対談Q 藤井貴彦(アナウンサー)第2回

“伝わる”って、実は“支える”ってことなんですよ。

“伝わった”という手ごたえはない

藤井:“伝わる”とはポジティブな意味合いばかりでもないですよね。たとえば、私に対して「偽善者が正論を言った! ふざけんじゃねえ!」と思うひとがいたとして。実はその時点で相手に“伝わって”いるんですよ。マイナスな意味で“伝わって”いる。不思議ですけれど、そのアレルギー反応が私のところに返ってくるわけです。

水野:そうか、“伝わる”という現象はすべてが肯定的に捉えられるわけではないですものね。

藤井:たとえば今、アメリカ大統領の言葉は、国内にはポジティブに伝わっているかもしれないけれど、海外にはだいぶネガティブに伝わっていますよね。でも、両方とも“伝わる”ではある。お互いが気持ちいいコミュニケーションを取れるケースばかりではない。それをプラスの方向に変えるためにはどうしたらいいかを考えると、“伝わる”はより難しくなっていく。マイナスの方向で“伝わる”のはすごく簡単です。

水野:マイナス方向の“伝わる”だと、過激なことや、非難されるであろうことをあえて過激に、露悪的に言ったりというやり方も流行していますよね。普通の正論やポジティブなことを言っていくにはどうしたらいいのか。それはエンタメとして「つまらない」や「当たり前だ」と言われがちじゃないですか。「優等生が言うようなことでおもしろくない」とか。僕も藤井さんもどちらかというと、そういうことを背負う立場にいるけれど。

藤井:私も水野くんたちと同じ、いわば“綺麗事系”なんですけど。多分、いきものがかりがこれからどんな楽曲を出したとしても“伝わる”んですよ。どんな顔をしているひとたちか、どんな人格のグループか、もう日本全国に伝わったから。その時点で、「どんなひとが伝えるか」という条件は満たしている。私もいい意味でも悪い意味でも満たしている。だから、どんな発言でも“伝わる”んです。

水野:はい、はい。

藤井:とはいえ今回、対談のテーマをいただいたとき、いちばん最初に思ったのは、「伝わったかどうかなんて、伝えた側はわからないんだよな」ということでもあるんですよね。

水野:ああ。

藤井:まったく手ごたえはないんです。ひとりひとりに聞いたことないから。いきものがかりもそうでしょう?

水野:先輩、そうなんですよ。

藤井:手ごたえのない努力がこれからもいきものがかりは続いていきます。

水野:そうか。

藤井:だけど、伝わることを狙って行動していくと、むしろ伝わらなくなってしまいますよね。「どんなひとが伝えるか」という部分、つまり自己研鑽を続けることによって、「このひとには伝わったのかな?」という手応えをたまに得られるくらいなのだと思います。

水野:藤井さんはフリーアナウンサーになられましたが、そこでの変化はありますか?

藤井:会社が守ってくれなくなったので、より自分に責任を持って生きていかなきゃならないなと感じるようになりました。アナウンサーの場合、視聴者の方から嫌がられても好かれてもテレビに出る仕事なんですよね。自分から退場しない限り、プラスのリアクションもマイナスのリアクションも合わせながら飲み込んでいくしかない。振り返ってみると、“伝わった”という手ごたえのない30年以上のアナウンサー生活ですね(笑)。

水野:いや、手応えがないということを言い切れることがすごいです。

伝える回数をどんどん増やさないと

藤井:欲しがってはいけないんですよね。承認欲求を持ち始めたとき、どこかにブレが出始めるんじゃないかな思います。「伝わっただろう」って言っても伝わらない。「伝わった!って言ってくれよ」って言っても伝わらないですから。でもね、人間って意外と伝える回数が多くないんですよ。

水野:伝える回数?

藤井:僕らは仕事上、いろんなひとたちと出会ったり、語りかけたり。水野くんたちだったら、歌いかけたり、演奏を聴かせたりするけれども、そういう舞台を踏まないひとの方が多い。

水野:なるほど。

藤井:一日一言も発さないひともいるし、SNSだって、見るだけで投稿しないひとがたくさんいますよね。LINEで相手に「今、暇?」とか聞いたりすることを“伝える”回数に含めても、1日50回ぐらいしか他者とのやり取りってないと思うんですよ。そう考えると、僕らは伝える回数が異様に多い。しかも、人前にいるという意識を持ち続けなければならない仕事なので、もうそこにいる時点で“伝えて”いる。常に伝え続けている。

水野:ああー。

藤井:みなさん、伝える回数をどんどん増やさないとリスクまみれになると思います。とくにSNSでひとりひとりがメディアになっていく時代ですから、怖いですよ。僕らの怖さをSNS世代のみなさんは知っていくと思う。

水野:そういう意味では、この全員メディア時代に、僕や藤井さんは、先立ってすごい経験量を積んでしまっていた。

藤井:そうです。伝えることに慣れている僕らだからこそ、多分ここで生きていけるんだと思います。伝えることが苦手なひと、炎上しやすいひとは、どうしてもホワイトからグレーになり、グレーから黒になる。今の時代、そのリスクはみなさん誰しもが抱えていますので。伝える前に、「自分のこの伝え方は合っているのか」とか、「ちゃんと相手にフィットするのか」とか、考えなければいけないなと思います。

水野:さて、だんだん時間も…。

藤井:水野くんタイムコントロールもできるんだね。

水野:怖い(笑)。

藤井:こんなにうまいひといます? 大体、私が話を引き出す側なのに、水野くんがボロボロと引き出してくる。

水野:褒めながら分析をされている気が…。白状してしまうと、対談でいちばん怖いのは、対談のプロの方なんですよ(笑)。

藤井:いやいや。

伝わってるやないかい!

藤井:いきものがかりとしての伝わっている実感は、今まであった?

水野:数字の面ではないですね。CDがよく売れた時代でもないし、いわゆるランキング的なもので実感することも意外となくて。何万人のお客さんの前でライブをしても、どこか俯瞰で見てしまって、あまり現実だと思えなかったりして。

藤井:へえー!

水野:ただ、僕が実感するのは、20代の方などに現場でお会いして、「中学生の頃に聴いていました。卒業式では「YELL」を歌って…」とか言っていただいたときですね。あと、「コイスルオトメ」という曲が最近ちょっとバズっているんですけど、「高校時代、この曲を彼氏の前でカラオケで必ず歌っていました」とか。曲の話をしているようで、ご自身の思い出話をしてくださるんですよ。それは、そのひとの生活の一部になれたわけだから、

藤井:いやー、それは嬉しいでしょう。

水野:そうなんです。僕らからするとそれがいちばん“伝わる”ということですね。ご自身のパートナーが亡くなられて、「出棺のときに「ありがとう」を流して…」と泣きながら言ってくださるような方もいらっしゃって。どう答えていいか、言葉を失ってしまうというか。だけど、そのひとの人生の非常に大事な場面で使われたということのありがたさや誇らしさを感じるんです。そういうときは。

藤井:“伝わる”って、実は“支える”ってことなんですよ。伝わったということは、同じ立場に立ってくれたということなので。それを今、水野くんに教えてもらいました。

水野:藤井さんから出てきた言葉があのように伝わるということは、今おっしゃったような姿勢を、ご自身が持っていらっしゃるからなのだと思います。

藤井:コメントを考えるとき、「今いちばん困っているひとに語りかけよう」というルールを自分のなかで作っていたので。もしかしたらそれが、“伝わるは支える”の精神だったのかもしれない。いや、でも、「卒業式で歌いました」とか、「出棺のときに曲を流しました」とか言ってもらえるということは、いきものがかりの音楽が伝わって、相手を支えていたんだと思いますよ。私は神奈川県出身ですけど…、伝わってるやないかい!

水野:なんで急に関西弁なんですか(笑)。(神奈川弁で)伝わってるべ!と言えばいいのに。

藤井:こうやってツッコミを入れてもらえることも本当に嬉しいです(笑)。

水野:厚木高校生同士、今後とも何卒よろしくお願いいたします! 今日は忙しいなかありがとうございました。

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:谷本将典
メイク:内藤歩
監修:HIROBA
撮影場所:芝パークホテル
https://www.shibaparkhotel.com

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