どんな職業でも、自分にしか知ることができないビジョンがある。

J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週土曜日夜21時から放送。
水野:今回のゲストは、グラフィックデザイナーでアートディレクターの越尾真介さんです。

越尾真介(こしお しんすけ)
グラフィックデザイナー/アートディレクター。SUNDAYVISION代表。1997年、美術大学在学中にデザインスタジオ・SUNDAYVISION(サンデーヴィジョン)を設立。雑誌Casa BRUTUSの表紙やPARCO、VIVRE/FORUSの広告アートディレクションなどにより注目を集めた。グラフィックデザインを軸に、イラストレーション、 Web、映像などで幅広く活動。
個性とスタイルを重視するスケートボード文化の影響
水野:越尾さんには、いきものがかりで『路上ライブ at 武道館』のセットデザインや、ニューアルバム『あそび』のジャケットなどを手掛けていただき、いろんなところでお世話になっております。さらに今、『いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2025 ~ASOBI~』を開催中なのですが、そのセットデザインも。こちらスタートしていますが、いかがですか?
越尾:私はあくまでデザインなので、最初にいろいろご提案をするんですが「その会場では設置できない」とか物理的な制約もでてきますよね。だけどその制約のなかで、私のイメージをみなさんが工夫して作り上げていくんですよ。照明さんがどう光らせるのか考えてくれたり、美術さんがどんな素材にするのか提案してくれたり、各セクションでどんどんアイデアが出てくる。私は確認して色指定するだけ。プロのひとたちってすごいなと。毎回、できあがっていく様子に痺れますね。
水野:『路上ライブ at 武道館』の木のセットも目の前で見たときに感動しました。僕らがいろんなショッピングモールで「会いたい」という楽曲をやって、そこでお客さんに花びらのカードにメッセージを書いてもらったんですよね。それを武道館の当日、大きな木を作って桜の花びらのようにして、バーッと木に貼って。
越尾:すごかったですね。「ああ、みんなが書いてくれたメッセージが貼られている」って、ちょっと泣いちゃいました。
水野:そんな越尾さんに、意外とど真ん中のことを訊いたことがなかったのですが、どうしてデザインの方向に進まれたのですか?
越尾:話すと長くなりますが、もともと図工とか絵を描くことが得意で。あと幼少期、スケートボードとかBMX(※自転車競技の一種)とか、少しひととは違うスポーツに接していたんです。
水野:そうなんですか。
越尾:今はオリンピック競技ですけど、スケートボードは基本、競わない世界で。自分のスタイルや個性を出していく文化なんですね。そういうなかでいろんなひとと出会いまして。その友だちと一緒に美術館や映画に行ったりして。徐々に「デザインって何だろう?」とやりたいことが定まっていった感じです。それで立体物、プロダクトデザインをやってみたくなって、高校で担任の先生に、「美大に行きたい」と言うわけです。
水野:おお。
越尾:そうしたら、「今からじゃ無理だ。みんな中学生や高1からやっている。君はもう遅い。普通に大学へ行け」と言われまして(笑)。未練がありつつ、普通の大学を受験したんですけど、スケボー仲間が「美大を受験する」と言い出したんです。それで一浪の夏に「僕もやりたい」と親を説得して、まず美大に受かるための美大予備校に行きました。すると、そこは変なひとたちの集まりだったんですよ。十数人しかいない小さな予備校で。

水野:みんな美術系の方々?
越尾:はい。先生たちも変わっていて、美大に受かる方法というより、「アートとは」「デザインとは」という本質の部分を教えてくれる。だからみんな全然、美大には受からないんですけど(笑)。
水野:ははは。
越尾:もう美大に行かないで、デザインの仕事を始める同じ年のひとが現れてくるんですね。しかもそいつはまだ予備校生なのにすごく仕事を取ってくる。それを横で見ていて、「え、そういう選択肢もあるの? 私は一体、何をしているのか」と感じまして。
水野:なるほど。
越尾:それで、そいつを手伝うようになって、仕事のやり方や取り方を見て覚えて。彼らは3人組で「TGB design.」という名前で活動していたんですけど、僕も現場で仕事をやってみよう」と。ただ、そんなに簡単ではないので、最初は美大に進学しつつ、TGB design.を手伝ったり、ひとづてにちょっとしたものを作らせてもらったり。そうやって徐々にデザインの方向へ進んでいきました。
水野:もう完全に道が決まっていたんですね。先ほど、「プロダクトデザインをやってみたくなって」とおっしゃっていましたが、ジャンルはどういう方向に?
越尾:美大予備校で「この系統だったら、君はグラフィック科なら受かる」と言われまして。私としては、もう早く入ってしまいたいので、グラフィックデザインの友だちの手伝いをして、そちらの方向に行きました。
水野:どうしてそんなにすぐ本質に行けるんですか? 美大に入っても方向性が見えないとか、そういうお話はよく聞くのですが。
越尾:個性とスタイルを重視するスケートボード文化の影響はありますかね。グラフィックデザインの仕事をするときも、まず自分のスタイルを作ったんですよ。「ここは誰にも負けない」という部分をひとつ立てた。最初はイラストレーションをメインに。さらに音楽とか、スケートボードとか、ストリートカルチャーとか、そういうものを全面に出したデザインをしている方はあまりいなかったので、そこからするすると入っていけたのかなと。
水野:自分の個性に気づけることがすごいです。
越尾:ものをたくさん知っていれば、そこが個性になると思うんですよね。たとえば、音楽もすごく好きだったので、高校時代からレコードジャケットを見て、ブルーノートのジャケットでタイトルの入れ方とか構図を覚えたり。音楽から来るグラフィックの作り方からかなり影響を受けました。これだけたくさんジャケット中心に見ているグラフィックデザイナーの卵はそんなにいないはずだから、このへんが穴場なのではないかなと。
ファンの方のひと言がどれだけ嬉しいか

水野:お仕事が来たときには、どういうコミュニケーションを取っていくのでしょう。
越尾:お話を徹底的に聞きますね。私たちのフラッシュアイデアが出るレベルまで、なるべく持ち帰らない。その場で、「こういうことですか?」って言えるぐらいまで、キーワードを引っ張り出して。そこから持ち帰って、社内でブリーフィングする感じです。
水野:越尾さんにデザインいただいたアルバム『あそび』もみなさんにぜひ、ご覧いただきたい。ジャケットがぐにゅぐにゅってなっているんですね。これは実際にアロエジェルをガラスに塗ってもらって、それ越しに撮ってもらったんです。しかも、アロエジェルが落ちてくるから、その瞬間だけのものになる。これも越尾さんとのコミュニケーションのなかで、「1回性」みたいなワードが出て。
越尾:水野さんから「CGとかではなく本物っぽいものやりたい」という意見をいただいて。美術さんに頼んで、いろんなジェルを持ってきてもらって試しました。塗ってみて、「これは落ちるのが早すぎるな」とか。
水野:さらに『あそび』というところから、いろんな光が多様性みたいなところを表現できるんじゃないかと、クリスタルを使ってプリズムを作ってもらったり。アイデアのキャッチボールが本当に楽しかったです。
越尾:おもしろかったですよね。いただいたキーワードも多かったので。「光の海を作ってみたい」とか。「白でも黒でもない、グレーなんだけどいろんな見え方をしてほしい。だから黒い部分も白い部分もあってほしい」とか。それで、「なるほど、こういうアプローチか」と、応えていくのがおもしろかったです。
水野:越尾さんはどんなときに“やりがい”を感じられますか?
越尾:今まさに水野さんに、「よかったよ」って言ってもらったときとか、「ああ、やってよかった」と心から思います。仕事上、デパートの広告やファッションビルを担当しても、実際に購買する方や来館する方には会えないし、何のリアクションももらえないんですよ。だけど、担当者の方が「よかったですよ」とか、「評判いいですよ」とか言ってくれるととても嬉しい。
水野:なるほど。
越尾:その点、音楽のグラフィックは実際にミュージシャンの方に褒めていただけたりしますし。さらにファンの方がたまにSNSで触れてくれていたりする。そのひと言がどれだけ嬉しいかというのを、ぜひ伝えたかった。ありがとうございます!

水野:僕、「いきものがかり」という単語を、地球上でいちばんエゴサーチしている人間なんですけど(笑)。ファンの方からの声は非常に多いです。みなさんぜひ、『あそび』のジャケットやツアーセットの感想くださいね。越尾さんが作っているんですよ!
越尾:ぜひぜひ、お願いします。
水野:もともといきものがかりはどんな印象でした? ギャップとかありました?
越尾:実はそこまで詳しくなかったのですが、あまりにも国民的ミュージシャンなので、絶対に知っているじゃないですか。だから、最初にお声がけいただいたときは、「僕に作れることがあるかしら。楽しみだな」って。そこからギャップはものすごくありました。ミュージシャンの方ってわりとふわっとしていて、抽象的な言葉を尽くして伝えてくれることが多いんですね。でも水野さんはプレゼンシートをバチンと出してきてくださって。
水野:イヤなクライアント(笑)。
越尾:「まずはファンと自分たちの距離をわかってほしい」って理路整然とお話されるんですよ。楽曲とかではなく、ファンの方がいていきものがかりがいるということを、とても大切にされている。そこを伝えてくださる姿に感動しました。「水野さんはミュージシャンというよりも、ディレクション、プロデュースができるひとなんだろうな」と最初に思ったのを覚えています。
水野:ビジュアル面のデザインをどうしていくか考えたとき、「新曲から武道館のライブまでちゃんとトータルで見てもらえるひとがいいよね」という話になったんです。すると、コミュニケーションができるひとがいい。ちゃんと僕らのお話を聞いてくれて、ディスカッションができるひとがいい。それで紹介していただいたのが、越尾さんだったんですよ。
越尾:ああー、そうだったんですか。
水野:だからこそ、「ちゃんと伝えなきゃ!」と思って、僕は最初かなり緊張していて。そうしたらすごくニコニコお話を聞いてくださって、すぐに意図を掴んでくださって。あれは嬉しかったですね。
越尾:ミュージシャンでそういうプレゼンをされた方は初めてだったので、「うおー!すごい!」と思いました。
先に着地点を想像する

水野:もうお話している段階で、イメージは見えているんですか?
越尾:たまにバーッって見えますね。「ああ、大体こういうことだろうな」って。ご本人と喋ることができて、見えて、もう作業に入ることができたら最高。時間が短くまっすぐに行けるので、いちばん理想的です。たとえば、吉岡さんからポロっと出た、「組み立てができる、遊べる歌詞カードとかどうかな?」という言葉とか、「もらった!」って。
水野:それを聞いてくれていて、しかも形にしてしまうのがすごいんですよ。あれは本当に大成功でしたね。アルバム『あそび』初回盤は、歌詞カードが組み立て式。しかも“あそび”というテーマなので、正解がない。どんなふうに作っていただいてもいい。あれもファンのみなさんがいろいろSNSでアップしてくれたりしておもしろかった。
越尾:7月26日発売の『いきものがかり 路上ライブ at 武道館』映像作品パッケージもまたすごく凝っています。あれもみなさんに手に取っていただきたいですね。開けてみて、「あのときのこれか!」と。
水野:ストーリーが続いている感じなんですよね。ぜひチェックしていただきたい。越尾さんとやらせていただく作品は“もの感”がキーワードかもしれませんね。実際に手で触ってもらうことで、より感動がわかる。
越尾:僕はCDジャケットという媒体が大好きで。このなかにはグラフィックデザインの基礎がすべて詰まっているんですよ。ビジュアルディレクション、イラストレーション、エディトリアルデザイン、ページネーション、ロゴデザイン。さらに派生してグッズになったり、ウェブになったり、映像になったり。今、だいぶ配信に変わってきているなかで、CDをみんなに手に取ってもらって、楽しめるものを作りたくて探りつつやっていますね。
水野:さらに今、越尾さんの興味が向いていることというと?
越尾:もちろんお仕事も楽しんでやっているのですが、もともと私は作品を作って個展をやっていて。コロナ禍にものすごく創作意欲が湧いたので、アイデアをバーッと書いて、少しずつものを作っているんです。それらをそろそろアウトプットして、個展をやってみたいなと思っています。

水野:デザインの仕事として受けるものと、ご自身の創作物、何が違いますか?
越尾:私の場合、デザインは回答なんですよ。お題をいただいて、応える。そして自分の作品も、「世の中の流れのなかでの“現代アート”とは」とか、「私レベルのひとが、この作品をどのタイミングでどんな形で出すのか」とか、それもまたお題なんです。違うところで言うと、仕事の場合は締め切りがあるという点ですね。自分の作品は、「ここで終わりにしようか。もう少し粘ろうか」とやり続けていると、えらいことになります(笑)。
水野:コロナ禍からもう数年が経ち、その過程がずっと溜まっているわけですもんね。
越尾:その頃に4つぐらい作ってみたものがあって、そのうちの2つぐらいはもっと量産したいなと。それが忙しくてなかなかできてなかったので、ここらで一発、見せられる機会がほしいなと思っています。
水野:では最後に、これからクリエイターを目指すひとたちにメッセージをひと言お願いします。
越尾:どんな職業でも、自分にしか知ることができないビジョンがあると思います。たとえば、相撲が好きだったら、相撲好きだからこそ出るものがある。そういう自分のバックグラウンドが個性になるので、大切にしてほしいです。あとは、ものづくりの面では、今はコンピューターに任せて、いろんなものが先にできあがってしまうじゃないですか。だからこそ、審美眼を養うというか。
水野:ああー、なるほど。
越尾:いいものを見て、先に着地点を想像してからコンピューターに委ねる。最終的なイメージは自分で作ることが重要だと思いますね。


Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週土曜夜21時放送
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