『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』川田十夢

ミュージシャンが音を鳴らせる世界は、ひとを集められる場所だけではない。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、AR三兄弟の長男で開発者、そして“通りすがりの天才”の川田十夢さんです。

Man in a brown cap and headphones speaks into a microphone in a recording studio.
川田十夢(かわだとむ)
1976年熊本県生まれ。開発者。開発ユニット・AR三兄弟の長男として活動。中央大学商学部会計学科卒業。大手ミシンメーカー系列会社に就職し、同社のシステム開発と特許開発に従事。システムの設計や開発のほか、自社のウェブ広告や展示会のプロデュースなども手掛けた。2010年に独立。映像担当の「次男」、プログラム担当の「三男」とで開発ユニット・AR三兄弟を編成して活躍。企画、発明、設計、執筆、司会などを担当している。

何かワンメイクをすることが遊びだった

Person wearing over-ear headphones speaks into a microphone during a podcast recording; another person in a mask sits in the background.

水野:いきものがかりでは、AR三兄弟のお世話になっています。15~16年前、まだ今ほどARという言葉も認知されていない時代に、“QRコードを読み込むと、いきものがかりが紙面上に現れる”という新聞広告をやっていただきました。

川田:いきものがかりって、みんな大好きでパブリックなイメージがあるけれど、実はすごく実験的なことばかりやっているんですよね。

水野:プロジェクションマッピングも早かったですし。

川田:僕としても初期の頃にご一緒させていただいて、嬉しかったです。

水野:ものづくりにはいつ頃から興味を持たれたのでしょうか。

川田:我が家では買ってくれるものと、買ってくれないものが明確に分かれていたんです。多分、祖父から両親への教えで。本は何でも買ってくれましたが、最初はファミコンも買ってくれなかったし、マンガもあまり買ってくれませんでした。それなら、自分で作るしかないということで、プラモデルなどを作り始めたのが始まりですね。

水野:プログラミングというか、構造物を作るほうにはどのように進まれたのでしょうか。

Man wearing headphones speaks into a microphone in a studio, hands visible nearby, concentration on his face

川田:当時、段ボールなどでプラモデルを作っていたんですね。その経験から、“着られるタイプのガンダム”を最初に作ったんです。何かワンメイクをすることが遊びだと思っていました。だから、いざプラモデルを買ってもらっても、「もうワンメイクしなきゃ」みたいな気持ちになって。ゲルググで扇風機を作ったりしていて。槍がグルンとまわって涼しくなるモビルスーツ。それが人生の最初のほうのクリエイティブですね。

水野:設計図を与えられるとつまらないというか。

川田:そうですね。せっかく槍を持っているし、扇風機を眺めるのも好きだったので、「この構造でまわれば風が吹くんだ」と考えて。槍を翼につけて、ミニ四駆とかのモーターをつければ、涼しくなるなと。

水野:まわりの友だちからの反応はいかがでしたか?

川田:「川田は天才だ」って(笑)。僕らの世代は映画『グーニーズ』が流行って、そのなかに何でも発明するデータという子どもが登場するのですが、僕はその子と対比されていましたね。友だちからオファーを受けて、いろんなものを作りましたよ。

水野:どのあたりから、それが仕事になると思われていましたか?

川田:学生時代、Flashという技術があったんです。HTMLタグとアニメーションなどを同居して作れるような技術が出てきて。新しい積み木を与えられた感覚でした。それでいろいろ作っていたら、「大手の大きな遊園地がオープンするから、そこのホームページを作ってくれ」と依頼が来たんです。そのときから、ちゃんとしたものや誰も作っていない変なものを作ると、誰かしら見てくれていて、声をかけてくれるという実感を得ましたね。

歌に“読後感”を与えたい

Radio host wearing a brown cap and headphones, speaking into a microphone in a studio.

水野:音楽はなぜ作り始めたのでしょうか。

川田:水野さんとずっとお話したかったのですが、僕はもともと音楽が大好きなんですよ。学生時代は宅録とかもやっていました。ギターのコイルから作るとか、そんな変なことを。メディアアートっぽくなっていますが、音楽に対する思いがずっと消えなくて、それが今役立っていますね。

水野:川田さんの制作された、AIを活用したミュージックビデオと音楽がSNS上でも話題になっていますね。みんながよく聴くような歌詞とは違った韻律というか、文章のようなものが楽曲になっていて。

川田:新しいテクノロジーが出ると、僕は開発者なので触ってみるんですよ。それで3年ほど、映像系や音系のソフトウェアをいろいろ研究しながら、「これはもう未来、ミュージシャンも無視できなくなるぞ」と思いまして。だけど、使い方を間違えると、テクノロジーがなくなってしまう。すると、人類の文化という意味で後退してしまう。だから、「こう使えばいいんですよ」と前進する方向を、言葉じゃなく形で示そうと思って曲を作り始めました。あと、僕が実験しているのは、“いかに歌に読後感のようなものを与えられるか”なんです。

水野:読後感。

川田:本を読んだかのような気持ちって、まだ本からしか与えられたことがないなと。たとえば、僕はいきものがかりの曲が大好きですが、一場面を切り取られているような印象を持つんですよ。でも、今まで言葉にすることが野暮とされてきた、くどくどした説明めいた部分も、あえて歌にしてみたかった。それで実験的にやってみたら、ようやく最近チューニングできた感覚ですね。

水野:音楽と文章が与える時間のあいだを行こうとしているんですね。

川田:最近、本だと何時間でも費やしていいけれど、音楽にはそんなに時間を費やさないような風潮があると思っていて。僕は、本を読むように音楽を聴いてほしいし、音楽を聴くように本を読んでほしい。だから、中間を作ってしまおうという感じです。

Two men in a recording studio talk into microphones; one wears a black shirt and headphones, the other in a white shirt with a mask and laptop nearby.

水野:その読後感を実現するときに、4~5分の短い尺にしたのはなぜでしょうか。たとえば、小説ひとつ分をすべて歌にすることもAIでなら、可能ではある気がします。

川田:いつか僕の技術が確立されたらできるかもしれないので、やりたいですね。ただ、今のところ僕の感覚としては、エッセイ1本分、ショートショート1本分を読んだくらいの感覚になる1曲がちょうどいいかなと思っています。

水野:「歌になった」と感じる瞬間はありますか?

川田:僕は確実にあります。反復ですね。メロディーなり、歌詞なり、反復をして気持ちよく聴こえたとき、「ああ、歌になった」と思います。

水野:今後、AIを用いた音楽づくりはどのようになっていくと思いますか?

川田:今、多分あらゆるソフトウェアで、トラックごとに「こうしてほしい」とAIに指示できるじゃないですか。それはもう丸々AIを使うこととそんなに変わらなくて。だから、AIであることを意識しなくなると思いますね。

瓶詰めされたいきものがかり

Man with glasses and a brown cap speaks into a microphone in a recording studio; another person is seen from behind across a table with water bottles and papers nearby.

水野:大きな質問になってしまいますが、「何のために作っているんですか?」と訊かれたら、どのように答えますか?

川田:可能性を拡張したいからですね。僕が作った「水脈」という曲があって、多分これは他のひとが作らないプロンプトであり、みんながあまり気づいてないだろうと思う点なのですが、AIで作れる音の範囲には、エンジニアリングも入っているんですよ。どのようにトラックをまとめるかということもできる。そして「水脈」は、水道管のなかでレッチリが演奏をしている音、リバーブによって拡張されている音をベースに考えました。

水野:おおー。

川田:「水道管のなかで響いてくるような音」というのをプロンプトに入れているんです。だから、変なリバーブのかけ方をしていて、変な音が鳴っている。それがおもしろくて。リバーブって、飛行機のなかとか、お風呂のなかとかシミュレーションされて、名前がついていたりしますよね。あれはもうちょっといろいろ考えられるなと思います。

Man speaking into a microphone during a podcast or radio recording, wearing black shirt and large headphones; another person in a mask sits nearby.

水野:それはすごく広がりがありますね。

川田:あと、僕には3歳の子どもがいるのですが、幼稚園の先生が、瓶のなかに詰められているひとみたいな喋り方をするんですよ。それもいいなと思って。メッセージ・イン・ア・ボトルってあるじゃないですか。あの瓶のなかから、声が聞こえてきたり、瓶を開けるとまた違う音が聞こえてきたり、そういう部分を音楽に搭載できたらまたおもしろいですよね。

水野:いろんなところの扉を開けていますね。

川田:ミュージシャンが音を鳴らせる世界は、ひとを集められる場所だけではないなと思います。たとえば、プレゼントの箱のなかかもしれないし。いろんなところから音を出していいと考えると楽しいです。ただ、こういう話を聞いてくれるミュージシャンが今までいなかったので、水野さんに実行してほしいな(笑)。瓶のなかから「ありがとう」とかさ。いろんなところから「ありがとう」を届けられるので。

水野:なぜ、そういうことに気づけるのですか?

川田:やっぱりちょっとおかしいのだと思います(笑)。あと、僕は水野さんをはじめ、いろんなミュージシャンと仕事をしていますが、現場ではとても敵わないんですよ。「はい、どうぞ」とギターを渡されて、目の前でパフォーマンスをすることに関しては、まったく敵わない。だからこそ、自分はどうするかというと、「瓶詰めされたいきものがかりはどんな音がするんだろう」と想像したりするわけです。

水野:瓶詰めされたいきものがかり、見てみたい。

Man with glasses and a brown cap speaks into a microphone in a recording studio, seated at a desk with water bottles nearby.

川田:「鉱脈」という曲を作ったときには、“交差点リバーブ”というものを考えました。自転車に乗っていると、ルール違反でいろんな罰金を取られるじゃないですか。それを歌にしていて、「~をすると3000円」とか、「~をすると5000円」とか羅列した歌詞なんですけど。交差点のごちゃごちゃした音のなかで、警官が声をかけてきそうなシチュエーションを音にしたんです。そういうものもおもしろいですね。

水野:これから、どんなものを作っていかれますか?

川田:たとえば、瓶詰めされたいきものがかりとか、いろんなことを試したいのですが、「何を言っているの?」と言われそうじゃないですか(笑)。

水野:いや、やってくださいよ!

川田:でも、「こういうものです」と示すときに、自分の曲だったら誰にも文句を言われないから、まずはそれをやろうと思って曲づくりをしているんですね。もうどんどん音楽は形を失っているけれど、僕はまた形を取り戻すべきだと思っていて。そのパターンを考えて作るので、いいものができたら、水野さんに見てほしいです。

水野:ぜひ、いきものがかりでやってください。僕らは新しいことに対する謎の免疫を持っているので(笑)。世の中の新しいことを取り入れても、なぜかそんなに尖ってみえないという。

川田:やっていることは本当に最先端ですけどね。でも、お客さんを置いていかないことがすごいと思います。

水野:川田さんはAIをどういうものとして捉えていますか?

川田:道具とも言い切れないものですね。『キャプテン翼』の「サッカーボールは友だち」みたいな。テクノロジー全般に対してどこか友だちめいた感覚があります。

Two men in a radio studio: one facing away wearing a brown cap, speaking into a microphone across a desk from a smiling guest with a microphone and notes on the table.

水野:たしかに、川田さんからはネガティブな空気がまったく伝わってきません。みんなAIを少し恐れているところもあるじゃないですか。

川田:仕事を奪われるとかね。僕はまったく逆です。AIと一緒に少しでも曲を作ってみたら、水野さんのすごさがわかりますから。ちょっとギターを弾いてみたら、ミュージシャンのすごさがわかるのと一緒です。自分で作ってみるとわかるんですよ。「この言葉と構成、すごいな」と気づく入り口にもなる。だから、僕はあらゆる専門分野の敷居を下げる存在になると思いますね。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

川田:自分ができないことを把握したうえで、作るということをやると、それは自分の持ち味になると思います。

水野:川田さんも、自分のできないことを整理されるのですか?

川田:しますね。僕、昔はギターが上手だったのですが、交通事故に遭って指が動かなくなった時期があって。そのときに、自分ができないことに直面したんですよ。でも、別にプログラムで音を書けるし、できないことからできることが見えてきました。ギターを弾けなくなってから、プログラムを覚えましたから。人間には補償作用みたいなものがあると思うんです。できることもそのひとの表現の骨格になるけれど、できないことも踏まえてみるといいなと思います。

水野:すごいなあ。

川田:通りすがりの天才です(笑)。

Two men sit on a white sectional sofa in a bright, modern office lobby.

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:北川聖人
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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