広告を通して、
世の中のおもしろがり方を教えられたら
応用がきく容れ物があるといい

水野:福里さんが手がけられたCMは、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、ENEOS「エネゴリくん」、ジョージア「明日があるさ」など、シリーズ化されることが多いですよね。
福里:まず、長く続いたほうがいいとはすごく思っていて。商品と広告が結びついてないと、なかなか広告が商品に貢献しないから。たとえば、サントリーBOSSでいうと、お店でBOSSを見たとき、「宇宙人ジョーンズ」のCMまでは思い出さなくても、なんとなくBOSSの雰囲気というものがあると思うんですよ。
水野:はい、はい。
福里:広告って、広告を見た瞬間に買いに走るものでもなく、商品にまとわりつく空気作りという役割がいちばん大きい。すると、シリーズが長く続いたほうがいいなと。こういう考え方も意外と、広告クリエイターでは珍しいタイプかもしれません。「もっと新しくしたほうがいいです」とか、「シリーズを変えましょう」というタイプが多い。作り手が最初に飽きてしまうというか、新しいものを作りたくて仕方ないひとたちなので。
水野:そうですよね。

福里:私のように、「ずっと続いたほうがいい」というひとが珍しいからこそ、シリーズが続くというのもあると思います。あと、無理をしないことも大事だなと感じていて。そんなにカッコよくない企業の広告で、カッコよすぎるCMを作ってしまうと、瞬間的には話題になるかもしれないけれど、「なんか違う気がする」と思うようになっていく。ユーザー側も企業側も。
水野:乖離が出てくるんですね。
福里:それよりも、あまり無理をせずに、「この会社だったらこういう感じだよね」という似合うものを実現していったほうが長続きするのかなと。
水野:でも世の中って、とにかく毎年季節ごとに変わっていくじゃないですか。だからこそ、「刷新しましょう」ということが多い気がするんですけど。同じシリーズを続けるということは、そのなかで変わっていく時代にも合わせなければならない。その難しさはどう乗り越えていかれるのでしょうか。
福里:シリーズがいろんなものを入れやすい構造になっていたほうがいいですね。たとえば、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」シリーズだと、宇宙人が“日本の今”を調査しているということが常に題材になる。すると、設定自体は同じでも、扱われている“今”が変わっていくので、古びにくい。出演されるゲストタレントも、今の雰囲気をまとっている方だったりすると、新しく見えたり。応用がきく容れ物があるといいのかなと思います。
水野:あれほど世相を表すCMもないですよね。その時代ごとに刺さる。最初から、「こういう構造ならいろんなことに対応できるな」と考えていらっしゃったんですか?
福里:そうですね。サントリーさんから、「5年続けられる企画フレームを考えてください」と言われたんです。でも、お話がこうなってああなって…みたいなものだと飽きられてしまうと思いました。そこで、宇宙人が調査している設定だけれど、その調査対象がだんだん変わっていくから、続けやすいという構造を提案して。それが今、シリーズ19年目なんですけど、さすがに誰もここまで続くとは…。
もうちょっと笑えるCMを

水野:また、「宇宙人ジョーンズ」もそうですけど、CMに音楽が使われる場面も多いですよね。福里さんにとって、CMにおいての音楽とはどういう存在ですか?
福里:やっぱり音楽が支配しますよね。なかなかCM中にテレビ画面をじっくり観るひとは少ないし、年々そうなっていると思うので。では、こちらに顔を振り向けてもらうために何が大事かというと、いちばん強いものがおそらく音楽で。あまりにもいろんなことを盛り込みすぎると情報過多で伝わらないんですよ。「感動してほしい」とか「笑ってほしい」とか、あまりにその狙いが出すぎると、「広告ってイヤだな」と思われてしまう。
水野:なるほど。
福里:すると、そこを補足するのは、ストーリーやセリフじゃなくて、音楽なんです。だから音楽は、最後にやってきて助けてくれるもの、というイメージですね。
水野:テレビだけではなくネットが登場して、CMが観られる環境もがらりと変わっているなかで、「これからはこういう広告を作っていかなきゃいけない」とか、考えが変わる部分はありますか?
福里:メディアがどうというより、ちょっと笑える広告が少ない気がしていて。音楽を使った感動的なものとか、ダンスで魅せるカッコいいものとか、共感できて泣けるものとか、そういう広告は今、しっかりあると思うんですけど。私が子どもの頃にテレビで観ていたCMって、もうちょっと笑えるものが多かったんですよ。自分はあまり感動的なものを作るタイプでもないので、ほっとできたり笑えたりするCMを作るひとでありたいですね。
水野:でも結果、泣けるものも多い気がします。笑って楽しいけれど、ほっこりするというか。福里さんの人間味が出ているんですかね。とくに「宇宙人ジョーンズ」シリーズはそう思いますね。
福里:「宇宙人ジョーンズ」も基本、笑えるところは必ずあってほしいと思っています。最後に、「この惑星の〇〇は~だ」という結論を言うときも、普通ならいいことを言おうとするというか、感動させたいと思うんですけど、私はそこで笑わせたい。だから、ややとんちんかんだったり、ひねくれていたり、皮肉めいたことだったりを言って、クスッとして終わる。自分自身もそういうほうが好きなんですよね。
「このろくでもない、すばらしき世界。」

水野:これからどういうことをやっていきたいと思っていますか?
福里:広告作り以外の面でいうと、水野さんにも出演していただいたYouTubeチャンネルの『広告ウヒョー!』を頑張りたいですね。もともと『広告批評』という雑誌があって、『広告ウヒョー!』はその雑誌にオマージュを捧げる意味でタイトルをつけたんです。私は高校時代から雑誌が好きで、いろんなものを読んでいたんですけど、とくに『広告批評』はおもしろかった。それは世の中のおもしろがり方を教えてくれるような雑誌だったから。
広告ウヒョー!【公式】広告専門メディア
福里:ただ、自分は実制作者であって批評家ではないので、広告批評はできない。だから『広告ウヒョー!』ではとにかく自分がいいと思った広告、ウヒョー!と来た広告を紹介したいなと。それを通して、広告の魅力を伝えたいという気持ちもあるし。「広告を通して見ると、世の中がこんなふうにおもしろく感じられるよ」とか、『広告批評』のように世の中のおもしろがり方を教えられたらいいなと思っていて。
水野:なるほど。
福里:私が子どもの頃は『広告批評』に限らず、大人たちがあの手この手で、世の中をおもしろくしていくことを競い合っていた感じがあって。広告の作り手も、糸井重里さんや川崎徹さんがその代表として一線を走っていたと思うんです。でも今の世の中って、真面目に論じるとか、厳しく言うとか、そういうことは発達しているんですけど、「どうやって世の中をおもしろがるか」という視点をもたらすものって少ないじゃないですか。
水野:おもしろがるという態度でさえ、厳しい視線を向けられる時代である気がしますよね。
福里:そうですよね。なんでそうなったんでしょうね。だからこそ『広告ウヒョー!』というYouTubeチャンネル、ものすごく微力ですけど、なかなか再生数も増えていかないですけど、やっていきたいんですよね。
水野:広告っていちばん風として影響を与えるものかもしれないですね。時代の空気を作っていける。
福里:あと広告って、何かを批判したり、ネガティブに捉えるものではないので。商品や企業のいいところを紹介したり、それが世の中にどんないい影響を与えるかを描いたりしている。それゆえに、「世の中をおもしろがる」というポジティブなメッセージを発信しやすいものだとは思いますね。
水野:この番組では最後に、これからクリエイターを目指す方たちにメッセージをお願いしております。何かひと言いただいてもよろしいでしょうか。
福里:BOSSは「このろくでもない、すばらしき世界。」という広告コピーでずっとやっていまして。これからのクリエイターを目指すひとたちに言うとしたら、「このろくでもない」って思う感覚も大事だし、「すばらしき世界」って思う感覚も大事だよと。かつ、それが「ろくでもないけど、すばらしい」でもあるけれど、「ろくでもないから、すばらしい」とも言える。そういう捉え方をしてみたらどうでしょうか。ということをお伝えしてみます。

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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
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