着想者としてのワクワクと、イチ読者としてのワクワクが一致するように。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、ショートショート作家の田丸雅智さんです。

田丸雅智(たまるまさとも)
ショートショート作家。1987年、愛媛県松山市生まれ。東京大学工学部卒、同大学院工学系研究科修了。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。2012年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。同作は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化された。また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。
アイデアを考えついたときがいちばん楽しい

水野:子どもの頃から物語や文章がお好きだったのですか?
田丸:物語にはすごく興味があったのですが、文章は得意ではありませんでした。幼少期、母が読み聞かせをしてくれたり、祖母が昔話をしてくれたり、ものすごい数の朗読テープを聴いたりして物語には触れていたものの、そこから活字に行けなかったんですよ。いろんな要因があるけれど、何よりせっかちだった。ななめ読みしてしまって、内容が入ってこない。だから、自分のなかで文章から物語を立ち上げられなかったのだと思います。
水野:ご経歴としては、理系の道をたどってこられましたよね?「自分は文章の道に行きたい」と、どこで変わっていったのでしょう。
田丸:そもそも理系の道に進んだのも、ものづくりをしたかったからで。片方の祖父が大工、もう片方の祖父が造船業をしていて、木と鉄に囲まれた環境で育ったので、自ずと工作はやるようになっていました。その延長で理系に。でも、大学のとき、物理や自然法則のなかでのものづくりが息苦しくなってきて、初めて自分を深掘りしたんです。そして、「もっと自由な空想の世界で作ってみよう」と、始めたショートショートが天職でしたね。
水野:ショートショートって、奇想天外な展開をしていくイメージがあるんですね。論理性から離れていくというか。だからこそ、理系の道で学ばれていた方が、ショートショートに進まれた理由に興味があります。
田丸:いや、実は僕、緻密なロジックは持ち合わせていないというか、ネイティブな理系ではないんですよ。学業としては頑張って、後付けで知識を身につけましたが、今はほとんど忘れました(笑)。もともとはとても雑で、非論理的なものが好きで、衝動的なタイプ。ただ、せっかく学んだので、伝わりやすい文章をするためにはロジックを活かしています。しっかりした階段を作って、未知に挑んでいくような感覚ですね。
水野:創作において、どこがいちばん楽しいですか?

田丸:3つあります。まずは何より、アイデアを考えついたとき。ショートショートの肝ですね。思い込んでいたものが外れる瞬間に、発火するような感覚が昔からあるんですよ。自分がおもしろいと思えるアイデアにたどり着くことができたら、「うわー!楽しい!」って、未だに子どものようにワクワクドキドキします。あとは、完成したとき。誰かからポジティブな反応が返ってきたとき。僕にとって快感な瞬間ですね。
水野:もう田丸さんの声から、ワクワクが伝わってきます。なぜその楽しさを維持できるのでしょう。
田丸:僕はとても自己中なので、自分が「おもしろい」「幸せ」と感じることだけをやっていて。それがありがたいことに、たまたまショートショート作家という職業につながっているのだと思います。
カルピスの原液みたいなものをお渡ししている

水野:作家デビューされてから、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。この作品は、短編映画化されたと伺っています。自分のアイデアが作品になっていくことは、どう捉えていますか?
『海酒』/田丸雅智 https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1738
田丸:いつも先にプロットを作るので、コア(アイデア)と周辺(完成原稿)は、そんなに離れてないと思います。ショートショートは省略の文学でもあるので、最終的に自分の考えたアイデアの枝葉のようなものは書かないこともあるんです。書かないことで宿る豊かさも好きですし。だから、違う作品になっていくことで、何かが削がれるということはあまりなくて。ワンアイデアの持つ可能性が広がっていく感覚ですね。
水野:どれぐらい読者の想像力を使うことを意識されていますか?
田丸:まさに想像の文学なので、かなり「託したい」と思っています。とはいえ、粗すぎるわけにもいかないので、カルピスの原液みたいなものをお渡ししているようなイメージです。それぞれの好みに薄めていただく。その方のなかで膨らんだものが完成、という意識もありますね。
水野:読者の視点についての意識はいかがですか?
田丸:初稿ではあまり意識しません。そこから何十回も推敲をするなかで、「ここは情報がごちゃごちゃしているな。意識をどこに持っていこうか」など考えていきますね。たとえば、あるシーンに、赤い何かが出てきて、ひまわりが咲いていて、レモンイエローのものも置いてある。そういうことを何の狙いもなくやってしまうと、イメージ喚起力の強い言葉によって、散らかって本質が見えなくなってしまう。だから、ワンカラーにするとか。
水野:読者の想像力を使ってもらいたいけれど、何らかのイメージに誘導するワードを与えすぎてしまうと、逆に削いでしまうものがある。この難しいバランスをどのように取られていますか?
田丸:当初、着想者としてワクワクした気持ちと、最終的に自分が客観的になった状態で、イチ読者としてワクワクする気持ち、そこが一致することは大事にしていますね。その先でどう届くかはわからないけれど。

水野:読者からの感想は、田丸さんにとって意外なものが多いですか? それとも狙いどおりですか?
田丸:本当にどちらもあります。「この話は現実世界の社会課題を風刺しているんですよね」という感想をいただいて、そのとおりであることも、まったく関係ないこともある(笑)。あと「海酒」でいうと、これは飲むと海の持つ記憶が蘇ってくる不思議なお酒・海酒というものがある、という設定のお話なんです。そして、僕は故郷が愛媛県の松山市なので、松山の海をイメージして書いて、実際に地名も出しているんですよ。
水野:なるほど。
田丸:だけど、「田丸さんは“三津”という場所の海の話を書いていましたが、私は自分の出身県の海を思い出しました」と、いろんな読者の方がそう言ってくださったんですよ。書いている段階で「そういう作品になったらいいな」とどこかで考えてはいました。でも、そこまで個人のそれぞれの海の思い出を呼び起こすことができるとは思っていなくて。ビックリしましたし、ありがたいことだなと。
水野:長編小説とショートショートの難しさの違いはどう考えていらっしゃいますか?

田丸:違う競技だと思っています。持久力が問われる長距離走の長編と、瞬発力が問われる短距離走のショートショート。僕には持続力も緻密さもないので、長い時間をかけて一作というのは、脳みその構造的に無理なんです。その代わり、何本もダッシュすることが快感という感じですね。
水野:短さでいうと、詩や短歌、俳句などもありますね。そことの違いはいかがですか?
田丸:わかりやすい違いは、散文か韻文か。意味や内容を中心に構成される散文。音のリズムや構成を意識して書かれる韻文。個人的には、故郷の松山が俳句の町なので、韻文も好きです。ただ、抽象的な理由になりますが、韻文は言葉の扱える最小単位がかなり緻密なので、雑な僕には扱えないんです。僕は解像度や思考がもう少し粗いので、あの小さな器には収まらないというか。
水野:ショートショートというと、やはり星新一さんの印象が強くて、未知なものやSFをイメージしてしまいがちなのですが、そういうものから離れることもありますか?
田丸:ショートショートは、「イコールSF」ではまったくなくて、本来オールジャンルが対象なんです。SF的なものも、ミステリーっぽいものも、純文学っぽいものもある。本質はアイデアにあります。たとえばアイデアが未来方向にふれたら、SF的なショートショートになる。あるいは、現実の切り取り方とか、気の利いた言い回しの方向にふれたら、「現実で起こりえるけれど、その角度からは今まで見ていなかったな」みたいな、SFとは異なるものになっていきます。ショートショートはとても多様なものなので、それをしっかり伝えていきたいですね。
食いしん坊な絵

水野:ご自身の作品執筆だけではなく、ショートショートの書き方講座なども開催されていらっしゃるんですよね。
田丸:普及活動ですね。僕がデビューした頃は正直、もう完全にショートショートが下火だったということもあり、「あなたも書いてみませんか? そこからこちらの世界に足を踏み入れてみませんか?」というご提案をしたくて。そうやって他者の新たなアイデアに触れることで、自分というプレイヤーもワクワクしますし。このジャンルがより知られていきますし。どんどん新しい方に出てきてほしいと、心から願っています。
水野:今回は、実際にその書き方講座をやっていただきたいと思います。普段はどのようにされているのですか?
田丸:小学1年生くらいの子どもから大人まで、一般向けにやらせていただいたり。老人ホームや少年院、企業でも行なっています。大体90分くらいで、ワークシートを使って、僕のレクチャーのもと進めていただくという形ですね。今回はそのワークシートを使わずに、具体的に水野さんとやっていきたいと思います。
水野:よろしくお願いします。
田丸:まず、水野さん、何かものの名前を4つ挙げていただけますか。好きなものでも、目についたものでも、何でも構いませんので。
水野:じゃあ、「ラジオ」、「六本木」、「絵」、「ポメラニアン」。
田丸:では、今回は僕がそのなかから「ポメラニアン」という言葉を選びます。次は「ポメラニアン」から思いつく言葉を3つ挙げてください。連想ゲームのような感じで。
水野:「食いしん坊」、「よく吠える」、「散歩大好き」。完全にうちで飼っている子のことですね(笑)。

田丸:これで材料が揃いました。ここから言葉と言葉を組み合わせて、“不思議な言葉”を作っていただきます。「食いしん坊」、「よく吠える」、「散歩大好き」のうしろに、最初に挙げていただいた名詞でまだ使ってないもの、「ラジオ」、「六本木」、「絵」のいずれかをくっつけてみてください。たとえば「食いしん坊な○○」とかで、聞いたことがない言葉をお願いします。
水野:「食いしん坊な絵」。
田丸:いいですね! 「食いしん坊な絵」とは、どんなものだと思いますか?
水野:食虫植物みたいな。絵が描いてあるんだけど、額が口みたいになっていて、そこがワッ!とひらいて、食われちゃう。そのなかには広大な闇が広がっていて、怖さを感じる。
田丸:その絵はどんなところにあるイメージですか?
水野:誰も使ってなさそうなアトリエに、ポンと置いてある気がします。
田丸:その絵は、何を食べるのでしょう。
水野:ひとの思い出、とか。そのひとが大切にしている故郷の風景を食べてしまって、絵にする。
田丸:なるほど! それを食べたとき、食べられた側は何かを失くすのでしょうか。
水野:たとえば、実家の思い出を食べられてしまったら、実家のことを忘れてしまうとか。だから、目の前に実家の絵が出てきても、食べられた側は何も感じない。
田丸:それによって、食べた側、あるいは食べられた側に、何かいいことはありますか?
水野:思い出はひとを執着させてしまうものだと思うので、そのひとが前に進める、とか。たとえば、故郷は大切だけれど、懐かしい友人たちの顔や、家族との幸せな時間に囚われすぎていると、目の前の現実が見えなくなったりもするじゃないですか。だけど、思い出がふとなくなることによって、今の生活だけに集中することができて、未来を向くことができる…みたいな。
田丸:いや、いいですねぇ。今のお話を簡単にまとめると、ある主人公が何らかの理由で、あるアトリエに行く。そこには1枚の古びた大きな絵がある。「なんだ?」と、よく見ていたら、ガバッ!とひらいて、「怖っ!」と思う。でも不思議とむげにはできない。すると、その絵がこちらに向かってガブガブやってきて、自分のなかから何かがふわ~と吸い込まれていく。で、それを食べた絵が、満足そうにゲップをする。
水野:おお。
田丸:その瞬間に、額のなかに絵が出る。その絵は主人公の故郷で、大事な友人も描かれている。だけど、主人公は思い出を食べられてしまったので、「この絵は何だろう? 胸を打たれるけれど、よくわからない…」みたいな感じ。そして、今の新しい生活に足取り軽く帰っていく。実は、自分自身がずっと思い出に食われていたのかもしれないな、みたいな。

水野:主題歌、やらせてもらえますか(笑)。すごくおもしろい! 僕が答えているときの、田丸さんの優しいうなずきもたまらないです。
田丸:これが水野さんから出たお話ですね。素晴らしいです。今回、水野さんが言ってくださったような引き出しって、僕にはないのでものすごくワクワクします。この講座をやることは、僕自身が楽しいんですよね。
『もしも料理店』/田丸雅智 https://www.shogakukan.co.jp/books/09386704
水野:そして、田丸さんは今年7月に新作『もしも料理店』も出されました。今後、「こういう作品を書いていきたい」という長期的なビジョンはありますか?
田丸:ライフワーク的な意味合いでいうと、僕はやっぱり松山で育ったから、自然や季節に惹かれるんです。そういうものにまつわるアイデアを考えると、すごく満たされるので、ずっと続けていきたいですね。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
田丸:作っていくなかで、いろんな自問自答や迷いがあると思います。それでも、「自分がおもしろいと思うことをやり続けてください」ということを伝えたいです。これは僕自身が大事にしている言葉で。もうだいぶ前のことですが、僕が疲れてしまっているときに、ピースの又吉直樹さんが言ってくださったことなんです。いただいたその言葉が、ずっと自分のコアにありますね。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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