代の頃とか、「今日このライブでCD50枚売れなかったらやめたほうがいい」って、自分自身に思いながらライブしていたので。多分、精神的にすごくMなんですよ。常に反骨心が浮かぶ状況じゃないと、生み出せないタイプなのかもしれません。
水野:だから、いろんな楽曲のオファーを受けても、どんどん応えていく。
草野:「ジャングルビートなのに、“ここはビョークみたいにしてください”って、何言ってんねん。やったろやないかい」っていう燃え方をする。私にしか書けないし、そのひとにしか提供できない、という楽曲を意識しているタイプの作家ではあるかなと思います。だからストックとか1回も出したことない。
水野:楽曲提供のオファーが来たアーティストのことはどれぐらい見ますか?
草野:私は完全に憑依型で。そのアーティストさんに、「最近あった喜怒哀楽を教えてください」とか、「人生でいちばん辛かったときに思ったことは?」とか、そういう質問状を送らせていただいています。アイドルの方も含め、ここ3~4年で書かせていただいたアーティストには必ず。時間はかかるけれど、その回答から単語を抽出して歌詞に入れたりしていますね。
水野:言葉として返ってきたとき、どこから見ています? 僕は草野さんのような憑依型タイプではないんですけど、そのアーティストと会話をしたときの言葉や、目の前に出てきた文面だけから、すべてを受け取っているわけではなくて。表面に現れてくる以外のものを見ていて。「なぜ、こういう答え方をするのか」とか。

草野:マジでそれです。「これを言いたいけど、本当は言えないからこういう言い回しになったんだろうな」とか。だから、性格悪いんですけど、本人が書かれたらいちばん嫌なことを歌詞にしているかもしれないですね。抉られてステージで歌うのは輝くから。たとえば、アイドルだとアーティスティックになりたい方は多いけれど、「所詮 私は容れ物だから」というフレーズをわざと書いたり。わりとスパルタな楽曲制作はしています。
水野:最高のドMは最高のドSですから(笑)。しっかり刺していくタイプなんですね。
草野:はい、嫌われないように気をつけつつ。私は悔しい思いをたくさんしてきましたから。たとえば、楽曲提供をしても、「いきものがかり・水野良樹ら」の“ら”のなかの一部だった。「いつか“ら”じゃないほうになりたいな」とずっと思っていた。でもそれが最近、「草野華余子ら」になって、次の“ら”のなかのひとたちから、私は恨まれているわけですよ。
水野:はい、はい。
草野:ヒット曲とか、そのアーティストさんの代表曲となるものをたくさん書けるようになってきて、やっとやりたいことの第一段階はクリアできたんじゃないかと、うっすら思えるようになったぐらい。
水野:この反骨心、ハングリー精神が大事なんですよね。僕もいきものがかりがスポットライトを当ててもらえる道を歩んできたぶん、そのなかで考えてきたコンプレックスみたいなものが山ほどあって。しかもグループ内職業作家的なところがある。自分じゃなく吉岡に歌ってもらうものですしね。だから、とくに20代の頃は「自分が表現できるのはこの範囲だけじゃない。それを認めさせたい」みたいな非常に青臭い気持ちが強くあったのかもしれません。
草野:グループとしての自分自身もライバルということですね。
水野:自分をドライブさせるために、そういう気持ちを源泉に使っていたところはあると思います。
草野:もちろんアーティストさんが目立つべきなのは大前提で。でもいつか、「どの曲を聴いても、好きな曲に草野華余子がいるぞ」と思ってもらえるようにという気持ちがありますね。ひたひたとアーティストさんの作品のなかに毒を流し込み続けるというか(笑)。気づいてもらえる日が来ればいいなと、すごく思っています。
水野:楽曲提供の仕事をする人間って、草野さんがおっしゃるように、「アーティストがいちばんであるべき」という気持ちを強く持っているじゃないですか。そのアーティストが輝いてほしいし、その楽曲がファンのみなさんを楽しませるものになってほしい。かといって、エゴを失っていないかというと、違う。エゴがないと、自分自身の表現ができない。そこは必ず矛盾するんだけれど、その矛盾を諦めた途端につまらなくなるんですよね。
草野:そうなんですよ。器用になったら書けない曲が出てきたりする。
水野:苦しいけれどその矛盾に耐えながら、どちらも成立させようとするとき、職業作家と言われるものなのに、そのひとにしか書けないものが出てくるんじゃないかなって。
休むのが下手

草野:今、専門の職業作家ってかなり減ってきていると思っていて。アーティストをやっていたり、自分の発信のプラットフォームがあったり、人間力や発言力にひとが寄ってくる時代になった。私も話すことが好きなので、ありがたいことに、いろいろバラエティー番組とかに出させていただいて。それによって、自分のファンが増えたというより、お仕事に繋がったなという感じがするんですよ。
水野:ああ、そうなんですね。
草野:必死で曲を書いている私の姿を観て、アーティストのディレクターさんが連絡をくださったり。私としては、自分のライブの動員を増やしたり、アーティスト活動をより頑張るために、テレビに出ていたんですけど。結果、プロデュース業のほうが増えて、思うようにいかないなと(笑)。でも、すべてが思うように進むわけではないなら、すべて楽しむしかない。なので、去年からは、飽きたら少し筆を休めるようにしているんです。
水野:休んでみていかがですか?
草野:休むのが下手です。極端な人間なので、過労になるぐらい働いているほうが私には向いているかもしれない。
水野:もう“僕ら”って言っちゃいますけど、僕らの辞書に「休み」はないんですよ(笑)そして、僕らがいちばん苦手な科目は「休み」なんですよ。
草野:去年聞いておけばよかった…。不安にもなるし。まったく休み方も覚えてないし。水野さん「休み」と言われたら、どうされていますか?
水野:今年の年始、スタッフとかに、「水野さん、休まれましたか?」って言われて、「いや、今年は非常に有意義だった。よかった」と言っているんですよ。で、何をしていたかというと、年始って事務的な連絡が来ないじゃないですか。だからずっと考えることができたんですよね。企画をやったり、資料を読んだり、音楽や映像をあさったり。それがリズムよくできた。
草野:結局、休んではないですよね(笑)。
水野:だから、休み明けの初っ端から、その休み中に作った膨大な資料とか企画書をバーッとスタッフに送って、ドン引きされる、みたいな。
草野:いや、わかる。
水野:そういう、ご自身の好きなことをやる休みを取るのはいかがですか?
草野:私は多分、隙間に何かを埋め込むほうがいいマルチタスク派なんですよ。たとえば、今日はラジオがあって、その前に打ち合わせがあって、夜も収録があるんですけど。その隙間に1曲書くとか。帰りの電車で考えごとをするとか。
水野:じゃあずっと動いてないと。
草野:泳ぎ続けていないと死んでしまう魚だと、去年12月に1ヶ月休んでみて気づきました。
苦悩は曲を書かせてくれる

水野:これからご自身はどうなっていきたいですか?
草野:正直、シンガーソングライター時代に応援してくれていたひとは、半分ぐらい離れたんですよ。女の子がギターを背負って路上で歌って、ひとりで下剋上をしていくのを応援して、「俺がいなきゃ」って思ってくれていた華余子ファンはいなくなってしまった。それで、「じゃあ次に私は、どういうひとたちに向けて、何を歌うべきか」とすごく考えたんですけど、それこそ商業的な思考になっているなと思って。
水野:はい、はい。
草野:もう一度、自分が本当に歌いたい曲を書く1年にしよう。それが売れるだの何だのどうでもいいから、今の私しか歌えない曲を作ろう。それがアーティストとして、今年の目標にしていることですね。
水野:成長物語みたいなものは消費されやすいから、実はすごく商業的だったりする。でも、楽曲提供などで、商業的な成功を収めたことによって、逆に商業的なストーリーから離れられるというか。むしろ勝負の現場に立って、まっすぐ向き合えるところがありますよね。
草野:今、何でも歌えるし、何にでもなれるんですよね。苦悩のターンではあるけれど、苦悩は曲を書かせてくれるから。二足の草鞋によって、バランスが取れなくなった自分をちゃんと描きたい。それはセカンドキャリアとかで悩んでいるひとたちにも届く気がするんです。言いたいことを言えず悩んでいたり、ライブハウスになかなか来られなくなったり、そういうひとの絆創膏や処方箋になるような曲を作れたらなと思っています。
水野:こういう言葉がアーティストの方々からの、「このひとに楽曲提供を託したら、ちゃんとまっすぐとしたものが返ってくるだろう」という信頼に繋がるのだと思います。ご自身のアーティスト活動もそうですし。
草野:嬉しいです。やっぱり私の曲を聴いて、「この歌に励まされた」と依頼してくださる方も多いので。カタログとして自分の曲があるのは、作家としても役立つし、100曲、200曲と自分がやってきた誇りでもあるし。作家活動とアーティスト活動、どちらも欠けてはいけない。今年はさらに歯車が噛み合うようにやっていけたらいいなと思っています。なかなか一筋縄ではいかないけれど、そこが人生の愛すべき部分ではあるから。
水野:この番組では最後に、これからクリエイターを目指す方たちにメッセージをお願いしております。何かひと言いただいてもよろしいでしょうか。
草野:ひとつ登ったら、次の壁が出てくるからな、みたいな気持ちですけど(笑)。億劫にならず、怯えず、とにかく完成させろ、ということですね。その完成させた作品たちの数や質が、必ずあなたの背中を押してくれる日が来るから。作って、途中90秒のテレビサイズでやめるんじゃなくて、1曲完成させる。そして、「次は今作ったものよりもっといいものを作る」という向上心を持って、完成させ続けてほしいと思います。
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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
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