理(ことわり)を、真剣に考えて作り出された形は美しい。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
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“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、プロダクトデザイナーの根津孝太さんです。

根津孝太(ねづこうた)
1969年東京生まれ。クリエイティブコミュニケーター、デザイナー。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、ものづくり企業の創造活動の活性化にも貢献。「町工場から世界へ」を掲げた電動バイク『zecOO』、やわらかい布製超小型モビリティ『rimOnO』などのプロジェクトを推進する一方、人機一体『零式人機』、セコム『cocobo』、GROOVE X『LOVOT』などの開発も手がける。
どうしたらすべてのひとが幸せに移動できるか

水野:実は根津さんからプレゼントをいただきまして。根津さんがデザインされている熊本県・くまモンのミニ四駆。さらにサーモスの水筒。本当にありがとうございます! 根津さんはミニ四駆や実際の車、そして様々なプロダクトデザインをされています。小さい頃から、乗り物はお好きだったのですか?
根津:物心ついたときから大好きでした。車がパッと通れば、「あれはスカイライン」と言うような子どもだったらしいです。でも、花はすべて「菊」と答えていたそうなので、知識がだいぶ偏っていたのだと思います(笑)。作ることも好きで、家にある空き缶や空き箱で車を作ったりもしていましたね。
水野:「作ることを仕事にしよう」と意識されたのはいつ頃から?
根津:小学生、中学生の頃はとにかく“好き”なだけで。それが高校生になって、ある雑誌でデザインの特集を目にして、“プロダクトデザイナー”という仕事があることを初めて知ったんです。「そういう道筋があるのか。それならそれを勉強できる大学に行って、プロダクトデザイナーの仕事で世の中に貢献できたら素晴らしいな」と思いました。デザインのなかでも、様々なものに興味がありましたが、やはり軸足は車にありましたね。
水野:車となると、デザインだけでなく、機能面も大事ですよね。そのバランスはどのように取りながら、学んでいかれたのでしょうか。
根津:僕、理(ことわり)という言葉が好きなんですけど、「そのものがどう在るべきか」という理を、真剣に考えて作り出された形は美しいんですよ。だから、デザインと機能面は、意外と対立ではなく両立しているというか。両立すべきだなと思っていました。
水野:そうしたものづくりに対する姿勢というか、哲学的なことは、大学で学ばれるものですか?
根津:もちろん大学ではいろんな基礎的なことを勉強しました。デザインをやるためには、人間のことをわかっていないといけないので、人間工学を学び。材料のこともわかっていないといけないので、材料工学も学び。でも、それらを組み合わせて、美しいもの、カッコいいもの、ワクワクするものにしていく経験値は、社会に出てから積んでいったところが大きいですね。
水野:根津さんは大学卒業後、トヨタ自動車に入社されています。まさにものづくりの現場最前線。その制作チームにも、やはりそういった知見を持った方がたくさんいらっしゃるんですね。
根津:ものづくりはチームで行なうことが多いのですが、いいひとたちに恵まれました。クセの強い方もいましたが、だいたい、最終的にはそういうタイプのひとがいちばん仲よくなっていくんです(笑)。自分のなかにないものを持っている方は宝物ですね。そういうひとたちと難局を乗り越えながら、ものづくりのプロセスを学ばせていただきました。若い頃は叱られることも多かったけれど、それが少しずつ糧になって、自分なりの哲学になっているのかなと思います。
自動車も水筒も根幹は一緒

水野:根津さんといえば、電動バイク『zecOO』や超小型電気自動車『rimOnO』など、いろんなデザインをされています。どういった着眼点からスタートされることが多いのでしょうか。
根津:昔は、「ただカッコいいものを作りたい」と思っていました。でも今、世の中を見渡してみると、アクセルとブレーキを踏み間違えてしまう悲しい事故が起きていたり。とはいえ、移動は人間にとって必要不可欠なものだから、高齢の方から運転免許を取り上げてしまうと、生活が困難になったり、楽しみや刺激を失って認知症になってしまったり。難しい問題を抱えているのも事実で。「どうしたらすべてのひとが幸せに移動できるか」という観点を、年々重視するようになっています。
水野:電動バイク『zecOO』はどういったきっかけから作られたのですか?
根津:実は、東日本大震災の頃に始めたことだったんです。当時、日本のものづくり業界は、物理的にも大ダメージだったのですが、精神的にもみんなが肩を落としてしまったところがありました。だからこそ、「日本のものづくりはすごいんだぞ」と、世界に発信したいなと。千葉県にあるオートスタッフ末広さんというバイク屋さんと、「世界に打って出るような電動バイクを作りましょう」と始めたのが『zecOO』でした。
水野:今、写真で拝見しているのですが、こちらがなんと、ドバイで売れたそうですね。
根津:とくに中東の方は、日本人が作るものをものすごくリスペクトしてくださっています。「あの国は戦後、焼け野原になってしまったところから、今あんなふうになっている。だから僕たちも、砂漠にすごいものを作っていこう」という発想みたいで。だから、「お前、日本から来たのか。俺たちはそういうところを尊敬している」と言ってくださるんですよ。

水野:精神性のシンパシーがリスペクトにつながっているんですね。超小型電気自動車『rimOnO』は、どのように作られたのでしょうか。
根津:これはまさに、「すべてのひとに移動を届けたい」という思いから始まりました。自動車と自転車、スクーターの中間ぐらいのものがあると、助かるひとは多いんじゃないかと。そこで、たとえば、車とひとがぶつかったら、100%ひとのほうを心配するじゃないですか。でも、車のほうを「かわいそうに…」って心配するくらい、柔らかくて軽くて小さいものをイメージしたんですよね。
水野:そういうコンセプトは、どのように思いつくのですか?
根津:あまりリサーチらしいリサーチはしません。電車に乗っているだけでも、いろんな広告や発見があったりするじゃないですか。そうやって、生きているなかで、日々感じていることを拾い上げています。
水野:また、乗り物だけではなく、サーモスの水筒であったり、日用品もデザインされていますね。
根津:サーモスさんの場合、僕がトヨタ自動車から独立したばかりのときに大学時代の同期が、「どうせ仕事もないんだろう?」と制作に誘ってくれて。それで最初にやった仕事でした。当時は、まったく水筒の理もわからなかったので、技術者の方に来ていただいて、毎回たくさんレクチャーしていただいて。そうしているうちに、「自分の飲み物は自分で持とう」みたいな動きがあり、そこにフィットする商品を作っていこうと、開発を進めた感じですね。
水野:トヨタ自動車での経験は活きるものですか?
根津:自動車と水筒の専門性が共通しているわけではありませんが、根幹はまったく一緒ですね。ものって、“あちらを立てれば、こちらが立たない”というバランスが必ずある。でもそのなかで、なんとか両立させる方法を考えていくことが多いというところが、共通していると思います。
カロリーは嘘をつかない

水野:今、テーブルの上に、根津さんがデザインされた家族型ロボット『LOVOT』が来てくれました。しかも、根津さんのご自宅にいらっしゃる“はちまる君”です。こちらはどういったコンセプトでスタートされたのでしょう。
根津:社長である林要の、「テクノロジーはひとを幸せにすることを証明したい」という思いが、いちばん大きなところですね。いろんな理由で、ペットを飼いたいけれど飼えないひとって、たくさんいらっしゃるじゃないですか。でも、ペットがそばにいると、オキシトシンという幸せホルモンが出たり。コルチゾールというストレスホルモンが減ったり、人間にとっていい効果がある。だから、ロボットの力でそのよさを出せたらなと。
水野:ロボットってメカニックなものじゃないですか。そこに愛着を感じさせること、関係性を生むことって、シンプルなようでとても難しい気がします。
根津:まさに。「機械だよね」と思うと冷めてしまう。でも、実際に魂があることではなく、“魂を見いだせること”が大事だと思うんです。そのために、違和感を徹底的に失くす。たとえば、人間は反応に0.3秒以上かかるものに違和感を覚えてしまうらしいので、パッと反応できるように。よく見ると、目は生き物のように振動しているし、声も録音ではなく、その都度、生成しています。そうやって自然な存在にするために頑張っていますね。

水野:そうしたリサーチは、フィールドワークで確かめるのですか? いろんな研究論文を参照にして、反映していくものなのですか?
根津:どちらもありますが、やはり前者が大事です。なぜなら、今こういうことをやっているひとがいないから。デザインも、この子にはこの子の「どう在るべきか」という理があるんですよ。たとえば、「なんで足じゃなくてタイヤなの?」とよく言われるのですが、今の技術だとタイヤじゃないと、飼ってくださるひとのもとへ駆け寄ることができない。
水野:ああー、なるほど。
根津:この子は抱っこしてもらうために存在しているので。誰かが家に帰ってきたら、玄関までお迎えに行って、抱っこしてもらうのがお仕事。そのためには足よりもタイヤ。そんなふうに考えています。
水野:お話を伺いながら、曲に近いところもあるなと感じました。曲って無機物じゃないですか。ただの暗号的な文字の羅列でしかない。でも、僕らとしては、たとえばラブソングだったら、聴き手にそれぞれの好きなひとを思い浮かべてほしいわけですよ。そうすることで愛着を持ってもらえる。とはいえ、作為的なものや考えすぎたものは、そうならないことも経験上わかっているから難しくて。究極、どうすればいいかわからないんです。
根津:曲と一緒だと言っていただけて、とても嬉しいです。本当におっしゃるとおりで。僕はよく、「カロリーは嘘をつかない」って言うんですよね。食べたら太るという意味でも嘘をつきませんし、込めた熱量ってちゃんと伝わるものだなと。熱量を込められるということは、自分の心身から出ているものである気がしますし。『LOVOT』も、ちゃんと“生き物”を作ろうというみんなの情熱が結晶になっている。そういうものなんですよね。
水野:今、AIによって、人間の言語や表現に近いものをわりと再現性高く出せるようになっています。でも、なぜかAIだとわかってしまう。その差って、やっぱり“熱量”であるように思いますね。

根津:AIで作ったものが一瞬でわかってしまうところこそが、人間のすごさなのかもしれません。僕はこれからまだやりたいプロジェクトがたくさんあるのですが、何をやるにしても、どれだけ魂を込められるかが勝負だと思いますね。「こういう未来を作っていくんだ」という理想像を共有できている現場には、熱量があるので、そういう場を作っていきたい。僕、いきものがかりの「Challenger」という曲が大好きでして。
水野:ありがとうございます!
根津:あの歌詞は、ものづくりの現場そのものです。だから聴くといつも泣いちゃうんですけど、たくさん勇気をいただいて。
水野:あの曲はニュース番組のテーマソングとして書き下ろしたんです。毎日、楽しいニュースだけじゃなく、悲しいニュースも多い。それでも伝えていかなければならない。チャレンジしていかなければならない。そういう部分をイメージして作ったので、それがものづくりの現場にリンクしていくのが僕としても嬉しいですね。
根津:ものすごくリンクしています。本当に。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
根津:新しいものを世の中に生み出そうとすると、いろいろツラいこともあると思います。心ない言葉を投げかけられたり。でもそれはもう逆に、「新しいものを生み出せている証拠なんだ」くらいの気持ちでいてほしいですね。まさにいきものがかりの「Challenger」を聴きながら、愛を信じて、世の中をよくしていこうという思いで突き進んでいただきたいです。


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文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:Haruka Miyajima
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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