その先にいるひとの喜びを考える
J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』、記念すべき第1回のゲストの方を迎えたいと思います。商品開発、パッケージデザイン、ブランディングなど多方面で活躍するデザイナーでアートディレクターの前原翔一さんです。
前原 翔一 (まえはら しょういち)
アートディレクター、デザイナー。1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。電通テック、ドラフトを経て、2019年に独立、2023年にデザインスタジオfff Inc.(フフフ)を設立。商品開発、パッケージデザイン、ブランディング、CI,VI開発、サイン計画、コミニケーションデザインを中心に多方面で活動中。
水野:前原さんには、いきものがかりの作品もいくつもアートディレクションしていただきまして。アルバム『〇』やシングル『うれしくて/ときめき』、たくさんの現場をご一緒しているのですが、こうして改まってお話させていただくのは初めてで。よろしくお願いします。
前原:よろしくお願いします。
水野:もともとはものづくりやデザインには、どういうところから興味を持たれたのですか?
前原:父親がカメラマンをやっておりまして、子どもの頃から自宅にパソコンがあったんですよ。だから、小さい頃からメカ好きで、よく触っていて。
水野:自分のなかのそういう才能に気づく瞬間ってありましたか?
前原:たとえば子どもの頃、絵を書いていて親や先生に褒められると気持ちよかったんですよ。それが繰り返されて今に至っている感覚ですね。
水野:リスナーのみなさんにぜひ、前原さんの作品をいろいろご覧になっていただきたいです。僕らのCDジャケットとかをデザインしていただくとき、まずラフで「こんなデザインどうですか?」と提案してくださるんですけど、その手書きの絵にすごく生々しい温かさがあるんですよ。
前原:いちばん大切にしているのは、絵のクオリティーというより、「何を伝えたいか」なんです。水野さんの歌詞に対して、僕がガーっと気持ちを伝えていくとなると、生っぽくなる。僕は大学を出て、電通テックに入って、そのあとにデザイン事務所・ドラフトに入ったんですけど、そこの代表・宮田識さんとの出会いの影響がそういう精神面ですごく大きいですね。
水野:どういった影響を受けたのでしょうか。
前原:宮田さんのことが書かれている『デザインするな』というタイトルの本があって。要はデザインをデザインとして捉えてないというか。デザインって、目の前のものだけを作ると思われがちなんですけど、その先にあるひとや社会とのかかわりあいを見てこそ、デザインなんじゃないか、みたいなことを言っている気がして。
水野:それは前原さんの姿勢としても、一緒にお仕事させていただくなかで伝わってきます。たとえば、僕らの曲をまず聴いていただいて、「こういうコンセプトです」みたいなお話をするんですけど。そこからさらに派生した物語を前原さんが作ってくださる気がしていて。
前原:とくにいきものがかりさん、水野さんからは「言葉」という強いボールをいただきますので、その解釈をすごく考えます。アルバムタイトルが『〇』なら、「何が〇なんだろう」って考える。それが僕としては大事な儀式で。言葉のキャッチボールをして、お互いにグッと来るところを掴んでいきたいなと。
水野:自己表現とデザインの違いについては、どのように感じられますか?
前原:おもしろい質問ですね。実はそのことにお気づきの方がまだ少ない気がしていて。大学の授業とかだと、どうしても「自分はこうだ」というふうになる。それはそれでいいと思います。ただ、おっしゃるとおり、デザインはその先にあって。それをどうにかして見つけていくというか。
水野:前原さんはそういった視点に、お仕事をしていくなかで気づかれていったのでしょうか。
前原:僕のいちばん最初の大きな出会いというか、気づきのタイミングは、ドラフト在籍時にスタートした『全国高校生 花いけバトル』というプロジェクトでした。当たり前の話ですが、僕みたいなデザイナーの仕事はいつも、対クライアントさんになるので、クライアントさんが満足しているかどうかの話になりがちで。でも、花いけバトルの全国決勝大会が毎年1回、香川県で行われていて、僕もそこに行ったんですよね。
水野:甲子園みたいなものですね。
前原:そうそう。すると、学生さんたちが僕のデザインしたツールを身に着けているんですよ。旗とかバッジとか手ぬぐいとか、各々好きなように。そこでハッとしたんですよね。「あぁそうか、僕はこの子たちが楽しく青春を送れるようにデザインしたんだ」って。要は、お客さん(クライアントさん)の先にいるひとを初めて見たわけです。その経験って、マス系の仕事をしているとなかなか味わえないから。もうジーンと来ちゃって。そこが僕の原点なんですよね。その先にいるひとの喜びを考えて、デザインをして、ちゃんと満足させる。
水野:それが僕も、前原さんとお仕事をさせていただくなかで感じる温もりの部分なのかもしれません。誰かに喜んでもらうことって、すごく難しいし忘れてしまいがちですよね。教科書通りのいちばん大切なことなはずなのに、なかなか実感しづらい。
前原:今やらなきゃいけないことを見すぎてしまうと、すぐに間違ってしまうというか、その先の部分を忘れてしまう。だから僕は最近、家族や仲間、身近なひとがこのデザインをパッと見たときに「おもしろい!」とか「わー!」って言うかどうかを重要なファクトにしています。まず身近なひとたちが幸せになっていないのに、その先のひとたちは幸せにならない気がして。
デザインにおいての「お戻し」はプラス
水野:今は答えを出しやすい世界になりましたよね。いろんな情報があるし、AIも使えるし。デザインを必要としているひとが問いを出したとき、効率的に答えを出すことはできる。ただ、そこにどれだけ熱量を持たせることができるかは、ひととひとの関係が重要なファクターになっていて。まさに前原さんがおっしゃったように、熱量のある関係のなかで「OK」とされるデザインかどうかも、大切な指標なのかもしれないですね。
前原:仕事も定型化していきますよね。オリエンテーションがあって、それに対してお答えさせていただく。でもそれだけだと、表現の面でも、お互いの満足度の面でも、壁を超えていけないところがあるなと思います。だから僕はなるべく会話をさせていただきたいんです。くだらない話でもいいんですけど、「このひとは何を言おうとしているのか」を感じたいんですよ。大体の場合、打ち合わせの現場で”お告げ”と呼べるようなヒントをいただくんですけど。
水野:リスナーのみなさんには伝わりづらいと思うんですけど、前原さんはすごく現場に来てくださるんですよ。僕らがレコーディングをしているとか、デザインとはまったく違うお仕事をしているところに。今なんてリモートとかできるにも関わらず、忙しいのに時間も関係なく、必ずいろんな現場に来てくださって。「このジャケットなんですけど…」とか直接、話し始めてくださって。その理由が今わかりました。
前原:情報としての会話と、コミュニケーションとしての対話って、ちょっと違うんですよね。話しているときの目つきとか手グセひとつでも、「あ、このひと何か違うこと考えているな」とか、普通の会話のなかであるじゃないですか。そういうひとつひとつが重要だと思っています。
水野:本論とは関係ないことも含めて、情報をたくさん得ているというか、感じているというか。
前原:はい。そしてキャッチボールをしたいんですよ。「僕はこう思いました。水野さんどうですか?」というとき、リモートだと端的な言葉で、「こうですね」とか「いいですね」とかなるじゃないですか。でもお会いしていると、いろんな雑談のベースのなかで、お互い考えを共有できるというか、キャッチボールできる瞬間が生まれやすい気がして。だから僕はデザインにおいての「お戻し」(修正などのリクエスト)はプラスだと思っています。
水野:なるほど! 嫌じゃないんですか。
前原:嫌じゃないですよ。そこで1段進化する気がして。逆に何もおっしゃられないと心配になっちゃいます。
「ご提案」というのは、あまりやりたくない
水野:そう言っていただけると、僕ら側としてはすごく嬉しいです。急に具体的な話になりますが、僕らのアルバム『〇』のジャケットデザインをするときは、前原さんはどんなことを考えていらっしゃいましたか?
前原:去年のいちばん難しいお話でした(笑)。
水野:あはは(笑)
前原:最初に、タイトルが『〇』だとお聞きして、〇かぁ…と。僕は歌詞をすごく読み込む派なんですけど、この『〇』の解釈がかなり重要だなと思ったんですね。おふたりの活動とか、歌い方とか、いろんなことを見させていただいて、その上で「正円ではないよな」とか。
水野:綺麗な丸、整った丸ではないなと。
前原:はい。水野さんの歌詞で、「大丈夫、それも〇だよ」みたいなニュアンスのことをおっしゃられているところが結構あって。そういう気分が内包されている〇なんじゃないかなと。それで1回目の打ち合わせのとき、いろんな可能性を広げさせていただきました。
水野:いくつも提示してくださいましたね。ひとが丸を作っているものもあったし、実際のジャケットの原案のようなものもあったし、いろんなタイプのジャケットデザインをいただいて。でも今、お話を伺っていて思ったのは、最初の提案のときも実はまだヒアリングの途中だったのかもしれないな、って。
前原:あ、バレました?
水野:「お戻し」がプラス、というのも、とにかくクライアントとコミュニケーションを繰り返していくことが、デザインを作る上で、前原さんにとって重要なんだなって。
前原:「ご提案」というのは、あまりやりたくないんですよ。それって「完全にできあがったもののなかから選んでください」って感じになっちゃうから。本質的には、お互いの気持ちや息が合うところ、その瞬間を捕まえたいので。一応、ご提案というテイではあるけれど、相談しに行っている感覚ですね。
水野:ずっと会話をしていくなかで、できあがっていくというか。
前原:理想ですね。その瞬間は「できあがった!」って思うんですけど、常に「まだいけるんじゃないかな」とも思っていて。
水野:だから会話していて楽しいんです。僕、前原さんとの打ち合わせ、すごく楽しいんですよ。
前原:よかったです。
水野:いつもこの柔らかい感じでお話してくださるので、カウンセリングを受けているような気持ちになるというか。ほぐしてくださる。術中にはまっているんだろうなぁ(笑)。ご自身を出す瞬間もありますか? どうしても作っていくなかで、自分の価値観が出てきそうな気がするんですけど。
前原:ありますよ。でも、深い会話を続けていくと、お互いに重なり合うところがあるから、そこを目指す感じなんですよね。水野さんが質問してくださった「自己表現とデザインの違い」ってそこだと思います。デザインは、ひと同士が重なったときの調和がいちばんおもしろい。だから、なるべく長くお付き合いしたほうが、お互いの「あそこはあのとき嫌だったな」とかも含めて、よりいい結果が残せる気がしています。
水野:ズレたところや合わないところも、作品に昇華されていくというか。お互いのコミュニケーションが、次の答えに変わっていくんですね。
J-WAVE Podcast 放送後 25時からポッドキャストにて配信。
Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集: 井出美緒、水野良樹
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
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