『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』市村龍太郎

常に「これは何かに使えるかもしれない」という思考回路になっている。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。

水野:今回のゲストは、ゲームクリエイターの市村龍太郎さんです。

市村龍太郎(いちむらりゅうたろう)
ゲームクリエイター。2000年、株式会社エニックス(現・スクウェア・エニックス)入社。ドラゴンクエストシリーズ チーフプロデューサーとして、『ドラゴンクエスト 空と海と大地と呪われし姫君』、『ドラゴンクエスト 星空の守り人』などのゲームのみならず、アニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』などにおけるエンターテインメント全般のプロデューサーを務めてきた実績を持つ。2023年3月スクウェア・エニックスを退職。5月29日に株式会社ピンクルを設立。代表取締役に就任。

“ドラクエらしさ”と“新しい挑戦”のバランスは…

水野:市村さんは子どもの頃からゲームがお好きだったのですか?

市村:そうですね。両親が共働きだったので、ひとりで留守番することも多くて。そんななか、ファミコンを買ってもらったので、ひたすらゲームばかりやるようになっていました。

水野:どの時点で、ゲームを作る側になりたいと思うようになったのでしょう。

市村:就活で初めてゲーム会社に興味を持ちました。僕は文系で手に職もなかったので、営業職や総合職など何かゲームに関われそうなところにアタックをして。ただ、僕が入ったエニックスという会社は「プロデューサー募集」という特殊な職種を募集していたんです。「これは何だろう?」と気になって、応募した感じです。

水野:新人の頃はどういう感覚でした?

市村:エニックスのプロデューサー候補として入れていただいたので、わりと最初から制作の現場にいることができて、クリエイターのみなさんと接触も多かったんです。なので、いいものを作るための環境づくりを勉強させていただいた部分が大きくて。そのなかで自分のマインドがより、クリエイティブ寄りになっていきました。

水野:ユーザーとしてゲームが好きだったご自身が、実際に制作の場を見たときには、また違った衝撃があったと思うのですが。

市村:衝撃の連続です。「あ、こういう流れで、こういうことが起きて、作品ができあがっているのか」と知ることばかり。たとえば、ゲームが発売延期になったりすると、学生の頃は「なんだよ、早く発売してよ」とか無邪気に思っていたわけです(笑)。当時は情報もシャットアウトされていましたし。でも今なら「それはそうだよね」とわかります。それぐらい現場は大変。そういう理解をしたことで、ゲームへの向き合い方や感謝の大きさがかなり変わりましたね。

水野:わりと早い段階でドラクエの担当になられたんですよね。築かれてきた歴史を維持しながら、現在進行形のものとして革新や新陳代謝をしていくことはかなり難題だと思うのですが、チームとしてはどう向き合われていったのでしょうか。

市村:僕はドラクエ7が出る直前に入社したのですが、過渡期にいたと思うんです。その先には当然、「ここから、ドラクエ8も作る」という流れもあるなか、どう作っていくのか。発売を迎えるまでの数ヶ月の激動をペーペーのアシスタントとしてワクワクしながら見させていただいていました。一方で、ゲームの特殊な部分として、ハードの進化があるじゃないですか。

水野:なるほど。

市村:ドラクエ7が出る頃、プレステ1が2に移行した時期で、できる表現がグッと上がった。2Dから3Dの技術を取り入れるトレンドが動いていたんですね。そこが大きくて。時代やハードの変化とどう融合していくか。かつ、どうゲームの遊び心地としての変化を見せるか。そこをみんなで議論していきました。ドラクエの現場は常にそうですね。どんどん新しいものを取り入れている歴史があると思います。

水野:市村さんご自身は、ドラクエに対するユーザーの反応っていかがですか?

市村:もうスケールが大きすぎて実感が湧きませんでした。当時は、ネットの反響も今ほどリアルタイムで感じられるわけではなく、買ったらみんな部屋に閉じこもってゲームをプレイしてしまいますし。でも、発売日にカメラ量販店さんの様子を開店と同時に見に行くと、たくさんのひとが並んでくれているじゃないですか。商品を手に取って、笑顔で小走りで帰ってくる。そういう姿を見て、初めて「うわ、すごい!」と感動するんです。

水野:ドラクエのようにすでにブランドが確立されているものと、ゼロからスタートするもの、違いは何でしょう。

市村:心構えから違って、まったく違うものを取り扱っている感覚です。前者は“家庭教師”的な気持ち。「もうすでに優秀なお子さまをお預かりして、さらに成績を上げていく」というか。個性を活かしながら、新しい挑戦に導いていくことを考えます。一方で後者は、自分の体内から出てきた子どもを育てるようなものですね。

水野:ドラクエの場合、一緒に冒険するキャラクターがいたり、モンスターの倒し方だったり、骨組みはしっかりできているわけですよね。その上でどうやってアイデアを出していかれるのですか?

市村:“ドラクエらしさ”と“新しい挑戦”とのバランスは、大体5:7ぐらい。合計で120%の力の塩梅になるように調整しています。居心地のいい実家に帰ってきたような、「やっぱりドラクエだわ」という触り心地は確保したい。その上で、「今回はこういう新しい遊びがある」というエンタメとしてのワクワク感を示す。

水野:はい、はい。

市村:ただ、その“ドラクエらしさ”とは、堀井雄二さんのお話のテイスト、鳥山明先生の絵、すぎやまこういち先生の音楽、そういう方々のすごさでほぼ達成できるんです。そこに触れるだけで、全身が震えて涙が出るぐらい、細胞レベルで感じられるものがある。だから、そこだけは大きく外さないように。守るべきものを“新しい挑戦”が侵食しないギリギリのラインで攻めていくところが大事な気がします。

水野:それでもユーザーの方から、「これはドラクエを裏切っている」みたいなことを言われてしまうリスクもあって。どれぐらい外からの意見は意識し、取り入れるものなのでしょう。

市村:反応はかなり顕著に出るんですよね。たとえば、ドラクエ8は、フル3Dになってカメラの位置が変わったことで、キャラの等身も変わった。そこに違和感を抱く方がいらっしゃったり。ドラクエ9は、携帯ゲーム機になることで、グレードダウン感を覚える方がいらっしゃったり。だからといって、方針を変えるかどうかは難しくて。デモを発表した段階であまりにも反発が大きかった場合は、修正をする場合もあります。

水野:すごく難しいですね。

市村:クリエイターの挑戦だけでは、今はなかなかうまくいかない。ユーザーさんの共感も得ながら作らないといけないなと思いますね。

猫が“うんぴ”をする姿を見て

水野:そして今、目の前には新しく立ち上げられた会社・ピンクルからの第1弾となる新作ゲーム『プリッとプリズナー』のかわいらしいパネルがあります。先日、今年の冬にリリース予定であることが発表されました。

プリッとプリズナー – 公式ティザートレーラー

市村:ずっと大作を手がけてきたので、1~2年の開発期間で小ぶりのものを世に出したかったんですよね。RPGだと時間が足りないので、アクションゲームというか、みんなでワイワイ遊べるようなパーティーゲームで。あと、今はストリーマーの方々がゲーム実況をして、拡散されていくというトレンドもある。僕もその現象を中心で感じなきゃダメだと思ったので、そういう方々が取り扱ってくれそうな企画を考えたというところもあります。

水野:起きている現象から、逆算して考えられた。ドラクエとは、ゲームを作る出発点が違いますね。

市村:僕はなるべくいろんなエンタメに触れたいタイプでして。自分のプロダクトを通じて、様々な実体験をして経験値を得た上で、次に活かしていきたいという気持ちが根にあるんです。だから『プリッとプリズナー』で、ストリーマー文化の入口に入った感じですね。

水野:改めて、どういう内容のゲームなのでしょうか。

市村:本当にバカげてはいるんですけれども、おそらく世界初だと思っている「排泄型・脱出アクションパーティーゲーム」です(笑)。食う、寝る、出す。これをうまく利用した、動物とロボットの鬼ごっこ。

水野:ゲームに登場する“うんぴ”がまたかわいらしくて(笑)。この“うんぴ”を動物のキャラクターたちが排出して、武器になるイメージですか?

市村:そうですね。実はこの動物たち、凶悪な罪を犯したやつらで、“監獄島”というところに送り込まれて収監されているんです。そして日々、脱走を試みる。“うんぴ”を駆使して、警備のロボットから逃げる。一応、そういう世界観になっています。

水野:そのアイデアはどこから浮かぶのでしょうか。今、さらっと説明してくださったけれど、冷静に考えるとぶっ飛んでいるような…。

市村:鬼ごっこゲームには、すでに様々な作品があるので、やっぱり何か特徴的で新しいワンアイデアを入れたいなと。会社名の“ピンクル”も“ピンとくる”に由来しているくらい、アイデアを大事にしているんですよね。それで、改めて動物の特徴を考えてみまして。僕、猫を飼っているんですけど、猫はトイレでうんぴをすると、喜んでバーッ!と走り出す習性があるんです。

水野:かわいい。

市村:その姿を家で見たとき、「あ、これかな」と思いました。どんな動物でも、僕たち人間も絶対にうんぴはする。生命体の不変なものだし、世界共通ワードだし、子どもたちもきっと喜んでくれるから、これをゲームに落とし込もうというアプローチでしたね。

水野:常にゲームのクリエイティブにつながるような気づきを意識されているのですか?

市村:常に「これは何かに使えるかもしれない」という思考回路になっているかもしれません。職業病というやつですね。猫がトイレをしている姿って、愛おしくて。一点を見つめながら、ぷるぷるぷるってするんですね。そのかわいさを描きたかったので、ゲームでもうんぴをする瞬間は、ちょっと目をうるうるさせながら、ぷるぷるぷるって動くんです。

水野:YouTubeでティザートレーラーも拝見したのですが、うんぴなのに汚くないんですよね。ずっとかわいらしくて品がある印象で。

市村:それは狙いどおりですね。排泄物なので、忌み嫌う方もいらっしゃるはず。だから、とにかくかわいらしく、うんぴもキャラクターの一部であるように愛されたかったんです。そこでキャラクターデザインをカナヘイさんに依頼しました。あのひとであれば、すべてをかわいく描いてくれる確信があったので。すると、カナヘイさんも、「それおもしろそう!」とおっしゃってくれて、すごく話が早かったですね。

水野:最初のデザインが上がってきたとき、いかがでしたか?

市村:もういきなり完成形でした。僕は細かい指定はしてなくて、「動物は、大中小のサイズの子がいるといいな。あとはカナヘイさんの好きな動物をラフでいっぱい書いてみてください」くらい。それでわーっと出てくる。ほぼ直す必要もない。カナヘイさんは天才です。キャラクターごとにうんぴの形を変えてくれたのも、カナヘイさんのアイデアで。作業量は増える一方なのに「こうやったらかわいいと思うので」ってやってくれるんですよ。

“推し活”をしている

水野:市村さんにとって、理想的なIPとはどういうものでしょうか。

市村:ユーザーのみなさんも一緒に楽しめるもの、広がっていくもの、ひとり歩きしていくものですね。たとえば、二次創作されたり。「そのキャラクターが好きで、私はこういうふうにしています」ということが起点になって、公式側やメーカー側もそれに応えていくような形。お互いに会話をしながら、発展させていけたらいいですね。あと、今はおもしろいだけでは足りない時代だなと思うので、僕は“推し活”をしているんですよ。

水野:誰を推しているんですか?

市村:乃木坂46さん、櫻坂46さん、日向坂46さん、3坂をずっと追いかけています。「推し活って何なの?」というところを知らないと、多分これから商売はできないなと、十数年前に思いまして。何かを推す熱量って半端ないじゃないですか。今でいうと、LABUBU(ラブブ)がすごく流行っていますよね。あれが流行っている理由が知りたくて、僕も争奪戦に参加し、なんとかゲットしました。やっぱり自分で知りたいんですよね。

水野:推し活をして、何が気づきになりました?

市村:「この子の成長を見届けないと済まない」という気持ちですかね。添い遂げたいんですよ。キャラクターでいえば、そのキャラがみんな知っているIPになって、どんどん世界に広がっていって、「でも、私は最初からこの子を応援していたんだから!」みたいな。そういう気持ちを生み出すIPを創出しないといけないなと。それは渦中にいかないと、外側にいたらわからないことだろうなと思います。

水野:体験して、すべての観点を持った上で、また提供側にまわるのですね。

市村:『プリッとプリズナー』も、配信者の方々にいっぱい遊んでもらいたいので、僕も1年前から自分のYouTubeチャンネルを持って、ゲーム実況とかやり始めたんですよ。すると、「配信者として、ここが不便だな」とか、「ユーザーのこういうリアクションが欲しいから、こういう要素が入ったらいいな」とか見えてくる。とにかく自分で体験しないと気が済まないタイプですね。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。

市村:月並みかもしれませんが、挑戦を恐れないでほしいです。失敗することは怖いけれど、挑戦しないと見えてこなかった景色がたくさんありました。だからこそ、いろんなひとに出会えたし、知らなかったものを身にできた。筋トレするときも、徐々にダンベルの重さを大きくしていくじゃないですか。同じようにどんどんチャレンジをしていくことが成長につながるのだと思います。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。

文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
https://www.j-wave.co.jp/

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