呼吸を裏切るような緩急に自分自身も驚くことができたら勝ち。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、ダンサーの丹波南美さんです。

丹波南美(たんぱみなみ)
石川県出身。日本大学芸術学部演劇学科 洋舞コース卒業。4歳よりクラシックバレエ、7歳よりモダンダンスを中西優子に師事。身体の曲線美だけではない、鋭さと繊細さを兼ね備える洗練されたダンスが特徴的。モダンダンスで培った表現力と再現性の高い正確な動きが光るアーティスト。フリーランスのモデルを並行して行っており、モデル業での経験を活かしながら、日々鍛錬を怠らない貪欲さを武器に活動を続ける。
日常に散らばっているものから影響を受ける

水野:丹波さんとは、いきものがかりでご縁がございまして。昨年リリースした楽曲「生きて、燦々」のMVにダンサーとしてご登場いただきました。さらに、音楽番組でも共演させていただいたり。先にお伺いしますが、MVはいかがでしたか?
丹波:終始、みなさまの熱量に圧倒されていましたし、すごく貴重な経験をさせていただきました。そもそも踊った直後に自分の姿を見ることが少ないんですよ。舞台での踊りはやはり生ものなので、その瞬間でしかなく、ただ過ぎ去っていく。でも、そうではなく、作品として残ることもまた素敵だなと思いましたね。
いきものがかり「生きて、燦々」(TVアニメ「キングダム」第6シリーズOPテーマ) Music Video
https://youtu.be/yW3RdDbkVw4?si=BlydhSsApyl9AbEZ
水野:ダンスはいつ頃から始めたのですか?
丹波:4歳でクラシックバレエを始めて、小学3年生でモダンダンス、コンテンポラリーダンスに移行しました。
水野:小さい頃、ダンスがイヤになることはありませんでしたか?
丹波:私は好きで踊っていましたね。“何も知らない”って、すごいことで。緊張しないし、恥ずかしくもなかったし、人前に立つことにまったく抵抗がありませんでした。「あの頃に戻りたい」とまで思います。

水野:それが職業になることは想像されていましたか?
丹波:いえ、幼い頃はまったく。意識し始めたのは、大学に入ってからかもしれません。日本大学の芸術学部で踊りを専攻していたのですが、そこで学んでいると、ダンサーたちがまわりに集まるじゃないですか。すると、自覚していきますよね。踊っている自分の身体とも向き合うことになりますし。
水野:いろんなジャンルのダンスがあるなかで、どのようにご自身のスタイルを作っていったのでしょう。
丹波:コンテンポラリーダンスのよさは、“自由なところ”だと思うんですけど、自由なだけだと意外と難しくて。タスクや縛りがあったほうが、深みが増していくんです。だから、抽象的ではありますが、“焦点の絞り方”に自分らしさを見つけていった気がします。
水野:ご自身の強み、というといかがですか?

丹波:呼吸と、その呼吸を裏切るような緩急や“間”です。踊る上で大切にしているところであり、それがお客さんに伝わっていたらいいなと思いながら踊っています。とくに、緩急や“間”に自分自身も驚くことができたら勝ちというか。そういう踊りができたとき、「自分のこういうところが好きかもしれないな」と感じます。そういう面は、きっと音楽にもありますよね?
水野:逆にいきものがかりは、乱暴な言い方をすると“わかりやすいタイプ”の音楽だからこそ、ちゃんと説明してあげることを大事にしています。たとえば、「さあ、ここからサビが来ますよ」という曲展開を作ったり。でも丹波さんは、それをあえて外すことのおもしろさを意識されていて。“ベーシックになる驚かせ方”に対するポジションの取り方の違いなのかもしれませんね。他のダンサーさんから影響を受けることはありますか?
丹波:というよりも、日常に散らばっているものから影響を受けることのほうが多いですね。お散歩をしているときに見る空とか犬とか、美術館に行ったときに目にしたものとか。コンテンポラリーダンスには型がないから、いろんなものがヒントになるんです。今の水野さんのポーズも。
水野:僕は今、手に顎を乗せて、考えるひとの像みたいなポーズをしています。これさえもダンスに影響を与えうるのですか?
丹波:そうなんです。「生きて、燦々」のMVを撮っていただいているときも、自分を撮ってくれているカメラマンさんの動きが職人でカッコよくて、思わず見てしまいました。すごく観察してしまうところはありますね。
水野:丹波さんは、どうしてそんなに明るいんですか?

丹波:明るいですか?
水野:MVの撮影現場で、プロデューサーの方が紹介してくださって、丹波さんが挨拶してくださった瞬間に、「あ、このひとは淀みがない!」と思ったんですよ。でも、今お話を伺っていると、すべてのことを観察して受け入れる感じが、その明るさにつながっているのかもしれないなと。人見知りとかされますか?
丹波:人見知りはしないですね。でも、「この方は何を考えているのかな」とか、「今、キョロキョロしているのはどうしてだろう」とか、「ちょっと体調が悪そうで心配だな」とか、すぐに考えてしまうので、わりと気にするタイプではあると思います。
水野:ダンスに入るときの切り替えは意識されていますか? 「丹波です」ってご挨拶してくださったときの明るさと、ファーストカットの空気感があまりにも違っていて、すごいなと思いました。
丹波:すべて本当の自分で、素ではあるんです。だから切り替えるというより、その時々でいろんな顔が出てくるのかな。でも、私は水野さんに対しても思いましたよ。
水野:え、マジですか?
丹波:音楽番組で共演させていただいたとき、同じく最初は「明るい方だな」という印象だったのですが、本番では「ああ、カッコいいな」って。
水野:恥ずかしい(笑)。でもすごくいいテンションでやらせていただきました。
ダンスはオブラートに包めているような感覚がある

水野:コンテンポラリーダンスは、日常と地続きすぎてしまうことはありませんか?
丹波:ただ、お客さんが見てくれている空間って、ステージしかないんですよね。だから、「自然な体の流れで、本番に持っていきたい」と言いながらも、どうしてもお客さんを意識してしまうところはあるかもしれません。それは多分、いいことで。やっぱり練習どおりじゃおもしろくない。お客さんがいるからこそできる表現をするために、自分がその場で感じたものを昇華しているところもあると、今お話しながら思いました。
水野:どれぐらい視線を意識しますか?
丹波:視線を意識するというより、お客さんの目線を温かく感じるときと冷たく感じるときがないですか?
水野:わかります。
丹波:温かく感じるときは、お客さんの視線が私たちを柔らかく包み込んでくれる空気みたいな。でも、冷たいときはちょっとチクチクして痛いですよね。
水野:ライブってコミュニケーションだから、僕はあえて距離を遠ざけることもよくやります。ありがたいことに、「よっちゃん!聖恵ちゃん!」っていう感じで、楽しもうとして来てくださっているじゃないですか。でも、ずっとそのテンションの関係でいると単調になる。だから、あえてパーンと離したり、壁を作ったりという瞬間は、意識としてあるんですよね。

丹波:それはさっきの「呼吸を裏切るような緩急」のお話とつながっている気がしますね。やっぱりどこかお客さんを裏切るというか、驚かせたいというか。予想外のことが起きると、「お!」って目が覚めたりしますから。より視線を集めることができるのかなと。
水野:“理想のダンス”みたいなものは追われていますか?
丹波:やはり型がないので、ずっと新しいものを追い続けるとは思います。あと、私はすごく気分屋で、いろんなものが気になってしまうし、飽きてしまう。1年前と今の自分がまったく違うことも、自覚しているんです。今、何かひとつ挙げたとしても、すぐ変わってしまう気がしますね。だから、常に自分の変化に対しては敏感で在り続けて、今の自分が好きなものを大切にしながら、作品づくりをしたり、踊ったりしたいですね。
水野:どんな瞬間がいちばん好きですか?
丹波:私は過程が好きかもしれません。もちろんお客さんの前で踊っているときも、アドレナリンが出て、ワクワクするんですけど。作品づくりのとき、ガポッっておもしろいことが浮かぶときがいちばん楽しいんです。即興で踊っているとき、「あ、自分の知らない自分だ。まだ私こんなことができるんだ」みたいなことを思えたり。水野さんは、即興で演奏されることはありますか?
水野:あまりないのですが、曲づくり自体はどこか即興性があると思います。僕も同じく飽きっぽいので、技術だけで作ると同じ形になってしまって、つまらない。だから、変な話、風邪を引いて体調もメンタルもよくない状態で、ピアノに向かったら、よくわからないテンションの低いものが生まれてきて、それがよかったり。
丹波:すごくわかります。
水野:自分の状態が変わっていると、価値観も即興的に変わっているから、同じコード進行でメロディを作っていても、違うものが出てくる瞬間があるんですよね。それをネタとして切り取っておいて、あとでもう一度精査する。つまり、組み立てていくなかに即興性を入れることはよくあります。ダンスづくりではいかがですか?
丹波:いったん即興で踊ってみたりしますね。最初の組み立てのとき、アイデアが出てくる日と出てこない日があるじゃないですか。出てこない日は、ただ音楽に合わせて踊ってみる。すると、鏡を見ていて、「あ、今の動きいいかも」と思える瞬間があって。それが即興の楽しいところだと思います。

水野:文章は書かれませんか?
丹波:書かないけれど、言葉は好きです。とくに、杉崎恒夫さんの『パン屋のパンセ』という詩集が好きで。そのなかの「宇宙には時差がないから夜中でも長い電話をくれるあのひと」という詩に惹かれて、大学の卒業制作はこの詩から作品づくりをしました。
水野:詩をダンスに落とし込むとなると、言葉から動きの翻訳が必要になりますよね。どのように作っていったのですか?
丹波:空気感をピックアップしているんだと思います。「宇宙には時差がないから夜中でも長い電話をくれるあのひと」の“あのひと”の優しさとか温かさが、作品の空気とリンクしていく気がして。言葉って、すごく強いじゃないですか。ひとを慰めることもできれば、刺してしまうこともある。その選択を自分が上手にできるかわからないから、あまり作品内で言葉は使っていないんです。インスピレーションを受けることはあるんですけどね。
水野:ダンスもどこか言語表現と近い部分はありませんか?
丹波:近いと思います。ただ、私としては、ダンスはオブラートに包めているような感覚があるんです。言葉だと、わりとひとつの言葉に正解がありますよね。みんな「夜」と言われたら「夜」を想像する。でも、踊りだとひとつの振付でも、「きっとそれぞれの受け取り方をしてくれるだろう」と預けてしまえるところが、優しいんですよね。水野さんは、どういうふうに言葉を紡いでいるんですか?
水野:やはり「呼吸を裏切るような緩急」というか、“間(ま)を外す”ことは意識しているかもしれません。あと、難しい話になってしまいますが、すべての言語には“もの”だけじゃない、いろんな“こと”がくっついていて。その“こと”をデザインするようなところはありますね。ありきたりな言葉でも、それを違う方向から見せることで、急に物語が見えてくる、みたいなことは考えていますね。
動きだけだと揃って見えない

水野:改めて「生きて、燦々」のMVの話になりますが、曲からどういうイメージで踊りを構築されました?
丹波:基本的な振り付けは、水中めがね∞の中川絢音さんと根本紳平さんが作ってくださって。
水野:現場ですごくコミュニケーションを取られていましたね。
丹波:振付家さんって本当にすごい。たとえば、右腕を伸ばすだけでも、「届かないけど届いてほしい、って気持ちで」というひと言をいただけるだけで、ものすごく踊りやすくなるんです。「空気を動かすように」とか、「まわりのダンサーみんなを鼓舞するように」とか、感情の指示までくださったので、入り込みやすかったですね。私だけの力ではなく、みなさんのおかげ。あとは、気持ちよくエネルギッシュに、という思いで踊っていました。

水野:ワンシーンごとに、解釈についての話し合いもあったんですね。
丹波:動きだけだと揃って見えないんですよ。変な話、カウントが合ってなくても、気持ちが合っていたら、合っているように見えることさえあります。だから、今回のMVでは、「生きて、燦々」の歌詞の解釈、水野さんが作ったストーリーの解釈を、みんなで一致させることの重要性を改めて感じましたね。
水野:これからどういうビジョンを描いていらっしゃいますか?
丹波:私は先のことを考えるのが苦手で、大きな夢があるわけでもなく、「今、楽しいことをしたい」と思ってしまうんです。ただ、ちょっと公園とかで踊ることができたらいいなとは考えています。たとえば、楽器を弾いてくださる方ひとりと、私ひとりと、公園の子どもと、一緒に踊れたらなと。まだコンテンポラリーダンスをまったく知らないひとと、出会える可能性があることもおもしろいですから。それはやってみたいですね。

水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
丹波:作品づくりは、いくらでも突き詰めることができるから、心身ともにすごく疲れると思うんです。でも、どんな場面でも余白は大事で。頭のなかに余白がないと、新しいものは生まれにくい。私はその余白を作るために、おいしいものを食べたり、たくさん寝たり、好きなひとに会って話したりしています。心と身体の健康がいちばん大切。みなさま、休むこともお仕事です。休んでください。そして、また作っていきましょう。

Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:北川聖人
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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