音楽と関係なく発生している音に、どう音楽を乗せるか。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、Meg Bonusとして活動するアーティストの野本慶さんです。

Meg Bonus 野本慶
2005年⽣まれ。Meg Bonusは野本慶によるソロプロジェクト。全楽曲の作詞・作曲・プロデュースまでを野本慶自身が担当。洋邦、ジャンルを問わず様々な音楽を吸収した肥沃なバックグラウンドから前衛的なトラックに乗せて普遍的かつポップなメロディーを鳴らし、各方面より注目を集めている。2026年4月8日に2ndアルバム『TO THE YOU (ME) I MET BEFORE』をリリース。
身体性を伴って自然と出てくるものがオリジナリティー

水野:音楽を好きになったのはいつ頃からですか?
野本:もともと合唱をやっていましたし、父はギターを弾いていたり、母はQueenやミュージカルが好きだったり、自然と音楽が好きになっていました。中学生の頃にヨルシカのライブを観たのがきっかけで「自分も曲を作ってみたいな」と漠然と思うようになって。高校で軽音楽をやり始めて、初めてオリジナル曲を作りましたね。
水野:曲づくりの最初の段階でDTMなどはあったのでしょうか。
野本:はい、GarageBandを使って、スマホで作っていました。Drummerという、すべてビートに乗せてくれる機能があったので、それで弾き語りをして。
水野:自分の音楽をより多くのひとに聴かせるようになったタイミングというと?

野本:一昨年とか。作り始めてから3年くらい経って、「ようやくひとに聴かせられるようになったかな」と思って、SoundCloudに投稿したのが最初です。その時期にはもうSoundCloudのコミュニティが下火になっていたこともあり、30回ほどしか聴かれませんでしたし、「Like」も1、2つしかつかなかったけれど、それでも嬉しくて仕方なかったですね。
水野:「音楽が仕事になりそうだ」と思ったのも最近ですか?
野本:高校2年生の時に音楽に専念できる環境に変わったんです。だから「やらなきゃ」という気持ちでした。でも、何も未来は見えていないし、そこから2年くらいまったく曲を作れなかったんです。サウンドに納得がいかなくて、「ダメだ。これは世に出せるものではない」って、毎回途中で作るのをやめて。大量に断片のようなデモだけが生まれて。そういう状態が続いていた時期はツラかったです。
水野:それをどうやって乗り越えていったのでしょうか。
野本:急に抜けた感覚です。ただ、音大を受験するために、レッスンに通っていた時期があって。その行き帰りで、新しい音楽をたくさん聴くようになったんです。そこでよいインプットを得たから、アウトプットにも繋がっていったのかもしれません。

水野:どういうものを聴いていたんですか?
野本:ボン・イヴェールやタイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャンなどが新鮮でした。もともとDTMにのめり込んだきっかけは、長谷川白紙さんの音楽を聴いて、衝撃を受けたからなんです。でも、当時はカッコいいけど、よくわかっていなくて。それがオルタナティブなものをインプットしたことによって、少しずつ音の仕組みが理解できるようになってきたというか。作り方がわかってきたのだと思います。
水野:「自分らしい音楽」みたいなことを考える瞬間はありましたか?
野本:大量にインプットしたなかで、身体性を伴って自然と出てくるものがオリジナリティーなんだろうなと気づいた時期があって。たとえば、キーボードの音色を加工して、いちばん心地いいところで止める。その感覚を言語化しなくても、自分らしさになっているんだろうなと思い始めたんです。そこからは「自分らしい音楽」について、あまり考えなくなりました。
水野:歌詞にはどのように向き合われているのでしょうか。
野本:もう曲とは別ものですね。もともと詩集が好きで、いつも詩を書き溜めているので、それをうまく曲の上に乗せている感覚です。だから、いろんなレイヤーが同時進行しているというか。意味づけや自分が書きたいシナリオ、すべてが合致するところを見つけて、うまく出すようにしています。

水野:作っていくなかで、違和感が生まれたり、思ったようにいかなかったりするときには、どうされていますか?
野本:大きく作り方を変えます。納得がいくものができると、鳥肌が立つタイミングがあるので、そこに到達するまで作り続けるんです。あと、最終的にいちばん最初に「ダメだ」と思ったものを聴いてみたら、意外によいこともありますし。そういうことの繰り返しですね。
水野:自分自身の変化は、どのように捉えていますか?
野本:常にポジティブとネガティブが1:1ですね。たとえば、最初に作った曲とかは、スウィープとかもわからないから、無理やり音量を上げたりしているんですけど、むしろちょうどいい気持ち悪さになっているんですよ。それは今やれと言われてもできない。完全にロストテクノロジーだし、今なら絶対にやらないけれど、だからこそ逆によかったりもするというか。発想自体はおもしろいこともありますし。だから、ちょうど1:1の感覚です。
自分の声じゃなくてもいい

水野:自分の声についてはいかがですか?
野本:「自分の声じゃなくてもいい」とはずっと思っています。音楽って、自分自身が歌で前に出るという形態の芸術じゃないですか。常に主役が作り手に依存する。そこに対して僕は、映画でいえば、“仲がいいから監督も俳優として出演した”みたいな、いやらしさを感じていて。
水野:はい、はい。
野本:だから、いい声のひとが見つかったら、そのひとに任せたいんですよね。今は自分の声がいちばん表現しやすいんですけど、「もっとひらけるな」と思えるひとを見つけることもできるだろうし。それこそタイラー・ザ・クリエイターやフランク・オーシャンは、フィーチャリングすらつけずに、いろんなゲストボーカルを入れていて。そういう姿勢を見習いたいなと思っています。
水野:作る目的というと何ですか?

野本:自分自身が少しずつ消化されていく感覚がありますね。セラピー的な要素もありますし。僕はすごく個人的なものを作るからこそ、そこに自分が主人公として在ると、あまりに自分事すぎる瞬間があって。だから、誰かの声で演じてほしいと思うのかもしれません。
水野:この先、ご自身はどうなると思いますか?
野本:たとえば、自分が監督的な立場になって、それをみんなで作り上げていく。そうやって曲から一歩離れてみたとき、逆により自分事に感じる瞬間がある気がします。僕自身、初めてヨルシカのライブを観たとき、「これはもう自分の物語だな」と思ったんです。自分は関わってないはずなのに、なぜか自分事に感じるし、「この物語を見るために、今まで経験をしてきたんだ」とまで思えた。だから、引いた視点を持つのは大事だろうなと。
水野:サウンドを作るとき、自然界にある音や生活にある音を取り入れることはありますか?
野本:よく取り入れます。たとえば、近くの公園で鬼ごっこをしていた小学生の声を録って。それをライブの前振りとして流して、そこから自然とストリングスが入っていくという形にしたり。小学生のエネルギーってものすごいじゃないですか。演技じゃないというか。公園だから、木の音が入ってきたりするのも素晴らしかったですし。直感で「いいな」と思った音は使っていきたいですね。

水野:そういった整理されていない音と、どこか整理していくことが強いられそうな音楽という世界、どのように引き合わせていくのでしょうか。
野本:整理されていない音をベースに考えているところがあります。以前、君島大空さんが、偶然ギターが倒れてしまった音もそのまま入れた、という話をしていて。自分自身もそういう飾らない音から着想を得ることが多いですね。それは今回の2ndアルバム『TO THE YOU (ME) I MET BEFORE』でも、大事にしたところで。
水野:なるほど。
野本:たとえば、朝起きて、加湿器を止めて、ドアが開いて、お母さんの声が聞こえてくる。そういう自然の音の連なりは、常に生活のなかにあるじゃないですか。すると、イヤホンをつけてアルバムを聴いたとき、今まで聞いてきた生活音もすべて、アルバムの前振りみたいに感じられる。そうやって自分はずっと、「音楽と関係なく発生している音に、どう音楽を乗せるか」ということを意識していると思います。
水野:リスナーの反応などは考えますか?
野本:リスナーのことは考えてないかもしれません。音楽を世に出すということは、「ひとと繋がりたい」という思いが根底にあるわけだから、それが自然とポップスになっていく気がしているんです。もちろん褒められたり、いい反応をいただいたりするのは嬉しい。だけど、リスナーの反応を制作中に考えるかどうかは、また別の話で。SNSを消したりして、あえてリスナーのことを考えないように努力しているところもありますね。
いつかはシンガロング系も作りたい

水野:歌詞はこれから変化していくと思いますか?
野本:あんまり変わることはない気がします。いろんな書き方を試したんですけど、高校のときにASA-CHANG&巡礼が大好きで、単語を並べてカットアップするという作り方をしていたんです。ちゃんと詩のように文にして、伝えたいことを書き出したら、「自分に合っているのはこれだ」という感覚になったんですよね。
水野:詩集以外から、歌詞面で影響を受けるものはありますか?
野本:歌詞の一節とか、映画のセリフとか。あと、会話のなかでまわりのひとが使っていた言葉は、わりと残ったりします。たとえば、父は広島出身なんですけど、久しぶりに家族で話していると、「~じゃけん」という方言などが音としておもしろくて。別の言語を聞いている感覚になる。そういうワードも歌詞に取り入れていきたいなと思いますね。
水野:野本さんにとって、ライブはどういう存在ですか?

野本:異質ですよね。人前に出るのが苦手だったので、ライブをやる気はなかったのですが、やるようになって。背を向けて座ったままという形でやってみたり、まだ試行錯誤中です。ライブにどういう意味があるのか、自分のなかで定まってない気がします。楽しむというより、ずっと緊張していますし。水野さんはもうライブで緊張することはないですか?
水野:緊張します。でも、僕らの場合、エンタメとして“魅せる”ことに重力が置かれているから、また緊張の種類が違うのかもしれません。
野本:自分が作っている曲には、シンガロングがまったくないんです。だから、いきものがかりの曲を聴いていると、「楽しそうだな。いつかはシンガロング系も作りたいな」と感じます。ライブでシンガロングが起きたりすると、その瞬間は緊張が解けたり、制作のときと違う幸福感があったりするんですか?
水野:幸福感はもちろんあるんですけど、意外と冷静になります。自分が部屋でひとり書いたメロディーを、1万人のお客さんが同時に歌っているって、ちょっと変じゃないですか。その状況が目の前に広がったとき、思考が一瞬止まるというか。「これはなんだろう」みたいな感覚は、未だにありますね。野本さんも客席とコミュニケーションが始まったとき、かなり違和感があると思うけれど、それが次の制作のヒントになるのかもしれません。
野本:そこまでお客さんに干渉することが、まだ少し怖いところがありますね。だからこそ、シンガロングについて水野さんに聞いてみたいと思っていました。もう日本中、いきものがかりの曲をシンガロングしているじゃないですか。干渉というか、繋がっているんだろうなって。

水野:ロマンと恐ろしさ、どちらもあると思います。僕も自分が作ったとき、鳥肌が立つようなタイミングはあるんです。でも、その感覚を大勢のひとが共有して、興奮している状態は、何かひとを扇動するものにもなり得るから。そこへの緊張感を持ちながらポップスをやっていたいなと。
野本:それは最初から思っていましたか?
水野:多くのひとに聴いていただけるようになったときから、思うようになっていきました。僕なりに「こんな世の中であってほしい」とか、「ひととひとはこんなふうに結びついてほしい」とか、無邪気な望みは持っていて、そうなるように作ってはいるんですけど。大きな歌が、誰かの小さな感情を潰してしまう瞬間もあるので、そういう怖さは忘れないようにしていますね。
野本:自分はまだロマンを知らず、恐ろしさしか感じられていないところではあるので、いつかはそのロマンを体験してみたいですね。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
野本:自分の好きなものをたくさんインプットして、ひとに言われたことに流されず、やりたいことをやっていれば、いつか形になると思います。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:軍司拓実
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/
コメント