対談Q ゆっきゅん(DIVA・作詞家)第2回

「だから何?」って言われても終わらない人生を生きているから。

喧嘩ができない

ゆっきゅん:私、家族とも誰とも喧嘩をしたことがないんですよ。

水野:しなさそう。

ゆっきゅん:でも、「喧嘩をしないことってヤバいんだ!」って最近思って。

水野:すぐ諦めてしまうとか?

ゆっきゅん:子どもの頃から、「このひと今、機嫌が悪いな」と感じたら、別の部屋に行けばいいと思っていました。先日、対談をした方が、喧嘩を恐れない方で(笑)。私は自分が喧嘩できないからこそ、その方の表現を好きな部分も絶対にある気がするんです。ただ、喧嘩のやり方を知らないから、仲直りの仕方も知らない。それは怖いなって。私の表現も喧嘩を売っている感じにならなくて。

水野:なるほど。

ゆっきゅん:賛否両論にならない。「わかるひとだけにわかればいい」と思っているわけではないけれど、「好き」と思ってくださる方ばかりが集まってくれるというか。

水野:いちばんいいじゃないですか。

ゆっきゅん:いいんだけど、「多くのひとには広がっていかないのかな」とも思います。あと客観的すぎるけれど、私の属性的にちょっと嫌いづらいところもある。容易に叩ける感じじゃないというか。すると、集まるのは好きな方たちだけになる。今はわりとそういう時代でもありますし。でも、自分が好きなのはJ-POPで、ヒットソングってカッコいいなと思っていつも聴いたり観たりしているから、このままだと限界が知れているなと。

水野:ああー。

ゆっきゅん:それはセカンドアルバムを出した反応で思いました。「褒めてくれるひとだけ増えたな」と。本当にありがたいことですけどね。とはいえ、自分が表面で挑発的なことをやりたいわけでもなく。

関係ない話題を急に出す勇気

水野:そこが信頼に繋がっている気がします。今はわざとアテンションを集める作品も多いから。喧嘩しているところに自分で踏み込んでいって、「俺はA派だけど」みたいな。それはどこか下品だなって思うんです。

ゆっきゅん:私は時事問題にもあまり言及しないんですよ。「してたまるか」みたいなところがありますね。SNS自体はこの期に及んでまだ全然大好きで。「監視社会が~」とか、「分断が~」とか、言っていることはわかるし、嫌わなければいけない風潮みたいなものもある。だけど、絶対に“SNS疲れ”は歌わないって決めています。他の人が歌えばいい。

水野:最高です。

ゆっきゅん:イヤな面もないわけではないけれど。それよりも、よすぎるDMがあるし、SNSは奇跡が生まれる場所、好きが生まれる場所だと思っていて。大好きなんです。

水野:今、SNSをこんなに肯定的に捉えているひといないかもしれません(笑)。

ゆっきゅん:とくにXって、何か事件が起きると、それについてみんなが何か言っているじゃないですか。言わないひとは何も言わない。でも私は昔から、誰も話してない話題、関係ない話題を急に出す勇気みたいなものがあって。みんながしている話を、わざわざ発信しないかもしれないですね。自分のなかで考えたりはするけど。今、Xを一生懸命にやっているひとは、「この話題について何かを言わないと」と思いすぎ。

水野:うん、うん。

ゆっきゅん:興味ないことがあってもいいのに。だって、好きでもないミュージシャンの不祥事とか、どうでもよくないですか。「叩きたくなる」とかは、ストレスが溜まっているんだろうけど。そうじゃなくて、「自分も何か意見を持たなければ」というのは繋がりすぎ。あまりにも自分と他人が接続しすぎ。

水野:他人の話からしか、自分の話ができない状態になっているひとは多いと思いますね。何か事件が起きて、話題になって、他人の話を引用して自分の話を切り出す。それはどうなんだろうといつも思っていて。こんなに自分の話がしづらい時代は初めてなのかもしれないなと。だから、ゆっきゅんさんの、「関係ない話題を急に出す」ってすごく大事で。それはほとんどのひとにとって、つまらないことかもしれないけれど。

ゆっきゅん:そう。私はもう「だから何?」ってことをずっと言っていこうと思っています。地元の言葉的には「じゃけ、どしたん?」ってことが大事(笑)。だって、みんなの話題について何を言うかとか、どんな立場を取るかとか、もう言葉が用意されているし。

水野:そうなんですよ。言い回しとか、語り口とか。武器が用意されていて。

ゆっきゅん:それよりも、自分が思っていることを話したいし、話してほしい。「だから何?」ってバカにされても別に終わらないから。「だから何?」って言われても終わらない人生を生きているから。そういう話をするし、そういうことを歌にしたいんですよ。あと、歌は何がすごいって、繰り返し聴けるところだと思います。自分が繰り返し歌うことにも意味がある。小説は何十回も読まないし、SNSは一瞬で流れていくけど。

水野:はい、はい。

ゆっきゅん:こういう生き方なので、作詞をする前にも近い発信はしていたんですよ。だけど、それを歌にして届けたら、みんながすぐにちゃんと受け取ってくれた。しかも何回も繰り返し聴くとなると、その感受性が自分のなかに新しくインプットされていったり、当たり前になっていったり、だんだんわかっていったりする。だからこそ、「わざわざ言うほどでもない」と思うようなことを、切り取って歌にしたいなと思います。

女の子のアイドルに書くのがいちばん楽

水野:なかなかそこのマインドに行けないと思うんですよね。

ゆっきゅん:いや、でもこれは自分の曲だからかな。先日、初めてコンペに出したときに思いました。

水野:どうでした?

ゆっきゅん:楽しかったんですけど…。そのひとが好きで、そのひとの曲を知っているからこそ、そのひとの歌声で絶対に自分の言葉は出てこないんですよ。でも、提供するのが難しいという話でもなくて。水野さんはどんな曲を書くのがいちばん楽ですか?

水野:いや、いつもツラい(笑)。

ゆっきゅん:私は女の子のアイドルに書くのがいちばん楽なんです。手を抜いているわけではなく、自分の感じるままを書けばいいから。それに、自分が歌うには若すぎることも歌える。楽しく早くよいものが書ける感覚があります。自分の歌だと、「ゆっきゅんは次に何を言うのか」みたいな目線もあるじゃないですか。だから結構、いろいろ考えながら書くんですけど。

水野:たしかに、自分に近いものが僕も書きやすいですね。それはいきものがかりが近いとかじゃなくて。いきものがかりはむしろすごく遠いときもあります。

ゆっきゅん:そっか、そうなんだ。

水野:たとえば、自分の子どもが生まれたタイミングで、子ども番組の歌を書くとなると、自分自身も世界が変わった瞬間だから、言葉がビビットに出て、書きやすかった。あと、上白石萌音さんに「夜明けをくちずさめたら」という歌を提供したんですけど、あれもちょうど自分が思っていたことと、オファーされた内容がリンクしていてスッと書くことができましたね。

ゆっきゅん:自分の歌だと、自分が繰り返し歌い続けることの意味とかも考えちゃいますよね。あと、難しいけれどこれからは男のひとが歌える言葉や感情も増やしていきたいなと思っています。WEST.に3年連続ぐらいで書かせていただいているんですけど、おもしろいんですよね。

水野:僕、ゆっきゅんさんの在り方、佇まい、スタンスなどに加えて、作詞の技術があるなと思うんですよ。

ゆっきゅん:それ、以前も書いてくださっていましたね。びっくりしました。「私、技術あるのかな」って。

水野:絶対あります。僕は職業作家的な書き方にリスペクトがあるし、それを素晴らしいと思っていて。という前提の上で、職業作家的なものもどんどんやられたほうがいいと思う。今もやられているけれど、よりたくさん。

ゆっきゅん:「これはこうしたほうがいい」とかあまりわかってないんですよ。理論的なことは誰からも教えてもらってないですし。J-POP大好きだから、聴いてきた曲はたくさんあるけど。

水野:J-POP好きで聴いてきたものが、自然と身についているんじゃないですか。

ゆっきゅん:嬉しいです。私も職業作家というか、仕事としての作詞も好きだし、もっとやってみたい気持ちがあって、憧れているから。歌詞って、気持ちが伝わったり、ひとが変わったり、心が明るくなったりするものじゃないですか。それが、たとえばWEST.の曲なら、私の曲よりずっと多くのひとに聴かれているわけで。しかもゆっきゅんが書いたとも思われずに、大きい会場で歌われていたりする。

水野:何万人の観客が入るような。

ゆっきゅん:そう、それってすごいことが起きているし、作詞ってすごいなと思います。

水野:今、作詞家と呼ばれるひとって少なくなっていて。

ゆっきゅん:本当に。私は児玉雨子さんだけが先輩なんです。雨子さんは、私が作詞の仕事で混乱したときも、「自分はこうしているよ」といろいろ教えてくれるし、話を聞いてくれるし、仲よくしてくださっていて。でも、本当にパッと名前が出るような作詞家の方が少なくなっていますよね。

水野:いや、生意気な言い方になっちゃうけれど、ゆっきゅんさんに何か作詞を振りたいな。一緒につくれたらと思います。

ゆっきゅん:ぜひ! この間、「作詞をもっとやりたいんです」みたいなことを言ったら、「え、そうなんですか? いいんですか?」って(笑)。私は「自分の世界観を守りたいひと」だと思われているみたいで。でも、めちゃくちゃ作詞、やりたいです!

文・編集:井出美緒、水野良樹
撮影:谷本将典
メイク:枝村香織
監修:HIROBA

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