映像でも写真でも、すべての作品をちゃんと生きているように見せたい

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
お面ではなく、キャラクターを作りたい
水野:今回のゲストは特殊メイクアップアーティストの快歩さんです。すみません、勝手な思い込みなんですけど、特殊メイクの作品を見て、「怖いひとが来るのかな…」と思っていたら、とても柔らかい方で(笑)。
快歩:よく言われます(笑)。

快歩(かいほ)
1996年生まれ、名古屋市出身。名古屋市立工芸高等学校デザイン科卒業。Amazing School JURで特殊メイク・特殊造形の基礎を学び、2014年からフリーランスとして、特殊メイクや造形技術を用いた作品制作を開始。現在では、特殊メイク、グラフィック、アートディレクションなど、独自の世界観を追求した作品制作を行い、その感性を活かして、ミュージックビデオ、映画、ライブなどのさまざまなメディアにおいて幅広く活動中。2020年には、オーストラリアで開催された特殊メイクのコンペティション「WBF 2020 World Championships special effects makeup」において、世界のTOP3に選出された。2024年にはForbes Japanが次世代を担う30歳未満の30人を選出する「30 UNDER 30」を受賞。
水野:モンスター的な作品への興味はいつ頃から?
快歩:子どもの頃から、見えない世界を妄想・想像して、落書きをしたり、粘土で作ったりするのが好きでした。さらに、いろいろ映画を観ていた時期に、「特殊メイクっておもしろそうな技術だな」と興味を持って。そこから、特殊メイクの専門学校があると知り、「やってみよう」と入学した感じです。
水野:物語の制作ではなく、キャラクターや人間の顔のほうへ向かっていったのですね。
快歩:自分が平面で落書きしていたものが、特殊メイクの技術によって動き出すとか、実際に存在するように感じられるとか、そこに魅力を感じました。とくに子どもの頃、妖怪が好きで、水木しげるさんの作品とかよく観ていて。自分の生み出したキャラクターたちも、実は「見えないけれど、そこにいる」んじゃないかなって。
水野:実際に特殊メイクを学んでいくなかで、何が難しかったですか?
快歩:最初は、メイクをするのと同じ感覚かなと思っていました。でも実際には、いろんなプロセスがかなり複雑で。人間に張り付けるパーツを作るまでの過程だけでも多い。彫刻ができないといけないとか、素材を揃えないといけないとか。それはいまだに大変です。
水野:特殊メイクの概念はどのように捉えているのでしょうか。
快歩:やはりメイクなので、モデルさんの顔の骨格があって、そこに合わせてどう作っていくかを考えるものだと思います。そして、自分はお面ではなく、キャラクターを作りたい気持ちが強いので、メイクが完成したとき、「実際に存在しているかのようであること」を目標にしていて。造形が楽しくなりすぎて、リアルじゃなくならないように、バランスを意識しています。

水野:「リアルなもの」と「リアルじゃないもの」の基準というと?
快歩:彫刻をする段階で、モンスターを作り上げすぎてしまうと、どうしてもお面になってしまいがちだと思います。あくまで人間の顔に合わせた形で作っていって、最終的なメイクの完成が、自分の想像していたモンスターになると、リアルなものになっていることが多いですかね。
水野:「お面ではない」というのは、しっくりきますね。特殊メイクは、そのひとの血液が通っているというか、生命感があって。
快歩:そうですね。あと、ライブの演出で被り物を作らせていただく機会も多いんですけど「最終的に被ってステージに出たとき、どう見えるか」というところを考えながら作っているのは、特殊メイクで学んだことが活かされているからだなと思います。
水野:快歩さんが制作されたyamaさんの仮面もまさにそうですよね。僕らの仮面の概念とは少し違う。
快歩:yamaさんの顔の一部として考えて作ったので、特殊メイクの知識や感覚がかなり盛り込まれていますね。
「こういう動きをする子だったんだ!」

水野:アーティスト側から依頼されたお仕事のものはどのように作っていくのですか?
快歩:自分の今までやってきたワークスなどを見て、頼んでいただけることが多いんですよ。なので、最初にキーワードだけいただいて、それをもとにいったんすべてデザインを書いてしまうことが多いですね。
水野:依頼されたお仕事に対して、ご自身の創作の感覚を反映させるのが難しいことはありませんか?
快歩:「自分が見たことないものを作りたい」と始めた仕事なので、「“これを作ってください”、に応えるのは違うな」と思った時期があって。そこからひたすら作品をSNSに載せて、「こういうものを作りたい」というアピールをしていました。で、扱い方がわからないひとになって、仕事は減っていったんですけど。結果的に今、「こういう世界観が欲しいから何かできませんか?」と頼んでいただける方が増えたのでよかったと思っています。
水野:アーティストのみなさんはどういったリクエストの仕方をされるのでしょうか。
快歩:たとえば、Official髭男dismさんの「日常」という楽曲のMVでは、「メンバー以外の全員をモンスターにしたい」というリクエストだけでした。「テレビ局のなか」というテーマも決まっていたかな。あとはもう、キャラクターデザインからスタイリング含め、すべてこちらで考えていいというパターンが多いですね。

水野:キャラクターを作っていくとき、性格や物語も考えていくのでしょうか。
快歩:何かしら個性やクセは考えて入れるようにしています。映像でも写真でも、すべての作品をちゃんと生きているように見せたいので。
水野:「生きているように見せたい」というその動機は何ですかね。
快歩:やっぱり、「見たことないものが存在していたらおもしろいんじゃないか」という気持ちが大きいかもしれません。たとえば、現場で特殊メイクをしても、モデルさんの顔や動きのクセによって、自分が想定していない完成形になったりするのがものすごくおもしろくて。「こういう動きをする子だったんだ!」みたいな。そういう「このキャラクターは本当に生きている」という感覚が好きで、毎回楽しくお仕事をしています。
水野:快歩さんは1から100まですべて作りたい創造者なのかと思っていましたが、そうではなくて。自分の想像を超えた他者に出会いたいんですね。
快歩:そうです、そうです。作り終わると「これを作ったのは誰だろう?」くらいの気持ちになります。自分の作品のように思っているものはあまりなくて、実際にそういうキャラクターとして存在している感覚なんです。
水野:インプットなどはされますか?
快歩:はい、無差別にインプットするように意識しています。自分の好みのものだけだと偏ってしまうからよくないなと。だから、神保町の古本屋さんに何の目的もなく行って、よくわからない本を開いてみて、「おもしろそう」って買って帰って読むとか。
水野:本というと言語ですよね。どのように創作に取り入れるのでしょうか。
快歩:文章からインプットをすることも多いんですけど、図鑑とか、知らない民族の写真集とか、そういうものをピックアップするんですよ。すると、「どうしてこのデザインができるんだろう?」とか、「どうしてこういう色を使うんだろう?」とか、想像が膨らんだり、学びがあったりして。
水野:なるほど! それをご自身の作品にいろんな形で活かすんですね。ちなみに快歩さんは「自分らしさ」というものを意識されますか?
快歩:意識はしてないかもしれません。自分の引き出しにあるものや手グセで作ったら、「らしいものができた」という場合が多いと思います。
水野:「やらない」と決めていることはありますか?
快歩:特殊メイクって、グロいものとかゾンビとかのイメージが強いんですけど、もうそういうものはできるだけ避けるようにしています。やっぱり特殊メイクの技術で新しいものを作りたい気持ちが強いので。できるだけ、やったことない仕事、見たことないものが作れそうな仕事を選んでいることが多いですね。
モンスターを7メートルのバルーンで

水野:これまでご自身が手掛けられた作品で、「これは自分のキャリアを変えたな」と感じるものというと?
快歩:yamaさんとか、King Gnuさんとか、いろんなアーティストの方が新しいことを頼んでくださるので、節目節目で変わっているとは思います。あと、去年から『LuckyFes』という茨城県の音楽フェスでアートディレクターをさせていただいていて、そこからまたかなり見えるものが変わってきました。そのフェスのプロデューサーの方がたまたま個展を見に来てくださっていて、オファーをいただいたんですけど。
水野:アートディレクターとしてどういうことをされるのですか?
快歩:まず「テーマパークみたいなフェスにしたい」と。それに対して、特殊メイクの技術を使ってできることを考えていく感じです。モンスターを7メートルのバルーンで作ったり。大きい木に目玉や鼻をつけて、特殊メイクをしたり。「今までのフェスで見たことないものを」と思いながら取り組んでいますね。
水野:今、参考の写真があって、7メートルのバルーンを拝見しているんですけど…、言葉で説明できない(笑)。
快歩:意味わからないですよね(笑)。
水野:そう、「意味わからない」と言ってしまいそうになる。けれど「意味わからない」を生んでいることもたしかで。
快歩:大きいステージが2つあって、そこから見える場所にモンスターが生えていたらどうなるんだろうって。出演されていたアーティストの方もMC中にいじったりしていましたね。ステージからすごく目立つから。よく自分に頼んでくださったなと思っています。
水野:また、快歩さんは2020年にオーストラリアで開催された特殊メイクのコンペティションで世界トップ3に選出されたそうですね。こういうことによってお仕事の幅は広がるものですか?
快歩:これをきっかけに海外のひとが見てくれたりはしているんですけど、向こうへ行く仕事が一気に増えるというのはなかなか難しいですね。渡航費とかがかかるので、連絡は来るものの、実現しないことが今は多くて。だから、もっと自分が作品をたくさん作り続けて、いろんなこと関係なく呼んでもらえるようになりたいなと。
水野:「これからこんな作品をやりたい」という具体的な思いは何かありますか?

快歩:具体的なものはないんですけど、フェスの仕事のように、「あいつにやらせたらおもしろいかも」みたいなことがどんどん増えていったら楽しいなと思っていますね。
水野:制作のとき、他者とアイデアをともにするのは、快歩さんにとってポジティブなことですか?
快歩:ポジティブですね。相手の「これをやってほしい」のなかで、「超えてやろう」って遊べるので。そして、相手の「これをやってほしい」も、なかなか自分だと思いつかなかったことが多くておもしろい。
水野:必ず外から何かを取り入れて、自分で作ったもののさらに外へ行く。それがすごいですよね。承認欲求みたいなものはありますか?
快歩:目立ちたいとかはなくて。「自分がおもしろいことをずっとしていたい」という気持ちが強いですね。
水野:どうしてその気持ちを保てるのでしょう。
快歩:作品が完成したときの、意味わからない自分の感情だったり、現場でメイクが完成して見ていただいたときのリアクションだったり、そういうものがおもしろくて、ずっと続けていられるのかなと。
水野:やっぱり“驚き”が大事なんですね。どこか子どものような遊び心があるというか。
快歩:そうですね。個展をやっていても、子どもがいっぱい来て、「なんだこれ!」とか言っているのを見ているのが好きです。
水野:最後に、この番組では毎回ゲストの方に、これからクリエイターを目指すひとたちへメッセージをお願いしているのですが。ひと言いただいてもよろしいですか。
快歩:自分の場合、おもしろいと思ったことは、「事故ってもいいからやろう」と行動することが多くて。実際にやってみると、案の定、事故ったりするんですけど、そこから自分がまったく想像してなかったところに繋がることもあります。だから、とにかく「やってみることが大事」ですかね。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
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