その絵本を思い出したとき、怖いことがないようにしたい
J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
“いま”を代表するクリエイターをゲストに迎え、普段あまり語られることのないクリエイティブの原点やこれから先のビジョンなど、色々な角度からクリエイティビティに迫る30分。J-WAVE(81.3)毎週金曜日夜24時30分から放送。
キキララは難しかった
水野:水野良樹がナビゲートしています『Samsung SSD CREATOR’S NOTE』、本日のゲストをお迎えしたいと思います。キャラクターデザイナーで絵本作家のコンドウアキ先生です。よろしくお願いします。
コンドウ:よろしくお願いします。
コンドウアキ
イラストレーター、キャラクターデザイナー。1997年に文具会社に入社し、リラックマなどのキャラクターデザインを担当。2003年からフリーランスに。うさぎのモフィ、ニャーおっさんなどのキャラクター作成や商品デザインのほか、書籍執筆など、幅広く活躍。
水野:コンドウアキさんには、もうずっとお世話になっていまして。たとえば、うちの犬の“てけ”をモデルにした、いきものがかりのグッズのデザインもしていただいたり、甘えることばかりです。
コンドウ:こちらこそ、お世話になりっぱなしで。
水野:僕は常にコンドウ先生って呼んじゃうんですけど。
コンドウ:水野さんだけですよ。先生って呼んでくれるの。あとは、学生さん(笑)。
水野:いつもゲストの方をお呼びするとき、“~さん”と呼ぶことが多いんですけど。普段からあだ名のように「コンドウ先生、今日は六本木ですからね。僕、入口まで迎えに行きますから」って。実際、お迎えに行って。
コンドウ:本当に方向音痴なのでよかったです(笑)。
水野:コンドウ先生といえば、リラックマであったり、うさぎのモフィであったり、様々なキャラクターを作ってこられました。イラストとかキャラクターとか、そういうものに興味を持ち始めたのはいつ頃からですか?
コンドウ:いつ、っていうのはとくになくて。絵を描くのは好きだったんですけど、小学校のときはわりと外にいたから。木の上にいたり、秘密基地を作ったりしていたので、そんなじっくり描いていたことはなかったかな。
水野:けっこうわんぱくな(笑)キャラクターを描いたり、絵を仕事にしていこうみたいなフェーズは、いつやってくるんですか?
コンドウ:多分、小学校5、6年生ぐらいの授業で「未来の自分へ」みたいな。
水野:はいはい、ありますね。
コンドウ:そこに「なりたい職業を書いてみましょう」とあって。考えてみたとき、私はかわいい文房具がすごく好きなので「文房具に描いてある絵を作るひとは、なんていう職業ですか?」って先生に伺ったんです。そうしたら「うーん、イラストレーターかなぁ…」と言われて。「イラストレーターという職業があるんだな」と思ったのは覚えています。分岐点というか、絵を描きたいと思ったのはそこかな。
水野:へぇー! 絵を好きになるきっかけは漫画とかではなかったんですね。
コンドウ:『Dr.スランプ アラレちゃん』とか『うる星やつら』とか好きでしたけど、描けないと思っていたのかな。ストーリーも考えなきゃいけないから、そっちにはあまり向かなかった。文房具が好きだし、身近だったんですかね。あの頃って、かわいい絵のついたティッシュとかを交換したりするのも好きで。
水野:“かわいさ”というものに惹かれるタイプだったんですか?
コンドウ:えー、どうなんですかね、サンリオさんのザシキブタってご存じですか?
水野:いや、わからないです。
コンドウ:ちょっと水野さんより上の世代かな。あと、タキシードサムとかハンギョドンとか、あのへんはすごく好きだったんですね。で、学習机シートはキキララだったんですけど、キキララは描いてみたら難しかった。なんか普通の子になっちゃう。ハンギョドンとかは特徴がいろいろあるから描けたんですけど。あと、あれも好きでしたね。科学万博のコスモ星丸くん。
水野:でも小学生のとき、そういうキャラクターがかわいいなと思っても、描けないじゃないですか。普通だったら。どういうふうに自分の画力を上げていくものなんですか?
コンドウ:コスモ星丸くんはめちゃくちゃ練習しました。「なんか違うな、なんか違うな」と繰り返して。でもキキララは「これは難しいから、もうこれ以上はいけないな」って(笑)。
水野:その違いって何ですかね。
コンドウ:ね。星丸くんは、そのうち見なくても描けるようになったんですよ。でもキキララはバランスが難しかった。
水野:バランス。
コンドウ:目の位置とか。顔がわりと小さくて、頭が大きいとか。そのバランスがすごく難しかったのを覚えていますね。
水野:多分、小学校のときにキキララを描いて、「これはバランスが難しいから無理だな」って思っている時点で、相当なことである気がする。分析力というか。
コンドウ:え。
水野:普通の小学生の女の子なら「キキララかわいい。描いてみよう」で、「よしうまく描けた」と終わっちゃうと思うんです。でもそうじゃなくて、「キキララは顔が小さくて、このバランスで私は描けてないな」って気づけることがすごい。
コンドウ:今日、来てよかったです。すごくいいことを言っていただいた(笑)。
平面でしか生きられない
水野:今日もスタッフと話していたんですけど、たとえばリラックマとか「描けそうだな」と思って、真似してみても、あの雰囲気に絶対にならないんですよ。
コンドウ:でも、私もよく描いてみると「なんか違う」って言われますけどね(笑)。
水野:いやいやいや。この感覚はどうやって養っていかれたんですか。美大に通われていたときとか?
コンドウ:いや、美大では広告を勉強する課にいたので、ポスターを作ったり、タイポグラフィーをやったりとかだったから、がっつりキャラクターを描いていたわけではなくて。だから美大で、というわけではないような…何ですかねぇ…。
水野:もともとご自身で持っている感覚ですかね。
コンドウ:すごく好きなんじゃないんですかね。星丸くんのことが。今日、星丸くんの話をしに来たみたいになっているんですけど(笑)。「私の目指す星丸くんまでたどり着きたい」っていう気持ちがいちばん強かったのかなぁ。
水野:「あの絶妙な塩梅をどうして出せるのか」ってみんな謎だと思うんですよ。僕の愛犬・てけのグッズをいきものがかりで、コンドウ先生に作ってもらったんですけど。LINEで「こんな感じかな」ってラフのスケッチをぱっと送ってくださったんです。その段階でめちゃくちゃかわいい。すっと描いた線が。
コンドウ:あ、よかったです。水野さんの大事なてけさんなので怒られなくて笑、、、。
水野:それこそバランスですかね。たとえば、ミュージシャンでいえば、絶対音感があるひと、相対音感があるひと、僕みたいにあんまり何にもないひと、いろいろいて。さらに絶妙な粒度というか、細かさで「このひとはこれとこれの違いがわかる」みたいなことが結構あるんです 絵やキャラクターでも、まさにコンドウ先生にしか描けないバランスがあるのかなって。
コンドウ:でも、私は平面でしか生きられないというか、立体は本当にわからない。方向音痴ですし。3Dの世界では生きられない。3Dのゲームも酔っちゃうし(笑)。2Dじゃないと。
水野:でもモフィとかは造形化されていくじゃないですか。
コンドウ:それはもうミッセーリっていうイタリアのスタジオのみなさんがうまいことやってくれて。
水野:いやいやいや…。
コンドウ:本当に、本当に。
水野:「平面でしか生きられない」と謙遜されていますけれど、平面のなかでも立体が描かれるじゃないですか。たとえば、WOWOWのキャラクターとか、動くことを想定されながら絵が描かれていくし。リラックマのあのぎゅっと抱きつきたくなるような、もふっとした感じ。モフィの耳のくっと触りたくなるような質量感。そういうものはどう意識して描かれているんですか?
コンドウ:いやぁ…あんまり…。会社員時代、キャラクターが広がっていくと、どうしてもぬいぐるみを作っていくことになるので。「ぬいぐるみにしやすいように」というのは、ちょっと頭にあるかもしれません。でも実際に自分で立体図を起こそうとすると、「うーん…これ、どうなっているんだろ…」って(笑)。
水野:キャラクターのアイデアはどこから生まれてくるものですか? おふとんさんとかも、僕からすると、布団をキャラクターにするって、かなり日常生活から飛躍がある気がするんですよ。だけど、みんな布団にはお世話になっているし、むしろ身近なものだし。「布団から出たくないな」とか、「もう今日早く帰って布団入りたい」とか、そういう気持ちを、あの絵で表現してくれている気がしていて。
『おふとんさん』 作/コンドウアキ
https://www.shogakukan.co.jp/books/09726709
コンドウ:あれはアイデアというか、小学校のときから、「もうこのまま学校に行きたい」っていうのは思っていたんです。あと、夜に眠れないときは妹とよく、「これは特別な布団だから、ここにボタンがあって、押すとラーメンが出てくるよ」みたいなことを言っていましたね。飛ぶし、何でもしてくれる布団。
水野:かわいい(笑)。
コンドウ:で、「絵本で何か作ってほしい」って言われて、あのときの布団を思い出したというか。最初のビジュアルはあんな感じではなく、ラーメンを出せる単純な布団だったんですけど。
水野:ラーメンが出せる単純な布団ってないから(笑)。それがすごい。
コンドウ:焼き鳥も出せる。だから、絵本のなかで、お布団を主役にしてみようっていう発想は小学生のとき。そこからキャラクターデザインをしたのが今。タイム的にばらつきがあるんですかね。
私は怖くない担当
水野:アイデアを形にしていくとき、気をつけることはありますか?
コンドウ:ひとつだけ、「絵本は読後感がいいものにしよう」っていうのはあります。私は小学生のときから、怖い本が苦手だったので。
水野:なるほど。
コンドウ:でも、図書室にあるじゃないですか。怖い本。それがもう触れないぐらい怖かった。お化けのシリーズで、そういうお話ばっかり載った本があるじゃないですか。
水野:ありますね、恐怖の。
コンドウ:でも、そういうのが好きな子もいるから、それは怖いのが得意な作家さんが描けばいいと思うんです。私は、その絵本を思い出したとき、怖いことがないようにしたくて。大体、寝る前とか、保育園や幼稚園とか、ご家族に読んでもらったり、ひとりで読んだり、子どもも大人もその世界にすごく集中する。だからこそ、読んだあともちょっと引きずる。そのちょっとしたときに「怖い」ってならないようにしています。
水野:その優しさはどこから来るのですかね。
コンドウ:いやいやいや、優しさではなく、自分が怖かったから。まぁ担当違い。私は怖くない担当。
水野:僕はツアー中に地方で「作家生活20周年記念 コンドウアキのおしごと展」を拝見したんですけど、基本的にコンドウ先生の作品は常に優しい。でも、それをあまりご自身では意識してないのかもしれないですね。
コンドウ:そうなんですよ。
水野:コンドウ先生の作品はどれも、寂しさを抱えている子が見たとき、その子がその寂しさを解消できるわけじゃないとしても、ちゃんと作品を通して一瞬、ふっと共感できるというか。そういうものが多い気がします。リラックマとか、モフィとか、まさにそうだと思うけど。
コンドウ:本当ですか。びっくりしました、今。
水野:僕は多分、コンドウ先生とそこが近いんだと思うんですよね。不特定多数のひとに向けていると思われがちだけど、もちろん向けているんですけど、光が届かなくなったところのひとが見たときにどう思うかを、わりと意識している。
コンドウ:あー、そうなのかな。脳がポカーンってしちゃっています。でも、不特定多数というか、大勢にと考えると、ちょっと難しくなりますよね。作るものの終着点をどうしたらいいんだろうって。
水野:誰に読んでほしい、見てほしいみたいなことは意識されるんですか?
コンドウ:意識はしてないかと思います。もちろん可能な限り多くの皆さんに触れて頂けたら嬉しいですけど、こちらがそういう気持ちをのせるものではないかなと思っていて。私が水野さんに似ているなと思ったのは、「自分の思いを乗せないようにしている」っていうところかなって。以前、そんなことをおっしゃっていて、近いなって感じていました。自分の手を離れたら、もう受け取ってくださった方のものだから、そこに作ったものの思いはいらない。そこは私もちょっと意識しているかなと思います。
Samsung SSD CREATOR’S NOTE 公式インスタグラムはこちらから。
文・編集:井出美緒、水野良樹
写真:谷本将典
メイク:内藤歩
番組:J-WAVE『Samsung SSD CREATOR'S NOTE』
毎週金曜夜24時30分放送
https://www.j-wave.co.jp/original/creatorsnote/
コメント