作ったときに何が残るのか、何を残したいか、何を伝えたいか。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
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“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、CMディレクターで、映画監督の浜崎慎治さんです。

浜崎慎治(はまさきしんじ)
CMディレクター、映画監督。1976年、鳥取県生まれ。2002年TYO入社、2013年よりフリーランス。手がけたCMにau/KDDI「au三太郎」、日野自動車「ヒノノニトン」、家庭教師のトライ「教えてトライさん」、トヨタ自動車「TOYOTOWN」、トクホン「ハリコレ」など。ACCグランプリ、ACCベストディレクター賞、広告電通賞優秀賞、ギャラクシー賞CM部門大賞など受賞多数。また、2025年7月4日に劇場公開された、吉沢亮が主演の映画『ババンババンバンバンパイア』の監督も務めた。
「おもしろい」はいちばんひとの記憶に残る

水野:もともとはどういうところから映像に興味を持たれたのですか?
浜崎:僕は大学の建設工学科で学んでいて。当時、推薦で行きたい会社があったのですが、就職氷河期だったこともあり行けなかったんです。「これは参ったな…」と、当時スチールカメラマンをやっていた兄のもとへ相談しに行きました。そこで兄がもっていた広告雑誌に触れて。「そもそも広告って“作っているひと”がいるんだ。おもしろそうだな」と。それから兄に広告業界の知り合いを紹介してもらって話を聞いたら、学生からすると大人が遊んでいるようにしか思えなくて(笑)
水野:大人がおもしろいものを作ろうとしている、と。
浜崎:そうそう。それから制作会社の募集をバーッと探しまして。運よく、ニッテンアルティという会社に制作のプロダクションマネージャーとして入ることができたんですよね。映像の作り方なんてまったく知りませんでしたが、会社に入ってからいちばん下っ端としていろいろ学びました。そして次第に「どうやら監督っておもしろそうだな」と思うようになっていって。
水野:おもしろいほうに惹かれるんですね。
浜崎:2年間ぐらいプロダクションマネージャーをやったことで、映像の作り方を学び。さらにFinal Cut Proが出始めて、編集もできるようになったし、ある程度はツテもできた。そこらへんで「自分でも映像作品を作ってみたいな」と。ただ、会社が本当に忙しい時期で、当時は土日も休みがなかったんですよ。このまま同時並行は絶対に無理。ということで、仕事を辞めたんですよね。
水野:それは、結構なジャンプですね。
浜崎:ここで動かなかったら後悔するなと。それから初めての自主制作をしました。見よう見まねでコンテを書き、知り合いに音楽を作ってもらって、その曲をベースにして映像を撮ったんです。ミュージックビデオのような形ですね。そうしたら、その作品が運よくアマチュアの賞を取りまして。でも、だんだんお金がなくなってくる。多少は賞金が出ますが、それでは生活ができない。そのとき改めて思い出して、「やっぱりCMもおもしろいな」と思って。
水野:はい、はい。
浜崎:TYOという会社に、好きな監督方がいらっしゃったので、熱意だけを手紙に書いて門を叩いたんです。すると、意外にも面接していただけて。映画監督の吉田大八さんが当時、ショートフィルムを撮っていまして、「君は助監督みたいなこともできる?」と訊かれたので、「なんでもやります」と言ったら入れてもらえました。大八さんのアシスタントをして、企画演出部に行き、徐々にCMの仕事をさせてもらえるようになった感じですね。
水野:その後、浜崎さんは「au三太郎」シリーズをはじめ、家庭教師のトライ「教えてトライさん」、花王「洗濯愛してる会」、日野自動車「ヒノノニトン」など、話題のCMをたくさん手がけられていきます。これはどんなふうに作っていかれたのですか?
浜崎:もともとおもしろいCMが好きで。「おもしろい」って、いちばんひとの記憶に残ると思うんですよ。だから、「どうやったらCMを最大限、残していけるか」というポイントを考えていきます。たとえば、「ヒノノニトン」はリズムものですよね。あれはプランナーの横澤宏一郎さんが、「“母さんお肩を叩きましょう”から、“トントントントントン、ヒノノニトン”というのはどうですかね」とおっしゃって。なるほど、音から来るか!と。
水野:音ものというシンプルな本質からスタートして、それを印象に残る映像として撮るところまで、どう組み立てていくのでしょう。
浜崎:音ものなので、たとえば“ケンケンパ”をしているうちに、なぜか“ヒノノニトン”になるとか、そういうジャンプの仕方ですね。音ものと音ものをくっつける。そのなかで堤真一さんとリリー・フランキーさんの掛け合いで魅せていく。実際のCMでは、リリーさんが堤さんのマッサージをしていて、「じゃあここに座ってください」と言って最後に、「トントントントン、ヒノノニトン」と肩を叩き出す。なんで?っていう感じですけど(笑)。
水野:おもしろいなあ(笑)

浜崎:一方で、「au三太郎」や「教えてトライさん」や「洗濯愛してる会」のようにシリーズで魅せていくパターンもありますね。「au三太郎」は、まずラジオCMを作っていまして。「3人の太郎が友だち」という大きな軸があったんです。当時、プランナーとクリエイティブディレクターをやっていた篠原誠さんが、「これを映像にしたい」とずっと思っていたみたいで。ただ、ラジオなので、3人が喋っているのが魅力でもあって。
水野:桃太郎と金太郎と浦島太郎が喋っている映像を、世の中のひとは見ていないですもんね。
浜崎:しかも本来は、携帯やスマホと昔話って組み合わせが悪いんですよ。昔話に要らないじゃないですか。だから、「本当にできるのかな」と思っていたのですが、篠原さんが“言葉で落とす”というブリッジというか、コピーを考えまして。たとえば、学割だったら、「思いっきり割ります」ということで、思いっきり“桃を割る”シーンと“学割”をかけた。そうやってうまくいく方法をなんとか生み出して、昔話でもいけるんじゃないかと。
水野:広告作りの真剣なお話であるはずなのに、聞けば聞くほどおもしろいです。
浜崎:そう、バカバカしいんですよ(笑)。だから喋っているうちに「こういうのはどう?」っていろんなものが生まれていくことが多いです。CMには基本、0から1を作ってくださるCMプランナーがいますので。そのひととタッグを組んで、いかにおもしろくするかが最大のポイントだと思います。映画でいう、脚本家と監督のような関係というか。ひとりでは難しい。そこがCMのおもしろいところですね。
水野:プランナーさんから企画が来たとき、どういうところをいちばん見ますか?
浜崎:「作ったときに何が残るのか、何を残したいか、何を伝えたいか」ですね。企画でいうと、「ここが臍だな」というところを掴むんです。そこから、その伝えたい1行や1コマをできるだけキャッチーに残すため、いろんなものを削ぎ落して、“ここ”という落とし込みポイントをガッチリさせます。そこが不安定だと、すべてがぐらついてしまうので、土台をしっかりと作り上げるのが大切だと思いますね。
映画監督でも根っこはCMディレクター

水野:また、浜崎さんは2025年7月4日に劇場公開された映画『ババンババンバンバンパイア』の監督も務められました。CMと映画とでは作り方がどう変わるのでしょうか。
浜崎:一作目に映画『一度死んでみた』の監督をさせていただいたのですが、そのときは、短距離走の選手が長距離走を走るような感覚でした。まわりからも、「CMが作れるのは知っているけれど、映画はできるんですか?」という目で見られますし。
水野:使う筋肉がまったく違う気がします。
浜崎:映像という大きな枠では同じですが、中身はまったく違いますね。僕の場合、初めての映画作品は脚本を書いてくださった電通の澤本嘉光さんから、「監督をやってみませんか?」とお誘いいただいたんです。言ってみれば、CMの世界の仲間から声をかけてもらったので、入りやすかった。ただ、CMがプランナーとタッグを組んでやるものであるのに対して、映画は基本的に監督が相当、前に出るじゃないですか。
水野:映画は監督のものだ、と。
浜崎:そう言われるんですよ。CMなら、最終決定権は大体、クライアントさんが握っていらっしゃる。でも映画の場合、監督がOKならOKという世界なので、そこが大きく違いますよね。さらに、CMはひとつの売りたい商品があって、そのために企業からお金を出していただいて制作する。映画は0から1で作ったコンテンツを売っていく。お客さんに来ていただいて、そのお金をリクープしていく。似ているけれど、違う。
水野:直接か間接か。
浜崎:映画は「これはお客さんが入るのか」とか、「これぐらいの予算をかけても大丈夫なのか」とかも含めて、最初に議論していくんですよね。プロデューサーの立場もCMとは違いますし、監督の責任が大きい。だからこそ、おもしろくもあります。

水野:映画『ババンババンバンバンパイア』は、登場人物の紹介の仕方がすごく特徴的で。
浜崎:原作は奥嶋ひろまさ先生のギャグマンガで。読んでみても、本当にバカバカしくておもしろいんです。そして、マンガによくあるのですが、登場人物が次々と出てくるタイプの作品でして。僕は“少年ジャンプ方式”と呼んでいるんですけど。そのパターンだったので、キャラが登場するたびに、そのひとの半生がわかるといいなと思ったんですよね。ただ、それがただのナレーションだとあまり惹かれないので、あの形になりました。
水野:ドラマも映画も、説明しすぎると冷めるみたいなところがありますが、それを真正面から崩しながら、ちゃんとおもしろい。
浜崎:やっぱり僕は根っこにCMディレクターというところがあるんですよね。単なる商品説明って、別に誰も興味ないじゃないですか。でも、CMソングに乗せたりすると、スッと入ってきたりする。いつのまにか自分の懐に入っているものになればいいなと思うんです。
水野:あの展開や登場人物の多さを、どうやって映像としてまとめていったのでしょう。
浜崎:普段からCMで、情報処理は毎日のようにやっているので、そこで培ったものが映画でも活きましたね。なんとなくではなく確信犯的に、「このキャラはこうわかってほしいな」と消化したり。だから今までの経験で無駄だったことはなくて。映画も、違う監督が担当したら、まったく違う仕上がりになるのだと思います。僕はたまたまCMのフィールドでやってきたからこそ、ああいうアウトプットの形になったんだなと。
根拠のない自信こそが最大のパワー

水野:これから、どのようにものづくりをされていきたいですか?
浜崎:僕はCMが大好きでこの業界に入って、CMに育ててもらって、何か恩返しをしたい気持ちがあります。あと、若いひとに負けていられない気持ちもある。なので、引き続きCMという土壌で今まで以上に頑張っていきたいです。一方で、映画も大好きなので、自分ならではの作品を撮っていけたらいいなと。ひとつ、チャレンジとして自分で脚本を書いて撮りたいんですよね。そのほうが意外と現場で臨機応変に行ける気がして。
水野:完全にオリジナルで?
浜崎:原作ありでもオリジナルでもやってみたいです。今まで2本、コメディーを撮ってきましたが、今度はちょっと違うタイプのものを。僕はトッド・フィリップスという監督が好きで。もともと『ハングオーバー』などのコメディーを撮っていて、めちゃくちゃおもしろいのですが、そこから『ジョーカー』も撮られているんです。
水野:振り幅がすごいですね。
浜崎:あと、『ノーカントリー』とか『ファーゴ』を撮ったコーエン兄弟も好きで。人間の滑稽な部分を描いてきた上で、シリアスなものも描いていく。そういう監督に昔から憧れがありますね。僕もそういう振り幅を見せていけたらいいなと。たとえば、泣ける映画とか、サスペンスとか、ジャンルを変えて。でも根っこでは、人間のおもしろい部分を描いていきたいと思っています。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

浜崎:僕は、根拠のない自信がいちばんのパワーになると思っています。「なんかわかんないけど、俺すごいかも」って、自分以外は思えないことで。若者って何者でもないじゃないですか。でも、根拠のない自信を絶えず忍ばせて、ものづくりをすることが大事かなと思います。
水野:そうやってパワーを入れないと、何も破れないですよね。
浜崎:他者は、「絶対無理」とか言って反対してくると思います。でも自分のなかでは、「できる」と思い込む。そこが唯一の突破口なんじゃないかな。
水野:いきものがかりも20歳ぐらいのとき、メンバー間でずっと、「根拠のない自信がある」と言っていました。
浜崎:何者でもないのに、いちばん強い言葉ですよね。
水野:そうなんですよ。脱退した山下(穂尊)とふたりで、「なんか、見えるよなぁ…」って。まわりから見たら滑稽だったと思いますけど、根拠のない自信がありましたね。
浜崎:そういえば、秋元康さんが昔、「“俺、じゃんけん強いんだよね”って言うやつがいちばん怖い」と言っていました。じゃんけんって、勝てるかなんてわからないじゃないですか。それなのに、「俺、じゃんけん強いんだよね」と言われると、「このひとすげえ。俺、負けちゃうかも」という気持ちになる。やっぱりそういう根拠のない自信こそが最大のパワーなんだろうなと思いますね。


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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:北川聖人
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
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